コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第四十八話 ナタルの奮闘

 

 

 俺は既に一生を過ごした以上、今さらどうということはない。

 しかし、ラミアス艦長や多くのクルーたちはこれからが人生なのではないか。

 生きて大いに楽しまなければならない。

 だからこそ……早く退艦してほしいのに。

 

 それでも、俺の思いとは裏腹にラミアス艦長は艦橋に残った。他のクルーたちを脱出させたのにもかかわらず。

 

「頼むから艦長も脱出してくれ。本当に一人でいいんだ」

「……」

 

 俺はそう言いながら作業を続ける。

 今、艦橋はエンジンからのエネルギー供給がない以上、非常用のバッテリーで最小限の機能を果たしている。そして明かりも通常よりよほど暗い。

 

 そんな中で行うのだが、作業自体はとても簡単なことである。ビームを食らったアーク・エンジェルは爆散はしないまでもどうしても方向を曲げられてしまい、そのままだとヤキン・ドゥーエ要塞へ向かう進路を保てない。それではクサナギを守る囮の役を充分果たせないのだ。要塞へ向かってこそ焦りを誘い、攻撃を釘付けにできる。

 進路を曲げられたなら、それに応じて適当なハッチを開け、艦内の空気を噴出させることで元に戻す。この方法ならスラスターを使わないで済む、というかスラスターのエネルギーは既に空にしてある。

 

 こういったことをしながら見やると、どうやらクサナギは無事にジェネシスへ接近できているな。間もなくジェネシスを攻撃できるだろう。アーク・エンジェルを犠牲にした甲斐があったのだ。

 

 やや安心した。

 

 その瞬間、不意に不幸が訪れた。いや、いままでそうならなかった方が幸運だったのか。

 アーク・エンジェルはビームを食らい続けていたのだが、ここで一発が艦橋の直下にぶち当たった!

 それは激震なんてものじゃなく、艦橋にあったあらゆるものを衝撃で吹き飛ばした。もちろん、それには人体も含まれる。

 

「……!? サイ君ッ、サイ君ッ!」

 

 俺は遠い耳でそんな声を聞いた。

 目は見えない、というより艦橋に明かりはもう無くなったのだろう。

 そして俺は……どうやら重傷を負ったようだ。体を動かそうとしても動かない。これは命に関わるな。まあ、これも仕方がないことか。

 俺はこの世界に来て、やるべきことをやった。悔いなどあるはずがない。

 

 逆にマリュー・ラミアス艦長はどうなのか。声を出せているのだから重傷ではないのだろう。

 良かった……本当に。

 巻き添えにしたらそれこそ心残りになる。

 シャトルはまだあるはず、早く脱出を! そして、願わくば次の時代を創ってくれ。

 

 それが俺の思う最後の言葉になり、意識が遠くなっていく。

 

 

 

 

 一方、ヤキン・ドゥーエ内のジェネシス指令室ではレイ・ザ・バレルとルナマリア・ホークが動きを止めていた。呼吸だけが浅く、速い。

 これほど重大な岐路に立たされたことはない。

 単純な戦いでは恐れを知らない勇者でも、今の問題は自分だけの話ではないのだ。

 

 ジェネシスは第三射を終え、点検を済ませたところである。結果はオールグリーン、つまり第四射が可能だということだ。準備は粛々と整い、後は発射シークエンスの起動を待っている。

 だがそのまま撃てば……地表の大都市を幾つもまとめて消し去ることになる。

 人間の数でいえば少なくとも数億人が死ぬ。それも軍事に関係なく平和な日常を繰り返している市民だ。

 

 もちろん第四射はクルーゼ隊長に命じられたことであり、レイもルナマリアもそれに逆らう気はない。

 だが今、その隊長に最終確認をする術がなくなっている。

 アーク・エンジェルらのMSと戦いに入った隊長は優勢だったのだが、現在のところ生死不明であり、プロヴィデンスの識別信号もなくなった。

 まさかあのクルーゼ隊長が敗けたのか? しかしそれ以外に考えようもない。

 

 それを心の中で言い訳にしてしまった。

 ジェネシス第四射は最終確認が取れなくとも発射する命令だったが、それでも決められず、ここまで先延ばしにしている。

 

 そんな時だ。

 

 ヤキン・ドゥーエ要塞からメッタ撃ちにされていたアーク・エンジェルがついに突っ込んできた。そのまま要塞に激突し、爆発はしなかったが、本当の残骸に成り果てる。

 もちろん要塞の方ははるかに頑丈であり、軽く振動しただけで済んでいる。

 

 それが問題ではなくもう一隻の艦であるクサナギが密かに進み、ジェネシスに迫っている。

 そして撃ってきたのだ。

 まだ射程外なのに、その中の一発がフロントミラーを掠めた。それでミラーの一部が砕けるのは仕方がない。ミラーごと交換すれば済む話である。しかし破片の幾つかが本体のレーザー発振シリンダーに入ってしまい、これを精査して取り除かなければ発射できず、作業には少なくとも数時間を要すると見込まれる。

 

「くそッ、やられた。ルナマリア、復旧作業を頼む。あの艦がこれ以上接近しないよう俺が墜としてくる」

 

 レイ・ザ・バレルがそう言ってジェネシス指令部を後にする。自分がゲイツに乗ってクサナギを撃破するために。

 

「同期だから命令しないでよね。そんなこと言って責任から逃げるんでしょ。まあ、気持ちは分かるわ。発射がかなり延期になってほっとしたのは私も同じよ。それより単機でいいの?」

「充分だ。俺の方は」

 

 

 レイの乗るゲイツがクサナギに迫る。

 今、クサナギの指揮を執っているのはレドニル・キサカ一佐であり、操艦も対空砲火も一流の腕を持っている。

 

「クサナギをお嬢さんに返さなくてはな。無傷とはいかないが」

 

 名目上の艦長であるカガリ・ユラ・アスハはここにおらず、ストライクルージュに乗って出たきりだ。

 それは今、イズモの方に収容されている。プロヴィデンスによってストライクルージュの機体は損傷を受けたが、カガリ自身は無事であると分かっている。

 できればこのクサナギを墜とされず、カガリに返したい。

 しかし相手が悪い。レイ・ザ・バレルはクルーゼ隊の中でも一頭抜きんでた技量を持っている。おまけにクサナギに対空ミサイルの類いは全く残っていない。

 レイのゲイツは、クサナギの乏しい防御砲火を軽くをいなしながら接近し、その都度確実に損傷を与えていく。

 直ぐにクサナギを撃破できていないのは、クサナギの持つ主砲を常に意識し、邪魔しなくてはならないからである。レイとしてはジェネシスを使う使わないはともかく、これ以上壊されてはたまらない。

 

 

 

 

 それらジェネシスを巡る戦いとは別に、もう一つの戦いがある。

 

 プラント本国を目指したエターナルとドミニオンの二隻だ。

 こちらもまたザフトの守備陣を突破しなくては辿り着けない。

 ザフト艦は一、二、三……合計八隻いた。しかも本国の守備に就いているからには士気も高く、必死の戦いをしてくるだろう。まともにやってもこっちの二隻が突破できるようには思えない。

 

 しかしここでエターナルのラクス・クラインは堂々と宣言したのだ。

 

「わたくしはラクス・クライン。プラントの皆様にメッセージを届けるために参りました。このエターナルにプラントを攻撃する意図はありません」

「だ、脱走艦が! そんなわけがあるか!」

「それでも真実です。わたくしは真実しか語ったことはないはずです」

 

 欺瞞や嘘に依らず、事を行う。それは彼女のこれまでの生き方に沿っている。

 それが分かるだけにザフトの側に動揺が走る。

 ラクス・クラインは人気歌姫でもあるが、そもそもプラントに独立を志向させた立役者シーゲル・クラインの一人娘である。そしてクライン派が力を失っても謀略などを一切せず、主張を述べるだけだった。それが今、言葉に一定の信用を持たせる。

 そしてここにいるザフト側もまた決してプラント急進派に従う艦ばかりではなく、クライン派の言う事にも一理あると思う艦も多かったのだ。

 

 エターナルを先頭にしてドミニオンが続く。

 ザフト艦の動揺を突いて相応の距離を稼げたが、そのまま押し通る……ことができるはずがない。

 

「……脱走艦は捕らえないわけにいかん。それに抵抗するなら撃滅する」

 

 これを最後通牒にして、やがてザフト側は発砲してくる。

 もちろんMSも展開させて進路を阻む。

 

 それに対応し、エターナルからアスランのフリーダム、シホのジャスティスが出撃する。

 個の力で見れば、この二機はもちろん圧倒的だ。ザフトのジンやシグーはもとより、ゲイツでさえ相手にならない。しかしアスランもシホもできればザフト側に死者を出したくない思いがある。そのため戦いはザフト機を無力化する方法をとり、最低限エターナルらに迫るザフト機を排除することに専念している。それでも速さで翻弄し、多くのザフト機を相手にするのは立派だ。

 

 一方で艦対艦の砲撃戦では、数に勝るザフト側が連射してくるため、ひたすらエターナルとドミニオンは回避行動を取らざるを得ない。その回避操艦はどちらも見事であり、ここまで損傷らしい損傷は受けていない。

 ただし反撃ができるほどではない。

 特にドミニオンのローエングリンは相手を一撃で大破に追い込める威力を持ちながら、使う事が出来ない。なぜなら回避行動によって艦頭が動き続けていては射線に捉えるタイミングがなくなる。

 

「なるほどザフトの守備隊も戦巧者のようだ。数を活かし、手数で追い込んで勝ち切る気でいる。このままでは本当に拙いが…… ここにもしサイ・アーガイルがいればどうやっただろう」

 

 ナタル・バジルールは考え込む。

 自分でも埒もないことを思ってしまったと分かっている。

 単なる仮定の話、いや夢想に近い。それでも考えてしまう。もしもサイなら、あの憎らしいほど凄い戦術家なら、ここでどうするのだろう。どんな策を思いつくのだろう。

 

「おそらくトリックでも使うだろうな。そういう奴だ。きっちり正攻法を使いこなす一方で妙に斬新な工夫をしたりする不思議な奴だから。ならば私とてトリックの一つくらい使ってやる」

 

 

 

 

 

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