孤独な少女の望むモノ   作:g_c

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未知の魔導師

あれから数日が経過した。毎朝1時間の実践、そして日中は思念通話による基礎知識の詰め込み。

 

今のナノハは魔力とデバイスの性能に任せた、極めて乱暴な魔導師だ。

例えるのなら、すごく重たいハンマーを腕力任せに振り回してる。

それでは、歴戦の魔導師には勝てない。

 

でも、それも後数日の話。

 

ナノハは、すごい魔導師になる。私なんか…あっという間に追い越してしまうだろう。

さて…天才児の話はそこそこに…先日の大失態についてだ。

 

 

 

お父様は、何も言わなかった。

 

 

 

正確には、私を非難しなかった。

許してもらえたのではない。今まで積み上げてきた物を相殺して、お側に置いてもらっている…それだけだ。

 

『お前が無事でよかった。』

 

あのお言葉は、道具の破損がないことを確認したにすぎない。

落としたスマホが割れていないかと心配するのと同じ行為。

 

もう、失敗できない。

 

そんなストレスを発散する為に、家から少し離れた小さな山に最近通っている。

時刻は19時を半分ほど過ぎたころ、登山道の先にある広場のベンチで空を見上げる。特別何かを探すでもない。当ても無く、果たしない空を観測する。

事前知識を仕入れてないから、探す事ができないというのが正直なところ。

今度は図書館で天体の図鑑でも借りようか。

 

「……?」

 

ふと、何かに導かれる様に木の根本へと視線が移った。

暗くてわかりにくいけど…青い…宝石のような…?

 

『マスター、ご注意を…ジュエルシードです。』

 

「ゲイト、結界と封印術式。」

 

こんな時間に人なんか来ないだろうけど、念の為人払いの簡易結界を発動と、レイジングハートから教えてもらった封印魔法を展開する。

封印制御はゲイトがしてくれるから私は魔力を流し込むだけ。

 

『封印、完了しました。』

 

「うん、ありがとう。」

 

手の中で静かに佇む宝石、こうなってしまえば綺麗な物だ。誰かの手に渡る前に見つかってよかった。明日、ユーノに渡してあげよう。ゲイトの中に格納しようとかざした時だった。

 

「それを、渡してもらえませんか?」

 

静かで、綺麗な声。

 

どこから現れたのか、いや…そもそもここは簡易とはいえ結界の中、外から入れるのは…同業者か、それに準ずる何か。

 

警戒して振り向いて、驚く。まだ小さな女の子だ。金色の綺麗で、豊かな髪をサイドに結わえた、ハヤテと同い年くらいの女の子。

 

持っている得物は…鎌、かな。でもバリアジャケットを構えていない。私を甘く見ているのか、それとも警戒心を抱かせないためか。

答えないとは思うけど、一応聞いておこう。

 

「何に使うの?こんな物。」

 

「………。」

 

返事はない、つまり私の返事はyes/noの2択しか受け付けないということか。

 

「悪いけど、目的も話せない様な人には渡せない。諦めて帰って。」

 

「……母さんが、欲しがってるんです。」

 

その言葉に少しだけ心が揺れた、けどありきたりだ。そんな事で泣き落とされるなら、執務官は務まらない。…今の私は民間人だけど。

 

「そう、残念だね。もう私が拾った物だから。貴女には渡せない。」

 

相手をするだけ時間の無駄、歩き出す。敵対行動をするならそれでも良い。なんにせよ、私が彼女に攻撃する理由は……

 

「渡せないのなら、力づくでも…!」

 

魔力の刃が、私の首筋に添えられる。殺意は感じない。この刃も大方、非殺傷がオンになってるのだろう。

 

重要なのはそこじゃ無い。ここは管理外世界だ、魔法なんて知らない人たちからすれば私たちは超常の存在。そんなところでこの子は一戦交えると言うのだ。

 

そして何より、それはハヤテの日常を自らの意思で侵食する事を意味する。

 

それは、お父様のご意思に対する敵対行動。

 

「そうか…じゃあ…」

 

ガチリ、と撃鉄を落とす。

刃を当てられたまま、彼女に視線を向ける。…僅かに怯んだその隙を私は見逃さない。

 

「お前は(お父様)の敵だ。」

 

起動呪文は必要ない、相棒は私の意思を解釈するのが得意だ。もう私は、銀の装衣を身に纏っていた。

 

「バルディーーーー」

 

遅い。

 

「しッ!」

 

「ッ!!」

 

バリアジャケットを展開する間など与えない。起動の瞬間に私は致命打を叩き込む。あっさり防がれた事実にを嘆く必要はない。

こういう天才は、見慣れている。

不意打ちでなければ、危なかったかもしれない。

 

 

戦いとは論理だ。敵を倒す為にどうするべきか?その最適解を突き詰めて、答えに到達したものが勝者となる。そこに良し悪しは存在しない。差し詰め卑怯者という言葉は…敗者の言い訳だと、私は思っている。この国には『勝てば官軍、負ければ賊軍』という言葉がある。

 

つまり、負けた奴が悪いのだ。こんな不意打ちを許す程、魔導師の前で気を抜いた彼女が悪い。

 

「はぁぁぁ!!」

 

「ッーーー」

 

文字通り滅多打ち、拳を、肘を、脚を、膝を…その悉くを斧の柄で受け止められる。凄まじいクロスレンジの才能の持ち主…、

どんな死角を突いても、未来予知のようにそれを止められてしまう。偽りの優勢に歯噛みする。

 

なりふり構わない私、冷静に脅威に対抗するこの子、さぁ、本当に優勢なのはどちらか?

 

「しッ…!」

 

その答えは、私が想像するより早く訪れた。

 

「ッ………!」

 

「なッ……!?」

 

焦って放った私の渾身の拳。その焦りを彼女は見逃さなかった。

 

斧の柄が私の拳を真横に弾く。

 

赤い、どこまでも赤い瞳が私を射抜く。

 

「はァっ!」

 

「ぐ…ァ、!」

 

横薙ぎに振われた一撃が横っ腹を綺麗に撃ち抜く。空中で体勢を整えるけど、もう遅い。衝撃でチラつく視界を治すのに1秒と少し、彼女の姿をはっきり捉えた頃にはもう戦闘体勢を整えていた。

 

「もう一度言います、ジュエルシードを、渡してください。そうすれば…」

 

命までは奪いません。

 

金の魔導師が淡々と事実を言い放つ。

 

油断をしてるわけでも、私を過小評価してるわけでもない。この数回の撃ち合いで、彼女は力関係を理解したんだ。この魔導師(カタリーナ)は自分より格下だと。

 

「甘い。」

 

「え…?」

 

「私なら、この隙に殺した。そんな押し問答に意味なんてない。」

 

赤い瞳を睨みつける。敵に説教されるなんて思ってもなかったのか、彼女の瞳は大きく揺れる。

 

そうだよ、そういうところが甘いんだ。

 

「ジャンプ・ステップ」

 

転移の魔法を脳内に叩き込みながら姿勢を整え、起動。彼女の眼前に現れて華奢なその鳩尾目掛けて拳を叩きつける。

 

「かは……!」

 

取った。

 

その確信、でもまだ詰んでいない。そのまま彼女の首を引っ掴む。呼吸がギリギリ成立する程度に気道を締め上げる。

 

「ァ……が。」

 

「この危険物で、何を企んでる?」

 

「………ッ。」

 

答える気、ナシか。

指先が喉笛を千切るつもりだったけど、気が変わった。

クロノに突き出そう。未遂とはいえ、こんな危険物を掠め取ろうとしてる、次元事件として十分取り上げられる。うまくすれば、私にも情報が回ってーーー

 

「フェイトぉぉぉぉお!」

 

横から響く、衝撃。視界の端に映る、オレンジの毛並み、獣が私を思い切り突き飛ばした。

 

「チッ……使い魔。」

 

受け身を取りながら、主人を守る獣を睨む。それはヒトの形に姿を変えた。長身の女性型、髪色は本来の体毛のままなのか、明るいオレンジ…いや、赤色?暗くてわかりにくい。…いや、どうでもいいか。

 

「アンタ、とんだヒトデナシだね。」

 

開口一番、怒りに震える使い魔は犬歯剥き出しに私を威嚇した。たかだか不意打ち一発でヒトデナシとは、犯罪者に言われたくはない。

 

「主人ともども甘っちょろいな、犯罪者のくせに。」

 

「フェイトを!そんな風に、言うなぁぁぁぁ!」

 

背後のご主人の静止も聞かずに、獣は安い挑発にあっさり乗ってくれた。速い、使い魔でここまでクロスで戦えるなんて、お姉さ…お姉ちゃんしか知らない。そして、こいつは()()()()()()()()()()

 

力任せに振われる拳、それが平時の戦いでは無いことは殺意剥き出しにの瞳から見て取れる。一回、二回と拳を避けた上で彼女の脇腹に一発回し蹴りを叩き込んだ。

 

声にならない悲鳴をあげて使い魔は大木にぶち当たる。背中を強打した、これでしばらくは動けないかな。

 

「アルフ!!!」

 

響く悲痛な声が夜空に響く。これでは私がいたいけな少女とそのお友達をいたぶる悪い奴みたいだ。

 

『どっちが悪者かわかりませんね。』

 

相棒の冷ややかな言葉を無視して、魔導師に向き直る。既に彼女は立ち上がっていた、失態だ、勝機を逸した…また油断、学習しないな…私。

 

「貴女は…何者、ですか…?」

 

武器を構えたまま、魔導師が問いかけた、時間稼ぎのつもりか、いやそんな必要はない。彼女が本気を出せば、私は倒れ伏している。それとも私の真似っこ?どちらにしろ付き合ってあげる義理はない。

 

無言で彼女の懐に再び転移の魔法(ジャンプ・ステップ)で潜り込む。クロスにおいてこの魔法は最大のカードだ、攻撃を認識する頃には既に敵は一撃食らっている。もう一発、食らわせて………。

 

「…そこ!」

 

「……うそ…!?」

 

転移、攻撃、命中、コンマ数秒の猶予の中で私の攻撃は認識され、見切られ、完全に受け止められた。こんな事…初めて、いや違う。お姉ちゃんやクロノにもできる、つまり彼女は……。

 

「同じ手は…通じません。答えてください。何者ですか。」

 

「そう、じゃあもう一回。」

 

今度は彼女の背後に映る、身体を回しながら裏拳を顔面目掛けて…。

 

「それは…もう通用ーーー」

 

 

撃たず、彼女の言葉は声にならない悲鳴でかき消した。

寸前に身体を捻って、身体の裏に隠した拳で顔面への攻撃に集中してガラ空きの脇腹に突き刺したからだ。空気を絞りだしたかのような悲鳴、…綺麗な声のヒトは悲鳴もサマになる。

 

今度こそ、このゲームを終わらせる。

 

崩れた姿勢の彼女に目掛け拳を振り上げる。これを彼女の人中にでも叩きつければ、ゲームセットだ。

 

「や、めろぉぉぉぉぉ!」

 

「ッ………!」

 

背後から迫る使い魔の奇襲、反射的に脚を後ろに回し撃つ。

 

「ぐぁ!?」

 

「しぶとい……!」

 

そんな悪態をついた直後、背筋に凍る様な悪寒が走る。見るまでもない、背後に残した金色の死神が…大きく鎌を振り上げている…!

 

『マスター、失礼いたします。』

 

覚悟を決めたその瞬間、私の視界はまるで映画のワンシーンの様に何度も、何度も切り抜かれた。ゲイトが転移を使ってくれたからだ。

 

「ゲイト…!邪魔、しないで!!」

 

『失礼ながら、貴女一人ではアレらを相手取るのは無理です。高町なのはと協力すべきと具申します。』

 

そう言うとゲイトは勝手に転移を刻んで、私の体をどんどん逃走させていく。とっくに結界の外に逃げ出して、いつの間にか私は、人気のない車道に出ていた。バリアジャケットも解除されている。

茹だった頭が、冷えるには十分な時間をもらった。

 

「……ごめん、ありがとう。」

 

『恐縮です。早く帰らないと、はやてが心配しますよ。病人にストレスは何よりの毒です。』

 

「そうだね。」

 

背後の登山道を見上げる。

幸い、追跡の意思はないようだ。

向こうからすれば私は、突然逆上して襲いかかった上に、言葉も通じないイカレタ魔導師だ。

 

次に会った時、問答無用で斬り伏せられるかも。

 

『自業自得です。貴女は、もう少し自制を覚えてください。』

 

「うん、気をつける。」

 

『はやてへの言い訳は、ご自分で考えてくださいね。』

 

助け舟はここまでです。そんな冷たい事をいう相棒、見れば私の体はだいぶ汚れている、気付かぬ内に生傷を負ったらしい…これから起こる追及劇に辟易しながら、私は帰り道を辿っていった。

 


 

「ちくしょう!なんなんだい!アイツ!いきなり襲いかかった上にフェイトを犯罪者呼ばわりして!」

 

帰り道、アルフはずぅっと私の為に怒ってくれた。

矛先は、さっきの銀髪の魔導師だ。

 

「ありがとう、アルフがそう言ってくれるだけで、十分だから。」

 

「でもフェイト!アンタは、母親の言う事を聞いてるだけだろう!こっちの事情も知らないで!犯罪者呼ばわりだなんて…次に会ったら、タダじゃおかない!」

 

その言葉は私の溜飲を下げるのに十分、それより私は彼女の正体の方が気にかかる。ここは管理外世界、魔導師がそう何人も居る筈はない。

 

「ねぇ、アルフ、あの人…誰なんだろう。」

 

「……名乗ってなかったね、管理局の差金じゃないのかい?」

 

そうだろうか、彼女はこう言った。「私なら殺した」…局員ならもっお違う言い方をした筈だ、例えば…「気絶させる」とか。

 

「なんにせよ、私らの敵って事に違いはないよ、それに…フェイトの方が強いじゃないか。アイツ、卑怯な手ばっかり使って。最後は尻尾巻いて逃げたんだよ?情けない。」

 

「そうかな…?あの人、すごく強いよ。少なくとも、アルフが割って入ってくれなきゃ、負けてたかもしれない。」

 

不意打ちが初動とはいえ、私一人で状況を覆すのに時間がかかった、たまたま…彼女の隙を見いだせただけ…。私は、あの人が自分より弱いだなんて思えない。

 

「…にしても、話の通じない奴だったね。フェイトの問い掛けを完全に無視してたじゃないか。」

 

「そう、だね。静かなヒトだと思ったんだけど。」

 

ヒトが変わるっていうのはああ言う事を言うのかな、それともあれがあの人の本性…?わからない、わからないけど。

 

「あの人が誰なのかは、ちゃんと知った方が良いと思う。」

 

あんな魔導師がこの町にいる。それも母さんの欲しがるジュエルシードを集めている。でも何のために…?管理局の人間でないことは間違いない。もしかすると、ジュエルシードの元の持ち主…?ううん、違う。だとしたら自分の持ち物だと主張するはず。

 

それに、あの人は私のことを「お父様の敵」と言った。

もしかしたら、私と同じ境遇なのかも。そうやって思うと、アルフの様に敵意を剥き出しにはできなかった。

 

「考えたって仕方ないよフェイト、次はあたしがアイツをぶん殴ってやる!」

 

「…そうだね、アルフがいるなら大丈夫だ。」

 

大切な使い魔の心強い言葉で、少しだけ不安が晴れる。

管理外世界にあんな魔導師がいるのは想定外だけど、アルフと一緒ならきっとなんとかなる。

 

夜空を駆けながら、少しだけ私は勇気をもらった。

 

 






フェイト、強者の余裕

カータ:超現実主義
フェイト:超謙遜天才児

つまりそういうことです。

フェイト初登場はずっと前から決めてました。

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