お暇な方は読んでくれると嬉しいです。
もっとお暇なら私と一緒に議論してください!!(迫真)
意訳:コメントが欲しいなり
それでは第八話です。
私があの後目を覚ましたのは医務室のベッドの上だった。
控えていた本局勤の
「カータ、ああ、よかった。目を覚ましてくれて。」
「おとう、さま…?」
良くわからない、自分は今まで何をして、どうして見知らぬベッドで転がり、お父様は心配そうに……?
「試験中に、怪我をしたと聞いてね。急いで来たんたが、無事でよかった。」
試験…?怪我…?そうだ、こうしてはいられない、
最後のエネミーを排除したんだ。人質のオブジェを…………
あれ…?
おかしい、なんでこんなところで寝てるのか?
私は今実技試験の最中だったはずだ。
最後の敵を倒して、ゴールに指先が掛かっていたはずだ。
「お父様、私、試験…は?」
「今は安静にしていなさい。
ああ……
視界が、滲む。
頭の中に最後の映像が蘇る。
敵の戦闘不能を確認しながら、激痛に悶える私。
魔法の行使もできないまま、意識を失う私。
落ちた。
どうしようもない現実感が私にのしかかる。
落ちた。
「…ふッ、ゥ、……くゥゥ…」
悔しい…!
「う、ぁぁぁぁ……!」
悔しい悔しい悔しい!!
もっと私が疑っていれば!もっと冷静になっていれば!もっと敵をよく見てさえいれば!!最後の最後に……ゆだん、しなければ……!!
『獲った……!』
あの時脳裏に過った確信の言葉。集中を切らした、最後の最後に…!
涙が溢れる、お父様の前、見せて良いのは成功した姿だけだ。
失敗して無様に泣き喚いてなんて、いられない。
「よく頑張ったね。」
だというのに、お父様が抱きしめるから…我慢なんて……,。
「うわああァァァァァァァァ!、ごめんなさい!ごめんなさい!
カタリーナは、失敗しました!お姉様からあんなに教わったのに!
クロノからいっぱい注意されたのに!全部!ダメに…しました!」
「カータなら大丈夫。だから、次に備えなさい。
…ゲイトも、良く娘を守ってくれた。」
『恐縮です。…マスターを勝利に導けませんでした。」
彼女の咄嗟の判断に私は何度も助けられた。
警報を鳴らしたのも私、無闇に魔力を浪費したのも私
不用意な至近距離魔法を使ったのも私。
「ゲイ、ト……ごめん、ね……。」
悔しい。
こんなにも私に尽くしてくれる相棒に応えられないのが恨めしい。
『貴女の敗北ではありません。
涙でぐちゃぐちゃになりながら。確かに頷く。
もう、負けない。もう、絶対油断しない。
次は、合格してみせる……!!
ーーーーーー
新歴62年度 春季執務官試験
総受験者85名
筆記合格42名
実技合格、異例の4名
従来の実技試験より大幅に合格率の低い、合格者僅か10%弱。
全体合格率5%未満。
平均合格率15%という前提を言えば
事態の異常性は伝わるだろうか。
当時の受験者は語った。
アレを突破するのは余程試験に適性のあったものか
エースクラスの実力でなければ無理であると。
難易度調整の理由は
昨年度の最年少記録を大幅に更新した
『あのような少年が合格できる程度の難易度なのか?
執務官の席はそんな甘いものではない。』
試験内容を見直せと、上層部からの鶴の一声。
現場を知る者は誰もが思った、来季の試験は荒れると。
結果は予想通り。
期待の候補生と言われた「カタリーナ・W・グレアム」も
敵を殲滅しながら惜しくも戦闘不能。
他の参加者も殆どが惨敗。
あるものは隊長クラスの出力トーチ達に力で押され、失格。
あるものは人質型の警報機であっさり取り囲まれ、失格。
あるものは潜伏に失敗し追い詰められ、失格。
合格者は、潜入能力に長け、得意分野が試験内容と合致した
一部の幸運な者だった。
(敵の殲滅は出来ずとも、上手く人質を救出出来たことが評価された。)
倒させる気の無い兵士の能力値、
捜索させる気のない悪辣な仕掛け、
一度のミスが全てを瓦解させる杜撰な難易度設定。
そんな経緯もあり、今季の合格者は
一部の魔導師から、執務官より諜報員の方が向いているのでは?
などと言われてしまう始末だが、それはまた別の話。
カータの元にはわかり切った不合格の通知には
併せて次回筆記の免状が同封されていた。
「うわぁ…その様な事実は無いって言っていながら、これ?」
少女の呆れた声音が静かに響く。
そう、管理局は難易度激化の事実を認めなかった。
単に今年の受験者の質が悪いの断じたのだ。
しかし、それでは受験者の治りがつかないとしたのか
それとも、試験内容を鑑みて
本来受かったであろう人物に送付されているのかは定かではない。
『大人の事情、というやつですね。』
「知りたくないなぁ…その事情。」
相棒からの軽口もどことなく覇気が感じられない。
……機械なので覇気も何も無いのだが
しかし、カータにとってこの免状は渡に舟というやつだ。
筆記試験はまた対策をすればいい、しかしお金はそうもいかない。
父親に工面をせびる必要がないのは、彼女にとって最大の幸運だった。
一度落ちた、期待に応えることができなかった
その上お金まで無心するのはカータにとって、
これ以上無い無力感に駆られるところ。
『カータ、余計なお世話と思いますが、
もう少しお父上に頼ってもよろしいのでは?』
「………。」
相棒の言葉に少女は押し黙る。
大変優秀で文句の付け所の無いデバイスだが
こうして余計なお小言を言うのは玉に瑕。
相棒というより、口煩い姉、そんな風に感じる時がある。
『決して、貴女の献身をお父上は望んでいないと愚考します。』
「ゲイト、それ以上は貴女でも怒るよ?」
『失礼しました。』
彼女が本物の人間であれば多少の不満が滲むであろう、
主人の圧の強い回答。
あらかじめ入力された定形文が
再生されるかの様に感情の起伏を感じさせない。
カータにとってグレアムの人間は、
自分を受け入れてくれた大切な家族だ。
しかし…その感情は家族とは言い難い。
敬愛するお父様に、お姉様。
家族に対する感情が、「お役に立つ事」は
果たして健全な感情と言えるか。
カータ自身、この歪な思いを自覚している。
(私はお父様の子供、
グレアム家の末っ子、カタリーナ・W・グレアム)
何度もそう自分にいい聞かせた。
でも自分は彼らに「恩義」を感じている。
母親にはそんな思いは抱かなかった。
故に、自分はここの人達を家族として受け入れてないと思っている。
…これは単に彼女の精神が成長しただけなのだが、
そんな事を彼女が理解する術はない。
(こんな話、お父様たちにしたら…失望される。
こんなに守ってもらってるのに、
こんなに愛してもらってるのに…!)
だからこそ、この件に触れれば、彼女はこれ以上無いくらいに怒る。
自分が恩知らずな小娘と見透かされてるような気がするから。
「………ごめんゲイト、言いすぎた。」
『恐縮です、出過ぎた真似をお許しをマスター。』
「ちゃんと、向き合うから、もうちょっと時間が欲しいの。」
『そうですか。』
せめて、執務官試験に合格。
これ以上無い吉報を手にした時、覚悟を決めよう。
そう決意した真夏のある日。
この決意が変貌するのもこの日であった。
ーーーーーーー
暑い。
寝苦しさに、目が覚めた。
起き上がる、喉が酷く渇いた。
『どちらに?』
「お台所、お水、飲んでくる。」
机に鎮座した相棒に一言、
告げて部屋を出る時刻は日付を跨いで
深夜に差し掛かると言ったところ。
半分眠る意識の中、ふらふらと目的の場所に辿り着き冷蔵庫をあける。
中の冷気が火照ったカータの身体を癒す。
ボトルを捕まえ、中身を煽る。
一口、二口、喉を抜けるひんやりした液体がお腹に落ち、
上がった体温が落ち着く…気がする。
「はぁ…つめたい。」
体温が落ち着くと急に眠気が襲ってきた。
これなら、よく、眠れそう……。
目元を擦り、部屋に戻る中、
廊下の向こう…お父様のお部屋に灯りがついているのが見える。
「お仕事…?」
違う、お父様はそう言うのは持ち帰らないヒトだ。
でも無闇に夜更かしをする人でもない。
少しだけ、気になった。
もしかしたら、私が力になれるかもしれない。
夜更けなのを気にしてできる限り足音は立てないように…。
近づくと誰かが話す声が聞こえる。
「大丈夫です。カータもきっと、お父様のお役に立てる事を喜ぶでしょう。」
お姉様の声…?
お父様のお役に立てるのなら、喜んで力を貸したい。
「…そうだな、カータは…私の、私たちの目的に役立って貰う。」
(ッ……!)
胸の奥がチクりとする、そんな言い方は、してほしくない。
そう思って足が止まった。
その時
聞いてしまった。
絶対聞いてはならない事を
「ええ、私たちにとってカータは赤の他人。…誰も疑う事はないでしょう。」
今…なんて……?
お姉様……?
ちがうちがうちがういまのはききちがいきっとそういやぜったいそうだだっておねえさまはまほうもおりょうりもたくさんおしえてくれただからわたしたちはかぞくだだってかぞくじゃなければ……
「つかえる、どうぐ……」
嗚呼、そうか。
じゃあ…もう悩む必要も、ないんだ。
私は愛されていなかった。
ううん、
お父様達がそれを望むのなら、喜んで。
私はこの身体を、才能を全部発揮して、お役に立ちます。
安心したら、喉が乾いてしまった。
もう一杯だけお水を飲んで休まないと。
私はいつでも最高のパフォーマンスをお見せしないといけないから。
もう一杯喉を潤して、部屋に戻る。
『随分、遅かったですね。』
「ほんと?台所でうたた寝でもしてたのかも…。」
『何をしてるんですか、さ、明日も早いです。おやすみなさい。』
「うん、おやすみ〜。」
『………?』
ベッドに転がって瞼を閉じるとあっさり眠りに落ちた。
翌朝、いつも通りの時間に目が覚める。
身支度を整えて、部屋を出た矢先、アリアお姉様と鉢合わせした。
「おはようございます、お姉様。」
「おはようカータ。…あのね。」
歯切れのわるい、お姉様らしくない。
夜遅くまで大切な作業をされていたのだから、疲れているのかも。
きっと、執務官試験の行方が気になっているに違いない。
「試験のことですか?
秋には絶対に受かってみせます。
受験料も免除だそうです。」
「違うの、カータ、聞いて。」
何をそんなに悲しそうな顔をされているのか、
嗚呼そうか、あの程度の難易度を超えられなかったから、
お姉様は悲しんでいらっしゃるのか。
そういえばちゃんとご報告をしていなかった
「不合格になった事は、不甲斐なく思います。
特別訓練ですか?それとも、課題を?
カタリーナはきっとクリアして見せますから、どうか何なりと。」
「!!」
いきなり抱きしめられてしまった。
こう言うとき、抱きしめ返すと喜ばれる。
それはしっている。
でも、お姉様からこうして抱きつかれるのは本当に久しぶりだ。
「カータ、私たちは家族だから。」
「はい、お姉様がそう望むのなら、
カタリーナは良き妹であります。」
優秀な妹を求めている、じゃあ私はそうなろう。
そうならなければならない。
「……ごめんね、ごめんね。」
「お姉様…?何か間違えてしまいましたか?
今の回答は誤っていましたか?」
お姉様は答えない、強いお姉様が泣いている。
どうすればいいのか、
わからなくて私はただ抱きしめ返すことしか、できなかった。
カータが眠りに落ちた数分後、扉が開いた。
『……どうなされました?』
宝石が微かに点滅する。音声もかなり控えめ、
主人が寝ているからだろう。
「ゲイト…カータはずっと寝ていた?」
『いえ、水分補給に凡そ10分程台所に行っておりました。』
使い魔の息を呑む声が確かに響く。何かを確信したか。
しかしその何かは青の宝石には理解しかねる。
「……そう。ありがとう。
起こしたら可哀想ね、もう寝るわ。」
『……?おやすみなさいませ。』
静かに部屋を出て行く使い魔。
廊下を進む中、必死に呪詛のように言い聞かせる。
(まだ大丈夫、あの子なら分かってくれる。
明日の朝、ちゃんと話せば、分かってくれる。)
半ばそれは祈りだった、間に合って欲しい。
自分の言葉が届いて欲しい。
リーゼアリアは、絶望した。
「はい、お姉様が望むのなら」
カタリーナ・ウィリアムスは在り方を変えた。
言葉、態度は同じであるように見える。
しかし、アリアには分かった。
彼女は自分を見限ったと。
信頼とは、培うのに膨大な月日が必要であり
失うのは、一瞬である。
あの不用意な「赤の他人」という表現が、
カーターの心を
聞いて欲しい、謝らせて欲しい、信じて欲しい。
あの言葉は…貴方に向けて言ったものではないのに。
リーゼアリアがカータを離す瞬間まで、
彼女は大人しく抱き返すだけだった。