ラミアス艦長の言うことには意味があるのだ。
連合の艦隊は確実に核を持っている。
おそらく狙いはプラント、そこにいるコーディネイターの一掃だろうと思われる。かつてユニウスセブンを住民ごと破壊したのと同じ、決して許してはならない蛮行だ。もはや戦争の範疇ではない。いや、戦争の皮をかぶった途轍もない犯罪である。
そしてもう一つ、プラント本国の前に、プラントの持つ宇宙要塞ボアズかヤキンドゥーエを核で叩くに違いない。それらの要塞は地球から見るとプラントの直前に位置していて、攻撃に対し脆弱なプラントを防る要になっている。
連合の艦隊が地球からプラントへ直行しようとするなら、どうしてもその二つのうちどちらかを抜かなくてはならない。しかしながら小惑星を使った堅固な宇宙要塞は通常戦力で容易に陥とせるものではなく、核でも使わなければ短期で攻略するのは困難だろう。
「とはいってもなあ。核を持っている艦を見分けるだけで大変だ。妙案があるかねえ」
そしてアンドリュー・バルトフェルド艦長が困難さの核心を突く。
連合の核だけは何としても潰したいが……
どの艦が核を持っているのだろうか。それが分からなければ、手の出しようもない。とても全部の艦を相手にできないからには。
すると今度はナタル少佐が意見を出してくる。
「役に立つ情報かどうかは分からないが、連合内でもユーラシア連邦と大西洋連邦の溝は深い。あのムルタ・アズラエルが自分の口でそう言っていた。そして核を使うのはおそらく大西洋連邦の方だろう。核を携え、アズラエルが再びやってくるものと予想する」
「それは多いに役立つ鍵になる。付け入る隙があれば作戦が立てられるというものだ」
俺はそう答えつつ、思案に入り、ついに策を出す。
「よし、先ずはユーラシア連邦を引き剝がし、分断を図る。それに使う格好の餌は既にある」
作戦が発動された。
エターナルが単艦で先発するが、その行先はアルテミス要塞だ!
アルテミス要塞は既に無人のはずであり、奪取は容易である。そこにいた連合の兵は食料不足のために全て月面プトレマイオス基地に集約されているからである。
そしてアルテミス基地はもちろん連合が建造した宇宙基地だが、連合の中でもユーラシア連邦の所属だったことが重要なのだ。
つまり連合の艦隊をアルテミス要塞で足止めするのが狙いではない。
連合の艦隊がアルテミス基地を無視してプラントへ向かうならば空振りに終わる。あるいは、連合の全艦でアルテミス基地に来るのなら意味がない。
だが、期待するのはユーラシア連邦の艦隊だけがアルテミス基地へ引き寄せられることである。そうなれば分断と戦力の減少という果実を得られる。
そして…… 事実そうなった。
これには若干の幸運がある。
連合の艦隊における総指揮官はユーラシア連邦閥のジェラード・ガルシア少将である。
大西洋連邦はむろん自分の派閥のダーレス少将を総司令官に推したが、ダーレス少将は宇宙戦の経験がほとんどなく、そこを問題視されてしまった。
そしてムルタ・アズラエルもまた大いに不満ながら副司令官になったダーレス少将のところに付いている。
それだけならまだ派閥間の不協和音という程度に収まったであろう。
だがしかし、総指揮官ガルシア少将ははっきりと大西洋連邦を憎んでいる!
なぜならアラスカ基地におけるサイクロプス自爆作戦で殺されかけたからだ。
「ふん、何が通信不良による行き違いか。何が事故か。よくそんな取ってつけたような理由を捻り出したものだ。大西洋連邦は明らかに私やユーラシア連邦の将兵を始末しようとしていたんだ。これ以上奴らの思惑通りにさせてたまるものか」
ガルシア少将はちょうどその時だけアラスカ基地を離れていて、すんでのところで自爆から逃れることができている。ユーラシア連邦からの補給船団が到着間近だったために、それらをザフトの襲撃から守るべく、自ら出迎えていたのが幸いした。
総指揮官がこんなでは、連合の艦隊にまとまりがつくはずもない。
悪態をついても諫める者はおらず、誰もがそれにうなずくばかりだ。ガルシア少将はもちろん側近をユーラシア連邦閥で固めている。
更に、連合の宇宙戦力は大幅に再編されている。
従来は各種艦艇を組み合わせて作られた艦隊単位で運用されていたが、それらは一度解体されている。
むろんこれまでの戦いで大打撃を被った第三艦隊や第八艦隊を組み替えるという意味もあったが、それだけではなく、よりいっそうユーラシア連邦閥、大西洋連邦閥、その他という区分けが鮮明になった編成になっている。
そんなところへアルテミス基地がザフトによって占拠されたという報が届いた。
正確にはエターナルのことなのだが、連合からすればザフト艦にしか見えない。いや、だからこそエターナルがこの役に就いたのだ。
「アルテミス基地をそのままにしてはおけない! ザフトから再奪取し、後方補給基地化してからプラントへ向かう」
そうジェラード・ガルシア少将は宣言した。
作戦としてはそう悪くない。
大艦隊の運用に当たってはどのみち補給物資の集積場所は必要なのだ。でなければいちいち物資輸送艦は軌道を計算し、ランデブーしないといけなくなる。
ところがこれに対して大西洋連邦閥は猛反対する。
「ガルシアは自分の基地だったからアルテミス基地にこだわっているだけだ! 全体を見ることもできない総司令官など必要ない。ここはザフトが防衛網を構築する前に急進し、攻勢をかけるべきなのに、理解できないほど馬鹿なのか」
会議ではどちらの閥も一歩も退かない。
最終判断は総司令官が行う以上、結論は揺るがないものなのだが、閥としての力関係で見れば大西洋連邦も負けてはいない。
そして……
会議の終わりは意外な人物が付けることとなった。オブザーバー的な立場にいるムルタ・アズラエルだ。
「はいはい、ユーラシア連邦のおっしゃることも理があることだし、アルテミス基地奪還に行くのもいいでしょう。ここは艦隊を二分し、大西洋連邦は月面プトレマイオス基地を経由して先に戦線を構築するというのは」
こんな折衷案で折り合いが付き、連合の艦隊は二分された!
ユーラシア連邦や小国家の艦隊四十八隻はアルテミス基地へ向かい、残りの大西洋連邦四十六隻はそのまま月面に行くことになる。
この成り行きにダーレス少将は同乗しているアズラエルに不安の声を投げかける。
「アズラエル理事、どうも小官としては敵に乗せられた感が拭えません。うまいこと計略にかかり、分断させられたのでは」
「そうさ。当たり前だろうダーレス少将。このタイミング、どこからどう見ても陽動さ。なぜなら敵の立場で考えてみればすぐ分かる。今さらアルテミス基地を持つ意義なんてどこにもないんだからねえ」
「何と! 確かに……ならば理事、それが分かっていながらなぜ」
「僕としてはダーレス少将がそこに気付かない方が驚くよ」
ムルタ・アズラエルはあまり熱量のない声で淡々と説明する。自分も思案に忙しく、それどころではないからだ。
「上手く乗せられたのは業腹だが、艦隊を分けるのは悪いことばかりじゃない。混成艦隊の弱みが一番出るのは戦闘時だろう? そこで一気に混乱を作り出されるリスクを考えれば、むしろ最初から分けた方がマシだと思わないかい」
「なるほど理事、分けたとしてもこれだけの数になるなら、逆にリスクを抱え込まない方がいいと」
「それだけじゃない。実はプトレマイオス基地はプラントに近すぎて、全艦隊を停泊させるには適さない。反復しての波状攻撃をかけられたら厄介だ」
「理事、そこまでお考えでしたか……」
軍人ではないアズラエルがそこまで考えていることにダーレス少将は感嘆する他ない。経済界で確かな地歩を築いているアズラエルはこの面でもやはり傑物だったのだ。
「ダーレス少将、もう一つ理由があるよ。別にユーラシア連邦の艦隊が無くなったわけではないのだから、理想的な位置に後詰が用意されているとも見えるじゃない? どのみち予備兵力は必要なんだし、万が一の場合の最終撤退ラインとしてアルテミス基地を使う」
「いやはや、そんな構想まで。理事にかかればガルシア少将が手駒のようですな」
「ま、事実上その必要はないだろうけどねえ」
ムルタ・アズラエルはそこいらの軍人を超える戦略眼を持つ。
今、コンスコンの立てた分断工作を理解しつつ、逆に自軍に有利になるよう、優秀な頭脳を駆使しプランを組み立てていく。
戦いは、始まる前から激しい応酬が繰り広げられている!
ただしアズラエルは知らない。
コンスコンにとってそれが第一段階に過ぎないということを。