コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第十九話 プトレマイオス救援作戦

  

 

 

 オーブを巡る攻防戦に勝ち、ひとまず連合を撃退することに成功した。

 

 これからオーブは少なくない被害を受けたモルゲンレーテ社の施設再建に注力することになる。そのM1アストレイというMSの量産を始めなければ、これからのオーブ防衛ができないからだ。

 

 しかし、オーブは勝利したのだが、結局のところ目指した非戦中立はかなわなかった。

 少なくとも非戦の夢は破れたのだ。連合とは決定的に手切れになり、ついに実力を行使されてしまい、防衛にせざるを得なくなった。かといってオーブは別にザフト側に立ったわけでもなく、その意味でとても中途半端になっている。そしてオーブが堂々と自立した第三極になるのは……国力戦力的にとても難しいことだ。まさに綱渡りともいえる。

 

 ただし戦局が難しいのはオーブだけではない。

 連合はマス・ドライバーを未だ一つも手に入れられていない!

 そこで、ようやく他からの奪取を諦め、新たに建設する方に踏み切った。むろん連合の持つ物量からすればそれも不可能ではない。

 ちょうど今、ザフトが地上戦力の減少に伴い占領地の縮小に転じ、インド洋基地や黒海基地を放棄しつつある。そのため妨害を受ける恐れのないままマス・ドライバーの建設ができる。

 それでも、どんなに急いでも新規建設に時間がかかるのは間違いない。とすればただ一つ、まずいことがある。

 

 それは宇宙基地への補給だ。

 

 食料だけでも一日に数トン、いや数十トン単位で必要である。それほど宇宙基地の維持というものは多くの物資を要するもので、今までは大量に効率的に打ち上げられるマス・ドライバーに頼り切っていた。それが使えないとなっても、ロケットやシャトルなどで賄えるはずがない。

 この非常事態に、連合は再建途上のアルテミス基地の放棄を命じた。月面のローレンツ基地なども同様である。

 そして連合最大の宇宙拠点である月面プトレマイオス基地へ人員・物資の集約をさせ、節約を重ねても、それほど長くは持たない。もちろん人員を順次帰還させてはいるが、旅客用シャトルも足らず、このペースでは基地の物資が底をつく方が早い。

 

 このためプトレマイオス基地は悲鳴を上げる。文字通り死活問題なのだから。

 だが連合首脳部は冷酷だった。

 見捨てる判断をしたのだ!

 連合がザフト根絶のため本格反撃をするのは、マス・ドライバーの建設が終わってから一気に行う。もったいないが、今の基地を絶対に保存する必要を認めてはいない。

 

 

 

 

「オーブも苦しいことは苦しいが、直ちに生きる死ぬではなくなった。それもアーク・エンジェルの若い軍師サイ君のおかげだろう」

 

 オーブの首長ウズミ・ナラ・アスハがそんなことを言ってくれる。

 気恥ずかしいな!

 そして若い軍師と言われると…… いや実は首長、あなたより若くないんだと言いたくなる。

 

 今、俺はまたオーブの会議室に呼ばれているのだ。

 むろん、これからの方向性を決めるための重要な会議であり、主要メンバーがみな集められている。

 

「だが今、正に生きるか死ぬかに直面している者たちがいる。月面のプトレマイオス基地の連合兵だ。いや、悪いことに民間人も多数含まれ、数としては兵より多いくらいだろう。食料の枯渇を目前にしてどんな思いか。もしかすると暴動や粛清も始まっているかもしれない……話が伝わってこないだけで。そうなれば地獄だな」

 

 ここまで聞けばウズミ首長が何を言いたいのか、この場の全員が分かっている。

 

「だからこそオーブのマス・ドライバーを使い、食料だけでも運び、人道的な支援をしたい」

「父上の言う通りだ! 人道による支援は大事だ! 今、連合側の月面基地を支援すれば、中立非戦のオーブの理念がみんなに分かってもらえる!」

 

 ウズミ首長に対しカガリ少女が即座にそう答える。

 この親子は……

 なぜかよく似ているところがある。

 政治家としてはあまりに考えが理想的で、純粋過ぎて、いっそ美しいくらいだ。

 

「おまけにオーブの理念が実を結んだら、それを見た連合もザフトも戦争を見直すかもしれないじゃないか! そうだろ! なあ艦長も、キラも、そう言ってくれ!」

 

 カガリ少女が同意を求めるように視線を動かすが、そこに返事はない。

 真剣な声が空回りし、会議室は静まり返る。

 一つは、ザフトも、連合も、そんなことくらいで戦争を見直すわけがないという政治的なことだ。

 もっと大きい問題がある。

 呼吸を三回も置いたのち、ようやくマリュー・ラミアス艦長が皆を代表し、沈痛な表情で言う。

 

「……しかしウズミ首長、それが可能でしょうか」

 

 むろん可能でないと言いたいのだ。その輸送が素直にいくはずがない。

 唯一にして絶対的な懸念はザフトの襲撃だ。

 

 

 

 プトレマイオス基地だって背に腹は代えられず、連合を見限ってザフトにすり寄ることも検討しただろう。

 しかしそれは却下せざるを得ない。なぜならナチュラルを憎むザフトとどんな協定も結んでも意味がなく、必ずやナチュラルを虐殺にかかるはずだ。この懸念がある以上、ザフトに物資を求めることは有り得ない。虐殺と餓死、どちらがいいかなど悪夢だ。

 

 逆にザフトにとっては何も手を出す必要もなく連合の宇宙勢力を根絶できる。これは来たるべき連合の反撃を迎え撃つ上で願ってもないことだ。

 だからオーブから物資を積んだ輸送船を飛ばそうものなら、ザフトは決して見逃さず妨害してくる。当然のことだろう。

 

 そしてザフトの襲撃から輸送物資を守り切るのは無理である。戦力が余りにも足りなすぎる。

 

「もちろんウズミ首長、分かってほしいのですが、人道的な作戦ならアーク・エンジェルが協力するのにやぶさかではないと言いたいのです。しかし現実的ではなく……残念です」

「そうか、やはりそうかもしれない。アメノミハシラにいるイズモとクサナギを加えたところでたった三隻だ。ザフトの宇宙戦力を防げはしない、か」

 

 ラミアス艦長も決してドライに割り切っているはずがない。

 どちらかというと艦長というには情が多過ぎ、甘く、打算的な判断ができないタイプである。今も餓死に直面しているプトレマイオス基地の人々を思いやり、どうにかしてやりたい気持ちでいるんだ。

 そういう判断を口にしたのも苦渋の末のことだと分かる。

 

 

 

 さすがの俺でも簡単に「可能だ」とは言い切れない。

 言ってやりたいのは山々なのだが……無理なものは無理、仕方がない。

 

 戦力も先の攻防戦以上に大差がある。

 それ以前の問題で、長距離輸送の護衛というものは想像よりずっと難しいものなんだ。

 航路の全てに神経を使い、しかも襲撃を受けてから何かを守りつつ戦うのは大変である。どんなに優れた戦術家にとってもその困難さは変わりがない。だからこそ軍において補給線の守備と確保が生命線だと言われるのである。

 

 

 あ、まずい!

 

 今、キラ君が俺の方をチラリと見た。

 これは…… 何かを期待しているな!

 また俺が、何とかしてやるから任せとけと、言ってくれないかと。

 

 キラ君、お願いだからカガリ少女の思いをこっちに振らないでほしい。

 

 キラ君よりはまだ現実感覚のあるラミアス艦長も、フラガ少佐までも、何かわずかばかりそんな雰囲気を出している。

 うわあ……

 腕組みをして、ふん、とでもいいたげなディアッカ君とイザーク君でさえもそんな感じだ。ニコル君はその二人と俺をせわしなく見ている。

 

 

 

「ちょっと宇宙航路図を見せてほしい」

 

 たまらず俺も少しは検討をしてみる。

 行くとすれば、輸送船団の航路図は地球の赤道近くから、S字のカーブを描きつつ、月表面に到達するものだ。もちろん護衛するアーク・エンジェルも同様のコースになる。これにオーブの宇宙ステーションアメノミハシラからの戦力が途中で合流する算段だ。

 

 俺は一つのことに気付いた。

 

 航路は地球と月を結ぶ、とあるポイントを掠めることになる。

 そのポイントはラグランジュポイントと呼ばれる場所だ。むろんラグランジュポイントというのは地球と月の重力が釣り合う場所であり、一番安定的に存在できる場所のことをいう。それはいくつもあるが、ここもその一つなのである。

 

「ここは…… 縁起がいいと言うべきなんだろうか」

 

 俺はそのポイントの名を、以前の世界での名で思い返す。

 かつては幾度も呼んだものだ。しかもその都度戦いの場にしてしまっている。

 

 その名は、ルウム。

 

 その場所で劣勢のジオン軍が連邦の大軍に立ち向かい、存亡を賭けて大会戦を行った。

 しかも二度、三度……

 俺もまた永遠のライバル、連邦最強の魔術師グリーン・ワイアットと渡り合ったものだ。奴の繰り出す華麗な戦術の前に宇宙に放り出され、あやうく死ぬ目に遭ってしまった。しかしながら最終的にジオンは負けず、連邦と共存する未来を作り上げているのだ。

 

 

「なるほど。俺は物資護衛が簡単でないと言おう。少なからず傷つくこともあるだろう。だがしかし、戦術を組み立てられる」

 

 俺は皆を見渡し、言った。

 

「つまり、不可能ではない!」

 

 

 

 

 

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