コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第四十七話 最後の航海

 

 

 ストライクが鋭くビームサーベルを振るい、プロヴィデンスを斬り払った。ほんの一瞬の差でプロヴィデンスの刃を制することができたのだ。

 

 その後ストライクは一歩退がり、ビームを浴びせる。これでプロヴィデンスの背にあるドラグーンシステムのマザー部が限度以上の損傷を受け、エネルギー漏れを起こしてしまう。

 クルーゼがたまらずそれを分離しようとしたが遅かった。

 ドラグーンシステムマザー部はエネルギー量が多いだけに盛大に爆発し、プロヴィデンス本体も巻き込んでしまう。損壊は深部に及び、制御も利かず、推力も失う。

 もはやプロヴィデンスはクルーゼを乗せたまま爆発の余波で飛ばされていくだけになる。

 

 ここにようやく絶対強者プロヴィデンスは倒されたのである。クロト・ブエルの思いは叶ったのだ。

 

 

 

「ふふ、こういう結末もあったのかな。元より薬漬けで生きながらえてきただけの人生、ただの亡霊のようなものだ。残念な感じが少しもないのは当然か」

 

 ラウ・ル・クルーゼはこうなっても慌てるでもなく、悔しがるでもない。

 それよりむしろ落ち着いた気分である。

 戦いに負けることでやっと妄執から解かれたのだ。

 これもまた望みだったのか…… そもそも自分がプロヴィデンスで戦いに出る必要などなかった。ヴェサリウスにとどまり、そこでアーク・エンジェルを迎撃しても構わなかったはずである。むしろ指揮官としてその方がずっと順当だ。

 それなのに自分が前線に立ち、危険に身を晒したとは、どこかで終わりにしたいという願望が無かったと言い切れるだろうか。

 

 とにかく今はプロヴィデンス本体の爆散を待つだけ、それも長い時間ではないだろう。

 

 だがしかし、そこへ妙な声が届いた。

 

「おい、聞こえるか? ザフトの周波数はこれで合ってるか? ラウ・ル・クルーゼ、まだ生きてるだろ」

「ん、誰かと思えばムウ・ラ・フラガか……」

「俺たちは近くにいれば分かるんだ。お互いにな。だから生きてることぐらい分かるさ。今救助してやる」

「余計なことはしなくていい。もはや夢は充分見た。これ以上は不要であり、意味がないのだよ。どうせこの体も老化で長くはもたないからな。クローニングの失敗作など放っておいてくれないか」

「そんなことが言えるのは、まだ生きているからだ。クルーゼ、いいから降伏して救助されておけ」

 

 不思議な巡り合わせと言うべきだろう。

 この戦場ではムウ・ラ・フラガもまたアストレイに乗って戦っていた。そして他の皆と同様クルーゼを止めようと思っていたのだが……いざクルーゼが敗れると別の感情がある。

 クルーゼが何の理由で戦い、謀略を駆使したのか、本人から聞いてみたい。

 

 

 

 そんなMSたちの決着を待たず、アーク・エンジェルは加速を再開した。

 

 待てないのだ。

 もはや一刻の猶予もない。

 もうジェネシスは地球表面へ放たれた。それが繰り返されるのは明らかであり、直ぐにもジェネシスを止めないと何十億人もの人間が命を失い、地表は灰燼と帰す。

 

 ここからは三隻そろっての行動はできない。

 MSたちへの補給と収容を考えると、一隻はここに残さざるを得ない。その任務をイズモに担ってもらう。それと同時に、追いすがってくるだろうザフト艦を抑えるという役割があり、それにはやはりMSを使わなくてはいけないが、もはや満足に動けるMSはストライクを含め何機もいない。それでも頑張ってもらうしかない。

 

 そしてアーク・エンジェルとクサナギだけで前へ向かう。

 

 ただでさえ少ない艦数だったが、今やたったの二隻になってしまった。

 その上で死地へ向かわなければならない。

 前方にザフト艦はいなくとも、ヤキン・ドゥーエ要塞がそびえ立ち、そこには強力な砲台が大量に備えられているのだ。それらによる熾烈な迎撃砲火に突入し、抜けなければジェネシスには届かない。

 

「無理だな。いかにアーク・エンジェルが頑丈でも、いかに上手く操舵しようと躱せないだろう。俺は別に魔法を使えるわけではない」

「サイ君……」

 

 その言葉通り、俺は戦術家であって魔法使いではないのだ。

 冷静に考えると要塞の砲火により撃滅されてしまう未来しか見えない。

 

「ただし姑息なトリックなら使える。ラミアス艦長、大変申し訳ないがアーク・エンジェルは沈むことになる。長く不沈艦として名声を博してきたが、ここで終わるのだ。しかしその犠牲でクサナギを守ることはできるだろう」

「そんなことは構わないわ。サイ君が言うのならきっと正しいのよ」

 

 俺がアーク・エンジェルを犠牲にせざるを得ないことを話しても、マリュー・ラミアス艦長に動揺はなく、平然として見える。

 だがしかし、ここまで艦長としてやってきたアーク・エンジェルに思い入れが無いはずはない。長いこと生活し、色々なことがあったのだ。別に正式に任命されたものではなくとも、また苦しい戦いの連続であっても、アーク・エンジェルは家、あるいはふるさとに近いものであった。

 ラミアス艦長はそんな感傷をおくびにも出さず別のことを聞く。

 

「サイ君、アーク・エンジェルが沈むことでジェネシスが止められるなら安いものよ。でも、それでどうやってクサナギを守るの?」

「通常なら迎撃砲火により二隻とも葬られるところだが、アーク・エンジェルが全ての攻撃を引き受け、最後の最後まで囮になればいい。ラミアス艦長、そのための方策を伝えよう。手順通りに行ってほしい」

 

 戦術としては単純極まりなく、アーク・エンジェルが囮となる。ただし普通にやったのでは不可能だ。要塞の砲火は二隻をまとめて片付け、まだお釣りがくる。

 そこを何とかする策を考える。

 

 

 

「ローエングリン発射用意! 目標、ヤキン・ドゥーエ要塞! エネルギー量が不足でもとにかく撃つわよ! それが終わればヴァリアントも斉射、射程範囲外なのは承知の上、とにかく撃つ!」

 

 マリュー・ラミアス艦長の指揮の下、アーク・エンジェルはひたすら攻勢に出る。もちろんまだ射程のはるか彼方、しかも艦のエネルギーのほとんどを推力に回している以上、フルチャージの攻勢にとうてい及ばない。本来の威力から大幅に減じられ、ただの花火のようなものだ。ヤキン・ドゥーエ要塞にとって痛くも痒くもない。

 しかしこれでいい。

 せいぜい派手にやり、要塞の目をアーク・エンジェルに引き付けるだけでいい。

 

 今頃要塞では多くの砲門がアーク・エンジェルに狙いを定めているだろう。

 

「ラミアス艦長、充分に増速したら慣性航行に移行、そして艦の反応炉を完全閉鎖する。核燃料も推進剤も放棄だ。通常にエンジンを止めるだけではいけない。あらゆるところを閉鎖し、それも徹底的に。もはや二度と艦を動かせないくらいにしてほしい」

「分かったわ。艦としての命は……これまでになるわね」

 

 アーク・エンジェルはこうして終わる。

 爆散ではなく、自らひっそりと命を失う。

 

 そしてこれこそトリックのキモになる。

 

 こうなればいくらアーク・エンジェルがビームを食らっても爆発はせず、せいぜい穴が開くだけになる。爆発するようなエネルギーはどこにも無いのだから。

 向こうからすればどれほど撃ってもアーク・エンジェルは平気に見える。これは不気味だろう。

 もちろんミサイルのような実体弾を食らえばそうはいかない。当たったところからごっそり削り取られていくに決まっている。しかしこのトリックに気付き、攻撃を実体弾に切り替えるまでは相応の時間が稼げる。

 それでクサナギを前に進められる。

 

 実のところ、俺がこの戦術を使うのは初めてじゃない。

 焼き直しである。

 思い起こせばジオンのソロモン要塞攻防戦の時にも同じことをやった。あの時は乗艦チベのエネルギーを落とし、連邦のガンダムの攻撃を凌いだ。

 あの化け物ガンダムはどうやっても墜としようがなく、それぐらいしか方法がなかった。そして思った通り、ガンダムの方ではどうしても爆散しない艦に驚き、時間を浪費してくれたのだ。

 

 

 先頭を行くアーク・エンジェルは予想通りビームの雨に晒される。それに紛れてクサナギが静かに離れ、ヤキン・ドゥーエの傍に浮いているジェネシスへコースを取る。

 そう、それでいい。

 俺は次に……というか最後の指示をラミアス艦長に伝える。

 

「総員退艦だ。艦長、俺だけを残し、全員脱出シャトルへ行くんだ」

「そんな…… サイ君を残してだなんて」

「俺でもできる作業をするだけで、それには一人で足りる。他は全員艦を降りるように」

 

 だがこの指示にだけはラミアス艦長は従わない。

 ああ、優しい艦長だな。

 

 しかし俺は元々人生を終えている。

 ジオンのコンスコン大将は充分に長く生きて、やるべきことをやり、もう死んでいる。

 ここでの人生などオマケのオマケ、今さら命冥加なことをする必要はどこにもない。消えても構いやしないのに。

 

 

 

 

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