どらごんれでぃい!!!〜捨てた魚が竜でしかも俺の事が大好きなんですが〜 作:囚人番号虚数番
「え……拓海……何でここに……」
「…………眠れなくてパソコンを調べてたらお前が使ってたデータを見つけてな。追いかけてきた」
「おい!!そこの男!!話が通じんならそここ蛇野郎にいってここから出……
グシャっ
触手が勢いよく□□を壁に叩きつける。地面に叩きつけて割れた水風船のように血肉を撒き散らして汚く死んでいった。
「……スーッ煩いから□□ちゃんに静かになってもらったよ!!あ、友達の探してた□□ちゃんがあの子で……」
「その子も俺のことが嫌いなのか?」
「うん!!拓海の事を話したら気持ち悪いって言われて……そんな奴、拓海も存在価値なんてないって思うよね!!」
「死人に口無しだからどうでもいい」
ドラコを見つけるまでの時間にあの資料をよく読んだ。冷静になってみればあそこに書かれた名前の半分くらいは見ず知らずの、もしくは名前は見たことはあるが関わりのない人だ。死んでも心は傷まない。……むしろ、その刃が自身に向くことの恐怖すら感じてしまう。
「じゃあ他の奴らも殺してくるね!!拓海は早く家に帰って……」
「いいや、帰らない。お前の話を聞くまではここにいる」
だがその恐怖は乗り越えなければならない物だとは分かる。俺の目はかつてない程に怒りに満ちた目を向ける。それはドラコが誰かを殺めてしまった為と何故話してくれなかったのかという裏切りに対しての怒り。
一方ドラコは笑顔でいつもの口調のまま死んだ目をしている。きっと自棄と絶望で崩れかかる心の内を辛うじて虚勢で維持しているだけだ。それも、先程の俺の言葉にショックを受けてちょうど今笑顔が消えた。
「……ならさ、せめて場所を変えよ?さっきの一撃で壁に大きめの割れ目を入れたから危ない。多分すぐにここの洞窟は沈んじゃうからね」
「奥の奴らは殺す気か?」
「うん。ここまで来たら後戻りはできないから」
ドラコの言う通り先程の叩きつけで作られたヒビが崩岩壁が割れゆく音とともに広がっていく。説教の前に自分の命を優先して洞窟から逃げ去るのが先決だ。
ーーー
ざぁぁぁぁぁぁ………ざぁぁぁぁぁぁ………
現在時刻 午前5:00
現在位置 海岸 崩れた岩場の前
夜明け前の海。
まだ暗い空に映る朧気な赤い水平線を二人でを照らす。あの洞窟にこびりついた血の跡のように汚い夜明けを迎えるのは初めてだ。
「……海なんて何年ぶりだっけ。仕事で忙しくて忘れてた。拓海も海は久しぶり?」
「特に思い入れも無いしそうだ。ただもう二度と自分からは来ない」
「そっか!!いいこと聞いたよ!!」
いつものような声色でドラコは返事した。状況とのギャップから彼女を見るが中途半端に明るいせいで逆光で顔は見えない。だけどその影の輪郭から彼女の悲しそうな笑顔が読み取れる。
「なあ、ドラコ」
「何?」
「あの洞窟の人達って死んでるんだよな?前にお前が使った竜秘宝、実は回数制でってみたいな事無いのか?」
ドラコは何も言わず、遠くを眺める。
「……自分で言ってなんだがそこまで都合よく行くわけ無いか」
「いいや、竜秘宝は回数制だったよ?」
「!?じゃ、じゃあ……」
「できる。けど、もう手遅れなんだよ。使えるなら私も使いたいよ……でも、それじゃ駄目だったんだよ!!」
それはドラコが隠していた秘密。
竜秘宝は3回使えた。
彼女は唐突で申し訳ないと断った後詳しい事を教えてくれた。曰くあの時、俺の前で使ったのが最後の1回だったらしい。だからそれ以上の事を説明しなかったのだ。
「1つ目の願いはどんな所でも生きていけるようになんでもできるようになること。実は私は元々海の竜なの」
「初めて聞いたな。昔海水魚を淡水に入れるとなんやかんだで死亡するって聞いたらしいが……」
「うん。すぐに体調が悪化したから仕方なく1回目をね……計算外なのは少しづつしか変化できなかったからしばらくは地獄だった。今も陸上に適応するように肉体改造してるけど時間が少し足りなかったな」
「時間?」
「この前倒れたでしょ。私、そろそろ海に帰らないと死ぬの」
「……それで、死ぬ前の無敵の人だからこんな事を始めたのか」
「あはは……察しがいいね拓海。うん。でもその話は置いておこうよ。話すと長いし」
立ち話も疲れた。海岸の濡れてないところに座ってから彼女は話を続けた。
「2つ目の願いは拓海と出会う事」
「それでお前はあの川で待ってたのか」
「これはそのままの意味。これは10年前位に実行したかな」
「そうか。それで3つ目が戸籍か」
「……だいたいそんな感じ」
二人は海を見て黙り込む。
彼女はこれが分かっていて、だから遅かったと言っていたのか。彼女の犯した罪が晴れることが幻想でしかないと改めて思い知らされた。
「ねえ、拓海。拓海は私の事、好き?」
唐突にドラコが聞いてきた。
「ああ。どんなお前でも好きだ。だけどそれはお前が罪を背負わなくてもいいわけじゃない」
「だよね!!なら私も腹をくくるよ!!初めから拓海には二度と会えないつもりで殺してたし拓海のお願いなら……どんな罰でも受けるよ!!」
ドラコは急に立ち上がって俺の方を向き俺の手を握った。
「はい、これ!!」
ドラコが手を離すと俺の手には拳銃が握られていた。竜の装飾があしらわれたリボルバー、そこに2発の銃弾が装填されている。
「私からはそれを望むよ!!どうせ会えないかもしれないなら一思いに死んじゃった方が楽だから!!」
ドラコは指で銃のポーズをして、人差し指を自身の頭へと向けた。
「……な、何で2発なんだ?」
俺にしては珍しい事に自然と震えた。つまり彼女が望んでいるのはその鉛玉を……彼女に撃ち込んで、それを終えて、何をする?
「銃の弾は1つだけ残すのがマナーでしょ?」
「………」
「目をつぶってるからいつでもいいよ!!」
「………………そうだな」
彼女の銃は、彼女の決意。あるいは逃避。それを決めるのは俺に委ねられた。ならば……俺は彼女の全てを知らなければならない、そんな勝手な思いで本能的にこんな言葉が出てきた。
「なら、お前の隠してる全てを教えてくれって言ったらお前は嫌か?」
「ううん。拓海の為なら……」
「お前はどう思う。俺がじゃなくて、お前はどうなんだ?それに俺はお前からまだなんてこんな事をしたのか聞いてないから引くに引けない」
「…………分かってるくせに。拓海もたまにはいじわるもするんだね」
見えない朝日を見ている彼女は重い口を開いた。
ーーー
「……へー、俺の知らない所でそんな事があったとは」
「ごめんね……友達に拓海の悪口を言われて、私のいない所で拓海がこんな事があったら嫌だって思って……それで」
「それでも人を殺すのはいけなかったな」
その後俺は彼女の全てについて話し合った。始めのうちは出会う前から出会ったあと、自身の死期について、彼女の作った罪の事、もっぱらこの騒動について俺が原因を探るために聞いていた。その内、二人、暗くなった雰囲気に苦しくなって明るい話をした。好きな食べ物、好きな服、思い出の所、恥ずかしい秘密……それと
「私が何で拓海が好きになったか話した事あったっけ?」
「俺が拾ったからじゃないのか?」
「半分正解。正解は……よく分かんないや!!」
「よく分かんないって……お前はそれでいいのか?」
「うん!!拓海と生活は幸せだったから。拓海もそうでしょ?」
そんな無茶な理由があるか、と俺は返した。しかし内心は全く真逆で彼女の言う事に納得していた。
……確かに。この2カ月程の短い期間で随分と奇妙な生活だった。捨てたはずの魚が実は大きな竜で、何も知らない筈だったのが寝て起きたら世話好きになってて、嫉妬深くて友達に銃を向けて……それから………それから………
「でも、そうだよな……そうだよな……………理由なんてチンケな事、確かにいらないよな…………」
「……拓海、今泣いてるの?」
全てを知った今、彼女が俺に何を思い、何をしてきたか知って、その先にあった筈の別れが今なのだと感じた。非現実的な存在が近くにあったのに気づかずにいた自分を呪った。
ああそうさ、今、俺は悔しいけど泣きそうだよ!!ドラコとの思い出を振り返ったらつい……くそっ。だけどドラコの前だから強がって否定する。
「そんなわけ無いだろ。知りたいなら目を開けてこっちを見てみろ」
「だめ!!まだ銃は引き金は引いてないでしょ!!」
……ドラコは強いな。男の俺が情けなく、お前に気付かれないように強がってるのに。泣きたいのはお前もだろ?そんな事されたら俺も何かしなくっちゃ。
「なら今度は俺がドラコの泣き顔を見てやる。俺が何でも話してやるよ」
「え?」
「俺もお前になら何でも話す。だがこれはお前の為じゃない、俺の為に、お前に俺を教えてやる」
「………ははは!!!拓海も面白いことするんだね!!…………それじゃあ遠慮なく」
彼女が求める聞きたい事、これは1つしかないだろう。
「遊園地の返事をして。私は拓海にとって何なの?」
かつて、彼女に俺がした質問だ。
前に彼女の事についてナツメと話し合った事を思い出す。あの時はナツメを振るなんて答えを出した、あれも1つの解だが今やそれはガラクタと同じだろう。これだ。彼女が本当に求めていた事は、こんな簡単なことだったのか……
「……俺よりずっと強くて頼りになる母さんみたいで、だけど守ってやらないとすぐに間違える手のかかる妹みたいな、側に居てほしい家族のような……人生を捧げ、捧げられる竜の恋人」
俺は答えた。
朝日に照らされた彼女はこの上ない程に満足そうな笑顔だった。それこそ今すぐにでも死んでしまって構わないように。
「……ありがと。その引き金を引いて」
「……ああ」
俺は……もう十分彼女に尽くされた。もう俺のやるべきことは1つ、今度は彼女の為にこの引き金を引く事。
引き金にかけた人差し指をゆっくりと、ゆっくりと引いていく。震える片手では照準が絞れない。その両手を、祈りを捧げるように合わせ……俺は決意を示す。
「ドラコ!!」
ターン!!…………
引き金を引かれ鉛の弾が音より早く飛ぶ。ドラコは糸が切れたかのように力なく倒れ込んだ。
「ドラコ……」
「……駄目じゃん。ちゃんと私を狙ってよ。腰が抜けちゃった」
ドラコが静かに目を開けた。微かに微笑みながら涙を流していた。銃によってとび出たものは血ではなく希望と感情、そして涙だった。
「嫌だね。お前には生きてもらないと」
ターン!!……
海に向かって最後の弾丸も撃つ。ついでに
撃ち尽くしたリボルバーも海に投げ捨てた。
「死人は生き返る訳がないって割り切るしかない。だけどお前まで死ぬ必要はないと思う」
「へー、殺さないんだね!!でも自殺でも良かったんだよ?」
「ドラコの癖に俺に意見するんだな。大人しく俺に従え」
「つまり生きて償えってこと?なドラマチックだね!!……そっか。でもそれが拓海が私に課す罰なんだね!!」
「そういう事でいい、いいんだ。お前は俺なんかに縛られないで自由になった方がお前の為になる。だからこれは最後だ……暫くは俺に近づかないでくれ」
「うん!!」
俺は彼女に手を伸ばす。ドラコはその手をとって立ち上がる。
「ありがと……あっそうだ!!拓海、少し顔を近づけてくれる?」
「ああ。だけど一体何を……」
チュッ
彼女の言ったとおりに顔を近づけたら頭を抑えられ頬にキスされた。
「……不意打ち2回はずるいぞ」
「引っかかるほうが悪いの!!」
それから彼女は海岸の海ギリギリの所まで走って行った。俺も追いかけようとしたのだが彼女のやろうとしている事が分かりすぐに足を止める。
ズドォォォン……
「…………キュルル……」
彼女は竜の姿に戻った。酷く痩せ細り、鱗の色もくすんで汚く初めてあった時よりも弱った竜。それでも尚人の体とは到底似ても似つかない暴力的な体。これこそ、彼女があるべき姿だったのだ。
それじゃあ、最後に別れの挨拶をしよう。
「………さよなら、ドラコ。次会うときもあの川ならいいな」
「(それじゃ私も……)」
「(拓海!!さよなら!!またあの川で会おうね!!)」
キャリュウウウウウウウウウウウウ!!!!
ザッバーン…………
雄叫びをあげて竜は海に、本来の居場所へと帰っていった。
「…………帰ろう」
目についた水をを拭ってから海に背を向ける。
ドラコとはもう会えない。だけどこれでいいんだ。これは彼女の決意の証、そして贖罪の形。
「……………大学は、今日も休むか」
泣き出しそうになりながらも俺は海に背を向ける。ここでは彼女に気付かれてしまう、家に帰るまで耐えないと。
彼女のように明るい朝日を背に、俺は岩場から立ち去った。
「………ドラコちゃん」
遠くの岩場の陰に隠れて僕は全てを見ていた。
「………僕は何も言わないよ。だって十中八九悪いの僕じゃん」
だから僕も彼にバレないように帰ろう。彼とは違って僕は寝起きだし大学に行くことにした。
「あ、その前に。これはもういらないから消しちゃおう」
僕は携帯電話から自分のメールアカウントにアクセスして「どらごんれでぃい!!!」を、電話帳から「滝沢 拓海」を削除した。
「それじゃ、二度と会わないよ」
次回、最終話です。
どのキャラが好きですか?
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ドラコ
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拓海
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ナツメ