コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第三十七話 来るべきもの

 

 

 連合先遣艦隊との戦いが終わってしばらく経った頃のことだ。

 エターナルの艦内でシホ・ハーネンフースがバルトフェルド艦長に話を切り出している。

 

「バルトフェルド艦長、お話があります」

「改まってなんだろう、嬢ちゃん」

 

 のっけからシホは表情を硬くする。

 その様子を見て、慌ててバルトフェルドも言い方を変える。このシホ・ハーネンフースに軽口は通じなさそうだ。

 

「あ、いや、一人前のパイロットに嬢ちゃんは失礼だったな。ハーネンフース。それで話とは」

「…… それが、真に言いにくいのですが、搭乗MSを変えて頂きたく…… 今のジャスティスからジンでも、シグーでも」

「つまりジャスティスが気に入らないってことか?」

「いえ、決してそういうわけではありません。ただ自分がジャスティスの性能を引き出しているようには思えなくて、他のパイロットの方が良いのではないかと。その方が全体の戦力の底上げにつながりますし」

「なるほど、それを気にしてるんだな」

 

 実はバルトフェルドはシホ・ハーネンフースの考えていることが最初から分かっている。

 シホは自分がジャスティスを任せられているのが重荷に感じているのだ。

 ジャスティスが高性能機であるほどそう思う。先のメンデル宙域の遭遇戦においても、プロヴィデンス相手の戦いに何も貢献できなかった。そしてついこの前の戦いでも、できれば穏便に無力化という指令を受けたのにもかかわらず連合MSを斬り払わざるを得ない羽目になった。

 自分ではなく別の人間がジャスティスに乗るべきではないのか。

 そういう思いが強くなり、ようやくバルトフェルドに話しているのだろう。

 

 それを理解した上で、バルトフェルドはやんわり諭す。

 

「そう考えるのは分からんでもない。しかし逃げるより努力した方が建設的って奴だ。シホ・ハーネンフース、何も今すぐ凄腕のパイロットにならなくてもいい。ゆっくり待ってやる。俺はとっても気が長い方でな。少なくとも見かけよりは」

「……」

「おいおい、そこ笑うとこだろ」

 

 生真面目なシホが笑うはずはない。逆に提案で返してきた。

 

「そして……考えていたのですが、例えばバルトフェルド艦長がジャスティスに乗れば使いこなすのではないかと」

「俺がジャスティスを? いいや、要らない。なぜなら俺は元から強いからな。イージスで充分だ」

 

「そんな…… 本当に率直に申しますと、バルトフェルド艦長がフリーダムに乗り、アスラン隊長がジャスティスに乗るのが最善だと思えます。なぜならジャスティスは兵装のバランスが良くて、おまけに形態のオプションも豊富にあります。そのため、戦いの引き出しの多いアスラン隊長の戦闘スタイルに最適だと思えるからです。アスラン隊長は固定兵装にこだわらず、最も良いオプションを確実に選びますから」

「よく見ているもんだな、シホ・ハーネンフース。アスランのことを」

 

 ここでバルトフェルドは違和感を持った。

 シホが言うパイロットの適正配置は戦力上重要だろう。ジャスティスの性能を活かす、その理由もよく考えていたもので、非常に合理性がある。ただし、それだけの意味で言っているのか。

 バルトフェルドは勘を働かせる。

 

「俺にはジャスティスもフリーダムも要らないとして、他にパイロット……例えば歌姫さんがジャスティスへ乗ったらどうする?」

「え!? そんな!」

「冗談だよ冗談。そんなわけはない。だがお前さんの表情を見て分かっちまった。シホ、アスラン・ザラがそんなに好きかい? だからその婚約者の歌姫さんへ過剰に反応したってわけだ」

「違います! 突然妙なことを言われて、驚いただけですッ! そんなはずありません!」

 

 シホ・ハーネンフースが説得力のない反論をするが、バルトフェルドは手を振ってそれを遮る。別にそれが悪いというわけではないのだ。

 シホはたまたまチームリーダー的な人物に過剰に憧れを持ってしまうタイプだった。そういうことなのだろう。

 

「分かった分かった。そんなことは構わない。若いうちはまあ……いろいろあってもいいからな」

「だから違うと!」

「ま、こいつも俺の勘だが、アスランと歌姫さんはどうもそんな雰囲気じゃないようだぜ」

「…………」

「いやそれは言い過ぎた、忘れてくれ。とにかく話は保留だ。しばらくジャスティスで訓練を続けるといい」

 

 

 

 

 そしてこちらはクサナギの艦内である。

 アストレイ三人娘と言われる三人組が今日もまたおしゃべりを始めている。みなオーブ本国の出身で、訓練時代からとても仲がいい。

 ただし今の話題はちょっと変わったことだ。

 

「ジュリ、それでどうなのよ。誰がいいの?」

「え?」

「え、じゃないでしょ。誰が目当て? やっぱりイザーク隊長?」

「そんな……」

「違うの?」

「………… じゃあ、そういうマユラは誰なの?」

「隊長、カッコいいもんね。あ、あたしは違うわ。緑の髪の優しい君の方がいいかもって」

 

「ジュリ、マユラ、あんたら暇ねえ。それしか考えることないの? イザーク隊長やニコルさんの方はね、そんなこと全っ然考えてないから。言っておくけど完全に無駄よ」

「へえ、まあアサギの方は聞くまでもないか。ディアッカさんでしょ」

「どうしてそうなるのよっ」

「単純で行動力のある男の子が好みだからね、アサギは」

「ディアッカさんはさばけて見えるだけで、単純ってことはないわ。むしろ気を遣う方で、そう見せないところが凄いのよ!」

 

 三人娘がそんなことを話しているのは、単なる暇つぶしではない。

 彼女らには大いに不安がある。

 これまでの戦いも劣勢の中で繰り返したもので、それなりに苦しかったが、今からの戦いはそんなものでなくなる。

 おそらく連合の大軍、あるいはザフトの精鋭が相手になるのだろう。

 国家間の戦いへ介入するということは、むろん国家規模の戦力を相手取るということでもあり、そこへ蟷螂の斧を振りかざすようなものだ。それへの不安を紛らわすかのように彼女らはおしゃべりをしている。

 

 

 

 

 その通り、連合は何物も踏み潰す暴力的な力を用意していた。

 ザフトを叩き潰し、プラントを敗北へ追い込むための絶対的な力だ。

 

 艦艇総数九十四隻。

 

 圧倒的な大艦隊がマス・ドライバーによって打ち上げられつつあった。

 連合は地球表面からザフトをほぼ駆逐し、邪魔されずに工業力を駆使できた。それでここまでの物量を用意している。

 今なお飢餓のために死んでいく人々がいる一方で、軍事力への投資は決して減らされることがない。その結果だ。今、プラントへ問答無用の戦力で侵攻し、そして……どのような形であれ戦争を勝利で飾る。

 

 この情報をオーブ本国でもキャッチし、直ちにアメノミハシラへ伝えている。

 

 

 今、アーク・エンジェルを始めとした五隻は怯むことなく、来るべき連合大艦隊との戦いに闘志を燃やす。

 

 ただし無策ではどうにもならない。

 

 五隻の首脳部はアーク・エンジェルへ集まり、会議を開く。

 というのは自然とアーク・エンジェルが艦隊の旗艦とみなされているからだ。確かに五隻の絆の中心になっているのは事実である。他は……例えばエターナルとドミニオンには接点がない。

 だがしかし、それだけが理由ではない!

 これまでの戦いで常に驚くべき洞察力と戦術を発揮したサイなくして戦いは成り立たない。連合の大艦隊を相手にどうしてもそれが必要、これが全員の持つ共通認識である。

 サイ・アーガイルの年は若く、むろん軍人のキャリアなど欠片もなく、それどころか教育も受けていないはずである。だがこれまでの戦いで幾度優れた戦術を見せつけていたことか! それはいつも信じられないほど高次元の戦術だった。

 ここには出自にこだわるような心の狭い者はおらず、実力を素直に尊敬する人間しかいない。

 

 今、皆がサイ・アーガイルの言葉を待っている。

 

 

 

 俺はそんな雰囲気に構わず、意識を戦いに集中させる。

 どういう戦術を組み立てるか。

 かつてジオンと連邦は幾度も会戦を行ったが、常にジオンは劣勢を強いられてきた。性能はともかく、数の上ではそうだ。それでも戦力比としてこれからの戦いほど離れていたことはないだろう。今、味方はたった五隻である。それでもやらねばならぬとしたら……

 

「正面切って決戦を挑むのは論外だ。小手先の戦術でどうにかなる戦力差ではない。作戦目的を極力絞ることにする。向こうの持つ核を見分け、それだけを叩くことに集中しよう」

「そうね、サイ君。核さえ何とかすれば、連合もプラントへ直行するのをためらうかもしれない。プラントの制宙域では連合の大艦隊といえどもリスクがあるわ。ボアズとヤキンドゥーエという大型要塞も存在することだし」

 

 俺の言葉に反応してきたのはもちろんマリュー・ラミアス艦長だ。

 それには幾つかの事実が含まれている。

 

 

 

 


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