コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第三十九話 証人

 

 

「ふむ、連合の艦隊は四十六隻になったか。分断してもそれだけの数……厄介なものだな」

 

 俺はアルテミス基地を使った陽動で連合の戦力を減らしにかかったが、それが上手くいってもなお圧倒的大戦力を相手にしなければならない。

 これにたかが五隻で戦いを挑むのは無理である。

 

「まあいい。次の作戦を発動する。これにはアーク・エンジェルとドミニオンが必要になり、しかも艦長には苦労をかけるが、宜しく頼みたい」

「サイ君、私も演説は得意じゃないけれど、やれるだけのことはやるつもりよ」

 

 本来ならば小勢の側が戦術を駆使するなら、岩礁などの障害物を用いたり、ゲリラ戦を行うものだろう。

 しかし連合の通る航路に障害物の類いは用意できない。

 当初はガラクタと化しているユニウスセブンを引っ張ってこれないか検討したが、とても牽引力不足で実現できないと分かった。使える艦が五隻しかないのだから仕方ない。

 そして今さらゲリラ戦をやっても無意味、ここまでの戦力差では侵攻を押しとどめることなどできはしない。

 

 そこで俺の選んだ戦術は……心理作戦だ。

 

「ラミアス艦長、では向こうの鼻先まで行こう。最大戦速でお願いする」

 

 

 

 

 今、連合の中でも大西洋連邦所属の艦隊と思われる四十六隻はプラントへ向かう航路を変えず、粛々と進んでくる。

 

 その目の前までアーク・エンジェルとドミニオンが急進する!

 別に対峙するわけではない。

 スピードを維持し、つまりカーブを描きながら離脱に転じる予定だ。

 これの目的は一つ、連合全艦に向けてメッセージを伝えるためである。

 

 先ずはアーク・エンジェルのラミアス艦長が通信画面を送る。

 

「私は元連合所属艦アーク・エンジェルの艦長、マリュー・ラミアス少佐。この宙域にいる全連合艦に伝えます。なぜ当艦が脱走したのか、それはアラスカ基地において味方を捨て駒に使い、丸ごと殺したことを知ったためですが、そのことだけが理由ではありません。この戦争は無秩序に拡大し、互いの憎しみが際限なく膨れ上がるばかりです。むろんプラントの急進派勢力であるザフトにも多大な責任があります。しかしながら連合の側も理性的な対応が必要ではないでしょうか。感情論に乗せられたままでいいのでしょうか。アーク・エンジェルはその疑問のため連合を脱し、公平な立場から和平を求め、その先導役になることを決意しています。このまま戦争を続け、人類の未来が奪われることのないようにしたいのです。どうか同じように戦争を疑問視している艦があれば、戦いをしない道を共に探しましょう!」

 

 この演説はアーク・エンジェルの立場とその目指すものを明確にしたものだ。

 もちろんこれを聞いているムルタ・アズラエルは一顧だにしない。

 

「はは、何だい今さら。おそらく自分たちが蹴散らされることを恐れて、手を打ったつもりなんだろうねえ。馬鹿馬鹿しい。そんな姑息な言葉で惑わされる艦があるもんか。軍は命令系統に沿い、組織で動くんだよ。そもそも敵であるコーディネイターを憎んでいない艦などあるはずないじゃないか」

 

 賢いアズラエルでも自分がコーディネイターを憎むあまり、若干目が曇っている。

 その演説を下らない策だと切り捨てたが、実は思ったよりも連合艦の間で波紋が広がっていた。

 もちろん即座にアーク・エンジェルに賛同する艦はいない。

 しかしながら、表明はせずとも戦争の拡大を憂慮する者たちがいないことはなかったのだ。

 

 

 そして…… 演説の本番はまだこれからなのである。

 続けてドミニオンから発信される。

 

「ドミニオン艦長、ナタル・バジルールから艦隊諸君に申し上げる。ここに連合の罪を告発する。先ごろ当艦は、人間を戦闘機械に仕立て上げ、MSに乗せるという非道な実験の舞台に使われた。人間を人間たらしめる尊厳を丸ごと奪い、魂を獣に変えるとは、いかなる理由があっても許されない。こんな実験を推し進め、連合の軍部を歪めているブルーコスモスを排除すべきである!」

 

 これには続きがあり、ナタル少佐に代わって話を引き継ぐ者がいる。ゆっくりとその者が通信画面に出てくる。

 

「俺はオルガ・サブナック、その実験の生き証人だ。脳内麻薬のせいで見ての通りのザマにされた。寿命も長くなく、人生は下らない結末に終わりそうだ。連合は味方殺しが得意だそうだが、いっそのこと殺す方がまだ慈悲がある。俺はナタル艦長によって一応人間らしい言葉がしゃべれるようになれたが、そうでなけりゃMSに乗せられたまま体がバラバラになるまで戦わされていただろう。その前に狂っていたか、あるいは両方かもしれなかったな。ああそうだ、俺の他にも一人、クロト・ブエルという証人がいるんだが、そいつはまだ治療カプセルの中で暴れてる。できたらそこを見てもらいたいところだが、しゃべれなきゃ証人にもなれやしない」

 

 オルガ・サブナックが証人として非道な脳内麻薬実験のことを話してくれた。特に強く説得して証人になってもらったわけではなく、むしろ自発的にやっている。脳内麻薬が切れ、判断力が戻りつつある結果だ。

 しかし脳の破壊が治ったわけではない。記憶が戻ることはなく、しかもその姿は……車椅子にやっと座っている有様で、時折おかしな動きもあり、本人の言う通りまともな状態とは程遠い。自分から言われなければMSパイロットだったとは誰も信じないだろう。

 

 通信を受けている連合艦は粛然としている。

 噂で恐ろしい人体実験がなされていることを漏れ聞いていたのだが、今、それが事実であることを知って当惑しているのだ。

 

 

 

「くそッ、何をしてるんだ! 通信妨害を早く!」

 

 ムルタ・アズラエルが慌てて通信妨害をかけさせる。これ以上アーク・エンジェルやドミニオンの話を連合艦に聞かせないためだ。

 下手に途中で遮れば余計疑念を抱かせてしまうと判断し、対応を遅らせていたのだが、もう待っている余裕はない。

 

「ダーレス少将、あれを中心に編成して、アーク・エンジェルとドミニオンを追わせるんです。必ず討ち果たすように。早く!」

 

 そして連合艦を十四隻ばかり急発進させる。

 このままにしてはおけない。連合の暗部を知りすぎている脱走艦二隻は言うだけ言うと離脱に転じていたが、それらを追わなければとんでもない禍根が残る。

 もちろんアズラエル、ゆとりを持たせた戦力にして先発させるところは抜かりがない。

 

 

 

「追撃に出てきたのは十四隻か。向こうにはそれなりの目を持った人間がいるようだ。予想よりやや多くなったが、これは仕方のないことだろう。まあ作戦を変更する程ではないな」

「サイ君、とりあえず釣り出しはできたようね」

「それもこれもラミアス艦長とナタル少佐の演説のおかげだ。挑発ではあるが、話は誇張でも何でもなく、本物の事実というのがやり切れないが」

 

 俺は作戦の第二段階が順当にいったことを確認する。

 釣り出しをして、罠まで誘導するのが目的だった。戦術としては定石というのに近いが、むろん有効性が高いからこそ定石なのだ。

 

「さあ、取り敢えずは逃げよう。クサナギやイズモが待ち構えている宙域まで」

 

 そしてそこにはエターナルも到着しているだろう。エターナルはアルテミス基地を占拠し、そこに連合の艦隊の半数を引き付けるという仕事をしてもらった。もちろん基地で籠城させるつもりはない。連合艦の到着前にさっさと抜け出し、こっちへ再合流してもらう手筈である。

 

 

 

 逃げるアーク・エンジェルとドミニオン、追う連合艦十四隻、付かず離れずを続ける。

 それは言うほど簡単ではない。普通でも逃避行は難しいのに、この二隻は能力の高い艦であっても唯一速力だけは凡庸なのだ。そこを的確な操舵と牽制によって惑わし、追い付かれずにやり切った。

 

 

 

 

「よし、来たぞ! さすがサイ君、位置も時間もドンピシャだ。イズモ、メインエンジン始動! MS発進準備! 私もストライクルージュで出る」

「それは危険です。ウズミ様がいらしたら許可しないでしょう」

「キサカ、せっかくシモンズ女史が作ってくれたストライクルージュを今使わないでどうするんだ!」

 

 イズモとクサナギは探知されないようエンジンを切り、静かに潜伏していた。だが今、所定の位置まで連合艦が誘導されてきたと知った瞬間、猛然と始動する。

 それを命じたのはもちろんカガリ少女である。

 おまけに自分までMSで出撃しようとしたが、キサカ一佐がそれを制止する。この戦いはこれまでになく激しく、危険が大きいからだ。しかしどうしても出たいカガリの意を汲み、結局はイズモの発光信号が届く範囲内という条件付きで許している。

 

 

「歌姫さん、エターナルは任せた。俺もちょいとばかり行ってくる。年を取ると適度な運動もしなきゃ腰が悪くなるんでな」

「ふふ、バルトフェルド艦長、そんなお年ですか? むしろやんちゃは子供のすることですよ」

 

 エターナルからはフリーダムやジャスティスばかりでなく、アンドリュー・バルトフェルドもイージスで出撃する。もちろん歌姫ラクス・クラインが見かけよりはるかに豪胆であり、ある程度の操舵と戦闘指令をこなせると知ってのことだ。

「アンディ、年寄り! そしてガキ!」とうるさいピンクのハロを指先で押しのけ、MS発着場へ向かう。

 

 

 イズモ、クサナギ、エターナルからMSが出撃していく。

 漆黒の宇宙を背景に、細く白い糸のような推進剤の粒子をたなびかせ、加速しながら連合艦へ突き進む。

 

 

 

 

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