コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第三十一話 対峙する時

 

 

 俺のことはただのお笑いで済むが、ここでイザーク君が妙なことを言った。

 腕を組み、体を壁にもたれさせながら、深刻な表情で。

 

「MSのパイロットといえば…… 俺は今回イズモと一緒に地表へ降りている。そこで妙な噂を聞いた。連合がとんでもないパイロットを作り出しているらしい。本来はパイロット適性のない人間を脳内麻薬漬けにして、異常な戦闘本能を引き出し、めちゃくちゃな戦いをさせる。最初から使い捨てのパイロットだ。本当にそんなことが有り得るのか、調べようもないが」

「そんな…… 明らかに非人道的だわ!」

 

 マリュー・ラミアス艦長が一番早く反応した。

 

 ただし、反応の強さでいえば間違いなく俺が一番だ。驚きが強すぎて言葉が出なかっただけである。

 なぜなら俺はそれに類するものを見ているのだ!

 かつて連邦軍が似たようなことをしていた。いわゆる強化人間だ。記憶さえ作り変え、戦うための人形にして磨り潰す。死ぬよりもはるかに酷く、あらゆる意味で人間を冒涜するやり方である。俺が知るだけでもロザミア・バタムやフォウ・ムラサメがその犠牲となって人生の記憶を失った。

 それと同じようなことをこの世界の連合が行おうとしているのか! ただ単に、戦争に勝つために、弱い人々を踏みにじって。

 断じて許すことはできない!

 

「…… もしもそうなら、俺が必ず叩き潰す。コンスコンの名にかけて」

 

 この呟きは、自分に向けて言ったものだ。

 

 

 

 

 同じ頃、地球表面ではナタル・バジルールが青空を見上げている。

 

 パナマの空は抜けるように澄み渡っている。南国らしい美しさだ。

 その下の地表には巨大な建造物がある。

 連合が新しく建設したマス・ドライバーだ。ザフトの目を欺くため地球各所でダミー工事が行われているが、ここパナマ基地のものが紛れもなく本物である。

 

 更にナタルが視線を大きく動かすと、艦の建造ドックが見える。その覆いからわずかはみ出た脚のようなものまで見えている。

 あれこそが竣工寸前のアーク・エンジェル級強襲揚陸艦二番艦だ。

 アーク()エンジェル(天使)より位が高いドミニオン(主天使)の名が付けられている。

 

「何から何までそっくりだな。同型艦だから当たり前だが……」

 

 ナタルが当然過ぎることを言ってしまったのには理由がある。

 この度、ナタル・バジルールは昇進して少佐となった。同時にこの新造艦ドミニオンの艦長に就任することが内定しているのだ。

 普通なら脱走艦の副長だったものが昇進することはない。多少なりとも関与を疑われるからである。

 だが、ナタルはアーク・エンジェルで数々の戦闘をくぐり抜けてきた経験があり、同型艦でそれが活かされることを期待され、この人事となっている。

 

 しかしナタルの呟きは、これから乗艦する艦への単なる感想ではない。

 どうしても思い出すのだ。

 かつてアーク・エンジェルの副長として長い旅をした。その途中艦長を始めとしたクルーたちと本当に何度も衝突した。ナタルは自分なりの最善を主張したつもりだったが…… 戦闘行動でも政治的行動でも、真っ向から対立したことが少なくない。

 

「ラミアス艦長、フラガ少佐、そしてサイ君……」

 

 しかしそんな思い出は、今では貴重なものになっている。

 対立とはいっても、原因はたいてい自分より皆の方が甘く、優しかったせいだ。皆はナタルと違い、最善の軍事行動よりも人の気持ちを優先した。それに対して自分はついつい厳しい、軍人的な発想を口にしたものだ。

 どちらが正しかったのかどうか考えることは意味がない。結果的にアーク・エンジェルは沈むことはなかったが、まさに結果論にしかならないだろう。

 それよりもナタルにとってはそういう自分さえ皆の優しさによって包み込んでくれたことが大事なのだ。あのオーブでの別れの時、マリュー・ラミアスが名残惜しく、いい形で再会したいと言ってくれたのは本心からだ。

 

 そんな甘酸っぱい記憶がアーク・エンジェルと同じであるドミニオンの形を見ることで思い出されてやまない。

 

 

 

 

 しかし運命はナタル・バジルールに対して少々意地が悪かった。

 

「出港、でしょうか? しかしドミニオンは完成したとはいえ各部テストがまだ35%しか終わっていないはずでは。急いでもあと7日はかかるものかと」

「そんなの出てからやればいいでしょう。まったく」

「し、しかしアズラエル理事、計画書ではマス・ドライバーで宇宙へ行くとあります。不具合が出てからでは対処が難しいでしょう」

 

 今、ナタルとドミニオンへ急な出港命令が来ている。

 それを伝えているのは連合司令部参謀ではなく、百歩譲ったとしても上官ですらない。軍服も身に着けていなかった。

 

「いいからさ、ナタル艦長も頭の固い軍人さんなわけ? そんなことはどうでもいいから、出港するかしないかは僕が決める。艦のことは艦長に任せるけれど、そういう上の判断に口を出さないでくれるかなあ」

「…………」

 

 ドミニオンでは艦長であるナタルが全ての判断をする、のではなかった。

 ブルーコスモスの理事ムルタ・アズラエルが一緒に乗艦し、口を出してくる!

 アズラエルは確かに艦の調整や点検、各部署の報告などについてナタルに任せっきりで、その線引きはしっかりしている。ただし、肝心な出港日時や作戦範囲というものについて命令してくるのだ。

 

 そしてナタル・バジルールには反対する権限はない。

 連合司令部からはムルタ・アズラエル理事に従うよう厳命されているからだ。

 軍人であるからには司令部命令に従うが、ナタルとしては連合軍とブルーコスモスの歪んだ関係について嘆息せざるを得ない。あまり政治的なことを考えないようにしているナタルでさえ、ブルーコスモスが極端なコーディネイター排斥主義者の集まりであり、それゆえに軍を私物化しようとしていることを知っている。

 

 これでは戦争が終わるはずがない。

 

 平和が尊いなどという発想はどこにもなく、コーディネイター根絶に駆られているだけだ。ザフトという過激武装集団の鎮圧という目的は忘れ去られ、ブルーコスモスが中心となってコーディネイターに対する憎悪と嫉妬が煽り立てられているのだ。連合がそれに巻き込まれている。人は理性によって力を抑制すべきなのに、もはやそんなことを考える方が少数派になった。

 

 

 

 それはともかく、ドミニオンの出港直前に奇妙なことがあった。

 

 アズラエルの指示で何かが積み込まれた。普通の備品や物資ならば敢えて問う必要はないが、艦の医務室を改造することまで含まれれば話は大きくなる。戦闘中に負傷した兵の拠り所はそこしかない。

 

「アズラエル理事、艦を勝手にいじるのは止めて頂きたい。せめて目的くらいは事前に相談があって然るべきでしょう」

「ああ艦長、それは悪かったね。でも仕方ないんだよなあ。あいつらを収容するためなんだから、どうしても必要なんで、そこは事後でも了承してくれなきゃ」

「あいつらとは…… 乗艦名簿に病人はいないはずですが」

「これはまだ秘密なんだけど、三人、いや三体が追加されるはずなんだよ。MSのパイロットとして使う優秀な部品でね、暴れたり面倒なことがあるかもしれないが、見て見ぬフリをしてくれればいいから」

「理解しかねますが……」

 

 そしてアズラエルのいう奴らというのが乗艦してきた。

 艦長である自分に敬礼どころか挨拶もしない! いや、単に不遜だということではなく、三人とも目つきがおかしかったりゲームを手放さなかったり、どうにも違和感がつきまとう。

 確かにこれは変だ……人間として壊れているような。これでは医務室が常時必要というのもうなずける。

 そして見てしまった。

 ほどなくして図ったようにその三人が同時に倒れ、もがき苦しんでいる!

 医務室に作られた隔離部屋のベッドに縛り付けられ、目は焦点が合わず、うめくしかできない状態にいる。

 

 いったいこれは何だ!

 

 直ちにドミニオンのデータベースを開ける。艦長権限でアクセスできる深層ぎりぎりまで調べたのは初めてのことだ。

 その結果…… 恐るべき実態を知ることができた。

 あの三人は病気ではない!

 それどころか元は普通の人間である。それなのに脳の中に薬剤注入器を仕込まれ、その薬剤で狂わされてしまった。時折禁断症状でああいう姿になってしまうのだ。それもこれもMSパイロットとして使い潰すために。もっとはっきり言えば、ナチュラルがコーディネイター以上の力を手に入れるために。むろん、そんな無理をする代償は計り知れない。

 

「アズラエル理事、あの三人は!?」

「何か問題あるの? 戦争に勝つためだから、それくらいするでしょう」

「それくらいって……あまりに非人道的に過ぎます!」

 

 ナタルは直ぐにアズラエルのところへ行き、問いただした。自分のドミニオンでそんなおぞましいことが行われるのは、容認できない。

 

「戦争をしているのに何を悠長な…… それにさあ、あの三人の記憶は奪ってるけど、元は志願してああなってるんだよ? だったら僕の責任じゃないわけだから、非難されるのはおかしいねえ」

「志願!? あんな状態にされるのに!」

 

 そんなはずはあろうか。少なくとも分かっていて志願するはずがない。

 

「何か疑ってるの? 僕の言うことに。奴らなりの事情っていうのがあるのさ。データベースの一番深くまで見たら理由も書いてあるから」

「ですが、それでも……」

 

 

 しかし、ここで逆に信じ難いことを告げられてしまった。

 

「そんなことより、出港を急いでくれないかなあ」

「急がせてはいますが、通常より遠距離の試験航海となりますと、装備面だけでもそれなりの準備が」

「ああそうそう、大事なことを言うけど、実は試験航海じゃないから。僕だって試験航海に付き合うほど暇じゃない。今回の目的はオーブの宇宙ステーションアメノミハシラを潰すこと、そして脱走艦アーク・エンジェルを沈めることだよ。やってくれるよね、ナタル・バジルール艦長」

 

 

 

 

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