______ プラントと連合の激しい戦い、それから二年が過ぎ去った。
プラントの独立宣言から始まって、ユニウスセブンの悲劇、ザフトの電撃降下作戦……
互いの憎しみは極限まで高まり、恐ろしいほどの死闘を人類は経験した。
最後はジェネシスによって地表環境ごと抹殺される寸前までいったのだ。
もちろんその傷痕は色濃く残されており、たった二年で癒されるはずはなかった。
ただし、もう戦争にはなっていない。
あのラクス・クラインの放送後、プラントと連合は和平協定を結び、それはずっと維持されている!
放送で語られたことは未来への鍵であり、どう使うかは聞く者に委ねられた。そしてプラントも連合もそれを使うことができたのだ。憎しみよりも未来を選択する、そんな人々の方が多かったのである。
もちろん戦闘は無くともゴタゴタは数限りなくあり、プラントと連合、そしてオーブとの間で飽きもせず駆け引きや工作が繰り返されている。
しかしながら本気で再戦を考えないならば、いずれは落としどころがつく。
プラントは地球表面における占領地を全て放棄した。軍事拠点も同様だ。カーペンタリア基地という最大拠点さえ放棄し、代わりにプラントの国家承認と食糧生産の自由を手に入れた。そして無重力でしかできない工業を発展させ、それを資金にしてプラントのコロニー数を増やすことを選択したのだ。つまりコーディネイターの本分である宇宙開発の方に注力する。その方が地表での権益にこだわるよりも建設的である。
唯一の懸念は軍事組織ザフトの独走だったが、結果的にそれは無かった。なぜなら自他ともに認めるザフトの中核、クルーゼ隊が率先して平和路線に転じたからだ。その陰にはラウ・ル・クルーゼの意向があった言われている。もはや権力を持たないとはいえ、クルーゼの影響力は大きい。
一方、連合はしばらくの間、戦後復興に力を入れることになるが…… とても順調とは言えず、それはジェネシスによる傷痕が主な要因ではない。
むしろ政治的な理由のためだ。
プラントにおける政治派閥とは比べ物にならないくらいユーラシア連邦と大西洋連邦との間には溝があり、そう簡単に埋まらない。
力の拮抗は健全な競争をもたらしたり、独走を防ぐという効果があるが、この場合は二大陣営が互いに足を引っ張り合うというマイナス面が目立つ。そんなことはお互いに分かっていてもどうにもならない。
そして何の因果だろう。
ナチュラル至上主義のブルーコスモスをやっと鎮火させたばかりで、おまけに本来は経済人であるムルタ・アズラエルが調整役に担ぎ出されたのは。
アズラエルの皮肉っぽい性格はともかく、少なくとも能力は認められていたのだ。
結果的にアズラエルはその役目を見事にやってのけた。危ういところで連合は分裂を回避し、発展基調に乗ることに成功している。
「僕は無駄は嫌い、みんなも同じだよね。だったらお互い利益を得ればいいでしょう。面子で何の利益が得られるっていうの」こういった言葉を幾度繰り返して説得したことか。
そしてオーブはというと、小国ながら確固たる地位を築いている。
余剰食糧だけではなく、地表にたった一つ残されたマス・ドライバーの独占という大きな優位を手に入れているからだ。
それで莫大な利益を得るが……いつまでも続くものではない。それが分かっている以上、今のうちに独自宇宙基地の拡充を成し遂げ、併せてモルゲンレーテ社を中心に先端技術開発を進めていく。それ以外に永続的にオーブを繁栄させる道はない。
そういった大まかな政治的潮流はさておき、個人についてもいろいろな出来事があった。
この間、どれだけのカップルが誕生し、またゴールインしただろうか。
キラ・ヤマトとラクス・クラインは急接近し、仲の良いカップルとなった。間もなく婚約する段取りとなっている。
それは別に驚くべきことではないのだろう。以前キラは救出ポッドに入っていたラクスを見つけ、助け出したという出会いがある。おまけにアーク・エンジェルに迎え入れられたはいいものの、孤立しがちなラクスを気遣っていたものだ。
しかしそれらのことはきっかけに過ぎず、二人はお互い最初からシンパシーを持っていた。要するに縁があったということだ。
そしてラクス・クラインはプラント評議会議員でもある。
むろん一介の議員というわけではなく、穏健派、つまり旧クライン派をまとめ上げているという重要な立場だ。その手腕と市民からの人気でいずれは評議会議長の座に就くと見なされている。
一方、アスラン・ザラはシホ・ハーネンフースとカップルになっている。こちらには緊張や尊敬といった要素が入り、自然体とも言い難いが、それでもお互いに愛情がある。穏やかで、しかも初々しい愛情だ。この二人にはそれが似合う。
アスランはまたプラント急進派である旧ザラ派を率いる立場にいる。
それは急進派を代表して意見を主張するということではない。誰かがしっかり手綱を付け、御さなければ急進派はたちまち分裂してしまうだろう。威勢のいい言葉ばかりが幅を利かすのが急進派の危ういところなのである。結果的に過激な行動に出てしまう者が出るかもしれない。
だからこそアスランが旗印となり、そういった動きを抑えつつ、ゆっくりと諫める必要がある。
アスランの方でもそれを一つのケジメと考える。
父パトリック・ザラは戦後引退を余儀なくされた。狂気的な戦争推進論者であり、最高議長として行動に幾多の問題があったが、戦時のことにつき罪にまで問われなかった。しかし政界から追放されるのは当たり前だ。アスランとしては最後まで意見が合わなかったとはいえパトリック・ザラは父親であり、その父の後始末をつけてこそ先へ進めると思っている。
かつてクライン派とザラ派は協力してプラント独立の旗を掲げた。
その後、穏健派と急進派ということで袂を分かっている。
しかしそのままでもいけない。両派の宥和という政治的願いのため、それぞれの令嬢と子息、つまりラクスとアスランが婚約したものだ。
むろんそれは解消されてしまったが、別の形で両派はしっかりと信頼関係がある。
ラクスの傍にいるキラ・ヤマトはアスラン・ザラの親友である。
二人は今後、永遠の友情を結んでいく。
もはや誰によっても、どんな嵐があっても決して崩されない友情を。
今度の戦争で学んでいる。それこそが人生で最も尊い。
地表でもカップルが誕生している。
カガリ・ユラ・アスハはレドニル・キサカ一佐と婚約している。いつもカガリを見守り、時には叱り、共にいたレドニル・キサカと自然な形でそうなった。実態は思考よりも行動が先走ってしまうカガリをキサカが諫めることに変わりはないのだが……
年齢や立場はともかく、本来なら有力氏族同士で婚約するのがオーブの習いである。
しかし、カガリの父ウズミ・ナラ・アスハは敢えてその慣習を無視している。連合との戦争でオーブは大きな痛手を被ったが、その責任をアスハ家が首長の列から一歩引くことで周知させる、その目に見える形の一環とした。
ただし、それは大人しくしているという意味ではない。
オーブ内で俄然大きな顔をしだしたセイラン家を裏で牽制したのだ。オーブのような小国は政治的に失敗したらお終い、ウズミはそれをよく分かっている上で、セイラン家の当主ユウナはオーブを率いるに相応しくないと見た。
政争の末、オーブの次期代表首長をサハク家にすることに成功した。
今からはそこの当主である女傑ロンド・ミナ・サハクをアスハ家が支えていく構図となる。面白いことにロンド・ミナ・サハクとカガリは妙にウマが合う間柄となった。
ついでに言えば、オーブは先の戦争を教訓として、国家自衛のための必要充分な軍事力を持つことを決意している。小さくとも簡単に踏み潰されない殻を持つ国になるのだ。
そこに参加し、大いに辣腕を振るったのがナタル・バジルールである。
彼女は口癖のように「諸君、そんなことではサイ・アーガイルにコテンパンだぞ。せいぜい実戦で奴と戦うことがない幸運に感謝するがいい」と語っているという。
ちなみにナタルのドミニオンは激戦の末、自力航行ができないほど損傷を受けたが、オーブまで曳航された。そして修理され、今ではオーブの艦隊旗艦として係留されている。
マリュー・ラミアスもオーブに住み、ナタル同様オーブ自衛戦力の構築に参加している。
そして恋人であったムウ・ラ・フラガと最近結婚した。
この二人はドミニオンを見るごとに思い返す。
ドミニオンと同型艦……
それはかつて過ごし、もう失われてしまったアーク・エンジェルのことだ。
あまりに厳しく、紙一重の戦いを繰り返した日々だった。
ヘリオポリス脱出からクルーゼ隊に追われ、地表に降りてからもアフリカの砂漠で戦い、それからアラスカ基地、パナマ基地、オーブ防衛……転戦を続けた。そして再び宇宙に上がれば、それまでと比較にならないほど激しく連合やザフトと戦った。ひたすら必死だったのだ。
しかし、それを含め今は思い出となってしまった。
胸には懐かしさばかりが溢れてくる。
残りエピローグ一つ、サイにご注目!