コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第十五話 それぞれの覚悟

 

 

 今、地表上の情勢は混沌としている。

 

 ザフトは連合のアラスカ基地自爆という大胆な策にはまり、大きな痛手を受けてしまった。

 地表におけるMSジンの半数は失われてしまい、ザフトの優位性の原動力であるMSがそんな有様では快進撃など今後不可能だ。つまり当初目指した急戦での決着が難しくなった。一度の失敗でこうなるとは……元々生産力では綱渡りだったのだ。

 

 アラスカ基地の次に重要な戦略目標は連合パナマ基地だが、そこを明らかに過少の戦力で攻めねばならなくなってしまった。結果的にパナマ基地を奪取できたのだが、それは電磁波兵器を使った奇襲が有効だったからであり、その切り札を切ってしまったのは痛い。

 電磁波兵器は一度目ならたいそう有効でも二度三度は使えない。防護手段の開発においてザフトが先行するのは当たり前だが、連合も直ちに追従してくるだろう。その技術自体は大したハードルではない。

 

 ただし、無理をしてもザフトがパナマ基地を奪ったのには意味がある。

 

 これで連合は完全にマス・ドライバーを失った。

 宇宙とのやりとりは片道になった。もはや連合が物資を宇宙に送ることはできない。これでは再建途中のアルテミス要塞、そして月面最大の連合軍基地であるプトレマイオス基地への補給もままならないではないか。連合の宇宙拠点が軒並み干殺しにされてしまう。

 そして宇宙艦を送ることもできない。パナマ基地のマス・ドライバーは本来その機能はないが、転用可能との目算があり、アラスカ基地の自爆はそれを前提としたものだ。

 今、連合がいくら宇宙艦を建造しても宇宙に送ることはできず、ザフトとの戦争で土俵に乗ることさえ無理となった。

 

 連合が戦いに勝つためには絶対にマス・ドライバーが必要となる。

 

 

 現状打開のため最初に狙ったのはザフトに奪われたばかりのパナマ基地だ。連合は物量を投入した大戦力で奪回を目指した。

 確かに無理やり基地を奪い返すことはできたのだが……

 しかし攻防戦の最後にザフトはマス・ドライバーを自爆させた。これではパナマ基地を得た連合も呆然自失、元の木阿弥になる。

 

 連合はザフトの持つ他のマス・ドライバーを奪わねばならなくなったが…… アジアのカオシュン基地のものは、ザフトの最大地表基地であるカーペンタリア基地から近過ぎる。もしここを狙えば乾坤一擲の大勝負になってしまうだろう。

 最後に残された可能性、それはアフリカのヴィクトリア基地のものである。

 これはせっかくアーク・エンジェルが陥とし、連合のものとしたのにもかかわらず、既にザフトによって奪い返されている。

 その当時はアラスカ基地もパナマ基地も健在で、連合にとって戦略的価値が低いと見なされてしまったからだ。

 

 連合は再度奪還を目指すが…… これが簡単にはいかなかった。

 ザフトだって馬鹿ではなく、連合の意図を理解して備えている。

 地政的な理由も大きい。ヴィクトリア基地は海岸の近くにはなくアフリカの中央にある。そこを攻めるには陸上戦力を送らねばならないが、それができないのだ。

 ザフトのジブラルタル基地がまさに要所を占めており、連合がヨーロッパ方面からアフリカに進軍しようにも阻まれる。

 逆の中東方向から向かうのは……それもまた無理だった。スエズから南下しようにも途中でザフトの砂漠の虎が襲撃してくる。

 大幅に増強されたバルトフェルドの砂漠の虎は、連合軍を迎え撃って通らせない。得意の砂漠で戦わせたら砂漠の虎はほぼ無敵である。

 

 

 

 連合はついに禁じ手に手を出す!

 

 もう一つだけ、地表にはマス・ドライバーが存在する。

 中立国オーブのものだ。

 そこでオーブを連合の属国にしてしまい、そのマス・ドライバーを使おうとした。

 名目はいかようにも付けられる。ザフトの攻撃が迫っているとでっちあげ、保護してやろうとでも言えばいい。

 これまでオーブは独自に宇宙開発を進め、ヘリオポリスやアメノミハシラといった自国製の宇宙拠点を持ち、そのためにマス・ドライバーを所有していた。それが仇となったのだ。

 

「速やかに連合に加わり、傘下に入られたし。国家主権の一時放棄を勧める。これは全てオーブの安全と発展のためである」

 

 連合からオーブへ通告されるが、ただの脅迫であることは隠しようもない。

 オーブという国家の消滅、そして中立という概念の破棄を迫っている。

 

 

 

「断れば軍事侵攻か…… どこまでも連合は傲慢だな」

 

 そうオーブのウズミ・ナラ・アスハ国家元首は呟く。

 連合の要求はさほど強いものではなく、連合に入ってもとりあえずはマス・ドライバーの自由な使用と軍事技術の供与くらいなものだ。

 しかし、それで済まないことは目に見えている。

 連合に組み入れられたら、オーブはナチュラルとコーディネイターが仲良く共存する楽園ではなくなる。ウズミは連合軍の背後にブルーコスモスという強硬派が存在することを気付いており、いずれオーブ国内が小さな戦場と化してしまうのは目に見えている。連合の一部になった時点で国民は守れなくなるのだ。

 

 かといってのらりくらりと先送りにすることもできない。

 いくらオーブ側が交渉を申し込んでも連合は応じない。連合は落としどころを全く考えず、あくまでオーブが素直に要求を呑むか、軍事で決着をつけるか、どちらかしか考えていない。マス・ドライバーを手に入れるのがもはや既定路線である。

 

 連合の要求を蹴れば戦いになり、もしも戦えば…… 結果は目に見えている。

 技術的に優れたモルゲンレーテ社を抱えるオーブといえども連合の物量を撃退できるはずがない。

 大きな流れに押し流され、中立国オーブはその崇高な理念と共に消え去る運命なのか…… 

 

 だがせめて抵抗はしよう。

 

 それは連合へ利することがないよう、マス・ドライバーを破壊することと、モルゲンレーテ社の情報を消すことである。オーブにとって痛手となるものだが、中立の理念を見せなくてはならない。

 むろんオーブは独裁国家ではなく国家元首だけで決められない。ウズミ・ナラ・アスハは他の氏族長とも相談して同じ結論に達している。それしかないのだ。

 

 

 

 そしてウズミはアーク・エンジェルの士官とモルゲンレーテ社の主任技術者エリカ・シモンズを臨時の作戦会議室に呼んで話をする。

 またカガリ少女も呼ばれている。

 おまけに……なぜか俺もいる! 二等兵の分際でなんだが、俺の場合はマリュー・ラミアス艦長から頼まれたからである。

 

「オーブの国家元首として言おう。現在、我がオーブは地球連合から国家主権の返上、つまり属国になるよう求められている。これは容認できるものではない。かといってそれを拒絶し、軍事侵攻を受ければどうにもならない。そこでアーク・エンジェルには避難民の保護をお願いしたいのだ。オーブにいるコーディネイターたちは命の危険にさらされ、置いてはおけない。そしてコーディネイターではないが、シモンズ女史とこのカガリも同乗させてほしい」

「それは…… どういった意味でしょう」

「もう逃げ場がない。連合の艦隊は早くて二日後に到着する。アーク・エンジェルは連合艦なのに何も指令を受けていないと聞く。ならばオーブに脅かされたとでも言ってマス・ドライバーに乗ってはくれまいか」

 

 ウズミはアーク・エンジェルのことを薄々察している。連合首脳部からの扱いが決して良くはなく、疎んじられていることも、そして逆にアーク・エンジェルのクルーたちが大いに反発していることも。決定的になったのはアラスカ基地の生贄になりかけたことだ。

 

「虫のいいお願いだということは分かっている。それでも頼みたい」

「それは…… 検討いたします」

 

 マリュー・ラミアスはそう返答した。快諾ではなく、拒絶でもない。

 

 

 

 だがこれに対して鋭く割り込んできた者がいる。ナタル・バジルール中尉だ。

 

「艦長! 明確な拒絶を! それしかありません。アーク・エンジェルは確かにオーブと連合が共同で作ったものですが、現在の所属は連合です。ならば変な約束などせず、連合艦らしく首脳部に問い合わせて行動を仰ぐべきです」

「ナタル、連合はオーブを攻めようとしているのよ。中立国を攻めるのが正義だと思う? もしもアーク・エンジェルが内部からオーブを破壊するように指令されたら、私たちを救ってくれたオーブを叩くの?」

「そ、それは…… しかし、どんな理不尽な命令でも従うべきです。連合艦として。もしもそうしないのならアーク・エンジェルは脱走艦になります」

 

 ナタル中尉の表情は苦しげだ。連合に忠誠を尽くすのは正義、軍人として当然のことであり、ナタル中尉に染み付いた行動理念だ。しかしアーク・エンジェルがオーブの要請を受ける形で連合から離反するのも、また別の正義なのである。この正義と正義の間で板挟みになっている。

 

「……少なくとも私はアーク・エンジェルを降りさせて頂きます。連合から脱走する艦にとどまる理由がありません」

「分かったわ。今までありがとうナタル。そしていい形で再会したいわ。本当よ」

「全く、そう思います艦長。お世話になりました」

 

 ここでナタル・バジルール中尉はアーク・エンジェルと袂を分かつのだ。

 ラミアス艦長、フラガ少佐と握手をして、会議室を出ていく。

 

 しかしマリュー・ラミアス艦長を始め、皆が分かっていることがある。

 実のところナタル中尉はアーク・エンジェルの離脱を肯定している。

 もしも本当に反対なら、推進装置を爆破するなりしてアーク・エンジェルを無理やり止めにかかっただろう。ナタル中尉ほどの者ならいかようにもできるはずだ。

 そうしないのは彼女なりに連合のやり方を批判し、アーク・エンジェルのクルーたちを思い、行く末を祝福しているからである。

 それがとても不器用な表現方法になっているだけだ。

 

 

 

 

 それとは別にもう一つのドラマがあった。

 カガリ少女とウズミ・ナラ・アスハだ。

 

「どうして私がアーク・エンジェルと! 父上、ここで共に戦います」

「我が儘を言うな、カガリ。オーブの明日を継ぐ者として今は宇宙に退避するんだ。ステーションアメノミハシラまで行けば、イズモ級一番艦イズモ、二番艦クサナギが竣工している。キサカ一佐と共にそれらを統率しろ」

「ならば、父上も一緒に!」

「それはできんのだ。オーブ首長として全てを見届ける責任がある。連合に最後まで抵抗し、理念に殉じる覚悟を見せつけねばならん」

「父上…… どうして!」

 

 ウズミは立派な首長、そして父親だった。

 最後まで抵抗して散ってみせる覚悟と、娘を愛する心と、両方を持っている。

 

「オーブの魂を持って行け、カガリ。そしてこれだけは言っておきたいが、そなたの父で幸せだったぞ」

「嫌だ、嫌だ嫌だ! 父上、一緒に……」

 

 

 この場は、カガリ少女に深く同情するものの、仕方のないことという雰囲気で満たされている。

 マリュー・ラミアス艦長がどうやってカガリ少女を納得させようか言葉を選びかねている。ウズミ首長の要請を受け入れてカガリ少女と共に宇宙へ脱走することを既に決めていたのだ。心優しい艦長なら、そう決断するのは当然かもしれない。

 

 

 

 ここで俺もまた考える。

 

 俺は今までどちらかというと傍観者だった。前の世界と違うこの世界、どんなものか見ていただけなんだ。

 その結果、自分やこの艦の仲間たちが目の前の困難を切り抜けることだけ考え、状況に振り回されていたに過ぎない。

 それでいいのか? いや、いいはずがない!

 

 ウズミ首長は立派だ。そしてラミアス艦長もまた脱走艦になることを決断した。軍人としての栄誉を全て捨てる覚悟を見せているのだ。

 ならば彼らが悲劇に見舞われることがないよう、問題の根本を解決しないでどうする。

 ここで俺ができることをしないでどうする。

 

 俺もまた決断し…… 力を使わねばならない。人々を幸せにして、新しい明日を作るために。

 

 決然としてこの場に口を挟む。

 

 

「つまり連合の大軍が来るのだな、この国に。しかしウズミ首長とやら、負けと決めてかかっているとはずいぶんと諦めが早いのではないか?」

「君は…… アーク・エンジェルのクルー? まあ気持ちだけは貰っておくが、しかし若いな。連合の戦力はオーブを一呑みにできるものだ。あまりに戦力差があり過ぎる」

「もう一度言うが、連合になぜ勝てないと思うのだろう」

「だからどうにもならないのだ。撃退できる見込みはなく、逆にどういう方策があるのか聞いてみたい」

 

 確かに状況は極めて悪いのだろう。俺だってそれを理解している。

 しかし、それでも。

 

 

「戦術だ」

「何だと…… 君はいったい」

「誰かと問うのなら、俺はコンスコンだ」

 

 ここで俺は言い切らねばならない。

 ウズミ首長にも、ラミアス艦長にも、カガリ少女にも。

 

「この機会に戦いというものを見せてあげよう。戦力は使い方で決まる」

 

 

 

 

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