コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第七話  保身か、正義か

 

 

 キラ君はもちろん密林という周辺環境は初めてだ。

 だがそんな環境へ、あっという間にストライクガンダムのOSを修正し、適合させていく。

 そしてクルーゼ隊からのデュエル、バスターを難なく撃退する。襲撃者は逆に自滅状態にあったので難しいことではない。

 

 さすがにキラ君は凄いな!

 

 脅威を排除し、ほっと一息つくアーク・エンジェルだが、その余波は意外なところに回っていた。

 

 ザフト支配下のビクトリア基地はその戦闘をキャッチし、アーク・エンジェルの目的が自分たちにあるものだと断定してしまったのだ。

 そのこと自体はアーク・エンジェルにとって朗報かもしれない。

 最初からそう誤認させ、備えさせたところで素通りする予定だったからには。

 

 しかし、ここで誤算が生じる。

 ビクトリア基地はアーク・エンジェルに対して過剰な恐怖心を抱いてしまったのだ。

 あのザフトの誇るクルーゼ隊に幾度も勝ち、そして宇宙での戦いの最後、連合第八艦隊が壊滅する中でも無傷で終わっている。そんな最新鋭艦アーク・エンジェルなのだ。

 それが今ビクトリア基地に向かっているとは……

 アーク・エンジェルの事情でリビア砂漠から南下していることを知らないビクトリア基地としては、充分な戦力で攻略に来たものだと勘違いしても仕方がない。

 

 それでも普通ならば戦力を基地に集中し、ハリネズミのように構えるものだろう。

 しかし恐怖心により、むしろ出て行って航路途中を襲う方を選んだ。

 

 

 

「ロケット砲撃来ます! 前方7キロメートルから! 密度レベル2! 更にその右側、自走砲らしい噴煙多数!」

 

 おお、相変わらず俺の後ろのミリアリア・ハウはいい仕事をしている。俺のやらなくちゃいけない索敵と解析を肩代わりしてくれているのだ。自慢じゃないけど俺は未だに分からんからな!

 

「スカイグラスパーに爆装を急がせろ! その間の牽制として、バリアント、撃てーー!」

 

 いやしかしナタル中尉も本当にいい判断をする。

 各種攻撃オプションを適切に選択し、迷いなく対処していく。とにかくナタル中尉は立派な軍人なのだ。

 この程度の部隊が相手なら、俺が何か言う必要もないな。

 戦況を心配するほどではない。

 向こうは確かに数は多いとしても、通常の地上軍だ。MSは未だ見えない。ならばこのアーク・エンジェルの強力な武装をもってすれば、そうそう沈められることはないだろう。

 

 と楽観視していたのだが…… 

 しばらく後、俺は驚いて呟く羽目になる。

 

「むう、向こうの基地司令は馬鹿なのか? 戦力をただつぎ込んでくるとは……」

 

 なぜなら向こうはどんどん戦力を出してくるのだ!

 これは…… 軍事常識に照らし合わせて考えたら最も悪手だろう。

 

 いや、そうとばかりも言っていられないかもしれない。

 こうなればアーク・エンジェルとしても下手な応戦はできなくなる。なぜならアーク・エンジェルの持つ砲弾やミサイルには限りがあるのだ。ビームでさえペレットを消費してしまう。

 よほど節約して使わねば、早々と使い果たし、武装は役に立たなくなる。後は攻撃に対し何もできないではないか。

 

 

 

 これは地味にピンチだ。

 むろん、ナタル中尉も艦長もそれを憂慮している。

 

「艦長、スカイグラスパーによる爆撃を行いつつ、急速撤退を進言します」

「そうねナタル、下手にストライクを出すよりいいわね。ストライクといえども数で囲まれれば撃破されてしまう」

「逃避について、山の傾斜面に沿って行えば、敵の車両に追ってこられる可能性は減ります」

 

 

 うむ、ここで俺も口を出そうかな。

 

「いや待てナタル中尉。傾斜面に沿って進めば、確かに追われることは減る。しかし森に隠れることはできず、しかも防御の弱い側面を晒すことになる。向こうが長距離砲を並べてくればいい的にしかならん」

「サイ二等兵、だがこのまま平地で戦闘を続ければ弾薬を使い尽くしてしまうぞ。とにかく動くべきだ」

「慌てるなナタル中尉。いぶり出しに乗ることはない。そして敵が弾薬の消耗を狙っているとは思えん。なぜならこちらの持つ弾薬の量を向こうが知るはずがないからだ」

「それもそうだが……」

 

「それよりも、敵がなぜこんな無茶な作戦を取ってくるのか、先にそこを考えねばならない」

 

 しかしその答えは簡単には得られない。

 どうして敵は基地を固めて防御しないのか…… ひたすら戦力を出してくるのか。

 何か忘れていることはないか。

 

 

 

 俺はようやく考えをまとめて艦長とナタル中尉に言う。

 証明する術はないが、確信めいたものを持っている。

 

「分かったぞ。敵はどうしてもアーク・エンジェルを基地に近付けさせたくないのだ。なぜなら……ビクトリア基地にはマス・ドライバーがある」

「マス・ドライバー!? 確かにそうだが」

「ナタル中尉、向こうはその破壊を恐れているのだ。だからアーク・エンジェルを寄せないのに必死になる」

「確かにそうかもしれず、この猛攻はそれで説明できる…… しかし、だからといって現状の打開には役に立たない」

 

「いや、役に立たせればいいだろう。これからビクトリア基地を攻略するのだから」

「な!? ば、馬鹿な!!」

 

 ナタル中尉が絶句する。

 理由は言うまでもない。このピンチに加えて基地攻略など荒唐無稽だと思っているのだろう。確かに戦力的には100%あり得ない。

 

 

 

「サイ君…… そう言うからには何か考えがあるのね」

「むろんそうだ」

「聞かせてもらえるかしら」

 

 艦長マリュー・ラミアスはそう聞いてきた。俺は基地攻略の根拠と理屈を説明していく。

 

「一つ、基地を攻略すれば今相手をしている地上軍は逃げ出すだろう。もう一つ、基地の防衛戦力は実力を出したくても出せない」

「それはどうして」

「このアーク・エンジェルの主砲ゴッドフリートは射程が長い。それでマス・ドライバーを撃っていけば、向こうは気が気でなくなる。それが大いなる弱点なのだ」

 

 現在アーク・エンジェルで最も威力の高い武器は特装砲ローエングリンであるが、これは放射能をまき散らすためにこの地表では使えない。しかし、主砲であるゴッドフリートでも射程的には差し支えない。

 だが、これで撃つことを聞くと、艦長もまたナタル中尉と同様に絶句してしまった。

 そして我に返るとすぐに反論してきたのだ。

 

「サイ君、残念だけど何も分かってないわ…… ビクトリア基地のマス・ドライバーは連合にとっても貴重品よ! 今、連合のマス・ドライバーはアラスカ基地とパナマ基地にしかないの。ここのマス・ドライバーを破壊すれば…… 取り返しがつかない。将来連合がここを攻略しても何にもならず、それだけはできないわ」

「とてもいい判断だ。艦長。まさにその通りだ。ただし本当にゴッドフリートを当てるのではない。兵器管制のナタル中尉を信用して、ギリギリのところで当てようとして当てられないフリをすればいい」

 

 

 ここでナタル中尉もまた絶句から復帰してきた。

 

「撃ってもギリギリで当てられないフリか…… それは難しいな」

「仮に当たっても仕方がない。確かにマス・ドライバーが失われるのは手痛い。だがそれはザフトの方こそ遥かに痛いんだ。向こうにとり、宇宙に還れない恐怖は想像できないほど大きい」

 

 そう、俺は知っている。

 かつての俺はドズル閣下の下にいたから、ソロモン宙域をベースにしていた。だから地球には降りていなかった。しかし多くのジオンの勇士たちは地球に降下し、地表で作戦行動を行い、連邦を追い詰めた。

 だがジオンは連邦本部を攻めきれず、結局連邦の物量に押し返されてしまったのだ。そこからは悲惨なものとなった。ジオン将兵の多くが地表に取り残され、宇宙に還る手段を失ってしまった。そこで仕方なく、絶望的でしかも戦略上意味のないゲリラ戦を行うしかなくなり、あたら多くの命を散らしていった。

 

 このザフトだって同じ、宇宙に還る手段を決して失いたくない。

 彼らの家と故郷はここではなく宇宙にある。

 

「ザフトの持つ大規模マス・ドライバーは現状こことカオシュン基地のものしかない。ジブラルタル基地とカーペンタリア基地のものは建設を始めたばかりであり、それほどの能力はないと聞く。向こうの方こそ宇宙との行き来が生命線なのにだ」

「…………」

 

 

「逆にナタル中尉に問いたい。ビクトリア基地のマス・ドライバーは、ザフトにとってより重要だと理解してくれただろう。だが、万一破壊してしまえばきっと連合のお偉方に詰問される。近視眼の輩というのはどこにでもいるからな。それでもやるか。安全と自己保身が優先か、それとも正しい戦略を選ぶか、どうする」

 

 俺はこの質問が非常に厳しいものだということを知っている。

 

 かつての俺はコンスコン大将として、ジオン軍内において自由な裁量が大きかった。ドズル閣下もキシリア閣下も俺を信頼し、それを認めてくれた。だからこそ俺は自分が正しいと思うことをやってこれたのだ。

 

 しかしナタル中尉の置かれた状況はそれと全く違う。

 まだ若い。そして彼女からすれば雲の上のような上官があまた存在する。

 その機嫌を損なうかもしれないということがどれほどプレッシャーになるだろう。下手したら一生閑職になり、輝かしい未来をすっかり失ってしまうのだから。家族も軍人だという話からすると、それにも顔向けできなくなる。

 

 さあどうするナタル・バジルール……

 しかし俺は彼女を信じ、心の底では安心していることに自分で気付く。

 

 なぜならこのナタル中尉は邪な部分がなく、正義の価値を奉じている。それは純粋で美しい心だ。

 必ず成長し、素晴らしい姿を見せてくれるだろう。

 それはたぶん、我々にも世界にも必要なことなのだ。この悲惨な戦争を終えさせ、未来に光をもたらすために。

 

 

「…………」

 

 じっとり汗ばむ瞬間が続く。だがその時間はやがて終わる。

 

「やってみよう。それが正しいことだから」

 

 息を吐く俺に対し、ナタル中尉は続ける。

 彼女らしからぬ傲然とした笑みを浮かべながら。

 

「だがサイ二等兵に言っておく。あいにくだがこの私がやる以上、万が一にも当てたりなどするものか!」

 

 

 

 

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