コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第二十話 シーゲル・クライン

 

 

 今、プラント最高評議会議長室に一人の者が押しかけている。

 

「前最高評議会議長として、物申したい!」

 

 その者こそがプラントにおける穏健派のリーダー、シーゲル・クラインだ。

 わずか一か月前に最高評議会議長の座を追い落とされてしまっている。

 

 対抗する急進派が水面下で評議員たちに根回しをしていて、会議の席上、突然議長を解任されたのだ。それ以来急進派が評議会の主導権を握るようになってしまった。

 そのため、連合との泥沼化した戦争で疲弊していくプラントはもう落としどころを探ることを放棄し、勝つ以外を考えなくなった。

 おまけにプラントの一般市民のレベルであっても、急進派によって繰り返されるユニウスセブンの悲劇とスローガンが思想を支配してしまい、戦争継続が熱狂的に支持されるようになっている。

 

 

 

 部屋の警備員が慌てて部屋の主であるパトリック・ザラ、つまり今の最高評議会議長に問い合わせる。

 すると、通せという指示が出された。

 直ぐにシーゲル・クラインは部屋に入り、そこにパトリック・ザラがいるのを認めた。

 

「もはや命令する権限はなく、お願いしかできないのは分かっている。君をはじめとした急進派にうまくしてやられたからな。だがしかし、これは言わねばならない。プトレマイオス基地は連合の基地だが、民間市民も多いと聞く。ここはプラントからの支援が必要ではないか」

「挨拶もなしでいきなりそれか。答えはノーだ。クライン、相変わらず甘すぎる。一般市民といえども連合であれば敵であり、むろん戦略的な攻撃目標に含まれる。そんなことも忘れているとは、もはや引退すべきだな」

 

 お互いこうした言葉は予期したものだ。

 水と油、決して分かり合えることはない。

 

「それでも餓死させることはないだろう。市民は退路さえないのだ。ナチュラルといえども市民に罪はない」

「それが見解の相違の根本だと思える。プトレマイオス基地の餓死、大いに結構だ、弾の一発も使わないで済むのだからな。気にすることはない。しょせんナチュラルはコーディネイターからすれば古い種だ。むろん母体として尊敬はするさ。だが、コーディネイターの邪魔をしようというなら滅んでもらう、いや滅んだ方がいい。それが自然の摂理というものだろう」

 

「ナチュラルだってただ滅ぼされたりはするまい。君は高いところから立って見ているようだが、そのために戦って苦しんでいる者たちが見えていないのだ」

「私が犠牲を払っていないと言うのか? アスランは未だ思想がしっかりしていない不出来な息子だが、それでもクルーゼ隊で頑張っている。ああそうだ、オーブがプトレマイオス基地への支援をするようだが、それの迎撃にも参加してくれる」

「中立国オーブの人道的支援まで妨害するか…… 後悔するぞ、パトリック・ザラ」

 

 そこで話し合いは終わり、シーゲル・クラインは部屋を出ていく。

 結局プトレマイオス基地の支援など望むべくもなく、その意味でクラインは無力だった。

 だが……全くの無駄骨ではなかったのだ。

 

 

 たった一つの情報を得た。

 パトリックの息子、アスラン・ザラが出る。近ごろザフト最新鋭MSを受領したらしいので、ならばそれの運用のために造られた新造艦エターナルに乗ることは確実だ。

 加えてシーゲル・クラインはアスランについて知っている。

 ラクスから聞いたところによると、アスラン・ザラは父パトリックと違い、差別主義はどこにもない。とても心の優しい少年なのだと。友と戦うことで悩み、涙を見せるくらいに。

 

「決断すべき時が近いのかもしれない。アスラン君も、うちの娘も、巻き込みたくなかったが」

 

 

 一方のパトリック・ザラもまた議長室の窓の前に立ち、呟く。

 

「こっちがスピット・ブレイクの失敗で、少しは甘い顔をするとでも思ったのか。いいや、ナチュラルとの戦争で妥協は有り得ない。ともあれシーゲル・クライン、もはやプラントの邪魔にしかならんか。お互い、息子と娘を結婚させて宥和するなど、迂遠過ぎて無駄だったな」

 

 

 

 

 それと同じ頃、地表のオーブでは急いで輸送船団とアーク・エンジェルの打ち上げの準備が進められていく。

 マス・ドライバーへの据え付けと各種設定が必要になる。

 

 その様子を少し離れたところから見ている人間がいる。

 俺はそれを見つけてちょっとばかり驚いた。常に軍服が似合っている人間なので、他の姿を想像できなかったからだ。

 今、そのナタル・バジルール中尉は茶色を主としたシックな私服を着ている。

 

 そしてナタル中尉の方でも俺に気付いたようだ。

 

「サイ二等兵、いや、もはや連合から脱走したのだからサイ君と呼ぶべきか。先日の戦いは見事だった。あんな戦術をいったいどうやって考えたのか」

「はは、経験と年の功かもしれないな」

「…………」

「いや冗談だ」

 

「……だが、アーク・エンジェルからの砲撃はなかったようだ。ゴッドフリートの射程内だったろうに。それをすればもっと楽に勝てたはずだろう、違うか? 思うに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。連合から脱走したばかりで、艦長も、クルーたちもまだ気持ちが揺らいでいるだろう。そのために直接砲撃で連合兵を殺すことをさせたくなかった、というところか」

 

 なるほどそこに気付かれたか。

 さすがにナタル・バジルール中尉、よく見ている。そして思慮が深い。

 正解だ。俺はその通り、アーク・エンジェルをいきなり連合との死闘に叩きこむことはしなかった。

 そうしなくても勝てる戦術はいくらもあったのだから問題はない。

 

「サイ君、不思議だがお前にはそういうところがあるからな。いや今はそれを言いたいんじゃなく、お前にちょっと聞きたいことがある。私がアーク・エンジェルを降りたことをどう思っている? 軍人としての枠を超えられない者だと思ったか、正直に言ってほしい」

 

 ん? ナタル中尉が物憂げなのは、そんなことを考えていたからか。

 マリュー・ラミアス艦長やアーク・エンジェルのクルーたちが自分の正義を信じ、脱走を決めたことについて非難していない。

 ナタル中尉はむしろうらやましいというのに近い感情を持っているのだ。

 彼らは自由で、信ずべきものを自分で決める。反対にナタル中尉は軍人としての本分を守り、とにかく連合に忠誠を誓うことを変えられなかった。

 

 ナタル中尉は俺にどういう答えを求めているのだろうか。

 

「ナタル中尉、一つ言っておく。忠誠を尽くすのも正義だと思ったのだろう。それでいいじゃないか。それを自分で決めたのだから」

「それが正義かどうかは、まだ分からない。個人のレベルで正しくとも、連合が正義であり続けるのかどうか自信がないのだ。戦争は果てしなく続き、コーディネイターたちとどこまで戦い続けるのだろう。コーディネイターにはキラ少尉のような者もいるのに」

「ふふ、それはいい。ナタル中尉は立派に自分で考え、自分で決めているじゃないか。なら問題はない。自信がないだけなんだろう」

 

 それならば俺は言うべき言葉がある。いつか、役に立つことがあるだろうか。

 

「忠誠も正義だ。俺が保証する。それでももし悩むのなら、心に一つの基準を持てばいい。上からこれを命じられれば断固として拒否するといった、絶対的なものを。それを自分で決め、ブレずに持ち続けることだ」

「一つの基準…… それを心に決めるのか…… 分かった。感謝するぞ、サイ君」

 

 それでナタル中尉は去っていった。これからオーブを出て連合軍に戻るのだろう。

 マリュー・ラミアス艦長が良い形で再会したいと言っていたが、俺も全く同じ気持ちだ。ナタル中尉とはいずれ同じ陣営に立ち、同じ正義のために戦いたい。

 

 

 

 ちょっとばかり真剣な話をしてしまった俺だが、次にはもう少し明るいものを見ることになる。

 

「嫌だ! この服がいいんだ。これのどこが悪い!」

「お嬢様! もう男物の服はおやめ下さい。Tシャツやズボンではなく、ドレスをお召し下さい。ええ、最初は窮屈でもきっと慣れます」

「そんなものが着られるか!」

 

 カガリ少女が誰かに追いかけられている!

 それはメイド姿のおばさんで、おそらくアスハ家についている侍女か何かだろうな。カガリ少女も一応は首長の娘、つまり正統的なお嬢様なのだ。今も服装について何か言われている。

 しかしほんと、変わり者のお嬢様だ。いい意味で言うのだが。

 

 そこへまた別の者が近づいてくる。

 確か…… モルゲンレーテ社の主任技術者だったか。

 

「ここにおいででしたか、カガリ様。注文の品は仕上がりにもうちょっとかかりますので、今度の打ち上げには間に合いませんが、早いうちに上にあげて差しあげます」

「本当か! シモンズさんならきっといいのができるんだろうなあ。これでキラと一緒に戦える」

 

「M1アストレイだって連合の量産ストライクダガーに比較して、少なくともソフトウェアは優れていると自負しますが、やはりストライクの方が一枚も二枚も優れています。そんなストライクをナチュラル用に再設計したストライクルージュ、きっとカガリ様に合うでしょう。パーソナルデザインはどういたしますか?」

「いやそれは任せる。とにかく楽しみだ! 早く造ってくれ」

「ふふ、カガリ様ならそう言うと思っていましたわ。それともう一つ、これはウズミ様からの依頼なんですが、防御力に特化して絶対的にレーザーを通さない、アカツキという特殊MSの製作にも着手しています。やはりウズミ様はカガリ様のことが心配なんですのね」

「父上は心配性過ぎるんだ。少しはキサカを見習ってほしい」

 

 エリカ・シモンズは微笑む。そのキサカ一佐はカガリの世話役のようになっているが、実のところはウズミから厳命されたカガリの護衛だ。アフリカに連れて行ったり、カガリを見かけ上奔放にさせているようだが、キサカは常にカガリを守る立場にいる。

 

 

 

 そしてついに、多くの人の思いと運命を乗せて、アーク・エンジェルが飛び立つ。

 漆黒の宇宙へと向かって。

 

 今からどれほどの戦いが待っているだろう。その全てに勝たなくては人類の未来はない。

 

 

 

 




 
 
 
さあ地表扁が終わり、次回ついに宇宙扁に突入します
コンスコンの冒険はいかに……

本作品は前作の余禄ですが、さほど需要がなく、ここまでの隔日更新から切りよく、今後未定になります


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