またもや妥協。
ここまで作るのに一年かかった受けるw(笑えない)
月村家の使いが八神邸に迎えに来た。
その日のためにわざわざ用意したであろう車椅子を迎え入れるアタッチメントまで用意されるあたり、すずかの気遣いが見られる。
「随分落ち着いてるんやね、もしかして慣れてる?」
「そう見える?これでも目移りしてるんだけど。」
彼女の父は高級役職、無論そう言ったVIP待遇を受ける事が稀にあった。なので大袈裟に見回すことはしない。*1
外観が似てるとはいえ細部は異なる。
カタリーナにとって目新しいことに変わりはない。
「そういえばカータもお嬢様やったねぇ。」
「そんなことなくってよ?」
「一気に安っぽくなった!?そんなコテコテなお嬢様見たことないで!」
互いの軽口が後部座席を程よく盛り上げる。
運転手の壮年の男性はバックミラー越しに微笑ましげに口を開く。
「仲がよろしいんですね。まるで姉妹のようです。」
姉妹、その言葉にカタリーナの思考回路が停止した。
「ありがとうございます、家族が増えたみたいで毎日楽しいですよ〜。なぁ、……カータ?どないしたん?」
「…ううん。なんでもない。…そういえば沢山動物を飼っていらっしゃるとか!」
とってつけたような微笑み。先ほどの自然体なものではない。
そこからやんごとなき事情を察した運転手はハンドルを握り直す。
「…ええ、お嬢様は大の猫好きでいらっしゃいますから。お二人とも、動物はお好きですか?」
「私は…どうでしょう。ハヤテは大好きみたいだけど。」
「何カッコ付けとるんや!Y○UTUBEの試聴履歴に猫がびっしりなの知っとるんやで!」
「違います、言いがかりです。おすすめに猫動画しか上がらないだけです。」
「墓穴!それ猫ちゃんしか観てないってことやろ!」
再び盛り上がる後部座席に、安堵の吐息をこぼした運転手は今度は彼女らの喧騒をBGMに運転に集中する事にした。
「お世話ってコストを払わずに癒しだけ得られるんだよ?こんなコスパの良い娯楽ほかにないよ!だから私は間違ってません。」
「言い方!」
運転手の口元が緩む。余計なノイズを与えてしまったが、元鞘に戻ったのなら良し。…そんな気配りの利く男だが、バックミラー越しに彼の様子を見ているモノがあったことには気づかなかったらしい。
さて、程なくして到着した月村すずかの邸宅。
大仰なゲートが車を抜けると、豪邸という表現に相応しい建物がそこにはあった。
(お父様の知人にもこんな立派なお屋敷はなかったかも)
カタリーナの青い瞳が二転三転する。大理石の噴水は街の公園にありそうな…そんなレベルのものではない。微かな黄味を感じさせる灰色の石は、恐らくそういうデザイン設計なのであろう。古びた…ではなく年季を感じさせる。俗に言うアンティーク感、というやつだ。
通路から逸れれば整備された芝の先に森が見える。そう、一個人の敷地に森があるのだ。
(わぁ…管理が大変そうだ。誰の趣味なのやら。)
微笑ましい。そんな感情にカタリーナの口角が緩む中、隣の席から視線が刺さる事に気がつく。
「なに?」
「ううん、楽しそうやなって。」
「ハヤテだって人のこと言えないよ?ほーらこんなにゆるゆる。」
「いはーい、ひゃふはいやー!*2」
「そんな棒読みで言われても説得力皆無だね!」
はやての柔らかいほっぺに意地悪をすること数十秒、カタリーナ車が停車していること、そしてバックミラー越しに運転手に見守られていることに気がついた。
「ふふ、お取り込みのところ失礼します。到着しました。」
「ハヤテ、運転手さん困ってる。」
「じゃあ早くほっぺた離してくれん?」
「なんだ、ちゃんと喋れるじゃない。」
なんやかんやと姦しい少女二人が落ち着くのを見計らって、運転手は車外のメイドに目配せを送った。
はやてが車内で降車の準備を終えた頃合いに、メイドが扉を開く。
タイミングは遅すぎず、早すぎず、「降りる」と意識したタイミングを計ったかのように扉が開いた。
そのあまりの洗練振りにカタリーナは舌を巻く、その思考を知ってか知らずか、はやてはペコリとメイドに頭を下げた。
「ありがとうございます、待ってもらっちゃって。」
相変わらず常人離れした8歳児、そこがはやての良いところであり悪いところである。
「とんでもございません。ようこそおいで下さいました。お手荷物、お預かりいたします。」
客人の常識離れに驚くことはしない、ただただメイドは礼を返すだけ、恐るべきプロ意識だ。
「いえ、大丈夫です。私たちからのお土産ですから」
「失礼致しました。ではご案内致します。」
同居人の車椅子を押す役目も買って出てくれたが、これも辞退した。
別に手間とも思わない、なんならこうされる事をハヤテが望んでいる様にも思うから。
「はやてちゃん、いらっしゃい。」
これまた幾らするのかわからない立派なテーブルが庭先に並べられているなか、主催であるスズカが、私たちの前に飛び出してきた。
「呼んでくれてありがとう、すずかちゃん。」
「全く遅いわよ!一番の遅刻ね!」
たはは…と笑いながらごめんなぁ、と返すハヤテを尻目にナノハの姿を探した。
猫たちに取り囲まれぬよう肩の上で震えるユーノがいるせいか、彼女は椅子から立ち上がれないようだった。
『なにしてるの。』
『ゆ、ユーノくんが怖がっちゃって…。』
何やってんだアイツ…。
確かに襲われるかも…と言ったの私だが、それを真に受けてどうする。
猫とフェレットはどちらも捕食側の存在だ。
向こうだってそれをわかってるから迂闊に近寄ることもないだろうに。
仕方ないな…。
「ユーノ、おいで。」
肩に乗る彼に手を差し出す。
不本意ながら自分は動物に好かれるタイプではない。
近寄ると軒並み逃げ出すのだ。
今だって、私の歩いた道筋を遠ざける様に猫たちが距離を置いている。
泣きそう。
少なくとも、自分のところにいれば寄ってくる猫はいない。
『た、助かるよ、カータ。』
『どういたしまして。』
ナノハは兎も角、私はそもそもハヤテの付き添いで来ている。
メインはハヤテなのだから私はここで春風と紅茶を楽しむことにしよう。
『ひとつ、聞いてもいい?』
『なに?』
これまたよそよそしい。こういう前置きはプライベートに踏み込むぞ、という予防線。
少し前ならシャットアウトするつもりだったけど、今は答えられる限りは答えようと思う。
『どうして、そこまでして僕らを助けてくれるんですか?』
『言ったでしょ、ハヤテの身を守るため、あなた達の為じゃない。』
『それでもだよ、管理局に通報をすればそれで終わっていたこと。でも…カータはそうしなかった。』
紅茶を啜り、テーブルの向こうで騒がしい四人組を背景にユーノな言葉を待つ。
『気を悪くしたらごめん、君は…合理的なヒトだ。だから僕らと協力することが君にとってプラスのはず。それが何なのか、知りたくて。』
『………。』
確かに彼らに協力しているのは打算的だ。
任せっきりにしたらどんな事が起きるかわからない。
だから自分で監視をする。余計なことをして…私の目的の邪魔にならない様に。
…でも本当にそれだけ?
本当に私は…お父様の計画の為に彼らに肩入れしているの?
考えても、答えの出る問答ではなかった。
結局私の出した答えは
『…執務官として、当然のこと。これじゃダメ?』
ユーノも、自分も誤魔化すことだった。
私自身納得してない。
でも、彼に返すべき言葉がこれしかなかったのだ。
『そうか、ごめん…変なことを聞い…てぇ!?!?』
どうしたと膝を見ると子猫がいつの間にか乗っかっていた。
…珍しい、こんな風に寄られたことなんてなかった。
「に〜。」
こんにちは、そんな風に挨拶をされてる様に感じた。
黄金に近いその色合いの毛並みはどうしてだか、故郷の唯一の友人を思い起こさせる。
こんなにおとなしい子なのにユーノは肩の上で完全にオブジェとなっていた。
怖がりすぎでしょ。
「あなた怖いモノ知らずね。私の友達にそっくり。」
耳の裏を指先で掻いてやる。
そうすると頭を私の指先に押し付けてきた。
もっとやれ?よしよし、お望み通り…。
「「「!?」」」
強烈に感じる大きな魔力。
間違いない、じゃあルシードだ。
「んに!」
さて、件の子猫だが…その行動は早かった。
なんせ私の膝から1秒と経たず飛び降りた途端…彼(彼女?)はすごい速さで広い屋敷の裏庭にある森の中へと突っ込んでいったのだ。
「ちょ…!…あ〜もう!ほんっとメアリみたい!…ナノハ!ちょっと手伝って!」
まさかあの魔力が気になって様子を見に行ったのか、そんなバカな…だとしたらとんだ好奇心お化けである。
一人で子猫の捕獲なんてやってられない!
そんな流れでどうしようとオロオロしていた彼女を呼びつける。
返事は聞かずにあの子に続いた。
子猫を追ってたどり着いた先は、予想通りジュエルシードを見つけてはしゃぐ可愛らしい姿がそこにあった。
前足で叩いたり、転がしたりと、それがなんなのかわからないが故の無邪気さで遊んでいる。
これがジュエルシードでなければ動画で撮影したいところだ。
「危ないからこっちにおいで。いい子だから。」
無駄だと思いながら声をかける。
予想通り、私の言葉なんて全く届いていない。不思議な気配たっぷりの見たこともない存在は、あの子の好奇心を大いに刺激してしまったらしい。
『マスター、結界を張ります。』
「よろしく。」
やりとりから1秒、結界により外界とのつながりを遮断する。
これで、万一のことがあっても問題ない。
ゆっくり、ゆっくりと刺激しないように子猫に近づく。
「ね、スズカたちのところに戻ろっか。」
「にぃ〜!」
その甲斐虚しく、子猫の呼びかけに応えてジュエルシードは活性化。
みるみるうちに子猫の図体はデカくなっていく。
「世話が焼けるなぁ。」
アレはエネルギーの塊、それが可能な限り願いを叶える。
この子は「大きくなりたーい!」とかそんな能天気なお願いでもしたんだろう。
「ほんと、
「誰かさんって?」
「なんでもない。出番だよ魔法少女さん。」
「だから
後ろから追ってきたナノハの肩を叩いて遥か彼方から接近していた魔力反応に目を向ける。ジュエルシードあるところに、彼女アリ。
「招待されてもないお客様だ。私が時間を稼ぐからジュエルシードは任せたよ。」
「うん!気をつけてね!直ぐに戻るから!」
信用されてるようで何より。
彼女の視界からナノハを遮るように立ちはだかる。武装することはできない。ナノハにとって私は「少し魔法が使える程度のお姉さん」でなければならない。…いつまでごまかしていられるのやら…。
「こんにちは、魔導師さん。」
「こんにちは。…武装はしないんですか?」
彼我の実力差をもう理解している。
万全の私を倒すつもりなの?
だとしたら…随分光栄なことだけど。
「こっちの方が貴女にとって都合がいいと思うけど?」
「そうですね、いきなり襲われないよりは。」
彼女は驚くことにデバイスを下ろした。その意図が読めない。
「どういう風の吹き回し?」
「貴女が仕掛けて来ないので。」
「先手を譲るつもりだったんだ?」
「正面からなら、負けません。」
面と向かって言われると流石に思うところがある。
悔しいけど事実なのだから仕方ない。
でも甘いなぁ、甘すぎるよ
私はまだ…彼女に
隙をついて貴女を殺すことなんて、いくらでもできる。
「あの子と二人なら、その限りでも無いと思うけど?」
「それでも、勝つのは私です。」
それは見込み違いだ。
ナノハのことを過小評価してると言わざるを得ない。
ただ、彼女からは敵意を全く感じない。
「でも、今はそのつもりがないんでしょ?」
「今日は、戦いに来たんじゃありません。貴女と話をしに来ました。」
私が思った以上に、この魔導師は冷静な子らしい。
時間稼ぎにはちょうどいい、少しだけ付き合ってあげようじゃないか。
後編も合わせてお楽しみください。