コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第三十二話 上の事情

 

 

 ムルタ・アズラエルが出航目的をようやく明かしてきた。

 

 今回のドミニオン発進は試験航海どころかあまりに無茶な出撃だった!

 何とオーブの拠点アメノミハシラを叩くというのだ。

 

「ア、アズラエル理事、それは本当のことでしょうか? それほどの大作戦が計画されているとは……」

「本当だよ艦長。だから僕がいるんじゃないか。連合は今からコーディネイターどもの根城、プラントを叩き潰す! ドミニオンはね、その先遣部隊の旗艦なんだよ」

「連合の先遣部隊…… ドミニオンがその旗艦になるのは光栄です。しかしアメノミハシラにはかなりの守備戦力があるものと予測され、おいそれと手を出せないと思われますが」

 

 もちろんナタルの頭にはアーク・エンジェルがある。

 アメノミハシラを攻めるとなれば、むろん庇護下にあるアーク・エンジェルが出てくる。それとまともに対決してしまう。

 かつての同僚だったクルーたちのことが頭を掠める。

 これも運命なのか。

 アーク・エンジェルが連合から脱走した結果、こうなることもあり得たが、本当にそうなってしまうとは…… 考えられる限り最悪の再会ではないか。

 

 しかしそんな感傷とともに考えることがある。戦力的にアーク・エンジェルの怖さは誰よりも知っている。

 艦長マリュー・ラミアスの意外な度胸、フラガ少佐の冷静な判断力、キラのストライクの強さ、その上……恐るべき戦術を繰り出すサイ・アーガイルがいるのだ。

 簡単な戦いになるはずがない!

 

「反対しても無駄だよ。だからさ、そういう戦略のことは僕が決めるの。オーブの守備戦力は分析済みで、今度の先遣部隊はネルソン級戦艦が四隻、ドレイク級宇宙護衛艦が四隻、ドミニオンと併せれば九隻の戦力を用意するから。それならできるでしょう?」

「九隻もの艦隊…… 通常なら充分過ぎるほどの戦力かもしれませんが、それでも声を大にして言わねばなりません。相手を過小評価しているきらいがあります! アーク・エンジェルのMS戦力は見かけ以上のものがあり、しかも常に発展しています。また戦術面において非凡な力量があることも考慮すべきです」

「どうしたの艦長、そんなことばかり言って。まさかアーク・エンジェルと戦いたくないとかいう個人的な感傷じゃないだろうね。それなら大きな問題になるよ」

「いえ、決してそのようなことは」

 

 このムルタ・アズラエル理事は自信を持っているようだが、おそらく充分に分かっていない。

 

 

 

「アズラエル理事、もしかするとあの三人をMS戦力の切り札と思っていらっしゃるのでしょうか」

「ああその通り、思いっきり使うつもりさ。今後の資料としてそうした方がいいから」

「しかしそれでも…… いえ失礼しました。ところでアメノミハシラを叩く戦略的必要性について伺ってもよろしいでしょうか。プラントが最終目標なら、真逆の位置にあるアメノミハシラを敢えて無力化する意味はどこに」

「それは、艦長に詳しく説明することはないけれど、大人の事情だからねえ。ま、簡単に言うと幸先のいい勝利が必要ってところだよ」

「……」

 

 それ以上は聞いても無駄なのだろう。

 一介の艦長には上層部の考えることを知る権利すらない。

 

 

 そしてついに出撃の時が来る。

 

 連合パナマ基地の大型マス・ドライバーが地に響く唸り声を上げ、いよいよ稼働状態に入る。

 最初に新造艦ドミニオンを乗せ、宇宙へと飛び立たせる。

 その後も次々と艦を送り出し、ドミニオンと併せて九隻が宇宙に浮かぶこととなり、それらはすみやかに隊列を組む。大型艦を中心として九隻、それなりの威容を持つ艦隊だ。

 すぐさまアメノミハシラへ向かって針路を取る。

 

 

 

 

 その様子を見てはいないが、充分に予期している者がいた。

 全ての陰謀を操るラウ・ル・クルーゼだ!

 

 クルーゼはメンデル宙域での追撃戦失敗の後、むろん艦の修理のためにプラントに戻っている。しかしその前に一つの仕事をやってのけていた。

 それは本来の任務に入らない連合プトレマイオス基地襲撃だ。

 名目が無いわけではない。アーク・エンジェルがそこで修理や整備を受けていたのは事実であり、今後のためにも無力化するのは悪いことではない。

 

 先の戦いの鬱憤を晴らしたかったのだろう。レイ・ザ・バレルなどは勇躍して発進し、熾烈な迎撃ミサイル弾幕を恐れずに搔い潜り、プトレマイオス基地の迎撃陣地を次々に破壊していった。

 むろんプトレマイオス基地は残されていた戦力であるメビウス二十機余りを急遽発進させ、抵抗を試みている。

 しかしながらクルーゼ隊の優秀なパイロット相手ではあまりに無力だった。結果、クルーゼ隊にただの一機の損害もなく、メビウスは全滅させられている。

 

「見たか連合め! これがクルーゼ隊の力だ!」

 

 若者たちはそう言って紅潮する。

 一つの大規模基地を無力化したことは大きな自信になる。多くの者はかつてクルーゼ隊が単独で連合アルテミス基地を叩いた時に参加していないが、もちろんその驚くべき大殊勲を知らないはずがない。今、それと同じような戦果を挙げたと思っているのだ。

 

「皆、よくやってくれた。これでプトレマイオス基地の戦力は潰した。基地自体の破壊は不要、帰投に入ってほしい」

 

 クルーゼはMSパイロットをねぎらいつつそれ以上の行動はさせなかった。

 若者たちの多くは戦闘に満足している。戦闘継続を望んだ者がいなかったわけではないが、クルーゼ隊長はエターナルを逃した埋め合わせにプトレマイオス基地を叩きたいだけで、つまりザフト上層部への単なる言い訳だろう、と想像するばかりだ。

 ラウ・ル・クルーゼの深い陰謀に気付く者は誰一人としていない。

 

 

「これでいい。プトレマイオス基地を利用してデータを渡せる。実にいいタイミングだ。足付きに敗退させられたが、それすら逆手にとれるとは本当に運がいい」

 

 

 

 全てクルーゼの思い通りにいった。

 

 実はこの頃、ザフトの最終兵器ジェネシスが完成したという情報がクルーゼにも入っている。後は動作テストを待つばかりだという。

 しかし、それが終わったとしても直ちにジェネシスを使う気配はない。

 プラントの政治情勢は急進派が最大派閥だが、それでも大量破壊兵器による先制攻撃に慎重論を唱える者が多かった。

 一刻でも早く撃ちたいパトリック・ザラは歯がゆく思うも、慎重論へ一定の配慮が必要である。

 

 ならば背中を押させる!

 

 先に連合が核兵器を使う意思を示せば、プラントもジェネシスを使うに決まっている。

 だからこそクルーゼはこのタイミングでニュートロンジャマーキャンセラーの技術情報を連合に渡すのだ。

 その技術情報の入手は簡単ではなかった。しかし都合が良いことに、自分のプロヴィデンスはまさにその一つを積んでいるではないか。しかも整備情報としてあらかたの設計がデータにあったのだ!

 

 戦闘終了間際にクルーゼのプロヴィデンスが出てきたことについて、若者たちはダメ押しの後詰めに来たものかと思い、何も訝しむことはない。クルーゼは悠々と設計情報をプトレマイオス基地に投下した。

 そしてクルーゼが若者たちにプトレマイオス基地を破壊し尽くすまで攻撃させなかったのは当たり前である。

 ニュートロンジャマーキャンセラーの技術を解析し、連合上層部へ送ってもらうためには。

 

 

 

 クルーゼの思惑通り、プトレマイオス基地は大慌てで情報を地表に送り、ついに連合は核の使用を可能にすることができた。

 

 最初は連合の中でも大西洋連邦がその情報を独占していた。

 しかもそれをミサイルの弾頭に組み込み、核爆発を使用可能にする方向で開発を進めていく。つまり軍事利用だ。

 しかしながら、大西洋連邦以外もやがてそれに気付く。プトレマイオス基地は基本的に大西洋連邦主導の基地ではあったが、今では他の基地の人員を集約している関係上、情報をずっと秘匿することはできない。

 結果、ユーラシア連邦が大西洋連邦に噛み付いた。

 ニュートロンジャマーキャンセラーの技術を地球のエネルギー不足解消に使う、それを優先させるべきではないかと。

 だが大西洋連邦は核の軍事利用に固執し、それを撥ね退けている。

 正確には大西洋連邦と関係の深いブルーコスモスがそうさせなかったのだ。

 

 だからこそ、ここで大西洋連邦とブルーコスモスは目に見える勝利を手に入れたい。

 

 その実績をもとに連合の主導権を握り続けるためである。

 それがムルタ・アズラエルの言う上の事情であり、今回のアメノミハシラ攻略戦の本当の理由だった。

 

 

 今、宇宙はラウ・ル・クルーゼの舞台と化している。

 

 

 

 

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