コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第四十二話 究極の兵器

 

 

 ムルタ・アズラエルは連合アルテミス基地への航路を辿っている。随伴する艦艇は三十隻ほどであり、残りの損傷艦艇は既に月面プトレマイオス基地に送っている。

 アルテミス基地に行く目的は一つ、それは核ミサイルをいくらかでも融通してもらうためだ。

 

 また核を手に入れ、取って返す。それでプラントのボアズ要塞を叩き、続けてプラントそのものも消し去る。

 これで人類の悪夢を終わらせる。人工の怪物、つまり遺伝子を改変した変異種コーディネイターは人類の範疇に入るものか。それを取り除いた時、やっと人類は本来の姿を取り返す。

 アズラエルはそう信じており、戦意は衰えていない。

 

 先にアルテミス基地へ通信を送ったが、そこにいるガルシア少将はたっぷり皮肉をもって返してきた。むろん嫌なことではあっても予想通りだ。

 

「アズラエル理事、何か成果は? 勇んで先行したからには何か成果を持ち帰ってきたはずでは」

「…… 敢えて言えば、脱走艦どもが邪魔するという情報かな、ガルシア少将」

「これは面白い仰りようだ。つまり当たり前のようなことを確認してきたと。大きな代償を払ってそれでは子供の使いのように聞こえるのは気のせいですかな。はは、まあ正直でいいでしょう。私はともかく他の者は納得しないでしょうが、そこまで関知は致しかねる」

 

 アズラエルは感情を抑え、押し黙るしかない。

 ガルシア少将はアズラエルと大西洋連邦の失敗に嬉しくて仕方がないようで、言う必要のない当てこすりを言ってくる。それは癪に障るが仕方がないのだ。アズラエルはアルテミス基地に着いた後、核ミサイルについて交渉しなくてはならないのだから。

 

 

 

 それはあと三時間ほどでアルテミス基地に到着するという頃だった。

 

 アズラエルは宇宙に光の筋を見た。

 それは一直線に白く輝き、わずかな時間で消えた。

 とてつもなく禍々しく、嫌な予感が鼓動を速くする。

 

「今の光は何だ!? ダーレス少将」

「分析させております! 結果は…… 硬X線レーザー、直径2km、総エネルギー量は少なくともエクサジュール単位!」

「つまり物凄いレーザーということじゃないか!? では兵器だ! いったいどこからそんなものが!」

「発信源の特定、出ました! ザフトのヤキンドゥーエ要塞近傍、そして到着予想点は……アルテミス要塞かと」

 

 要するに敵の兵器だ。

 あの小癪な五隻なんかではなく、プラントという国家規模の戦略兵器なのである。

 

 それが並大抵のものでないことはアズラエルにも分かる。本来X線レーザーが目に見えるはずはない。それが見えたということは、宇宙にほんの僅か漂う粒子を発光させているということになり、強い光であればあるほどエネルギーが高いということに直結する。実際それはもう眩しいほどのものだったのだ。

 

 

 

 アズラエルと大西洋連邦の艦隊が急ぎアルテミス基地に着くと……いや着いたとは言えない。

 もはやアルテミス基地は存在していないからだ。

 半分は蒸発し、残り半分は元の形をとどめていない残骸だった。

 

 基地もそこに停留しているはずのユーラシア連邦艦隊も永遠に失われた。

 

 もちろんガルシア少将も今度こそ戦死している。戦ってのことではなく一方的に蒸発させられたのだから戦死と言わないのかもしれないが。

 その残骸の周りを十隻近くの艦が動いている。おそらく基地周辺の哨戒任務に就いていた艦だけは惨事を逃れたのだ。目の前のことが受け入れられず、全く無駄な救助活動をする気なのだろう。

 

 一発でそこまでの破壊力を持つ兵器、どうやってレーザーに変えられたのかは不明だが、エネルギー源は核と推定される。

 

「こっちの核ミサイルなんかより、コーディネイターの方がよっぽど野蛮な兵器を持っているじゃないか! くそ、だから戦争には勝たなきゃいけないし、コーディネイターを生かしてはおけないんだ!」

 

 アズラエルはそう歯がみする。アルテミス基地を撤退ラインにしながらの艦隊戦、そんな構想もまるで意味がなくなった。一発の暴力で灰燼に帰したとは。だがそこにあったはずの核も丸ごと失われた今、もはやアズラエルはどうしようもできず、進路を地球表面に変えての敗走しかない。

 

 

 

 

 そんなアルテミス基地の様子を、当然ジェネシスを撃った方も観測している。

 

「敵アルテミス基地の完全破壊を確認! コンピューター予測モデルと98%一致」

「素晴らしい! ジェネシスの発射後精査はどうなっているかね」

「レーザー発振シリンダー、底部固定ミラー共に異常は認められず、順調に冷却中です、パトリック・ザラ議長」

「よし、では第二射の用意に取り掛かってくれたまえ」

 

 予想通りの威力だ。

 究極兵器ジェネシスは存分にその力を発揮した。

 

 原理としては単純なものであり、核爆発のエネルギーをガンマ線レーザーに変えて撃ち出すだけだ。

 しかし技術的な難易度はあまりに高い。

 核のエネルギーをいったん閉じ込めるシリンダーも、レーザー発振をさせる制御力も、照準をつけるソフトウェアも、何もかもがそうである。それをプラントは手探りの状態から巨大な実体の建造に持ってきた。連合によるプラント侵攻の恐怖がその原動力だったとはいえ、努力は驚くべきものだ。

 

 そして核の威力をレーザーにわざわざ変えることには重要な意味がある。

 はるか遠距離まで真っ直ぐに到達させることができるのだ。核ミサイルをわざわざ運ぶ必要もなく、もちろん途中で撃ち墜とされる心配はなくなる。

 もう一つ、いっそう大事なことがある。

 意外なことにレーザーにすれば元の核爆発より段違いに強力になる。なぜなら通常の核爆発なら四方八方へ威力が分散して消えてしまう。しかしレーザーに変えて一方向とすれば、目標へ純粋にエネルギーを叩き付けることができる。

 

 こんな兵器に対抗できるものなど存在するわけがない。

 アルテミス基地はそれなりに強固な基地であり、艦砲に対する抵抗力はあったはずだ。しかし、ジェネシスは予測通りあっさりと完全破壊してのけた。

 

 このジェネシスをもしも地球に向けて撃てばどうなるだろう。

 

 実はこれについては分かっていない。

 宇宙空間であれば計算が可能で、コンピューターのシミュレーションが有効になり、破壊力が予測できる。

 しかし、地球表面についてはシミュレーションが難しく、どうやっても確定的な予測はできなかった。

 純粋な熱量による破壊だけならともかく、付随した現象が起きるからである。

 地球には大気も水もある。例えば大気中に大量のプラズマが発生し、それが広がることで大半の地表が焼かれると見積もることもできたが、核一発分のエネルギー量では過大な予測に過ぎると思われた。

 逆に少なく見積もったとしても、通常核とは違い十キロ単位どころか桁の違う範囲を死の荒野に変えられるだろう。

 しかしながら、実際の威力の大小は関係ないのかもしれない。それに応じてジェネシスが連射すればいいだけの話である。ジェネシスのフロントミラーだけは使い捨てるとしても、それだけを次々交換すればいい。また一方的に撃つだけなのだから、その気になれば地表にいる全ての人間を葬ることは決して難事ではない。

 

 

 ともあれ喜色満面のパトリック・ザラは一番の功労者に通信を送る。

 

「クルーゼ君、あの映像を送ってくれたおかげでジェネシスが使えるようになった。初の実戦だが何の問題もなく、威力も充分だ」

「お役に立ててなによりですが、私は偶然にも連合の核兵器を撮影してしまっただけです。足付きやエターナルを追うという任務に就けて頂いた結果に過ぎません。しかも議長。ジェネシスに関してはプラントの優秀な技術者たちのおかげでしょう。彼らこそ真の功労者では」

「謙遜だな、クルーゼ君。とにかくジェネシスさえ使えれば連合との戦争など問題ではない。そしてそれ以上も」

 

 ラウ・ル・クルーゼはまだプラントへ戻っていないが、連合の核ミサイルが爆発する映像情報を先にパトリック・ザラへ送信していた。

 

 それを受け取ったパトリック・ザラはもちろん最大限に有効活用する。

 プラントの穏健派を黙らせ、ジェネシスによる先制攻撃を実行に移した。

 しかも自分がヤキン・ドゥーエ要塞にあるジェネシス管制室に乗り込み、陣頭指揮を執っている。むろんこの時が来るのを夢見て、ジェネシスの構造や使用手順も充分に理解していた。

 わざわざプラント最高議長自らがジェネシス管制室に来たことについて、誰も疑問に思わない。それほどジェネシスは重要な戦略兵器であり、ザフトと連合との戦争を決定づける切り札だ。

 

 しかし、パトリック・ザラの思惑は全く別のところにある。ラウ・ル・クルーゼが見透かした通りに。

 アルテミス要塞の破壊? 連合の艦隊を叩いて脅威を排除? あるいはジェネシスを脅しに使って連合に白旗を上げさせ、戦争に勝つ?

 

 そんなことはどうでもいい。

 

 実際にジェネシスを地球表面に向かって撃つ!

 ナチュラルどもが滅ぶまで、何度でも。それをするためにジェネシス管制室まで来たのだ。

 

 

 

 

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