「よし。ラミアス艦長、基地攻略作戦の是非を」
俺が作戦を進めるのではない。
あくまで決定は艦長がするもので、他の者がやってはならない。
艦長とは、少しばかりの権利と、膨大な責務を負う者のことをいう。だがらこそ他の者は全力で艦長をサポートするのだ。
俺には少しの反省がある。
前の世界で俺は艦長たちを充分に理解し、報いてきただろうか。確かに俺は艦隊司令としては珍しくMS隊と交流を多く持ったが、艦長たちにはそれほどでもなかった。コンスコン機動艦隊を地味に支えてくれた艦長たちを理解してあげてただろうか。
「私の責任において、アーク・エンジェルはこれより敵ビクトリア基地に対し、攻略戦を行う。本艦が敵部隊を全て引き付けている隙に、ストライクガンダムを中心とした別動隊で基地を叩く。おそらく敵にはとっておきのMS戦力があると予想されるが、それも排除する」
「いい作戦だ、艦長」
「最終的には歩兵で基地に潜入しシステムをダウンさせれば完了となる。元は連合の基地なのだから、その辺の情報には詳しい」
「素晴らしい」
マリュー・ラミアス艦長は俺が感心するくらいの戦術を組み立ててきた。
さあ、これでうまく行ってくれよ。
先ずはナタル中尉がゴッドフリートの射軸を調整する。
ここは宇宙ではなく、気流や空気密度によって微妙にビームの進路が変わってしまう。
ナタル中尉は傍目で見ても緊張を隠せず、汗を流し、浅い呼吸になりながらそれを行っていく。
やがてかちりと照準が合う。
「よし、これで…… ゴッドフリート、発射!」
アーク・エンジェルから薄緑の衣を纏ったビームが伸びる。
それは見事にビクトリア基地のマス・ドライバーの支柱の間をすり抜けていったのだ! 傷一つ与えることがない。
見事だぞ、ナタル中尉! 俺はかつてのダリル・ローレンツを思い出す。
これでビクトリア基地は大騒ぎだろう。
戦力をアーク・エンジェルに向けて全て吐き出してくるはずだ。
頃合いを見て、フラガ少佐のスカイグラスパーが爆撃を始め、機先を制して基地のMS格納庫を叩く。同時にキラ君のガンダムも突入を開始する。
しばらくの後…… 吉報が入った!
キラ君のガンダムに目を奪われた守備隊の隙を突き、基地に入った歩兵が、なんとか端末からウィルスを仕込んだのだ。
これで基地はシャットダウンの状態になる。
「やりました! これで基地はしばらく動けないはずです!」
その声はトールという若者のものだった。
その若者はブリッジ要員なのに「キラにいつも助けられているのは嫌だ。そういう仕事になるなら、まさに工学科の学生の出番じゃないか!」といって出て行ったのだ。
キラ君、きみにはいい友達がいる。決して一人ではないぞ。
そして俺の睨んだ通り、一度こうなってしまうとザフトは何がなんでも抗戦しようとはしない。こちらがやけになってマス・ドライバーを壊したら向こうにとっては悪夢になる。誰も責任がとれないのだ。
敵は数で勝るにもかかわらずじりじりと後退し、やがて去っていった。
ここにアーク・エンジェル単艦で基地を攻略するという快挙を成し遂げたのだ。
幾つもの条件が重なった結果にしか過ぎないが、それでも事実である。
艦内には歓声が上がる。何度聞いても勝利の後の歓声はいいものだ。
しかしながら俺はこの後を考えなくてはならない。
基地内を探ったところ、アーク・エンジェルの補給に使えそうなものはあまりなかったのだ。
かつてここが連合の基地であった頃は、もちろんふんだんに置かれていただろう。だがそれら連合の補給物資は既にスクラップにされている。代わりにザフトがこの基地を手に入れてから持ち込まれたザフト用の物資ばかり置かれている。
当然のことながら、ザフト用のミサイルなど規格が違うのでどうにも使いようがない。
簡単に言えばアーク・エンジェルはここを長く保持できず、ザフトの本格的な反攻が始まる前に立ち去る必要がある。
むろん連合軍本部に通信を入れ、この基地を守備すべき要員を可及的速やかに送ってもらえるよう要請する。
だが本部の返事は薄く、期待したほどの大部隊は来そうにない。
不安を残しながらアーク・エンジェルは基地を後にする。
皮肉なことにアーク・エンジェルの戦いは連合ではなくザフトの方で正しく評価されていた。
結果、ザフトでも有数の基地、ジブラルタル基地がアーク・エンジェルを危険視し、大西洋上でその撃滅を狙うことになったのだ。今まではディアッカとイザークに任せきりで傍観者の立場にいたのだが、ここで基地が本気になった。
「艦長、水中から幾つか反応あり! データバンクによればザフトの新型MS!」
「水中って、潜水型のMS……」
ミリアリアの報告を受け、マリュー・ラミアス艦長が苦慮する。
宇宙用の艦船であるアーク・エンジェルにとって想定外の戦いが目前に迫っている。
だがこんな地球上ならではの攻撃に対し慌ててばかりはいられない。
そもそもアフリカの西海岸とヨーロッパとの間は多くの艦船が行き交うところだ。それに楔を打つという戦略的価値を持つザフトジブラルタル基地なのだから、有力な潜水部隊を用意しているのは当然なのである。既にアーク・エンジェルの進路を囲むように配備していたのだろう。
しかし結局、アーク・エンジェルは限界いっぱいまで艦を傾け、海へ向けて砲撃を可能にすることにより難局を乗り切った。思い切った発想だ。
マリュー・ラミアス、なかなかやるな!
だがそれで安心はできなかった。
今度は空中からの攻撃だ。
「前方空域にザフトMS! ジンタイプが十機弱、それにバスター、デュエルがいます!」
「けっこうな戦力ね。防空イーゲルシュテルン用意! ストライクは緊急発進! フラガ少佐のスカイグラスパーも出して! しかしながら敵の撃破は難しく、アーク・エンジェルの進路確保を優先!」
おっ、艦長の命令は適切だな。俺から見ても本当に成長著しい。
だが、ここでナタル中尉が何か言いたそうだ。
「艦長に具申! スカイグラスパー二号機の発進を提言いたします」
「二号機…… というとナタル、それはカガリという少女を出すということね」
「現状、戦力を出し惜しみしている場合ではないかと。それにシミュレーションでは戦闘支援を行う分には差し支えない技量です」
ただしここでラミアス艦長はとても興味深いことを言っている!
「ナタル、私たちはヘリオポリスで民間人の少年少女を巻き込んだわ。軍の機密保持のためと言いながら連れ出し、そして戦争の手伝いをさせてしまっている。そういうことは…… 良くないのよ。いくらスカイグラスパーの操縦ができるからといって彼女を出すべきじゃない」
「し、しかし、このままでは」
なるほど、艦長はこんな事態なのに正しいことを正しいと言っている。
とても立派じゃないか。
だったら…… この俺がなんとかしないでどうする!
「話は聞いた。ではナタル中尉、スカイグラスパー二号機を使わないで打開すれば、何も問題はないのだな」
「サイ二等兵、また士官の意見具申に横から口を出すとは…… もしもつまらない意見だったら謹慎は覚悟するんだな」
「確認するがナタル中尉、この艦の対空ミサイルで一番射程が長いのはコリントスだったろうか」
「それは間違いないが…… しかしミサイルをMSに当てられる可能性は低いぞ」
「いや、そのまま使うのではない。それらの自動追尾システムを切ってくれ」
「なっ、どういうことだ!」
「自動追尾をさせるのではなく、ただの旋回をするようにセットして発射だ。これで敵は戦場を回るミサイルを墜とすのにやっきになればよし、そうでなくとも気になって戦いどころではない。いつミサイルが急に方向を変えてくるのか分からないのだからな」
「……」
これも一つの戦術だ。
MSなら向かってくるミサイルを避け、叩き墜とすくらいできるだろう。しかし向かってこないミサイルだったら? よほど厄介に違いない。
ラミアス艦長は俺の戦術にゴーサインを出した。ミサイルを撹乱として使う意義を理解してくれたんだ。
結果、戦場の外側を取り囲み、ひたすらミサイルが飛び回る。
その支援のせいもあってキラ君のガンダムは無事に敵MSを一機、二機、墜としていき、最後は敵を退かせるのに成功している。
しかしまあ、視界に敵味方三機ものガンダムを見るのは俺の心臓に悪いけどな!
このサイ君の若い心臓でなければショック死したかもしれない。