時刻は20時過ぎ、動物病院前で私は高町なのはを待っていた。
『カータさん、不味いことになりました。』
『ほんと、タイミングがいいんだか、悪いんだか。』
大きな、大きなケモノ。あれがユーノを返り討ちにしたジュエルシード…正確にはその魔力に当てられて訳も分からず力を得てしまった野生動物。
『ジュエルシードモンスター、なんてどう?』
『言ってる場合ですか!』
『狙いはユーノか、よっぽど攻撃されたのを根に持ってるみたい。』
ナノハから返事が来る、もうすぐ着く、そんな連絡だ。
『あの子はどうですか!?』
『もうすぐ着く……て、出られたんだ。』
『まあ、僕も一応魔導師なので…』
とりあえず、彼を拾い上げる、胸元で抱えてジュエルシードモンスター…もう、ケモノでいいか。
アレは敵意剥き出しに襲いかかってきた。結界を展開する。
これで、実際の建物に被害は出ない。
「ユーノ、ちょっと揺れるよ!」
「は、はい!」
振るわれる爪は単調、避けるのは簡単…でも迂闊に「戦闘能力」を見せるわけにはいかない。
片腕で彼を抱えながら、力任せに振るわれる爪を回避する。
抱き抱えた途端、急に大人しくなった。考えてみれば今や私は彼にとって絶叫マシーンも同じだ。配慮が足りなかった。
「ごめん、居心地悪いだろうけど我慢して。」
「あ、その…そういう訳じゃ……はい。」
煮え切らない返事。
フェレットなのに恥ずかしがっているのが分かる。
今更私に助けられて気不味いのか?なんにせよ呑気な奴。
「あ、あの子…!本当に来てくれるでしょうか!」
「来なかったら、私と心中だね、腹括りなさい!」
ぐおぉぉぉぉぉぁぉ!
出来の悪い映画にありがちな怪物の雄叫びと共に爪がめちゃくちゃに振るわれる。
回避は容易い、でもいつまでも避けてばかりではいられない。
早く、来い…高町なのは…!
「あ、あの!貴方が封印することはできませんか!?コレを使って!」
ユーノが差し出した赤い宝石。
つまりこのデバイスにインプットされた封印魔法を使えってこと。
「無理!私に普通のデバイスは扱えない!貴方を巻き込んで自滅してもいいなら使ってあげるけど!?」
「そんな…!」
万事休す…そんな絶望が見て取れる。いざとなったら武装して、アレを叩きのめす。だけどそれは最後の手段、あの動物は…何の罪もない被害者だ。できる限り、傷つけたくはない。
それに…私がまともな戦闘員と印象づけたら、こいつは間違いなく私を頼る。それはごめんだ。
『マスター、何者かが接近中、魔力反応あり、高町なのはと思われます。』
相棒の思念通話が流れ込む。と、頭上から爪が降り注ぐ。獣の脇を走り抜け、背後の塀が粉々に砕けた。…その向こう側に高町なのはが居た。
腕の中のフェレットを掴んで振り上げる。
「ユーノ!私が時間を稼ぐ!その間に、あの子にレクチャーしてあげ…て!」
「え…カータさ…ちょッ…待っ……!」
返事を聞く前に小柄なフェレットを空中に放り投げた。
同時に獣背中目掛けて駆け出す、なのは達から意識を私に向けさせないと…!
拳を勢いよく獣の体に食い込ませる。思ったより柔らかい。
デカブツ相手は久しぶりだけど、これならなんとかなりそうだ。
僅かな罪悪感に心の中で謝りながら飛び下がる。
「こっちだよ!遊んであげるからおいで!」
目論見通り、獣は唸り声を上げて私に体を向けた。
よし、いい子だ。
獣の向こう側でナノハがポカンと口を開けているけど、構っている暇はない。バリアジャケットが無い中、一発でも食らえばタダでは済まない。何より、この服は結構気に入っている。破れたら結構凹む。
「カータさん!」
「私はいいから!早くその子に教えて!」
ユーノの悲痛な声に淡々と答えながら薙ぎ払われる爪を飛び避ける。
知性が皆無なのが幸いした、この子は闇雲に私を攻撃しているだけに過ぎない。
「だったら…!」
獣にバインド魔法を施す。
使うつもりはなかったけど…どうせユーノ経由でバレるのだから、基礎魔法でなんとか時間稼ぎをする。
獣は身動きを奪われて悶絶すること十数秒、あっさり私の魔法を引きちぎった。
振るわれる爪を今度はシールドで受け流す。半端な強度のそれは瞬く間に砕け散る。…強度の調整もできた。あとは、なんとかモンスターの攻撃を受けて時間稼ぎする様を演出すれば良い。
さぁ、見せてもらいましょう、街を救うヒーローの誕生を。
何が起きてるか分からない。
目の前には映画に出てくるような大きな動物が家や塀を破壊している。
それを…はやてちゃんと一緒にいたお姉さんが、戦っている…?
も、もう何がなんだか分からないよ…!
「不味い…あの人は、戦える状態じゃないって聞きました!急ぎましょう!」
「ふぇ!?、う、うん!」
ていうかフェレットが喋ってる…!?
どういうこと〜〜!?
「手短に話します!貴方には魔法の才能がある、僕らに協力してください!」
「魔法の才能!?それって…!?」
「すみません、後でゆっくり説明します!僕はユーノ・スクライア!このデバイス、レイジング・ハートで、あの動物を支配するジュエルシードを封印して欲しい。」
ユーノ君と名乗ったフェレットは私の掌に赤い宝石を乗せた。
吸い込まれるような、綺麗な赤色の宝石。
その向こうで、カータさんが何度もバリア(?)を破壊されている!
早く、助けに行かないと…!
「どうすればいいの!」
「僕に続いて!」
ーーー我、使命を受けし者なり。
「我…使命を受けし、者なり…。」
その言葉は、私の中に違和感なく入り込んだ。
ーーー契約のもと、その力を解き放て。
「…契約のもと…その力を解き放て。」
まるで、最初から私が知っているみたいに。
ーーー風は空に、星は天に、
「風は空に、星は天に」
手の中の宝石が…熱い…!
ーーーそして不屈の魂は
「この胸に…!」
この手に魔法を。…!
レイジングハート、セット…アップ!
目を開けられない程の光が私を包んだ。
私、高町なのはが魔法少女になった瞬間なのでした…。
数えること10枚目のシールドが破られた時、桃色の光柱が天を貫いた。ジュエルシードモンスターくんも釘付け。
『マスター、成功のようです。』
「羨ましい才能だこと。ゲイト、推定値は?」
『数値だけで言うなら、AAA+はあるかと。』
呆れた才能だ。クロノと同レベルの天才…あんなのがポンポン居てたまるかって感じなんだけど…。
「嫉妬してる場合じゃないか。」
『どうされますか?今なら気付かれずに離脱可能です。』
「どうせ後から問い詰められるよ、私の素性はバレてるんだから。」
それに…素人さんの放つ魔法だ、幾らデバイスが制御してくれてるとは言え、暴発の可能性はゼロじゃない。
最悪、私があれを止める必要がある。
『Sealing mode』
杖というより槍…そんな印象を持つ金の穂先が変形する。
ナノハの放つ魔法がジュエルシートモンスターにからみついていく。
あの様子だと、私の杞憂に終わりそうだ。
『stand by ready』
「リリカル…マジカル…!ジュエルシード…シリアル21!」
ナノハの呪文に背筋が凍りつく。
…決して、彼女の無意識の呪文に対してではない。
今封印しているシリアルのナンバーだ。
……あんな物が最低でも…21個…?
頭が、痛い。
『欠番というのも、あるかもしれません。』
はは、慰めドーモ。
封印魔法によってジュエルシードの魔力は安定していった。
後に残るのは…野良の犬が1匹と青い宝石が一つ。
それも、あのデバイスの中に格納されていった。
さあ、最後のお仕事だ。
「お疲れ、ナノハ。」
「ぁっ、カータさん!これ、一体どういうこと…!?私、何がなんだか…!」
不味い、興奮冷めやらぬ、そんな具合だ…まともに相手していたらこの子のペースに巻き込まれる…。
「その前に一つ良い?…なんでよりにもよってウチの制服をバリアジャケットにしたの?」
「ふぇぇ、だ、だって!咄嗟に思い浮かばなかったんだもん!じゃ!なくて!これ一体どういうこと!?どうしてカータさんも魔法が使えるの!?」
ダメか、思った以上に我の強い…これなら平手打ちの一発平気で出せるのも頷ける。
「私だって、そこのフェレットに巻き込まれたんだから。事情は彼から、よぉく聞くように、それじゃあダメ?」
「ダメ!カータさんが魔法使いだってことの説明がされてないよ!」
それに…賢い。有耶無耶にするのは無理、か。、
「このフェレットと、同じ世界の出身だから。これでも不満?」
「え!?だって、イギリスから来たって、はやてちゃんが…!」
「アレ嘘。私たちにもいろいろあるの、私だけの問題じゃないから…これ以上は話せない。お願い、協力してあげるから、分かって。」
こういう相手には、コレが一番利く。
話さないのではない、話せない、そういう理由をキチンと明確にしてやる。コレで踏み込んでナゼナゼと問うのなら…大見得切って人様に説教などはしない。
「分かった、いつか、ちゃんと話してくれる?」
ほら、納得して無さそうだけど、頷いた。なんてチョロい。
「時が来たらね、それまでは我慢して。」
そんな日は来ないと思うけど。
私がお父様を害する事なんてあるものか。
貴女には精々…この街を救うヒーローになってもらいます。高町なのは。
「こほん。」
わざとらしい咳払い、ボクの話を聞け、ってこと?
結構厚かましい、このフェレット
「改めて…ボクはユーノ・スクライアと申します。」
「私、なのは、高町なのは。よろしくね。」
「カタリーナ・W・グレアム、よろしく。」
各々の挨拶もそこそこに、フェレットは悠々と、自分の素性と事情を語り出した。
やっぱり、どこか厚かましい。
非現実的な展開に浮足立っていたナノハも、だんだん状況が理解できたのか、顔はどんどん、険しくなっていく。…良い顔だ、そんな顔も、できるんだね。
「それって、すごく危険なんじゃ…!」
「うん、危険だよ。だから無理に協力してとは言わない。」
「そうじゃなくて!そんなのが暴走したら!この街全体が危険だよね…!?」
8歳でそんな思考は、なかなかできない。少しだけ私は、彼女の評価を改めた。
「そう、だからナノハに集めてほしい。そのデバイスも貴方のことを認めたみたいだし」
何より、いくら才能豊かとはいえ、魔法のマの字も知らないど素人が、あそこまで綺麗な魔法を行使できた。このデバイスが優秀なのもそうだけど、ナノハがこの子を使いこなしたのが何より大きい。
そして、無調整でここまでイキの合うコンビを、私は知らない。
「凄い才能だよ、そんなに凄い子は…こっちの世界にだって限られてる。」
「ありがとう….よろしくね、レイジング・ハート」
『こちらこそ、マスター』
このコンビは脅威だ、敵に回すと確実に厄介な存在になる。
ただ…お父様の最終目標には…邪魔だ。
だって…お父様の目的は…
「あの、カータさん、改めてボクらに協力してください。貴方も相当な使い手のはずです。キチンとデバイスが有れば…」
「お世辞はいらない、乗り掛かった船だから協力はする。…ただし、あくまで裏方としてね。私がナノハと前に出ても、足手まといにしかならない。」
それに、キチンと相棒はいます。使わないだけで。
「私の役目は、ナノハに魔法を教える。貴方は、現場でナノハの補助。これで良いでしょう?それに…もうこんな時間。…ハヤテから鬼のようなメッセージが飛んできてます。」
スマホの画面には数を口にするだけでも億劫な未読メッセージの履歴。
「あ!私も帰らないと!…ゆ、ユーノくん!とりあえず!ウチに来て!カータさん!続きはえっと…明日学校が終わったら!」
…慌てるナノハを他所にメッセージを開く。今どこにいるのか?何時に帰ってくるのか、どうして電話に出ないのか、そんなメッセージが濁流のように羅列している。
…居候相手に心配しすぎだ。恋人じゃあるまいし…。
ナノハを見ればまだワタワタと何かを慌てている。これは長くなりそうだ。二人に挨拶だけしておこう。
「じゃあ、また後で。ユーノ、帰ったらナノハに、思念通話のイロハを教えてあげて。この子ならすぐ覚えると思う。」
後ろから呼び止める声がきこえるが、聞こえないフリをする。
と、結界を解くのを忘れていた。
さぁ、帰ったらハヤテに平謝りだ。
一緒に寝てあげれば、ご機嫌取りにはなるでしょう。
カタリーナ・W・グレアム。
彼女は僕と同じ世界の出身だそうだ。
謙遜してはいるけど、かなりの使い手。
多分、あの人一人でも状況解決は出来そうな気がする。
でもそれは…僕が勝手に思っているだけだ。
本人がそれを否定した。なのはという子の足手まといになる。
確かに、この子は凄い、あの時も多少のミスは許容するつもりだった。
僕がサポートし、確実に封印する…つもりだった。
彼女は一人で全て解決させた。
高町なのは。この子は天才魔導師だ。
僕なんか足元にも及ばない。起動するのも一苦労だったレイジングハートをあっさり使いこなした。
確かにあんな才能を見せつけられたら、大概の魔導師は自分のことを足手まといというに違いない。
僕も、現場でのサポートなんて、いらないと思っている。
でも、カータさんが足手まといなら…僕こそなのはの足手まといにならないかな…
とにかく…!彼女らの協力があれば、僕は今度こそ使命を全うできる。
早く終わらせて、彼女達を元の日常に返してあげるんだ。
そりゃ年上の綺麗なお姉さんの胸に抱かれたら、静かにもなっちゃいますよね。