コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第三十六話 失われた過去

 

 

 その一時間後、アーク・エンジェルの艦橋は緊張と喜びの両方に満たされていた!

 

 ナタル・バジルールがそこにいるからである。

 ついこの前までその風景は当たり前のものだった…… ナタルと艦のクルーたちは共に協力し、次々とやってくる難局を切り抜けていたものだ。

 それがオーブにて袂を分かち、ついにナタルとアーク・エンジェルは激しく戦い合った。

 まさに運命の悪戯である。

 しかしそれは悲劇に終わることはなく、今、再び元の光景に帰っているのである。これが喜びでなくて何だろう。

 

「ラミアス艦長…… 改めてお久しぶりです」

「ええ、久しぶりというべきね、ナタル。でも実はそんなに久しぶりという感じはしないのよ。ここにあなたがいるのがいつもそう、自然だったから」

「…… そうですか」

 

 ナタル・バジルールはそれほど表情を変えない。

 しかし今、やはり相応の感情があることは間違いない。アーク・エンジェルはそんな心に染み入る言葉をかけてくれる艦なのである。

 

「初めにお詫び申し上げます。ラミアス艦長、戦闘になったことは残念でした。しかしながらアーク・エンジェルは強い。敵となって初めて分かりましたが、MS戦でも、戦術戦でもとてつもなく強く、比肩する連合艦はいないでしょう」

 

 ナタル少佐は最後にラミアス艦長ではなく、俺の方を向いて言っている。

 アーク・エンジェルの行った多くの策は俺が発案したものだと分かっているからだ。それならこっちも一言返してやらねばなるまい。

 

「いやナタル少佐の戦術も見事だったぞ。俺が過去に戦ってきた敵の中でもかなり上位だ。正直慌てさせられてしまった」

「……」

 

 

 

 まあそんな挨拶が終わると、次は実務の話になる。

 

「ナタル、それで連合を脱走する気持ちは確かなの?」

「本当に遅くなりました。連合の内部があれほど腐っているとは……本来ならオーブにいた時点で分かるべきでしたが、自分が不明のために気付けず、恥ずかしい限りです。しかし以後は連合を脱し、本当に人類の未来を良くするために努力したいと思います」

「嬉しいわ、ナタル。ということは私たちと共同歩調をとってくれるのね」

「今さら、受け入れて頂ければですが」

 

 ナタル少佐の口調は硬い。

 その言葉は正直なものなのだろう。自分が連合を脱するのが遅すぎたのを引け目に思っている。おまけにオーブでアーク・エンジェルが脱走するのを大いに批判したものだ。

 しかし、その逆にラミアス艦長は溢れるほどの嬉しさを口調でも表情でも表している。

 

「受け入れないわけはないわ! 今からは同志よ、ナタル」

「ありがとうございます…… それとドミニオンのクルーで脱走に合意しない者は既に去っており、今残っているのは脱走を決意している者です。つまり修理が終わればドミニオンごと合流できるでしょう」

 

 災い転じて福と成す、だ。

 ナタル少佐のおかげでこちら側にドミニオンが転がり込んだようなものである。

 

 艦隊戦力はこれで併せて五隻となった。

 この五隻は固い絆で結ばれ、これから長きに渡って足並みを揃え、戦いに身を投じることになる。

 

 

 

 ラミアス艦長はここで少し話題を変えた。

 気になっていたことが一つあるのだ。

 それは救助した……と言っていいか分からない連合のMSパイロットたちのことである。

 

「それとナタル、あの妙なパイロットのことだけど…… 教えてくれた通りに治療しようとしても、良くならなかった」

「それはかなり難しいことですから。今回の出撃時点で、もはや脳内麻薬により廃人の一歩手前まで来ていましたので」

 

 その話をしながら、ラミアス艦長はナタル少佐や俺などを連れてアーク・エンジェル内の医務室へ赴く。

 すると見えたのは、短髪で長身の男がベッドに縛り付けられている姿だった!

 

 目をうっすら開けているが、何も映っていないようだ。

 明らかに精神がおかしい。

 今はじっとしているが、しかし縛られているところが激しい傷になっており、かなり暴れていただろうことが分かる。

 

 その横はカプセル付きのベッドが置かれている。重傷患者治療のためによく使うものであり、そのガラス越しに中を見れば、青年というよりは少年に近い者が昏睡状態にあるようだった。髪は明るい茶褐色である。

 実は医務室の隅にもう一つのカプセルが片付けられている。その中には誰もおらず、今はもう使われていない。

 

「ナタル、三人のパイロットを救助できたのはできたのだけれど、本当の意味で助けられたわけではないのよ。一人は軽傷、一人は重傷、でもどちらも体より脳の破壊が酷いみたいで…… 医師の診断では長くとも数年の命らしいわ。そして三人のうち一人は既に……狂死してしまった」

 

 

 

 そう、話題は動きに異常をきたした三機の連合MSのことだった!

 戦闘末期から既におかしくなっていたが、ドミニオンが乗っ取られて艦隊戦が終了してもなお暴れ続けていた。それら三機は敵も味方も関係なく攻撃し、まさに狂っているという表現がぴったりくる。

 

 そこへナタル少佐からできればパイロットを収容してほしいという要請が届いた。

 しかしこれはかなりの難題である。

 手が付けられない。そして三機が三機とも機体性能は高く、しかも暴れている以上そう簡単には無力化できない。

 

 特にそのうちの一機はビームを全て屈曲して無効化するという防御を持ち、おまけに接近戦にも長けていた高性能機だった。背後からシホ・ハーネンフースのジャスティスが忍び寄ったが、やはり途中で気付かれた。さすがにジャスティスは逆襲を受けてもやられることはないが、戦いになってしまった以上、やむを得ず斬り払わなくてはならなかった。そして斬った場所は運が悪いことにエネルギーの集中部であり、小爆発がパイロットシートまで及んでいる。

 他の二機はアスランのフリーダムとキラのストライクが苦労の末に無力化している。といっても同様に機体を大破させなければ動きを止めることができなかった。

 

 狂ったように呻いているパイロットをなんとかシートから引きずり出し、アーク・エンジェルに収容したのだが……

 

 最も重症だった薄緑髪の少年は死亡した。

 体の損傷が直接の原因ではなく、脳破壊が治療のしようもない状態だったからだ。それで治療カプセルが既に一つ空いていたというわけである。

 他の二人も決してまともな状態から程遠く、人間性を取り戻せるかどうかは分からない。

 

 

 

「それでどういうことなのか確認したいのよナタル。連合が恐るべき生体実験をしているという噂はここにまで届いているけど、これがその結果なのかしら」

「ラミアス艦長、噂は全く事実です。連合は唾棄すべき研究を行っています」

 

 場が一瞬凍る。

 やはり連合はそんなことをしていた!

 そしてナタル少佐は顔をしかめながら、連合の暗部を淡々と語った。それらの情報についてはアズラエルに言われた通りにデータベースの深部を見て知っていたからである。

 

 

「ビームを無効化するという厄介なMSはフォビドゥン、ということはパイロットはシャニ・アンドラス。最も薬物の強度が強かったので狂死したのでしょうか」

「そこまで人間に薬物を…」

「そして知っておいて頂きたいのですが、この者の過去を言えば、よくいるタイプの不良でした。そして不良グループ同士の抗争の最中、誤って相手を殺してしまったのです。その相手がコーディネイターだったので普通に喧嘩をしたのでは敵わないと思ったらしく、武器を持って行ったのが仇となり、重罪と認定され、判決は無期懲役に…… そして服役していました。そんなシャニ・アンドラスに連合の軍部が目を付け、甘いエサで釣ったようです。外に出す代わりに実験体になることにサインさせてしまった。コーディネイターに対する恨みもあったかもしれません」

「…………」

 

 

「そしてこちらのカプセルに入っているのは、レイダーのパイロット、クロト・ブエルでしょう。元は気の弱いエンジニアだったと記録されています。ところがある時連合軍絡みの大きなプロジェクトを失敗させてしまいました。そのため皆から疎まれ、どんどん孤独になっていき…… 本人は自分のせいじゃなく、ただの冤罪だと言っていたのに、誰もそれに耳を貸すことはありませんでした。最後には軍による実験体の募集に応じるよう周りの人間全てからがんじがらめにされてしまった。他の生き方を許されないほど強く追い詰められて」

「そんな…… 酷いことを。そういえば昏睡前に、もうMSに乗らなくともいい、戦わなくともいいことを伝えると『僕は……やっと自由に』とつぶやいたそうよ」

 

 

「ベッドに縛られているのはカラミティのパイロットでオルガ・サブナックという者です。このオルガは元はというと売れない小説家だったようです。それが家族や恋人の生活のため、自分が犠牲になることを決意し、金と引き換えに実験体になったのです。むろん家族や恋人は彼が望んだような笑顔になることはなく…… 涙ですがることになったのですが、オルガには既にその記憶はありません」

「哀しいわナタル。そんな哀しいことがあったなんて!」

 

 ラミアス艦長はもう涙目だ。それほどの悲劇が隠されていた。

 

「ところがオルガは記憶を失っても、いつも本を手にしていました。その繰り返し読んでいるのが、かつて自分が世に出した、たった一冊の小説だということさえ忘れてしまっているのに! 記憶がなくともその本に何かを感じていたのでしょうか。本人にしか分からない、いや本人にも分からないことを」

 

 

 難敵であった三人のパイロットは、それぞれの過去を持っていたのだ。

 何と酷い実験をして、人生を破壊したのか。わずかな戦闘能力などというものと引き換えに。

 

 

 ナタル少佐が語った後、ラミアス艦長が声を震わせる。

 

「せめて生きている二人は脳内麻薬を断ち、穏やかに過ごしてもらいましょう。残り少ない寿命でも、記憶が戻らなくても」

「そうお願いします、ラミアス艦長」

「そしてナタル、私たちがやらなくちゃいけないのは、連合の増長を叩くことよ! これ以上の犠牲を出さないために!」

「もちろん、それこそが我々の為すべきことです」

 

 ラミアス艦長とナタル少佐の言う事は感情論であるが正論だ。

 青き炎のように燃え上がる感情もまたいいことだ。

 

 

 当然、俺もまた激しく心を動かされている。

 連合の力は強い。

 

 だが、俺はコンスコンだ。必ずや連合に鉄槌を下し、正義の旗を打ち立てよう。

 

 

 

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