コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第三話  これからの道

 

 

 まあ俺はちょっとカッコつけ過ぎてしまったようだ。

 

 戦いに口を出した件については微妙な処分となった。

 軍というものは結果オーライとはいかず、やはり命令系統がしっかりしていないといけない組織である。そうでなければ各人が勝手気ままに動き始め、良かれと思ってしたことでバラバラになってしまう。だから結局はナタル中尉の考え方の方が正しいのだ。

 しかし、やはり俺の判断と戦闘指示が砂漠の戦闘に寄与したことは間違いなく、処分は謹慎一日という形ばかりのものになっている。

 

 

「サイ、ありがとう。スレッジハマーの発射を止めてくれたんだって」

「戦術を考えたからだ。キラ・ヤマト君、生還できてよかった。戦いというものはどんなベテランでも必ず還れるとは限らない。俺はいつも将として見送る方だったが、かつてのジオンの勇士たちもそうだった」

「…………」

 

 わざわざ俺のところへキラ・ヤマト少年が来てくれた。

 またしても目を輝かせて…… 相変わらず一本気な少年だ。

 

「サイにはいつも大事なところで助けてもらうね。僕がラクスをザフトに返した時も、また戻ってくると信じてくれた」

「ん? それは前のことだろうから、何の話か分からない。俺はコンスコンだからな!」

「またそんな」

 

 目の前の少年は、俺に対し屈託のない笑顔を見せている。

 年相応でしかない。

 コーディネイターかなんだか知らないが、普通じゃないか。この少年が厳しい顔でMSに乗らされているのがそもそもおかしいんだ。

 

 

 

 

 同じ時、砂漠の片隅では明るい髪の色をした少年が双眼鏡を下ろしながら呟く。

 

「砂漠の虎を退治するのに罠を張ったのだけど…… 無駄になった。しかしあの攻撃を難なく退けるとは、アーク・エンジェルという艦は強いなあ。サイーブ隊長、あれの協力を得られれば」

 

 横に立っている男へ向けて視線を上げ、そう言うと、男は強くうなずいた。

 これのすぐ後、アーク・エンジェルに連合軍回線で通信が入る。

 

「こちら連合軍レジスタンス『明けの砂漠』、アーク・エンジェルに共闘を申し入れる。ザフトの部隊『砂漠の虎』を退治しよう。そうでなければこのアフリカに安息はない」

 

 

 アーク・エンジェルは地球降下に際し、ザフトの襲撃によって予定より早く降下を始めてしまった。追われつつの緊急事態だったので突入角度もめちゃくちゃだ。そのため目的地であったアラスカ連合軍本部からはるか離れたアフリカに着いてしまった。

 しかし、アフリカにだって連合軍の基地はある。

 そのビクトリア基地には艦艇のドックもあり、修理と補給ができる。それに何よりマス・ドライバーがある。このマス・ドライバーは地球でも指折り数えるくらいしか存在しない。これなくして重い艦は重力に逆らって宇宙に帰ることができず、宇宙用の艦艇であるアーク・エンジェルを活用するにはそれが必須である。

 そのビクトリア基地に行けば事足りるはずだ。

 

 だが、その希望はあっさりと打ち砕かれた!

 レジスタンスのサイーブ隊長がアーク・エンジェルのクルーたちに残酷な事実を告げてきた。

 

「連合軍ビクトリア基地は既にザフトによって陥落させられた。もしもアーク・エンジェルが行動を続けるなら、どうしても他の基地に行かなくてはならない。ここからならやはりアラスカ基地だろうが…… しかしそれには砂漠を突っ切ることが必要になる。ならば共にザフトの部隊を叩こうではないか。いや、それしか活路はないのだ」

 

 

 

 艦長マリュー・ラミアスはこの事態に頭を抱え込む。

 

 情勢は刻一刻と変わり、思わぬことの連続だ。しかも多くの場合は悪い方へと転がっている。休息の時ははるか先に延び、しかもその前に厳しい戦いが待っているとは。

 

 結論を出しあぐねて艦橋に入ると、そこには自分でCICの特訓をしようとしているサイ君がいた。

 思い切って聞いてみようか…… 先日以来妙に落ち着きを見せているサイ君に。

 いや基本的には軍人ではなく学生である者に聞いても仕方がない。艦長として自分が考え、重大な判断を下さねばならない。

 そうしたところへナタル中尉も追って艦橋へ入ってきた。

 

「艦長へ具申。直ちに『明けの砂漠』と共にザフト部隊を叩き、紅海へ出るべきです。まごまごしているとアーク・エンジェルの情報が伝わり、大部隊を呼び込む可能性が出るでしょう。宇宙で我らを追っていたザフトのクルーゼ隊が放っておくとも思えません」

「確かにそうだわ、ナタル。皆は砂漠の戦いに慣れていないでしょうが、戦うしかなさそうね」

 

 

 

 そしてマリュー・ラミアスは思わずサイ・アーガイル、つまり俺の方を見た。

 

 俺も艦の行く末に関心があるものだから、つい途中から手を休めてそっちの方を見てしまっていた。

 だから目があってしまう。

 ならば俺も少しは語ってしまっていいのだろうか?

 

「それでいいのかな、艦長。よく考えた方がいい。なるほどレジスタンスはここに拠点を置いている以上、戦い、守るのに必死だろう。その気持ちはよく分かる。ただしこの艦はそれに引きずられる必要は無い」

「サイ、貴様また勝手な意見具申を! 軍の規律を乱す者としてまた謹慎させねばならなくなるぞ」

 

 ナタル中尉がそう言ってくるが、また艦長が宥めてくれる。

 

「ちょうど私からサイ君に聞こうと思っていたのよナタル。だから続けて」

「では言うが、この艦は戦いを避けてもいいのではないか。ひたすら隠れて動くか、あるいは回り道をしてでも」

 

 俺はそう言い切ったが、やはりナタル中尉が反論を返し、それに艦長も同意を示す。

 

「サイ二等兵、そんなことは机上の空論に過ぎない! 大体にして連合軍レジスタンスを支援することもアーク・エンジェルの立派な任務だ」

「そうね。レジスタンスたちは劣勢の中、よくやっていると思う。アーク・エンジェルが彼らの希望になってしまった以上、期待に応えず見捨てることもできないわ」

 

 マリュー・ラミアス艦長は気持ちが優しく、いや甘く、正直ナタル中尉と足してちょうどいいくらいだ。しかしながら、俺としては決して嫌いではないぞ。

 だがここで言わねばならない。

 状況があまりに似過ぎているからだ。かつてのジオンと連邦の戦いに。

 

「二人とも、大局を見るのだ」

「貴様まだ口を……」

「断言するが、絶対にそのザフトとやらの攻勢は続かない。いずれはこんな地上戦など意味がなくなり、ただの小競り合いとして記録されるだけになる。今戦って死ぬのは無駄死にしかならず、レジスタンスのことを思うならむしろ戦わせない方がいい」

 

 俺はかつてのジオンのことを思う。だからこそ言い切れる。

 ジオンは開戦初期から大攻勢に出て、一気呵成に地球表面を席巻していったが、やがては撤退せざるを得なかった。オデッサの敗退がその大きな契機になったのだが、それがなくとも結局は同じだったろう。

 つまり圧倒的に兵員数の劣る側が頑張っても、伸びきったゴムのようにいずれ限界が来て押し戻される。

 兵器の優位でごり押しできるのはわずかな期間に過ぎず、このザフトというものにしたところで、いずれ主力は宇宙に帰らざるを得ないと予想される。

 だったら無理をすることはない。

 今、血を流すのは無駄であり、ザフトが撤退に移った時こそ頑張ればいいのだ。

 

 まあザフトはいざ知らずジオンの場合は地球作戦の合い間を縫い、せっせと鉱物資源の方を製錬してサイド3へ持ち去っていたのだが。

 それはマ・クベ大佐の個人的なファインプレーとでも呼ぶべきものだ。

 そして地表では、もう一人ファインプレーをしていた天才がいたのだが、残念なことに失われてしまった。

 その天才とはガルマ・ザビ大佐のことだ。

 地球で政治的にもっとも重要な場所である北米大陸において、何とジオン軍と住民が宥和をしていた!

 これは通常では考えられない。

 ジオンへの憎しみ一色になって当たり前の住民がジオン側と歓談するなど奇跡としか言いようがない。そのままガルマ大佐がアースノイドと結婚し、憎しみが消滅していけばどんなに未来が変わっただろうか!

 地味ではあるが、キシリア閣下とは別の意味でガルマ大佐は間違いなく政治的天才だったのである。

 

 

 

 

 俺がふと我に返ると、マリュー・ラミアス艦長が考え込んでいた。

 

「戦いを、避ける……」

 

 そんな艦長と俺を交互にナタル中尉が見ている。何も言わないのは少し俺の言ったことを考えているのだろうか。

 

「艦長、本当にそうしたいのなら、俺はいくらでも方策を考えてやる。なに、決して慣れたくはないがこれくらいの危機など幾度も経験しているのだ。そもそも地球降下作戦は初めてではないしな」

「…………」

 

 艦長とナタル中尉を置き、俺は先に艦橋を出た。

 扉のところでちょうど艦橋に入ろうとしていた男とすれ違う。今度の体は腹が出てないからすれ違いも楽でいいな!

 俺はスピードを落とさず立ち去ったので、その男が言っていた言葉はあまり聞こえなかった。

 

「こりゃおかしい。あいつはなんか普通じゃないぜ。俺は勘が鋭い家系に生まれたんで分かるが、少なくとも青二才って感じがしない。不可能を可能にしてしまいそうだ」

 

 

 

 俺は艦橋を出るだけではなく、そのまま艦を出た。

 なんでもレジスタンスたちが艦のクルーに対し歓迎会をしてくれるそうだ。

 

 急に冷えてきた砂漠の中、わずかな灯のところを歩いていたが、何やら少年たちの声がするではないか。

 

「カガリっていう名前だったんだ…… 僕は人が死ぬのを見過ぎてしまったから、こうして生きててくれる人がいるのが、とっても嬉しい」

「ヘリオポリスではお前に助けてもらった…… 感謝してる」

 

 あのキラ君がレジスタンスの少年と話しているらしい。明るい色というかむしろ黄色の髪をした少年はぶっきらぼうなしゃべり方をするが、感謝しているという気持ちは充分伝わってくる。こうして見ると二人はまるで兄弟のようだな。

 

 だが、ここへいきなり乱入者が現れる!

 あの赤い髪をした女が場の空気も読まずに踏み込んできたのだ。

 

「キラ! こんなところにいたの! あたしがせっかく誘ったのに、何で断ったのよ!」

 

 俺がそっと見たところ、キラ君はなんだか困ったような顔をしている。

 そしてそれ以上に明るい髪の少年が憤慨しているようだ。

 

「横から話に割り込むとは失礼なやつだな。キラ・ヤマト、この女とはどういう知り合いだ」

「何よあんたこそどっか行って! キラはあたしがいっぱい慰めてやらないと…… 保たないんだから!」

 

 

 するとキラ君は赤髪の女の顔も見ず、ポツリと言ったのだ。

 

「フレイ、やめてよね。僕がサイを裏切るはずないだろ」

 

 

 

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