「さて、プラントの市民に演説をしなくてはならんな。この歴史的勝利を共に祝い、コーディネイターこそ人類の新たなステージであることを告げ知らさなくては」
パトリック・ザラはクルーゼとの通信の後、演説の準備をさせる。
それはプラント全域に行き渡るもので、更にはそれを越えて宇宙、地球表面まで届くものである。
ジェネシスが初の作動であるために懸念された不具合も存在せず、圧倒的威力が証明された以上、もはや誰に対してもジェネシスを秘匿する必要を認めなかったからである。連合の軍事力など一顧だにすることもなく、事実上の勝利を述べるだけだ。
「プラントの市民諸君! これを見たまえ! プラントの所有する戦略兵器ジェネシスが悪しき連合の基地に鉄槌を下す瞬間を! これが創世の光である! 我らコーディネイターこそ人類の正しき進化であり、未来へ歩みを進めるものである。それを認めず、我らに抵抗する旧来の人類は不要であり、過去の遺物、足かせに過ぎない。そんな足かせをいつまでも放置せず、ついに取り払う時が来た。それは今ここに生きているコーディネイターとしてやらねばならぬ義務でもあるが、同時に栄光なのだ。諸君、語り継がれる栄光を共に掴もうではないか!」
ジェネシスからの一撃によって連合アルテミス基地が崩壊する様子も共に流された。
このパトリック・ザラの演説はプラントの急進派勢力を狂喜させた。
穏健派ですら最初は戸惑ったが、勢いに呑まれて高揚感を覚えている。究極兵器ジェネシスは圧倒的であり、それほどの説得力を持っていたのだ。
この演説をもちろんアーク・エンジェルらも受信している。
驚くばかりだ。
ジェネシス…… そんな恐ろしい兵器をプラントの側では持っていたのか。
連合は大量の核ミサイルを持っていたが、そればかりが人類の脅威ではなかった。プラントの方でも強大な戦略兵器を造り上げていたのだ。しかも単純な核兵器よりもはるかに洗練され、威力はもとより射程において事実上地球圏の全てを含んでいる。
ラミアス艦長は直ちにエターナルへ問い合わせたが、ラクス・クラインもバルトフェルドもジェネシスの情報を知らなかった。それほどジェネシス建造は徹底的に隠されていたということになる。
「どうすればいい…… サイ君」
「どうもこうもない、ラミアス艦長。あれは危険な兵器だ。存在させてはならない。あのパトリック・ザラ議長とやらはその力に酔っているように見える。一方的に虐殺できる兵器を使わないではいられない、そんな感じだ」
「だったら…… 叩きに行くべきね!」
「そうだ。それも今から直ぐに」
実は連合との戦いの後、アーク・エンジェルらは修理と休養を兼ねてそこにとどまっていた。
つまり、補給は受けていない。
エンジンは稼働するが推進剤の残量は半分を切り、プラントへ行くことはできても帰りが心もとない。おまけにミサイルの残りもわずかだ。対艦ミサイルも迎撃ミサイルもそうなっている以上、攻撃は主砲でも可能だろうが、少なくとも防御の面ではかなり低下した状態なのである。
しかし、それでも……
行かねばならない。手遅れにならないうちに。
「手短に説明する。この五隻で向かうが、二手に分かれる。アーク・エンジェル、イズモ、クサナギの三隻であのジェネシスの方へ行く。つまりヤキン・ドゥーエ要塞に挑むのと同義だな。そして残りのエターナルとドミニオンはプラント本国へ行ってくれ。別に要塞近辺を通らなくてはいけない法はなく、大きく迂回して裏からプラントへ向かってくれ」
俺はまた味方艦五隻の首脳部を集めて方針を説明している。
此方の戦力がわずか五隻なのに二手に分けるのは痛いが仕方がない。俺の構想ではジェネシスだけではなくプラント本国への突入が必要なのだ。
そういえば俺は思い出す。かつて連邦がジオンを攻めた時、ソロモン要塞、そしてア・バオア・クー要塞と順々に来たものだ。それはおそらくジオンをじわじわ苦しめ、屈服させるためだったが、それだけか? いや違う。おそらく功名を分配するような政治的配慮もあったのだろう。だからジオン本国へ直撃する別動隊はなかったのだ。
しかし今その轍を踏むことはなくエターナルとドミニオンはプラントへ向かわせる。
「どうしてエターナルがプラント本国へ行くんですの?」
ちょっと端折りすぎて説明をすっ飛ばしたので、俺はラクス・クラインからそう問われた。
「それには理由がある。プラント本国にはそこそこザフトの艦隊がいるだろう。確かザフトの艦隊戦力は全部併せて三十隻程度と聞いているが……」
「それくらいだと思いますわ。とすれば、プラント本国に五隻から十隻は居てもおかしくないかしら」
「その通りだ。そこを突破するには正攻法ではなく、スピードと誤魔化しが必要になる。エターナルは立派なザフト艦、とにかく苦しい言い訳でも続ければ直ぐには攻撃を受けないだろう。連合の新鋭艦ドミニオンを拿捕して曳航中とでも言えば」
ラクス・クラインも風変わりな少女で、怯えや戸惑いを見せない。
表情に乏しいのではなくむしろ豊かな方なのに、この少女の芯は強く、肝が据わっている。だから死地に向かう話を当然のように受け止めていられる。
「分かりましたわ。でも、エターナルがプラント本国に着いたら何をすれば」
「もちろん破壊や脅しをやってもらうわけではない。そんなことをすれば逆効果だ。頼みたいのはプラント市民に対する説得になる」
「説得でしょうか…… 今までもわたくしは地下放送などをしてきましたが、なかなか芽が出ませんでしたのよ」
「それでも君にしかできない。俺は長いことこの戦争を終わらせる方法を考えてきたが、一つしか思い至らなかった。核などの大量破壊兵器を何とかしても一時凌ぎにしかならず、結局は無駄になる。つまり力によって戦争を止めることはできない。自発的に市民が戦争をやめようと思わなければ終わらない。そうなれる扉の鍵を君に預けよう。これを使って上手く説得してくれ」
俺はラクス・クラインに録音メモリーを渡した。俺ととある人物との会話が納められたものだ。
次に俺はドミニオン艦長ナタル少佐の方へ顔を向ける。
「ナタル少佐に頼みたい。何としてもエターナルをプラント本国へ辿り着かせてくれ。無理をしない範囲で」
「ふっ、サイ・アーガイル、無理をするなという方がよっぽど無理だぞ」
「以前俺を驚かせてくれた戦術の冴えを、再び期待していいか」
「任せろ」
ナタル・バジルールの表情にはどこか余裕がある。これから立ち向かう困難さを思えばおかしなことに思えるが、おそらく迷いがないせいなのだろう。もはや肝が据わっているのだ。どんなことになっても最善を尽くすだけのことだと。
「サイ君、ヤキン・ドゥーエにもザフト艦隊がいて、それだけでも脅威なんだけど、その前にあのジェネシスで撃たれてしまわないか。そうなったら何もできないうちに終わってしまうぞ」
今度はカガリ少女から俺に質問が来た。確かに尤もな質問だ。
「その心配はない。戦略兵器というものは敵の主戦力、基地、工場やそこで働く人員を叩くものだ。つまり継戦能力を奪うためにある。たかが数隻の艦相手に使うものではない。おそらく戦うべき相手はザフト艦だけだろう」
俺はそう答える。
頭にあるのはジオンのソーラ・レイのことである。
ソーラ・レイは太陽電池を使った巨大コロニーレーザーであり、ジェネシスと似たような立ち位置の戦略兵器だ。俺はかつて連邦の大艦隊を迎え撃った本国会戦の時にそれを見せ玉に使った。欲を出し、ついでにガンダムと木馬を葬ろうとしたのだが……見事に失敗したものだ。戦略兵器はそういうところに使うものではない。
「さあ行こう。ここにいる五隻の戦いが未来を決める。だったら精一杯戦わない法はない」
俺の最後の檄にラミアス艦長も、カガリ少女も、ラクス・クラインも覚悟を決める。
バルトフェルド艦長も、キラ君も、イザーク君などもそうだ。
この一戦、確かな歴史の分水嶺になる。やれるだけのことは全てやり切る。
だが、いくら急いでも直ぐに辿り着けるわけではなく、刻一刻と事態は進展していく。
ジェネシスはまたしてもその強大な牙を剥いた。
「核材料、定位置にセットオン! フロントミラー、スライド終了! オールグリーン! ジェネシス、間もなく第二射シークエンス可能!」
「第二射の目標は月面プトレマイオス基地だ。準備が整い次第、発射シークエンスを開始してくれたまえ」
ジェネシスを使い、パトリック・ザラは再び連合軍を叩く気でいる。もちろん最後は地表を滅ぼす気でいるので、その意味では遊びともいえるだろう。しかしプラントへ脅威を及ぼさないためには近くの連合軍事力を叩くのも意味がある。地表の惨状を見た連合の残存艦がプラントへ特攻をかけてきたらたまらない。
「三、二、一! ジェネシス発射態勢!」
「撃て!」
核爆発の威力が丸ごと整えられ、一方向のレーザーと化す。精緻にコントロールされたフロントミラーを透過する時、更に純化され、そして目標へ照準を付けられる。
この第二射はプトレマイオス基地を直撃し、完全に破壊した。もちろん駐留していた艦隊も逃れられることなく道連れにされた。そして後に判明したことには、アルテミス基地と違ってプトレマイオス基地は月面岩盤の下にも各種施設を持っていたのだが、ジェネシスはそれさえ破壊してみせたのだ。