コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第六話  イザーク・ジュール

 

 

 俺はなおもレジスタンスのサイーブ隊長に言う。

 言葉は自然とキツくなるが、大事なことなのだから仕方がない。

 

「故郷を守る、それはいいだろう。だがそれで死んだ者がいるのだぞ」

「我らに支配者など要らぬ。そのための戦い、そのための犠牲だ」

「だから馬鹿だと言っている。今日の損害が少ないとでも言うつもりか! 死んだ者はもう還らないんだ! 昨日まで家族と会話をし、仲間と飯を食った、若者には思い描いていた未来があっただろう。やってみたい夢もあっただろう。これからという時に、それらは全て消え失せた。その事実を考えろ」

「……」

「信念を曲げろとは言わん。だが俺に騙されたと思って、戦いを止めてくれ。ザフトはいずれ必ず撤退する。それまでの間だ」

 

 サイーブ隊長は信念はあるが、元は大学の教授らしく理解力があった。こうしてレジスタンスは撤退に同意したんだ。

 その場で会話を聞いていた艦長やナタル中尉は困惑を隠せない。

 スカイグラスパーのパイロット、ムウ・ラ・フラガだけが呟く。

 

「あいつ…… 本当に不可能を可能にしやがる……」

 

 レジスタンスは再び地下に潜り、戦いは止んだ。

 もとからザフトの砂漠の虎は別に街を搾取しているわけではなく、横暴なことはしていない。むしろ友好的なくらいなのだ。それなら現状維持で問題はない。

 

 

 

 アーク・エンジェルもここから南に向かう。

 驚いたことにサイーブ隊長がカガリという少女と精鋭たちを付けて送り出してくれた。せめてアフリカでの道案内ということだ。

 

 砂漠を外れ、緑地帯に入り……

 順調かと思われたが、やはり予定外のことというものはある。

 

「クルーゼ隊のデュエルとバスターが追ってきている! 戦闘用意!」

 

 

 

 

 その数日前のことだ_____

 

「グレイト!」

「うるさいディアッカ! ただでさえここは重力もあるし空気も粘つく、苛々する」

「そうカリカリするなよイザーク。俺に当たるだけならいいが、基地司令と揉め事を起こされちゃ、何かと面倒だ」

 

 クルーゼ隊のディアッカとイザークはザフトのジブラルタル基地にいる。

 

 ラウ・ル・クルーゼやアスランは一緒ではない。というのもクルーゼはとりあえずこの二人を先に向かわせ、アーク・エンジェルの牽制をさせるつもりだったからである。

 その際、この二人が沈めてしまっても構わないと言い添えている。

 むろんそうなれば一番いいという願望はあるが、実現可能とは思っていない。それでも言ったのは二人の若者の士気を高める操縦のためである。

 その通り、二人が発奮しないわけがなく、勇んでジブラルタル基地に来た。アフリカのどこかに降りたアーク・エンジェルを必ず仕留めてやろうと意気込んで。

 

 しかしながらジブラルタル基地では思わぬ冷淡な反応をされている。

 共闘どころか厄介者扱いされたのだ。それはザフトにおけるクルーゼ隊というエリート中のエリートに対する反感が根底にある。

 二人の誇りである赤服がここでは仲間外れの目印だ。

 

 

 アーク・エンジェルの居場所がリビア砂漠と判明すると、二人はさっさと基地を出て、その場所を押さえている砂漠の虎へ合流した。

 そこでもあまり歓迎はされていない。

 

「クルーゼ隊から来たのか……わざわざあの艦のために。せいぜい頑張んな」

「し、しかし、奴らとの戦闘なら俺たちの経験が」

「負けの経験だろう?」

 

 どうも砂漠の虎のバルトフェルド隊長はエリートだからという理由ではなく、クルーゼ隊そのものに対する悪感情があるようだ。ラウ・ル・クルーゼに盲目的に従う二人にその理由は分かりようもなかったが、バルトフェルド隊長はまるでザフトの悪い面を体現するかのようなラウ・ル・クルーゼの冷徹ぶりをたいそう嫌っていたのだ。

 

「アンディ、そんな言い方は…… 若い二人に嫌味を言っても」

「おお、アイシャはやっぱり優しい」

 

 おまけに二人はバルトフェルド隊長と恋人アイシャを見せつけられる羽目になってしまったとは。

 

 しかしながら二人には強烈な自負心があり、戦闘になれば実力の違いを見せ、否が応でもバルドフェルド隊長に自分たちを認めさせられると思っていた。だが実際は……散々なものだったのだ。砂漠に足を取られ、何もできない。射撃もまるでダメだった。

 かえって無様を晒しただけに終わる。

 加えて目的とするアーク・エンジェルにはさっさと南に逃げられ、いいとこなしの体たらくだ。

 ここで引き下がるわけにはいかず、二人はなおも追っていこうとする。そんな二人にむしろ優しくバルトフェルド隊長が言ってくる。

 

「砂漠の虎としちゃ南の森林地帯は管轄外だ。もしお前たち二人だけでもあの艦を追っていくのなら、MSの整備はしといてやる。砂でかなり傷んだんじゃないか。補給も順次送ろう。何かあれば救難信号を出せ。この前の戦闘で少しは懲りただろうから、決して無茶はするなよ」

「……」

 

 アイシャがとりなすせいもあったが、バルトフェルド隊長としては生意気さが少し引っ込んでくれれば、見捨てる気はなかったのである。嫌いなのはラウ・ル・クルーゼだけであり、その若い二人ではない。

 

 

 

 二人はそこからアーク・エンジェルを苦労して見つけ、攻撃を仕掛けたがあえなく撃退されている。

 

「くそ、なんだこの緑は! 鬱陶しい!」

「チィッ、それだけじゃない。イザーク、射線がズレるぞ! 砂漠では熱気流のせいだったが…… ここでなぜこうなる!」

「ディアッカ、たぶん水蒸気のせいだ! 密度が濃すぎる!」

 

「まいったな。俺たちが苦労してるのに、どうしてストライクの奴は対応してるんだ」

「認められるか! こんなはずじゃ…… 地球でさえなけりゃ、仕留めたはずだッ! この俺が」

 

 あっけなく後退させられた後、なおもイザークは神経を高ぶらせ、きつい言葉を吐く。

 さすがにディアッカも呆れざるを得ない。

 

「……イザーク、お前最近おかしいぞ。あれか、避難民のシャトルを墜としたせいか」

「何を! あれは…… 悪くない! どうせナチュラルどもの避難民、墜として何が悪い!」

「何だ図星だったか」

 

 

 

 イザークは宇宙においてデュエルガンダムを駆り、連合第八艦隊を相手に激しく戦った。

 その終盤、第八艦隊が出してきた脱出シャトルを撃ってしまったのだ。

 特に必要な攻撃ではなかった。

 ストライクガンダムとの戦いの中、なかば八つ当たりのように、近くを横切っていくシャトルに攻撃をした。どうせ連合第八艦隊のお偉方が敗け戦でさっさと逃げ出すのだろうという頭もあった。

 

 しかし、しかし、そのシャトルにはただの避難民たちが乗っていたのだ!

 

 爆散の瞬間、イザークは見てしまった。

 多くの避難民たちが切り裂かれ、焼かれ、宇宙に放り出されるのを。

 戦闘服ではなく、ごく普通の格好をした市民たちが、自分のビーム一発であっけなく死んでいく。その中には幼い子供さえ……いたというのに!!

 

 その光景がイザークの心を痛めつけてやまない。

 哭いても取り返しがつかない。

 軍法会議では無罪など望んでもいなかった。しかしながら最初から軍法会議など形ばかりのもので、茶番に過ぎない。プラントがナチュラルを誤射したイザークを咎めるはずはなかったのだ。

 

 

 

「イザーク、それを気にしない方がいい。それとも今さらママの教えに疑問でも持ったのか」

「余計なことを言うな! 母上は…… 関係ない!」

 

 今に限らず最後に一言余計なのはディアッカの悪い癖である。

 

 確かにイザーク・ジュールの母エザリア・ジュールはプラントでも高名な政治家だ。しかも急進派で知られるパトリック・ザラを信奉し、そのシンパとして活躍している。当然ながらコーディネイター優先主義者であり、またザフトの拡充を求めている。

 

 しかしながらイザークにとって母エザリアは優しく、しかも美しく、自慢の母だった。

 思想信条とは関係がない。

 むろん、多少は影響されたところがあったのかもしれない。

 イザークは学校において優秀な成績を収め、ザフトでもエリート中のエリートであるクルーゼ隊に入れた。母エザリアもそれを良しとしている。

 そこから上官であるクルーゼに認められるため、ザフトを勝利に導きコーディネイター優位の社会を実現するため、何よりも母に喜んでもらえるために頑張ってきた。

 

 しかしそれでも…… 子供を殺して平気なほど染まり切ってはいなかったのだ。

 

 

 

 後の世においてキラ・ヤマト、アスラン・ザラらと共に称賛される「銀髪の守護者」なる者がいる。

 その者は自己犠牲と苛烈な戦いで貢献し、有名になった。

 

 

 イザーク・ジュール、今はまだコンスコンと出会ってはいない。

 

 

 

 

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