「サイ君…… あなた、戦術って……」
「偉そうで申し訳ないな、艦長」
マリュー・ラミアス艦長が困惑してそう言ってきた。
まあそうなんだろう。突然青二才がそんなことを言い出せば、戸惑うのが普通だ。しかしそこを信じてもらわねばならない。
しかし、俺が口を開く前に別の者が話し出す。
この会議に呼ばれているモルゲンレーテ社の主任技術者ということだったか。
「具体的な戦力として、モルゲンレーテ社の防衛設備はそんなにヤワではありません。地対艦ミサイル、地対空ミサイルは充分な数があります。気をつけるべきは機動戦力、つまりMSだけといっていいでしょう。連合がパナマ基地に独自開発のMSストライクダガーの先行量産型を置いていたということからすると、今頃はもう本格的量産が始まっています。だからこそオーブを狙う気になったのでしょうが」
「なるほどな。MSは厄介だ」
「それに対し、わが社で用意できるM1アストレイはわずかに十機ほど。しかも基礎訓練を終えたパイロットはたったの三人です」
ふむ、戦力としてはやはり過小か。なかなか厳しくなりそうだ。
ここでいきなり会議室の戸を開いて入ってきた者たちがいる!
「僕も……手伝います。手伝わせて下さい」「俺たちがいれば百人力だぜ!」「連合が相手なんだろ! 俺が、蹴散らしてやる!」
それは、クルーゼ隊にいたパイロットたちだ。ニコル、ディアッカ、イザークの三人が揃って協力を申し出ている。
ここでウズミ首長がエリカ・シモンズをちらりと見る。
オーブでは戦争行為が禁止されているので、捕虜というものは存在しない。持ち込むこともできない。そのためアーク・エンジェルの捕虜二人も大幅な自由が認められていたのだ。
しかしそれでもこの中枢部にある会議室へ簡単に踏み込めるはずがない。
エリカ・シモンズが警備パスワードを事前に教えていなければ。
「君たちはザフトの軍人だな。確かにザフトからは連合の侵攻に際して、協力の用意があると申し出てきている。しかしそれもまた首長として断った。もしザフトの力を借りて急場を凌いだとしたらオーブは中立ではなくなり、いずれザフトの基地と化すだろう」
ウズミ首長がそう言う。やはり立派なことだ。理念を捨てたりしていない。
それに対してエリカ・シモンズが答える。
「ウズミ様、彼らはザフトの命令ではなく、自分の意志で戦うと言っているようです。ならば問題ないのでは」
「む……」
「僕はもうザフトには戻りません! いえ、戻れません」「少しばかり役に立って、貸し借り無しにしたいからな!」「俺はここで戦って答えを出したい」
三人もまたそれを肯定する。
今、ザフトでも最強クラスのパイロット三人が加わってくれれば、オーブにとってとてもありがたい戦力になるだろう。
ここで一度会議を終わり、作戦の考案にかかる。
会議室を出る時、キラ君が俺に話しかけてきた。キラ君も一応少尉だからこの会議室に呼ばれていたんだ。
「サイは…… 本当に強いね。なんだか上手くいく気がする」
「はは、そうありたいものだな」
「うまくいくよ! サイが作戦を考えるんだから」
声が弾んでいるのは、キラ君も気分が高揚しているからだろう。
今から始まるオーブ防衛戦はすなわち非戦中立の理念を守る戦いだ。それなら戦争を止めたいキラ君の願いに叶うというもので、心置きなく力を尽くせる。
そうだよな? なんかキラ君が俺に瞳を輝かせているような。
これは……やっぱりガトーと同じじゃないか!
しかしこの時、洋上では連合の悪意がオーブに迫ってきていた。
「アズラエル理事、オーブからまた交渉要求が来ていますが」
「無駄無駄、無視しちゃって下さい。オーブなんかちゃっちゃと潰しちゃいましょう。ちゃっちゃと。早く戦って、ストライクダガーの戦闘データを取れればそれでいいんです。むしろ素直に降伏してこなくて助かりましたよ」
「……」
連合のオーブ攻撃艦隊の旗艦に軍人ではない者がいる。その姿も水色のスーツ姿であり、軍服を着ていない。
コーディネイター排斥主義者からなる結社ブルーコスモスの理事、ムルタ・アズラエルだ。
通常ならばそのような者が作戦行動中の艦に乗るなど考えられないし、ましてや作戦に指示を出すことはない。それをやっているからには、如何にブルーコスモスが連合に深く根を張っているか分かる。
今の連合はその傀儡に成り下がっている。
治安を守るべき連合軍は変質し、コーディネイター根絶のために動く力に変わってしまった。
この艦隊の指揮官は連合のダーレス少将である。不満はあるものの、ブルーコスモスの命令に逆らうことは許されず、今も事前の命令によりアズラエルに従うようにされている。
「それから、戦いが始まってからあれを投入するタイミングはこっちで決めますから。しっかり従って下さいよ、ダーレス少将」
「それは……あのパイロットたちでしょうか。今回の作戦で旗艦をイージス艦ではなくこのパウエルにしたのもそれが理由と拝察しますが」
「そうそう、あいつらは戦闘時間の調整が一番難しいですからねえ」
そのムルタ・アズラエルは今、演習気分でいる。
やっと配下の生体CPU三人を実戦で試す機会を得たのだ。
生体CPUとは脳を薬漬けにされ、強制的に力を出させられる者たちで、ブーステッドマンとも呼ばれる。代わりに寿命は極度に短くなる。こうして人間を機械部品のように扱い、戦争に投入し、壊れたら捨てられる。
そういう恐るべき手段さえ用いてブルーコスモスはコーディネイターを追い詰めようとしているのだ。
むろん連合の一般兵には生体CPUの存在も知らされていない。わずかにそれを知る上層部は心の中で忌避する。ダーレス少将もそうであり、危うく気の触れたパイロットという言葉を呑み込んでいる。
ついでながら今の旗艦はタラワ級の強襲揚陸艦パウエルだが、それはアズラエルが連れてきた不気味な三人のパイロットを使うためだ。
「連合の艦隊、オーブ領海に侵入! 空母一、アーカンソー級大型イージス艦四、パウエル級強襲揚陸艦が十二! フレーザ級駆逐艦その他を合わせて総数四十隻!」
「その編成からMS戦力を予測して!」
「概算で最大百から百十機と思われます!」
「それは……思ったより大きい戦力ね」
戦いはあっさり始まる。
連合の艦隊は警告を無視し、スピードを落とさずオーブの領海に入り、そして戦闘準備をしている。要求を蹴られたのだから戦争状態に入っていると見なして当然だと思っているのだろう。
その艦隊の進路はオーブの島々の中でも明らかにオノゴロ島を目指している。そこにあるモルゲンレーテ社が最も頑強であると判断しているのだ。それは当然であり、予測の通りだ。
既に戦いの火蓋は切られた。
連合の艦隊から中射程対地ミサイルが次々と放たれる。
雨のようにモルゲンレーテ社周辺の堡塁に注がれるが、これは迎撃ミサイルとバルカン砲によってほぼ完全に防がれる。さすがに毎分四千発もの機関砲たちはとりあえず防御に成功した。
連合の艦隊から撃ってきたことを確認すると、今度はオーブからの反撃だ!
盛大に対艦ミサイルが放たれ、連合の艦隊を狙う。だが、これもまた防がれてしまう。優秀な迎撃システムを持つイージス艦が含まれていれば当然そうなる。
これでお互いに攻撃が手詰まりになってしまう。
いや、連合の艦隊にやや有利か。
このまま航行すれば、間もなくオノゴロ島の居住区を含めた主要部分がイージス艦の高速弾道ミサイル射程内に入り、それを完全に防ぐことはできない。
しかし連合はそういう撃ち合いよりも、機動兵器の侵攻で決着を付けることを望んでいるようだ。確かにミサイルで地上施設ばかり叩いても仕方がない。しっかり地下施設まで叩き切ることを考えればそれも妥当である。
強襲揚陸艦から連合の量産型MSストライクダガーが出撃準備をしているのが分かる。
「MSが出て来るわ。サイ君…… そろそろかしら」
「慌てなくていい。ラミアス艦長。向こうのMSの動きに囚われることなく、予定通り揚陸艦を叩けばこちらの勝ちだ」
そう、俺の狙いは戦艦でもなく、MSでもない。
MSの母艦だ。それさえ叩いてしまえば、大量のMSといえども立ち往生である。整備や補給のできないMSなど戦力ではない!
俺は自分の経験に照らし合わせて、かつての土星圏会戦を思い出す。その時はシロッコのジュピトリスがアキレス腱なのを見抜き、そこに攻撃を集中し、継戦能力を奪って決着を付けたものだった。
要するにブレることなくただ一点、敵の弱点を狙い続けるのが肝要なのである。それが俺の戦い方だ。
「よし、頃合いだ。キラ君たちに連絡を」
戦場に変化が訪れた。
キラ君のストライク、そしてデュエル、バスター、おまけにオーブのアストレイ三機、合わせて六機のMSが初めから高空にいる。
むろんそれらは連合の艦隊からも見えている。しかしこの数が絶妙なのだ。少な過ぎず、多過ぎない。たかが少数のMSと侮り、主要攻撃目標と思われない数である。
連合は陸上へ大量MSの投入を開始した時点で、ついでにうるさいハエを追っ払おうとでも思ったのだろうか、ようやくMSを上空にも上げて向かってきている。ちなみに最初から無駄だと分かっている攻撃ヘリなどは出しもしていない。
それらの高度を上げてくる連合MSにはフラガ少佐とトールのスカイグラスパー二機が牽制を掛ける。
まあ、これは一瞬の足止めだけで構わないのだが。
ここで突如としてストライクたちが急降下を始める!
ぐんぐん速度を増し、連合の強襲揚陸艦へ向かって突き進む。
「ミサイルの長所はもちろん自動誘導になる。しかし短所は砲撃のような速度もなく、機動性もないことだ。だから途中で撃ち落とされる。しかしミサイルを目標の近くまでMSが運んだら? これほど命中率が高くなる攻撃方法もないだろう」
「サイ君…… 恐ろしい方法ね」
俺は先ずこの戦術を仕掛ける。
ストライクたちは一発で強襲揚陸艦を大破できる大型ミサイルを運んでいるのだ。
ミサイルを保護しつつ、MSならではの高機動と防御性能で連合艦からの弾幕を難なくいなしていく。
予知した距離まで来ればミサイルを思いっきり揚陸艦に向かって投げつける。ここまで近づき、しかも高い初速では、これらのミサイルに対処するのは難しい。
確かに宇宙戦でMSをミサイルランチャーに使う戦術は珍しくないが、それでもビーム攻撃の方が普通だ。
まして水上艦ではそういうMSからの大型ミサイル攻撃は想定の範囲外だろう。
投げ下ろされたミサイルたちは一発しか迎撃されず、残りは全て強襲揚陸艦に吸い込まれる。しかも防御の弱い上部甲板にだ。
轟音と共に装甲が破壊され、たちまち使用不能の大破となる。
幸先よく、それら十二隻のうち実に五隻も仕留めることができた。