砲撃戦に先立ち、どちらの側もMSを発進させている。
アーク・エンジェルから出て、加速を続けたストライクガンダムが真っ先に交戦に入る。
相手はむろん三隻のナスカ級から発進してきたクルーゼ隊のMSだ。驚いたことにその全てが高機動を誇る新型のゲイツである。
「十、十一、十二…… 多い…… フラガ少佐、トール、気を付けてください!」
「分かったよ、キラ君。大丈夫、といいたいところだが、ちょっと荷が重そうだ。俺とトールは支援に回る。牽制ができれば御の字だな」
さすがにストライクといえども、この数の新型ザフトMSを相手にすれば、足が止まってしまう。
フラガ少佐は自分の実力をわきまえているがゆえに決して前面には出ない。ストライクの死角から迫ろうというザフトMSを牽制しつつ、動き回ることに徹している。まともに戦えばたちまち囲まれて墜とされると分かるからだ。
そんなところへ、エターナルから発進してきた味方MSが二機接近してきた。
速い! 尋常な速度ではない。
「キラ…… 一緒にゲイツを倒そう!」
フリーダムに乗るアスラン・ザラが戦場に割り込み、四門のビームを同時に放つ。これでたちまち一機のゲイツを火球に変えた。
「アスラン、その機体は何!?」
「イージスは置いてきた。これはザフトが新開発したフリーダム! 核動力で今までよりパワーが四倍なんだ」
もう一機、二機、ゲイツを墜としていく。
クルーゼ隊はエリート部隊であり、操縦技量も人並み外れて優れている者が志願して入ってきている。決して弱くはない。それでもフリーダムの機動力とパワーには対抗できない。それほど隔絶した性能差があるのだ。
だが、一方的な戦いはそこまでだった。
「ふむ、やはりというべきかフリーダムは強いな。アスランもさすがだ。もう適合している。しかし、私のプロヴィデンスに敵うかな」
クルーゼのプロヴィデンスがドラグーンシステムを展開しつつ迫ってきた。
そのシステムは遠隔操作のできる砲台の群れを指す。恐ろしいことに瞬く間に局地制圧できる性能を持っている。
最大で40門を超える膨大な火力を同時に叩きつけられるのだ!
そして、それはラウ・ル・クルーゼの破格ともいうべき技量によってしか操作できない。それほど特異なMSなのである。
「私はフリーダムをやる。ルナマリア・ホーク、レイ・ザ・バレル、他のMSは任せてもよいか。なに、ここに足止めすればいい。初の実戦なのだから無理はするな。戦いはどのみち艦隊戦で勝てる」
クルーゼ隊はザフトの憧れの部隊であり、英雄クルーゼに続けとばかりに志願者はいくらでもいる。ただし操縦技量で厳しく選抜され、それをくぐり抜けられるのは多くはない。
そして今、何と士官アカデミーの学徒兵まで動員されているのだ。
ルナマリア・ホークなどは卒業時にはエリートの赤服間違いなしの逸材だが、この時点でクルーゼ隊に配属されている。
一方、アスランの方もプロヴィデンスの存在は知っている。
「隊長のプロヴィデンスが!? 稼働はまだ先だと思っていたのに、実戦に出られる状態まで仕上がっていたとは……」
そしてアスランは通信のスイッチを入れ、一息ついてから話す。
「クルーゼ隊長、ここまで育ててくれた恩は忘れないつもりです。でも、ここは負けられません。僕はやっと見つけた答えに従い、ラクスやキラと一緒に戦います」
「アスラン、君の見つけた答えというのは興味深いな。だが、おそらく私の持つ答えほど強くもなく、深くもないだろう。ともあれ、戦場では結果でしか正しさを証明できないのだよ」
「では、全力で証明してみせます、隊長!」
アスランのフリーダムがプロヴィデンスに挑む。火力と機動力で一気に接近しようとする。
だが…… 簡単ではなかったのだ!
プロヴィデンスのドラグーンシステムは尋常なものではない。多数の砲台から放たれるビームは接近など全く許さぬ密度であり、しかも正確だ。
フリーダムはたちまち防戦に追われることになる。
もう一機、フリーダムに続くべきMS、ジャスティスはその力を発揮できないでいた。
操縦しているのはシホ・ハーネンフースだ。
彼女はアスランがザフトを脱走する際、それに付いてきていた。正直なところを言えば、事の善悪について確信はなかった。
ただ、アスランやラクス・クラインという人物を信頼していて、それが良き方向だと信じたのだ。ちなみに同時期にクルーゼ隊に入ったアイザック・マウはクルーゼ隊に残ることを選んでいる。
シホ・ハーネンフースの技量は低くはなく、ザフトの赤服にふさわしいものである。
ただし、それでもいきなりジャスティスに乗り換えたのだからあまりのパワーの違いに振り回されてしまう。いずれは今のアスランのように充分に扱えるのかもしれない。ただし、それは今ではない。
「アスラン、君は私の言ったことに対して馬鹿正直に従ったようだな。ジャスティスに乗せたのがハーネンフースとはな…… ならばまだ実力は発揮できまい。まあ全力のフリーダムとジャスティスが相手でも私のプロヴィデンスが劣ることはないと思っていたが、より楽になった。感謝するよ」
ラウ・ル・クルーゼがそんなことを言う。
実際、押しているのはクルーゼである。
やっとキラがゲイツたちを振り切って、アスランのフリーダムへ支援についた。二人は上手い連携を取り、防戦しながらも時折ドラグーンの砲台を叩き切っている。
だが、そんなことでクルーゼは動じない。砲台を少しばかり墜とされようと全く問題ではない。
どのみち時間を稼ぐだけで決着がつく。
「MS戦ははかばかしくないようね…… まさかこれほどザフトのMSが進化してるだなんて……」
「そうだな、ラミアス艦長。やはり敵の指揮官はそこまで想定していた」
「キラ君も上手にやってるけれど、とても直ぐには敵艦に取り付けないわ。時間切れね。艦隊戦に入らざるを得ない」
マリュー・ラミアス艦長はMS戦の様子を見て、そう言った。
それは膠着状態に入り、MSで敵艦を何とかしてくれるという希望は断ち切られた。
ただし艦長は失望しても悪態をつかず、キラ君たちの頑張りに対して正当な評価をすることを忘れない。
やはり素晴らしい艦長なのだ。
「アーク・エンジェル、砲雷撃戦用意! エンジン出力最大、緊急時加速! 有効射程までの時間はあとどのくらい?」
「あと2分でレッドゾーン入ります!」
「進路そのまま! ローエングリン発射シークエンス起動、射程に入る前に撃つ! 向こうを混乱させて、そのまま一気に中央を突破する。エターナルにもそう連絡して頂戴!」
ふむ、なるほど。
思い切った作戦だ。ラミアス艦長は度胸もある。
「ラミアス艦長、これは死中に活を求めるというやり方かな」
「そうなるわね、サイ君。下手な進路変更はできない、となれば思いっきり行くしかないわ」
「合格だ、艦長。よくそこまで決断した。後は俺に任せて安心していい。俺がいる限り、こんな危機など物の数ではない」
「ええっ、サ、サイ君、どういうこと! あなた、何とかできるの!?」
「向こうの指揮官は優れた戦術家であり、褒めてあげてもいいくらいだ。ただし、この程度で沈められると思ってほしくない。俺はコンスコンだ」
そう、敵は優秀だよ。だが残念だ。俺の前の世界で言うならば最上級ではない。そこで俺が戦ってきたグリーン・ワイアットに及ぶレベルではないのだ。
俺がジオンのコンスコン大将である限り、なんとでもしてみせよう。
ラミアス艦長の成長を思い、ここまで任せていたが、後は俺の出番になる。
戦術というものを見るがいい。
「艦長、一時戦闘指揮を任せてもらえないか」
「そ、それはいいけど……」
「よし、ならば速度を微速まで落とせ。そしてアンチビーム爆雷投下用意!」
「今のは助かった。キラ。しかし気を抜けないぞ。さすがにクルーゼ隊長のプロヴィデンスは凄い」
「アスラン、こうして一緒に戦えて、とても嬉しい」
今もドラグーン砲台によるフリーダムへの連続射撃をすんでのところでストライクが遮り、逸らすことができた。
こんな危うい防戦は何度目だろう。
「それは…… 僕もだ。キラ。でも話は戦いが終わってからだ。見ればエターナルと足付きが艦隊戦に入ろうとしている…… だが、これはあんまり良くなさそうだ。早くなんとかしないと」
「アスラン、アーク・エンジェルの心配をしてくれてるの? それは要らないよ」
「え……」
「アスランは知らないんだ。アーク・エンジェルにはサイっていう友達がいる。そのサイが居る限り、絶対に負けることなんかないから」