コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第三十五話 阿吽の呼吸

 

 

 ムルタ・アズラエルは本気だ!

 どうしても核を使って勝つ気でいる。

 

 これに対してナタルがいかに抵抗しても……長くは保たない。いざとなればアズラエルは銃を使うことに躊躇しないだろう。それに対してナタルは銃を持っていない。

 そして艦のクルーたちは心情的には艦長であるナタルの側であり、指揮系統的にもそうなのだが、やはりブルーコスモス理事という絶対権威に対し逆らう踏ん切りはついていない。急にそれを求めるのは無理なことである。よって共にアズラエルに立ち向かうことはせず、動作が固まってしまっている。

 

 

「分かってくれ、アーク・エンジェル!」

 

 ナタルの小さく漏らした声をアズラエルが聞きとがめる。

 

「ん、何を言ってるんだい? ナタル艦長」

「アズラエル理事、あなたこそアーク・エンジェルの力を知らない。そこにいるサイ・アーガイルという恐るべき者のことも」

 

 

 

 

 俺はそんなドミニオン内部での緊張なんか知る由もない。

 しかし、それでも感じたことをマリュー・ラミアス艦長に言う。

 

「妙だな。どうも向こうの艦隊の対応がおかしい」

「どういうこと、サイ君」

「この戦況なら、普通は攪乱工作をしながら退くだろう。無理押しは考えられない。いずれにせよナタル少佐ともあろうものが無策過ぎる」

「サイ君、連合にはフリーダムやジャスティスの情報はなかったはずよ。MS戦で圧倒できる目論見だったのに、あまりに予想外だったからじゃないかしら」

「それもあるかもしれない。しかしナタル少佐だったらなおさら素早く退き、冷静に分析するだろうな。その方が自然だ」

 

 わざわざ俺がそういったことを口に出したのには、実は理由がある。

 ラミアス艦長は不思議そうな顔をしているが、今こそ話しておくべきだ。

 

「ラミアス艦長、ここで敵の旗艦であるドミニオンに強襲をかけよう」

「ええっ、ドミニオンに? それはさすがに……」

 

 これこそがあらゆる意味で俺の結論となる。

 戦いに勝つことも大事かもしれないが、それだけではなくナタル少佐を救う! 大事なところはそこだ。

 

「沈めるための強襲ではない。ドミニオンを乗っ取るためだ」

 

「そんな! 乗っ取りだなんて、よっぽど無茶だわ!」

「分かっている。ラミアス艦長、普通ならそう考えるのが当たり前だ。しかし、この場合に限っては違うんだ。ナタル少佐は戦闘前に何と伝えていたか覚えているだろうか」

「え…… そういえばドミニオンのことをアーク・エンジェルと同型艦だと…… でもただの事実よ」

「事実であっても、普通は言わない言葉だ。ナタル少佐は目的があってあえて強調した。それはすなわち、もしアーク・エンジェルのクルーがドミニオンに取り付けば、その構造は熟知している。だから乗っ取りが可能だと」

 

 そう、ナタル少佐は大きなヒントをくれていた! 同型艦ならではの作戦ができることについて。

 今、ラミアス艦長はその深いところを知り、驚きに目を丸くする。

 

「サイ君、まさかナタルは最初から考えて、伝えていた…… そんな」

「つまり、ナタル少佐にも迷いがあったということになる。ミサイルの戦術なんかを見ると本気の戦意を感じる。その一方でわざわざそんなヒントを出しておくということは、この戦いが正義なのかナタル少佐が悩んでいたからだ」

「分かったわ。だったらナタルの気持ちを無にはできない。フラガ少佐とトール君に連絡を」

 

 

 

 阿吽の呼吸だ。直ちに乗っ取り作戦を開始する!

 キラ君のストライクを援護に付け、フラガ少佐とトール君のアストレイが突進する。

 それに対するドミニオンの弾幕はおかしいと言えるほどに薄いものだった。

 

 目指す場所は、ドミニオンの副艦橋ともいうべき戦闘指令所である。

 

 アーク・エンジェルやドミニオンは通常の艦橋とは別の場所に戦闘指令所を持っている。機能分担をするためだけではない。万が一、艦橋が被弾しても艦の制御を維持できるためだ。

 ということは、ここに情報端末が集中していて、辿り着けば艦中枢コンピューターを押さえることができる。トール君というコンピューターに明るく、しかもパイロットである者がいたのは幸いとしか言いようがない。

 

 

 

 

「MSが来る!? ナタル艦長、あれを早く墜とせ!」

「防空ミサイルヘルダートは間に合わない。イーゲルシュテルン最大火力!」

 

 一方、ドミニオンでは一直線に迫るストライクたちを目にしてアズラエルが慌てている。ここにきてカラミティらを帰還させなかったことが裏目に出た格好だ。

 そんなアズラエルを横目に見ながら、ナタルは一応迎撃のフリをする。

 全て茶番に過ぎないが。

 ヘルダートが間に合わないと言ったのは嘘である。そしてイーゲルシュテルンではストライクを墜としたりできないのを知っている。

 

「艦体に取り付かれました! 被害拡大中!」

「どうなってるの!? 他の艦から予備のストライクダガーを出させて、対処させればいいでしょう!」

 

 艦橋オペレーターの報告にアズラエルが苛立つ。

 それに対し、ナタルは無表情のままに従うが、その一方で手先をそっと動かし艦内モニターを切っている。異常を自動的にスクリーンに出されて、アズラエルに気付かれたりしないためだ。

 

 そして間もなくオペレーターが絶望的な声を上げる。

 

「ドミニオン、艦稼働率30%を切りました! 空調、エレベーターが停止、間もなく操舵も不能の予測!」

「くそ、早すぎるっ、ここまで来ておきながら…… もういいから核を撃っちゃって!」

「それが、兵装に反応ありません!」

 

 ここでアズラエルは銃を握りつつ拳にコンソールに叩きつける。紙一重で計画が破れた悔しさのためだ。

 そこへナタルが抑揚のない声をかける。

 

「アズラエル理事、ドミニオンにはエネルギー漏れすら認められます。このままでは爆散の危険があり、今のうちに退艦をお勧めいたします」

「ナタル艦長、よくそんな平気な顔で…… 」

「最善を申しているだけです」

 

「僕は、ここで死ぬわけにいかないっ! 必ずコーディネイターに勝つんだ! 艦長、シャトルの準備を。それと核は持ち帰る」

「退艦の準備、了解しました。アズラエル理事」

「で、ナタル艦長はどうするの?」

「小官はこのまま艦の復旧に全力を挙げるつもりですが」

「なら勝手にしたらいい。もしもこの艦を復旧できたら地表へ戻って修理を受けるんだ。……でも艦長、残念なことを言わなくちゃいけないけど、他の艦は僕の護衛として連れて行くよ」

 

 さすがにアズラエルも気がとがめたのかもしれない。

 最後はナタルから目を逸らし、そのまま艦橋の出口に向かって歩いていく。

 アズラエルが言葉通り五隻ほど残った連合艦を連れて撤退すれば、ドミニオンを敵中に孤立させてしまう。それも損傷を負い、爆散の危機にあるという酷な状態で。

 

 

 

 そんなアズラエルを見送り、退艦用シャトルの発進を確認し、ようやくナタルは表情を取り戻す。

 

「ふう、行ったか。連合の疫病神め…… オペレーター、艦コンピューターを直ぐにリセットだ」

「それはいったい、艦長」

「今出ている表示は偽物だと思って構わない。艦稼働率も含め、全てだ」

 

 

 こうしてドミニオンの乗っ取りが成功した!

 

「やはり、サイ・アーガイルは分かったようだな。食えない奴だ。期待以上の手筈じゃないか」

 

 そう言ってナタルは微笑むしかない。

 サイ・アーガイルは意味を分かってくれた。このドミニオンとアーク・エンジェルが同型艦であることをわざわざ示唆した意味を。

 それで乗っ取りを考え、方法として戦闘指令所から艦中枢コンピューターを押さえさせたのだろう。

 

 おまけに単にコンピューターをシャットダウンするのではない!

 また気の利いたことをするじゃないか。偽の被害状況に差し替えさせたとは!

 艦稼働率が30%以下というのは有り得ない。

 感じる振動などからドミニオンがそこまでの損傷を負ったようには思えず、欺瞞であることをさっさと見抜いていたが、その上でアズラエルに対して演技を続けていた。

 サイが指示したであろうこのおかしな欺瞞工作は、おそらく異分子をドミニオンから追い出すためである。

 恐ろしいことにサイはそこまで状況を読み、策を打っていたらしい。

 

 

 現に艦にそこまで詳しくないアズラエルはドミニオンを出て行った。

 サイ・アーガイルの指示と、自分の演技の見事なコンビネーションがもたらした結果である。

 

 

 

 

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