コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第三十四話 企み

 

 

「やはりそうなるか……早いな」

 

 ドミニオン艦橋でナタル・バジルールが独り言を言う。表情は複雑だ。

 ミサイル攻撃に工夫を凝らしたが、それはあっさり防がれた。しかし、その後の艦隊運動ではアーク・エンジェル側を一手上回ることができた。あの恐るべきサイ・アーガイルを出し抜く形になったことは、軍人としての矜持を守ると共に、多少の満足感をもたらしてくれる。むろん、艦数の優位という下地があったからできたということを忘れてはいない。

 だがその果実を得ようとする矢先に対応され、素早くMS戦に切り替えられた。

 

 

 ナタルはもちろん、アーク・エンジェル側のMSについて、その恐るべき戦力を知っている。

 だが、その理解はアズラエルと共有できない。

 

「いい感じになってきた! ナタル艦長、MS戦になるならあの三人を出せばいい」

「……やはり向こうは上手い。逡巡することなくMS戦に切り替えられてしまったようです。その前に一隻でも二隻でも沈めておきたかったのですが、うまくいきませんでした」

「構わないんじゃない? 砲撃戦にならないとしても、MSだってこっちは九隻分の搭載で四十機はあるよ。それに加えてあの三人だから」

 

「いいえ、それには反対です。アズラエル理事、MS戦になれば向こうにはストライクがいます。そして元はクルーゼ隊にいたデュエルなども認められる以上、かなりの戦力と思わねばなりません。こちらが数の上では圧倒的とはいえ難しい戦いになるでしょう。ここは優勢のうちに距離を取り直し、艦隊形を再編します。あくまで艦隊運動を基軸とした砲撃戦にこだわるべきです」

「それは認めない! とにかくレイダー、フォビドゥン、カラミティを出すんだ!」

「し、しかしアズラエル理事、それで抑えられるかどうかは……」

 

 ナタルとしては反対せざるを得ない。

 だがムルタ・アズラエルはMS戦の継続を主張し、三人の出撃を強行させた。

 

「それはこの僕が決める。僕の判断が優先なんだ。連合司令部からそう言われてるはずだよね、艦長。それで上手くいかないとしても別に……いや、何でもない」

 

 

 

 むろんその三人、クロト、オルガ、シャニは出撃命令に従う。

 最初から従うように調整されている。脳内麻薬に操られ、本来の人格はとうに吹き飛んでいるのだ。そして戦意を無理に引き出された状態で出撃していく。

 随伴するストライクダガーが四十機いるが、それらとの連携や編隊などまるで無視し、とにかく獲物を求めるだけの戦い方だ。

 

「どいつからだァ! 瞬殺ゥ!」「旧型でも新型でも、とっとと出てこい!」「ダルいからさあ、早くやられちゃってよ」

 

 

 

 たちまちMS同士が交戦に入る!

 むろんアーク・エンジェルらの側は絶対的に少数なので、そのまま乱戦というわけにはいかない。それなりの秩序を保って戦う。

 

「しっかり下がっていろ。俺が前に出るから、それに注意が向いた奴に忍び寄り、三人で囲んで叩け。決して単独で仕掛けようと思うな。分かったか」

「了解、イザークさん!」

 

 今、イザーク・ジュールのデュエルガンダムは、アサギ、マユラ、ジュリたちのアストレイ隊と共にいる。

 そして彼女らが安全に戦いを進められるよう先導している。さりげなく危機から遠ざけるように動き、徹底して守りにかかっているのだ。

 一方でディアッカは視野を広く構えつつ、アーク・エンジェルなどに近付こうとするストライクダガーがいれば狙い撃ちにかかる。長射程のバスターガンダムがそれに一番適しているし、ディアッカもそれを自覚している。結果、アーク・エンジェルらを目指すストライクダガー別動隊を寄せ付けない。

 逆に攻撃面ではニコルの独壇場となる。

 ミラージュコロイドを起動したブリッツガンダムは弾幕の薄いところを掻い潜り、連合先遣艦隊に接近、先ずは小型のドレイク級護衛艦を大破に追い込む。

 

 そして……

 やはり主力はアスランのフリーダム、シホのジャスティス、キラのストライクだ。

 

 そこへあの三人のMS、レイダー、フォビドゥン、カラミティが挑みかかる!

 

 もはや隊列も秩序もない。あたかも獣のように、いや獣でさえ恐れというものを知っているが、三人にはそんなものもない。あるのは戦いたいという衝動だけであり、それに完全に支配されている。

 

 アスランたちは彼らの異常な戦意に戸惑ってしまう。

 しかしそれはわずかな間のことであり、対応していけば、やがて優位に立つ。機体性能でも技量でもはっきりした差がある。

 

 

 

 

 

「戦況は…… ご覧の通りです。ストライクダガーの損失はこの時点で十機を超え、艦隊ではドレイク級一隻、ネルソン級一隻が大破です。今一度速やかな後退を進言します」

「くそっ、どうして……こんなことに。常識ではあり得ない。いいや違う。僕としたことが常識に捉われてしまったのか」

 

 MS戦の結果は思わぬことになりつつあり、ドミニオン艦橋でナタルとアズラエルがそんな会話をしている。

 ここで突然割り込んでくる声があった。MS担当のCIC要員だ。

 

「レイダーの動きに異常! あ、続けてフォビドゥン…… カラミティも!」

「まずい、あいつらが時間切れか。いつもより興奮させたからだ」

 

 そんなことを言うアズラエルにナタルが毅然として正す。

 

「アズラエル理事、やはり人間を薬物によって無理やり戦わせるなどあってはなりません! 少なくともこのドミニオンでは認められません。直ぐに彼らを収容し、しかるべき治療を」

「うるさい! 命令をするのはこの僕だ! あの三人は収容しない。もっと前に行かせろ」

「そんなことをすれば……」

「そうさ、三人の役立たずはここで使い潰す」

 

 

 

 ここでナタルは思い出すことがある!

 

 オーブでアーク・エンジェルと決別する時、サイ・アーガイルと最後に話をした。

 いったいサイに何と言われていた? 

「自分が決めたことに迷う必要はない。その代わり、自分の中にしっかりとした基準を持て。決して譲れないことを」という話ではなかったか!

 ならば自分の持つ正義の基準とは何だろう。

 

 これまでの自分はきっちりと連合に従う軍人である。だがしかし連合の方が大きく正義を逸脱し、その基準を越えてしまった時、大きな決断を迫られる。

 マリュー・ラミアスが連合から離脱した、それと同じ種類の決断だ。

 自分は愚かにも後れてしまったが、結局はそうなってしまうのか。

 

「ナタル艦長、まだ何か言いたいの? それよりドミニオンを少しだけ退かせるんだ。あの三人が暴れていれば、ちょうど囮になってくれる」

「人間を人間とも思わない、あなたって人は……」

「無駄無駄、どうせ今頃三人ともおかしくなってるさ。誰の言う事も聞こえちゃいない。だったら最後まで使う。そして勝つんだ。僕はここで負けたりしない」

 

 ここでナタルは微妙に違和感を持つ。

 アズラエルの言う事はおかしい。

 今では、少し退くという選択肢は有り得ず、大きく撤退すべきなのは自明である。MS戦ははっきりと不利であり、もう挽回はできない。そして被害は艦隊にまで及び、既に九隻のうち二隻は爆散、一隻は航行不能の大破を受けている。

 これ以上の損害を受けないうちに退けば再戦を挑むことも充分に可能だ。しかし諦めをつけず、下手に勝とうともがけば、逆に壊滅してしまう。

 アズラエルは決して馬鹿ではないのに分からないのだろうか。

 

「僕を疑っているのかなあ。勝てるんだよ、艦長」

「現況では困難ですが……そうおっしゃるからには、どういった理屈があるのでしょうか、アズラエル理事」

「なあにこのドミニオンへ運び込んだのはあいつらの医療設備だけじゃない。スレッジハマー用の特別な弾頭を二発入れてある。急いでこれに入れ替えて撃つ用意をするんだ」

「……対艦ミサイルの弾頭を、入れ替え…… アズラエル理事、それは」

 

 ナタルの疑問は、やがてある物に結び付く。

 いや、しかし……

 

「あはは、もう分かってるはずだよね。核だよ核。核を使えばあんな四隻、直ぐに片付くだろう?」

「まさか!」

「さっきみたいに、通常のミサイルに紛れこませて核ミサイルを撃つ。艦長、最初から負ける要素はなかったんだよ。核を今使うか、後で使うか、たったそれだけの違いさ」

 

 そんな馬鹿な!

 

 核を使えるというのは、アズラエルの自信たっぷりの様子から事実だろう。

 それをアーク・エンジェルに使うというのか…… 

 しかしそんなことをすれば、艦隊戦に勝つとか負けるとかいう次元ではない問題が生じるのだ!

 連合が核を使えることが明らかになれば、プラントの側は態度を硬化し、死に物狂いで戦うことだろう。宇宙に浮かぶプラントは核攻撃に対してあまりに無力であり、事実ユニウスセブンはたった一発の核で全滅している。プラントにとってその記憶はあまりに鮮明だ。

 

 もはや和平の可能性は吹き飛ぶ。

 歩み寄りも妥協もなく、この戦争はどちらかが死滅するまで続く……

 

「ナタル艦長、言わないで悪かったね。本当はその核をアメノミハシラに使う予定だった。馬鹿でかい宇宙ステーションを核で粉砕し、威力を見せつけるんだ。それでユーラシア連邦を黙らせる。戦争をしてるんだから、先ずは勝たなきゃダメでしょう? そんなことも分からないユーラシア連邦の目を覚まさせる。核の民間エネルギー利用なんてどうでもいいこと、核は戦争に使うべきなんだ」

 

「そんなことのためにアメノミハシラとオーブ国民を……」

「おまけにプラントの奴らも慌てるだろうねえ。コーディネイターが連合、いや僕たちナチュラルに命乞いをするのは見逃がせないショーだ。ワクワクする。ま、最後には一匹残らず駆除するつもりだけどね」

 

 

 

 核で全てが一変し、今までの戦いの比ではない激しさになる。

 悲劇なのは戦略攻撃の名のもとに堂々と民間人を焼き殺していくことだ。いや、アズラエルはまさにそれを目的としている。コーディネイターを生かしておく気がない。

 

「核を軽々しく使うこと……認めるわけにはいきません。アズラエル理事」

「僕がそう命令している艦長。これを使わないうちにさっさとやるんだ」

 

 アズラエルはここで上着から銃を取り出した。

 

 

 

 

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