コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

44 / 52
第四十四話 クルーゼの野望

 

 

 ザフトのヤキン・ドゥーエ要塞深部、そこにあるジェネシス指令室でパトリック・ザラが愉悦と満足の声を上げる。

 

「完璧だ。ジェネシスの前にナチュラルどもはカスにしか過ぎん。ついに人類の大掃除ができるというものだ。ジェネシスを作り上げた時点でコーディネイターの方が優れていることは明らかであり、ならば劣ったナチュラルを粛正することこそ当然の行為だろう」

 

 実際には少数勢力の側であるプラントが身を守るため、必死の努力で技術を開発し、ジェネシスを作り上げた。

 パトリック・ザラはそれを百も承知の上で、コーディネイターの優位の証明にすり替えている。それもこれもジェネシスの途轍もない威力に酔いしれているからだ。

 

「ジェネシス、各部冷却中、レーザー発振シリンダーから点検実施」

「よろしい。では精査して問題がなければ、第三射の用意をしてくれたまえ」

 

 報告しているオペレーターにパトリック・ザラはそう返した。

 

「……了解しました、議長」

 

 ジェネシスのオペレーターたちはもちろんその指示に従うが、わずかな戸惑いを隠せない。

 なぜならもう連合の宇宙基地はない。アルテミス基地もプトレマイオス基地も消した以上、目標が無いではないか。もちろん連合の艦隊は残っているだろうが、基地破壊と共に主力は消し去ったはずだ。

 いったい何を狙うというのだろう。

 

 第二射後の点検には若干の時間を要した。どんな亀裂も隙も見逃してはならず、もしもそんなものがあればジェネシスが核爆発のエネルギーに耐えられない。設計的には繊細なものなのだ。熱や放射線によって劣化した部分が見つかれば交換しなくてはならない。

 

 その時間中、オペレーターの抱いた疑問は多くの者に共有されていく。

 

 

 

「ジェネシス、各部点検終了。オールグリーンです」

「では第三射の用意をしてくれたまえ」

「了解しました…… 核材料、定位置にセットオン。フロントミラー、スライド開始! 議長、照準方向を」

「狙うのは地球表面だ。射軸調整を頼む」

「!?」

 

 ジェネシス指令室が一瞬凍り付く。

 

 フロントミラーを交換している時点で大まかな射軸を定めておき、そして交換後に微調整を行いつつ目標へ照準を合わせるのがジェネシスの運用方法である。

 そして今パトリック・ザラ議長は何と言った?

 狙いが地球表面とは、どういうつもりだろう。

 ジェネシスの威力で地表を撃てば、単純な破壊力だけにとどまらず、大気と水分へ影響を及ぼし、計算不能な大災害を引き起こす。議長もそれを知っているはずだ。何億人もの人間が一瞬の高温で焼き尽くされる可能性すらある。プラントの全人口六千万人と比べるのもおかしな話だがそれだけ大きなことなのである。

 

 指令室にいるオペレーターたちは直ぐには動けない。軍事施設だけを破壊するならともかく、平和に暮らしている人間を巻き込み……一方的に殺すのだ。

 オペレーターもザフトの軍人、命令に従うのが正義と盲目的に信じてきたし、連合と戦争をしているからには連合の軍に対する憎しみは少なからずある。それでも、大量の市民を殺すこの命令には躊躇してしまう。

 

「何をしている。どうして答えない?」

 

 パトリック・ザラが催促するが、それでも誰も動けない。空気が読める政治家であるパトリック・ザラでも、ここにきて命令が通らないとは思ってもいなかった。願望の一歩手前に来ているので気が逸り過ぎていたのだ。

 

「…… 本当に、地球表面なのでしょうか、議長」

「当たり前だ! プラントへ脅威を及ぼす連合は徹底的に叩く。今こそその機会なのだ」

「ジェネシスの存在だけで、降伏を引き出せると思うのですが……」

「馬鹿なことを言うな。降伏させてナチュラルどもを生かしておく? いいやダメだ。徹底的に叩いておかなければ、将来必ず災いを招く。それを考えたら消し去る以外の選択肢はない」

 

 その消し去るというのが連合の軍事力や政府機構のことではなく、地表の一般市民のことだと明らかになった。

 禍根を絶つとは、皆殺しのことだ。

 

「それは、明らかにやり過ぎでは……」

「いいからジェネシスを撃て! 今しかない! 狡猾なナチュラルどもが対抗策を考える前にジェネシスで消してやれ!」

「…………」

 

 オペレーターたちはこれに従えない。といってもプラントの最高議長に手を出すわけにもいかず、葛藤の時間が続く。

 しかし、誰かがやっと穏便な言葉を考え付いた。

 

「議長はお疲れです。別室で休養を取られたらいかがでしょう」

「何を! どういうつもりだ! それは叛乱ではないか!」

 

 警備兵とオペレーターたちはパトリック・ザラを囲み、強制的に指令室から連れ出した。やんわりとしたものだが、大勢で行えば抵抗を封じることができる。

 しかし問題はここからだ。

 やってしまったことは間違いなく命令違反であり、オペレーターたちの未来に暗雲が立ち込める。今更ながら大それたことをしたと恐れおののくしかない。いくら自分たちの良心に従ったことだとはいえ、現実はそうである。

 

 

 

 宇宙でただ一人、そんな状況をうっすら読んでいる者がいた。

 

「ふむ、ジェネシスが中途半端な状態で止まっている。これは有り得ないな。単純なトラブルではなく、おそらく指令室で何かがあったのだろう。パトリック・ザラが地表攻撃を躊躇するとも思えず、とすれば命令がうまく機能しない、つまり反対する者たちが制したのだ」

 

 ラウ・ル・クルーゼがそう看破した。

 というよりもそんな可能性すら考えて急ぎヤキン・ドゥーエ近辺まで帰ってきていたのだ。

 

「パトリック・ザラも詰めが甘かったな。やはり軍人でないものには荷が重かったようだ。まあ、道化の役割はそこまでとして、後は私が引き継がせて頂くとしよう」

 

 

 そして自分の乗艦ヴェサリウスをヤキン・ドゥーエ要塞の着艦ドックへ突入させる。

 きちんとした手順も踏まず、まさに無理矢理だ。

 しかしながら要塞の方も高名なクルーゼ隊の旗艦のすることに驚きや不快感はあっても拒絶まではしない。一応の誰何にとどめる。

 

「クルーゼ隊のヴェサリウスッ! どういうつもりだ! 緊急着艦ならせめて理由を述べ、指示に従うべきだろう。見たところ損傷もないというのに」

「済まないね、ヤキン・ドゥーエの諸君。まさに緊急着艦が必要なのだよ。理由は……これから生じる」

「意味が分からない。何を言ってるんだ……」

 

 それだけに終わらない。ラウ・ル・クルーゼは何とヴェサリウスからMS隊を発進させた!

 しかも完全武装した臨戦態勢とは、こんな着艦ドックでやることではない。要塞に詰めている守備兵も陸戦隊も呆然としてそれを見送る。

 その六機ほどのMS隊は要塞の深部へ進み、それ以上MSで進めないところにまで来ると乗り捨て、更に奥へ行く。

 目指すはジェネシスの指令室である。

 

 

 

 そしてついに指令室に踏み込む。

 

「私はクルーゼ隊のレイ・ザ・バレル。隊長ラウ・ル・クルーゼの名のもとにここを占拠させて頂く」

「く、クルーゼ隊がどうしてここに……」

「パトリック・ザラ最高議長がいたはずなのに、なぜいない?」

「議長閣下なら別室に行かれている」

「そうなのか? 別にいいが、我らクルーゼ隊の目的は最高議長の為そうとしたことを行うことだ。これに逆らうことは許さない」

 

 指令室のオペレーターたちはクルーゼ隊に威圧されてしまう。そのザフトの赤服はエリートの象徴、クルーゼ隊といえば精鋭中の精鋭だ。

 それでもやはり、ジェネシスの稼働には反対せざるを得ない。パトリック・ザラに叛逆したという負い目もある。

 

「クルーゼ隊は特別なエリート部隊、しかしジェネシスを動かすとは…… 越権としか思えない。そして何よりジェネシスが地球に向けられるという意味を分かっていないのでは」

「ご託はどうでもいい。隊長が命じたのだから、我らにとってそれが全てだ」

 

 クルーゼ隊のレイ・ザ・バレルやルナマリア・ホークに迷いはない。元よりラウ・ル・クルーゼを盲目的に信じ切っているのだし、逆にそうだからこそクルーゼは彼らを派遣したのだ。

 そして彼らによりジェネシスは再び威力を振るう。ついに地表に向かって。

 

「ジェネシス、発射態勢へ向けて稼働開始しろ!」

 

 

 

 

 それと同時期、アーク・エンジェル、イズモ、クサナギの三隻はヤキン・ドゥーエ要塞の防衛網へ殴り込みをかける。

 

「ラミアス艦長、見たところザフトの艦艇は十隻弱といったところか。それもあまり大型艦はいないようだ」

「そうね、サイ君。たぶんザフト艦は連合を警戒してボアズ要塞やプラント本国へ分散しているんだわ」

「よし、ここは下手な小細工はせず、突っ切った方がいいな。質の優位はこちらにある。それとミサイルは使い切るつもりで派手に撃つといい」

 

 アーク・エンジェルを先頭に三隻が錐のような単縦陣で突入する。

 ザフト側はもちろん迎撃を試み、激しい撃ち合いになるが、俺はちょっとした違和感を覚えてしまう。

 

「……おかしい。向こうが迎撃してくるのは当たり前だが、妙に動きが鈍い。こっちが単縦陣ならば普通に考えて横撃や包囲を仕掛けるものだろうに。艦隊行動に工夫が無さ過ぎる。まあ、結果的には大いに助かるな」

 

 俺が知るわけがない。

 ヤキン・ドゥーエ要塞の司令部はクルーゼ隊による強行突入により慌てふためいていたのだ。

 単純な敵ではなく、あのクルーゼ隊だ。要塞に入るやいなやジェネシス指令室へ向かったという意図も不明ながら、何かの密命によるものかもしれず、余計頭を悩ませなくてはならない。そのためアーク・エンジェルらに対する対処が薄くなってしまっていた。

 

 

 三隻はシンクロさせた攻撃を集中することにより、ザフト側の艦列に隙間を作り出し、そこをすり抜けて突破した。それでようやく要塞の姿を捉えるところまで接近できた。横にはジェネシスらしいものがかすかな点のように見えている。

 しかし…… ここからは簡単ではない。

 

 最強の難敵が立ちはだかっている。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。