キラ君が撮影してきた映像から、さっそくザフト側の戦力が分析され、皆に告げられる。
「今回ザフトが動員してきた戦力は映像からみてローラシア級小型艦八隻、ナスカ級大型艦四隻、合計十二隻…… ローラシア級はともかくナスカ級がこの数、かなりの戦力ね。これは輸送船団を全滅させる気だわ」
ラミアス艦長は嘆息せざるを得ない。
かなり厄介なことなったのは間違いない。ザフトはオーブ輸送船団の戦略的意義を十分に理解し、これを叩くため出し惜しみはしていないのだ。
問題となるザフトのナスカ級は大きさだけを見たらアーク・エンジェルよりも小さいくらいだ。しかしアーク・エンジェルは元々強襲揚陸艦に分類され、艦体の大半は格納庫が占める。ナスカ級はその点で逆であり、戦闘艦に最小限のMS搭載機能を持たせているようなものだ。そのため艦自体の戦闘力で見ればアーク・エンジェルと遜色ない。
その内容を比較すれば、アーク・エンジェルは実験艦の趣があるため多彩な砲を載せているが、ナスカ級は逆に兵装はシンプル、しかし強力なエンジンにより連射能力に優れている。ついでに言うと艦隊戦において重要になる航行速度ではナスカ級の方が速い。
ただしそれでも作戦を決行する。
「やるしかない、艦長。敵の索敵範囲に気を付けながら追尾だ。神経を使うことだがよろしく頼む」
アーク・エンジェルはとにかく敵ザフト艦隊に見つかってはならない。
離れすぎてもダメなのだが、向こうの索敵範囲に入ったらその時点でアウトだ。
だが追尾自体は決して無理ではない。
ザフト艦隊が航行した後に残るエネルギー粒子の拡散状況で、だいたいの距離を掴みつつ進めばいい。
どうせ目的地は分かっているのだ。
ザフト艦隊とこちらの輸送船団の予定航路との位置をモニターで逐一チェックし、その交点を見定める。
ついにその時が来る!
ザフト艦隊がオーブ輸送船団を襲うため、戦闘速度へ加速を始めたのを確認する。
これでかくれんぼは終わりだ。
「アーク・エンジェル第一級戦闘配備! 推力最大! アンチビーム爆雷用意! ミサイル発射管第一から第六まで対艦ミサイルスレッジハマー装填!」
おお、ラミアス艦長、今ナタル中尉がいないので火器管制指令も自分でやっているな。
その通り、今のアーク・エンジェルは人員不足なんだ。
ナタル中尉の他にもカズイとかいうブリッジクルーは既にオーブで降りていたし、トールという若者も志願してMSに乗りたがっている。
そして何より、自慢じゃないが俺はCICとして役に立たないしな!
「只今をもって通信封鎖解除! 俯角10度に修正! ゲートオープン! 特装砲ローエングリン回路起動! その発射後格納して冷却中にMSを出すわ。キラ君、トール君、フラガ少佐は待機」
「ラミアス艦長、分かっているとは思うが少数が仕掛ける戦術は一撃離脱が基本となる。面倒なことは考えず、敵陣に突入し、突っ切ればいい」
「もちろんよ、サイ君!」
頼もしいことを言ってくれる。なら俺が付け加えることはない。
さて、見えてきた戦場はほぼ思った通りだ。
ザフト側は護衛側よりも戦力上かなりの優位にある。それを自覚していれば、固まって襲撃をかける必要はない。三方向に分かれ、突入する隙を窺っている。
つまり護衛側の手が回らなくなったところから効率よく攻め立てる気だ。このやり方は相手を逃さず全滅させるのに適している。
なかなかいい戦術を取るじゃないか。
対する護衛のクサナギとイズモは既にMSを出している。機動性で戦力不足を補うということだ。ほんの小さく、デュエルやバスターの姿が見えている。
そしてアーク・エンジェルの到着前から戦端が開かれてしまった。
MSたちの放つビーム、ひとまず迎撃するための弾幕、ミサイルが花火のように見えている。
生と死と、人の思いの輝きだ。
そのうちにひときわ大きい光が生まれた。これはザフトローラシア級の一隻が爆散したものだ。続けてもう一度光が輝く。
しかし、そこから爆散の光が生じることはなかった。
ザフト側は護衛側のMS機の中に強敵が混ざっていることを知り、輸送船団に向けて放ったザフトMS隊をいったん呼び戻した。それで直掩を強化させる。
MS同士の格闘戦が同時にいくつも繰り広げられる。
むろん、数で数倍にも及ぶザフト側が押す展開になる。
「きゃあッ、後ろに付かれた! 右にも別の一機が!」
「待ってて、助けるわ、ジュリ頑張って!」
このMS戦の中、主力であるオーブのMSアストレイたちは動きが良くない。ただでさえ練度が低い上に、無重力の戦いは初めての経験である。これではザフトに対して分の悪い戦いを強いられるのも当然だろう。アストレイはオーブ製新素材である発泡軽量装甲のため、本来は機動性が良く、パイロットの技量不足をある程度補ってくれてはいるが……これではいずれ墜とされる。
しかし、この時。
「いったん俺の後ろに下がっていろ! ここのザフト機は、俺のデュエルが薙ぎ払ってやる!!」
「あ、ありがとうございますイザークさん!」
デュエルガンダムがその窮地を救い、意気込み通りにザフト機を叩いていく。
「ありゃりゃ、イザーク何張り切ってんだ。ザフト機相手に容赦なしかよ」
「相手が何かは関係ない! 俺は、足付きにいた時、サイとかいう奴に言われたんだ。自分の思いに従い、守るために戦うのがいいと。だったらあの連中を守ってやりたい。ディアッカこそ何で戦う!」
「さあてね。俺の方はそこまで面倒なことを考えちゃいない。ただ事実だけ言っとくが、こういう戦いならバスターの方が役に立つぜ!」
その通り、瞬間火力の高いバスターガンダムがザフトMSを一撃で葬っていく。
「口より行動で示せってなあ! 俺に負けてんじゃねえよ、イザーク!」
「ローエングリン、撃てーー!」
戦場にようやく突入を果たしたアーク・エンジェルはのっけから最大火力を叩きつける。
うむ、即決果断、ラミアス艦長のやり方は嫌いじゃないぞ。見敵必殺の俺と似たようなものだ。
「着弾しました! ナスカ級の艦尾付近、大破以上確定です!」
「次はゴッドフリート用意! 同時にMSを順次射出!」
「キラ、ストライク出ます!」
「フラガ、アストレイ発進!」
「トール、アストレイい、行きます!」
わずかな局地戦ではあるが、既に勝利は確定している。
敵ザフト艦隊を背後から襲ったのだ。
混乱を引き起こすのは当然、しかも砲撃が当たれば……それは艦尾のエンジン部になるのだ!
むろん艦における最大の弱点である。一発で航行不能、あるいは爆散に持っていける。だから後背からの急襲は絶対有利の態勢なんだ。
続けてアーク・エンジェルから三機のMSが出ていく。なおも戦意を持ちアーク・エンジェルに取り付こうとするザフトMSを排除しなくてはならない。
キラ君はいつものストライクだが、フラガ少佐とトール君はオーブ製ナチュラル用MSアストレイを供与されている。
やがてザフトの分かれていた三手のうち、一つを壊滅に追い込むことができた。
アーク・エンジェルは敵の戦意を刈り取ると、掃討戦に入らず、続けて近隣の戦場に向かって動く。
そこではオーブのイズモが苦闘していた。
ザフトのナスカ級だけでも大変なのに、他のローラシア級何隻かに翻弄されて防戦一方である。今はかろうじて蛇行回避とアンチビーム爆雷で凌ぎ、致命傷を避けているだけだ。
砲撃戦はそんな四苦八苦の有様、頼みのMSアストレイ隊はMS戦で更に苦戦している。
その場所へアーク・エンジェルが参戦する。
しかしザフトも馬鹿ではなかった。
既に待ち受けて、ナスカ級が砲撃のチャンスを狙っている。アーク・エンジェルといえどもさすがにナスカ級と正面から撃ち合うのは危険が伴う。
「ジグザグ航行に入り、同時に対艦ミサイルスレッジハマー発射! 向こうからもミサイルが来るわよ。防空イーゲルシュテルン、惜しみなく撃って!」
先ずはお互いに砲撃の射線上を回避する操艦を続ける。
同時にミサイルで牽制するが、これは決定打にならない。こうなれば操艦ミスを待つ我慢比べになるかと思われた。
しかし、意外なところから転機が訪れる。
「ミラージュコロイド! 僕のブリッツはね、ナスカ級でも防げないよ」
ニコル・アマルフィだ!
ブリッツガンダムがクサナギの戦場から長駆し、ここに来てくれていた。
今、ナスカ級はアーク・エンジェルに注視していたおかげで弾幕が薄く、そこへミラージュコロイドを張ったブリッツガンダムが忍び寄る。
むろん、よく知ったナスカ級の弱点へビームを叩き込んでいく。
操舵不能までナスカ級を追い込めば、後はアーク・エンジェルが砲撃で片付けるのは容易い。
これで短くも激しかった戦闘は終わった。
おそらくそのナスカ級がこのザフト艦隊の総旗艦だったのだろう。
ザフト艦隊は混乱を立て直すことができなくなり、やがて散り散りに離脱していった。指揮系統が失われ、損害が累積すれば撤退するのは軍事上の常識である。
ただし、それでも任務を果たそうという気概があったらしい。
最後にザフト艦隊はこちらの護衛艦隊を無視し、射程外から輸送船団へ向けて斉射を放った!
むろんほとんどは外れたが、輸送船の三隻だけは轟沈に追い込んだのだ。これを成果にしてザフトは退いた。
戦闘の結果、ザフト側の損失はナスカ級三隻大破、一隻小破、ローラシア級四隻撃沈、二隻大破だ。むろんこれでは成果に対し余りにも割に合わない。
対する護衛側はイズモが応急修理可能な中破で、クサナギとアーク・エンジェルは稼働に差し支えない小破だ。
この戦いは快勝である。
「逆襲撃、見事に成功したわね…… サイ君。これで物資をプトレマイオス基地に運べるわ。これで多くの人が飢えないで済むでしょう」
「ああ、そうだな。物資は全て無事だった」
「それもやっぱりサイ君のおかげね。サイ君の言う通り、アストレイを運んできて空になった輸送船ばかり前にならべておいたから、沈んだのはそれだけだったわ」
とにかく輸送船団の護衛は成功し、あとはプトレマイオス基地の領空に急ぐだけである。
ついでながらそれ以外にも収穫がある。
今回アーク・エンジェルとイズモ、クサナギが共闘した。
共に敵に立ち向かえば、言葉にできない絆が結ばれるものだ。背中を預ける信頼というのに近い。ここで三隻同盟ともいうべき形が出来上がってくる。