日常パートはすっげえ難しいんだなと、痛感致しました。
中等部で一つのドラマが起きているころ、はやては担任の教師に連れられて職員室迄来ていた。
カタリーナと違い、彼女は車椅子。生徒たちを余計に煽ってしまうかもということで、教室には担任と行くことになっていた。
「留学生さんなのね、すごく日本語が上手で、先生びっくりしたわ。」
「一生懸命勉強してました、こっちに来た時は、まだカタコトだったんですよ?」
「そうなの?努力家さんなのね、八神さんも、お友達に負けないよう、ちゃんと勉強しないとね。」
「ハイ、おじさんや先生に笑われないよう頑張ります。」
はやての愛嬌に教師は心底安心していた。
ハンディキャップを負った生徒の扱いは非常に難しい。教員は生徒を平等に扱わねばならないが、それをしすぎては障害への意識が欠けていると槍玉にあげられ、逆に過ぎた庇護は生徒達の反感を買う。
よって、当人の性格または、その身内に難が有ればその扱いの難しさは加速度的に上がっていく。
はやてはその問題をクリアしている。彼女自身もそうであるし、彼女の同居人も落ち着いた様子であった事から、理不尽なクレームがくる事はない。後は、編入生と他の生徒との距離感を慎重に図ることだけを考えれば良い。
そして、教師はまだ気づいて居ないことだが…はやて自身がその事になんとなく気付いている事が、何より大きい。元々愛想の良い子供であるが、この学園に編入すると決まった時、努めて明朗に振る舞う事を彼女は心に決めていた。
人気が減りつつある廊下を教師と共に進む。この時も車椅子のバッテリーは十分と、はやては押してもらう事を遠慮する。ここで彼女の上手な所はその拒絶も相手の好意が本物ととるや、素直に受け入れる所だ。
八神はやて。その僅か9年後に、部隊を一つ抱える出世頭の片鱗がここに見え隠れしている。
教師の合図と共に、はやては教室へと車輪を回した。
視界に映る大勢の同級生、こんな光景は一体いつぶりだろうか、改めて身内への感謝と……柄にも無く彼女は緊張した。
黒板には教師の綺麗な字で既に自身の名前が書かれている。
恐らく気を遣ってくれたのだと、教師にこっそり会釈をした。
「はじめまして、八神はやて言います。…ひらがなで変な名前やけど、どうかよろしくお願いします。」
自己紹介と共に、大きな拍手が教室を包んだ。大仕事を終えた様にため息を一つ。そして…同居人は上手くやっているのだろうか。と密かに思いを馳せるのだが、人のことを心配する余裕など、直後に無くなる。
その後、まるで記者団に囲まれる大スターの様な扱いをはやては受けた。フラッシュを焚かれてはいないものの、四方八方から終わらない質問の波、はやてはその一つ、一つを丁寧に答える。浮足立ったクラスメイト達も、はやての姿勢に感化され自発的に順番が作られる。
様々な質問の中、ある女生徒がこんな質問投げかけた。
「一緒にいた外国人のお姉さんはダレ?」
色々な質問に淀み無く答えたはやてが、ピタリと言葉を止める。
あの時、ショッピングモールに行ってからはやては度々疑問を抱くようになった。
カタリーナ・ウィリアムス・グレアムとは、一体何者なのか?
そんな潜在的な疑問がはたと浮上し、はやての口は止まってしまった。
「どうしたのはやてちゃん?」
「ぁ、うん。ごめんな…あの人は……。」
「ハイハイ、ストップ。そういうのは無しよ、困ってるじゃない。」
割り込んできた長い金髪の女の子。流暢な日本語だが顔立ちはどう見てもこの国の人種ではない。そして彼女は今度ははやてに矛先を向けた。
「アンタも、答えにくいならはっきりそう言いなさい。」
「…そういう訳やないよ?あの子は、お父さんの友達の娘さんで…色々あって私の家に住んでる、これでええかな?」
回答に満足した少女は、満足したのか先の少女に気圧されたのか早々に立ち去った。その後ろからは先の少女が二人の少女を引き連れて現れた。
「ほらすずか、はやてに話があるんでしょ。」
半ば強引に突き出されたのは紫色の髪をした上品な少女、二人とも振る舞いは対照的だが、良い所の出身なのだろう事は容易に想像がつく気品を感じさせる。
そして、相対した少女とはやては面識があった。…正確には顔を見たことがある程度。日頃通っている図書館で時々見かける女の子だとすぐにわかった。
「もしかして、図書館で何度か会うてます?」
その言葉で、彼女の顔は光が灯る様に明るくなった。
「うん、覚えててくれたんだ!…私、月村すずかって言います。」
「すずかちゃんやね、よろしくお願いします。こうして話すのは初めてやね。」
「そうだね、あのとっても綺麗なヒトがいたからちょっと近寄り辛くて。」
綺麗なヒト、とは同居人を指していることは直ぐにわかった。
はやても時々思うが、彼女は何処か人を拒絶している様に見える。…のだが、実は声をかけられるのを待っている節がある。すずかもその例に漏れず「近寄り難い」と感じていた。
「あの子はちょーっと気難しいんやけど、話してみるとそうでもないんやで?今度紹介したげるな?」
「うん、ありがとうはやてちゃん。」
「ちょっとすずか、後ろが控えてるんたから、それくらいにしときなさい。はやて、お昼は私たちが一緒に食べてあげるわ。私はアリサ、アリサ・バニングス、こっちはなのは、じゃあまたあとでね。さ、行くわよ。」
「えぇ!?アリサちゃん、私だけ適当な!?ぁ、高町なのはです。また後で!」
半ば3人を引き摺るような形で去っていく。絵に描いたような仲良しトリオをはやては微笑ましく見送る。ただ、あの輪の中に自分は厄介者ではないだろうか、そんな不安が微かに過ぎる。
こんなことじゃ、だめやな!
海の向こうから来た同居人はもっと不安の筈だ。
せめて自分自身は彼女の不安の種にならないよう尽力するべき。
そう思うと、心が奮い立つ。感覚を無くした筈の両脚にまで熱が籠る様だ。
既にカタリーナがはやての拠り所の一つになっている事に、カタリーナもはやて自身もまだ気付いていない。
はやての不安を他所にアリサ率いる仲良しトリオはあっという間に彼女を迎え入れた。
具体的に言えば、お昼ご飯のお友達争奪戦を、図太いで表すにはまるで足りないレベルで「はやて、ご飯行きましょ。」の一言で終わらせてしまった。
よく通る声量、そして少女特有の高い声音、文字通り鶴の一声で周囲を黙らせて押し通らせてしまう。そこに後腐れを与えないのが彼女の不思議な所。
閑話休題
さて、はやてを見事呼び出したトリオが選んだ話題は、当然彼女と共に中等部に編入した外国人少女のことである。当然がっつくのは、ご存知アリサ・バニングスその人。
「なによ、もったいぶらずに早く話しなさいよ。」
「ん〜せやねえ、私もあの子のこと、まだよく知らんしなぁ。」
ここで困った事がある。はやてはカタリーナのことを語るほど、彼女を知らない。そして、徒に素性を話される事をヨシとしない事を、なんとなく察している。
が、こうして自身を受け入れてくれた友人たちを謀る事を…これはこれではやて自身がヨシとしない。
ほんの少しの時間稼ぎの後に、日常で得られた些細な情報を少しずつ話していく。
ひとつ、朝は強い。それはもう…目覚まし時計なんて要らないくらいに。
ひとつ、先日の外出で買った湯呑みをいたくきにいっている。メッセンジャーアプリ*1のアイコンにするほど。
ひとつ、私服のセンスが個性的である…ことは、流石にライン超えと思い、口をつぐんだ。
少ない情報を補うために、はやては携帯を取り出して彼女のアカウントを見せる。丸く切り抜かれた画像の中央には真っ白な湯呑みが綺麗に収まっている。
大変、シュールな絵面であるのは間違いない。
「なによこれ、変なやつね。アイコンにするなら自分の顔にしろって言っときなさい。これじゃ、どんな奴かわからないでしょ。」
「私もそう言ったんやけど、せっかく美人さんなんやしって。」
「そっかぁ、写真撮られるのが苦手なのかな。」
すずかに対して曖昧な微笑みで誤魔化す。
その返しの言葉は「ダメ?はやてと一緒に買った物だから、コレが良い。」…であったのだが、敢えてそれは伏せられた。
自身に向けた気持ちの吐露を勝手に話の種にするのは良くない。その思いで。
「嬉しかったんだね、はやてちゃんとお揃いで。」
「そうやね、それやったら嬉しいんやけど。」
その懸念も高町なのはにあっさり打ち抜かれてしまう。カタリーナが責める事は無いにしても、はやては心中で友人に謝罪を並べた。
「しょうがないわね、はやて、そのイソーローに会わせなさい。どんな奴か見てやるわ。」
「それやったら、放課後に図書館で待ち合わせて、一緒に帰るから、一緒に待ってれば会えるよ。私もみんなのこと紹介したいし。」
「決まりね!なのは、すずか!アンタ達ももちろん来るわよね!?」
有無を言わさぬお姫様の鶴の一声、アリサの奔放振りに笑いながら、はやてはカタリーナに、連絡を入れた。
『友達と、図書室で待ってるから。』
放課後、カタリーナは突然難題にぶち当たることになる。
【アリサ・バニングスよ! さぁアンタの名前を聞かせなさい】
自分の知らない言語をハヤテの友人と紹介された少女が流暢に語っている。
当然、聞き取れない。
『マスター、音声解析しました。恐らく英語で貴女に自己紹介をしています。お父上の故郷の、言語の様です。』
『なるほどね。』
相棒からの助言に感謝する。…対策札がないわけではない。
元々ニホン語だって、勉強する必要なんてないからだ。
元々、異世界を回る管理局魔導師にとって、翻訳魔法は必須の技能である。
余り使った事はないが…この魔法そのものは、難しいものではない。
若干の緊張をしながら、魔法を展開する。*2単語、文法、発音、さまざまな知識が一時的に備わるのを感じる…問題ない。ゆっくりと…知らない筈の言語を語る。
【ごめんね、ちょっと聞き逃しちゃった、もう一回言ってくれる?】
【はぁ?だから、アンタの名前は?って聞いたのよ!】
【カタリーナ、カタリーナ・W・グレアム。家族からはカータって呼ばれてる。】
【そう、よろしくね。…それと、】 「もう良いわよ、なのは達がわかんないでしょうし。」
胸を撫で下ろす。どうやら、伝わったらしい。自分の翻訳魔法が実用レベルだったことが確認できたのは、良い収穫だ。
どうやら、この少女なりのコミュニケーションのつもりだったらしい。
「改めて、ハヤテの所に居候してます。カタリーナ・W・グレアム。カタリーナでも、長いからカータって呼んで、その方が慣れてるから。」
「月村すずかです。カータさんのアイコン…凄く素敵です。」
「ありがとうスズカ。上手く撮れたから、そう言われると嬉しい。」
改めて、ハヤテのお友達を見比べた。
スズカは、言われてみれば楚々としたお嬢様と言える。
アリサとは正反対のタイプに感じるが、セレブ同士通ずるところがあるのだろうか。
そして問題なのは3人目の女の子だ。
「高町なのはです。なのはって呼んでください。」
『高町なのは』という
稀に…こういった管理外世界で突然変異とも言えるリンカーコア持ちが生まれるとは有名な話だ。
「えと…か、カータ、さん?」
「カータ、怖い顔して、どうしたん?」
友人の言葉で現実に引き戻される。
失態だ、ため息を一つこぼす。
今の自分は『居候のお姉さん』であり、『お父様の駒』ではない。
「ご、ごめんごめん。良くないことを思い出しちゃって。よろしく、ナノハ。」
「にゃはは…悪いことしちゃったのかと思っちゃった。」
悪いのはあなたの才能です。そんな思いを腹の底に埋めながら、偽りの微笑みを浮かべる。
「で?良くないことって何よ?」
「ちょ、ちょっとアリサちゃん!」
スズカの静止は間に合わない。なんせもう此方に届いてしまっている。
助け舟に乗って冗談の一つでも言ってやろう。
「ヒトがこっ酷く振られた話でも聞きたい?」
メアリ 曰く、「恋バナは全人類共通のトークテーマ」とのこと。
「なんやそれ!初耳なんやけど!」
先ず飛びついたのは家主の少女。
「うん、だってそんなものないからね。」
同級生の男の子とまともに話したのは本日が初めてのカタリーナに、恋バナのネタなど、あろうはずもない。
「嘘ね!そんな誤魔化し通用しないわ!さっさと吐いちゃいなさい!」
二の矢を放ったのはアリサお嬢様。背後の二人もワクワクと目を光らせているのがわかる。
勢いで適当なことを言ってしまったことを半ば後悔する。
これから、男っ気など微塵もないことを懇切丁寧に弁解なければならないのだから。
なんとか、四人の追及を突破したカタリーナ。
弁解する度に虚しくなって行く自分に気づきながらも、収穫はあった。
家主の連れてきた子たちは、少なからず彼女に害を与える存在では無い。そう結論づけるに十分な情報が揃ったからだ。
「カタリナ先生?ホントに口から出まかせやったん?」
車椅子の向こうで意地悪な微笑みを讃えた家主が、未だに蒸し返す。
「ハヤテ?私もそろそろ虚しくなってきたから辞めて欲しいな?」
「冗談やて、ごめんな〜」
「許しません〜。誰のおかげで楽しいガッコー生活があると思ってるんですかー?」
「それを言うのは反則やろー!」
そんなじゃれあいの中も、はやての顔は明るい。
父親に余計な懸念点を増やさずに済んだ。
それが自身にとって最大の幸福である。
「でも、お友達ができたみたいで、ホントによかった。」
「心配しすぎやて、そういうカータは………」
その幸福に、水を差す存在。
ーーーたすけて。
全方位に展開された、思念通話。どこかの誰か、助けを求める少年の声。あろうことか、その思念通話をはやても聞き取れている。
「…ん?…どうしたのハヤテ?」
努めて冷静に、意識を切り離す。マルチタスクは魔導師としての基本技能。今の自分は、ハヤテの友人、居候のお姉さん、そんな仮装人格を演じ続ける手前、方策を考える。
ーーー誰か…魔法の…力を……
この雑音は、今の彼女には、必要ないものだ。
だけど、ここで無理に思念を閉ざしても、勘付かれる可能性が高い。
「なんか、聴こえへん?たすけてって声。」
声の主は掠れた意識だったというのに、ここまで鮮明に聞き取ってしまっている。凄い才能だ。…つまり、私が魔法を使えば、感づく可能性が高い。
だったら……。
「此処で待ってて。私が見てくるから。」
「なんでや、私も行く。」
「私一人の方が早く駆けつけられるし、何かあったら直ぐ連絡するから。」
「…分かった。気をつけてな?」
もっとごねて来るかと思ったけど、どうにか納得してもらえ……
ーーー誰か…聞こえませんか……?
性懲りも無く思念をばら撒く阿呆に苛立ちが募る。
『ああもう、聞こえてるから少し黙って!』
『!?』
一喝。ハヤテに、ナノハに聞かれないよう最善の注意を払い、発信源目掛けて思念を叩き込む。
『か、管理局の方ですか?実は…』
『いいえ違います、民間人です。迎えに行くからそこでじっとしてて。』
『良かった、お願いがあります実はーーー』
苛立ちの余り、一方的に思念を切断した。
声の主に対する要求など答えるつもりなどない。
確保次第、元の世界に強制送還するつもりなのだから。
路地裏に駆け込み、認識阻害を張った上でバリアジャケットを展開。
弾丸の如く空へ飛び立つ。
サイアク。…無意識にそんな独り言を吐き捨て、母親譲りの大事な銀の髪を苛立ちの余り掻きむしる。
発信源までは3分とかからない。さっさと終わらせて『ただのじゃれあいだった』とハヤテに伝えて、この話は終わりだ。
本当に
ホントウに
この後に、更なる不幸が待ち受けているとはカタリーナは露にも思わない。
ましてや、これが後世に伝わる『PT事件』と呼ばれる大事件の始まりなどとは、夢にも思わない。
気付けば前回の投稿がおよそ一年前…
感想を下さった方、ありがとうございました。
お陰様でエタラずにすみました。
これで後一年猶予ができた!…とは思ってません本当です。
次回、『魔法少女、現る』
ということで次回もお楽しみに