「いいの?ジュエルシード、取られちゃうけど。」
話をすると言ったくせに口を閉ざす彼女に牽制をいれた。
「今はあの子より、貴女をどうにかするべきだと判断しています。」
何度もいうが、それは過小評価だ。
私と組まれない前提で話をしている。やっぱり、この子は甘い。
「そう?お茶でも飲んで世間話でもする?」
「貴女の目的はなんですか?」
蛇足は許さない。そんな圧を感じる。
なら…私も真摯に答えてあげようじゃないか。
「友達の日常を守ること。」
「その為に命を張るんですか?」
「いけない?貴女だってお母さんのわがままに命を張ってるように見えるけど。」
嘘は言っていない。ただ、その裏側の目的は語らないし、語る必要もない。私の使命は、ハヤテの日常を守って…最期のひと時まで、穏やかな日常を送らせることだ。だから、
「……私は貴女とは、違います。」
それはその通り。
私だってこの子と一緒だとは思ってない。この子の愛情は本物で、私はツクリモノ、一緒にするのは失礼だ。
言外に指摘された様で気不味い…けど、彼女はどうやって私の素性を調べたのか?
「私は…殺しはしません。貴女とは、違います。」
なんて疑問は私の一人相撲だったらしい。
成る程確かに、そう言う考えでは、私と彼女は決定的に違う。
お父様から
拳銃は引き金を引かれたら、弾丸を吐き出すものだ。
私はお父様にとっての拳銃であらねばならない。
なんでそんな風に見られたのか…だなんて問いただすのも白々しい。
前回の戦い方を踏まえれば考えるまでもない。
考えるまででもないけど、……そんなふうに見られていたと思うとやっぱりショックだ。
「ぇと…ごめんなさい、そういうつもりじゃなかったの。」
「いいよ、事実だからね。じゃあ私からも聞こうかな。」
二つ聞かれたのだから、ひとつ聞くくらい聞く権利はある、答えてくれるかは別だけど。
「貴女のお母さんは誰?」
「母さんの名前は、プレシア・テスタロッサです。」
時が、止まった様に感じた。
よりにもよってあの大魔導師の娘さんだとは思わなかった。
バックに居る者が想定外の存在で冷や汗が噴き出る…これは重要な情報だ、確実に持って帰りたい。
あの大魔導師の娘なら、この魔力量も納得だ。それに加えてこの戦闘センス、神様は一体どれだけこの子にプレゼントしたんだろう。
彼女について、一度調べた事がある。
稀代の魔導師でもあり、優秀な技師でもあったプレシア。
確か、何か事故を起こして…表舞台から姿を消してたはず。
……情報が足りない、お父様に相談しないと。
「そう、ありがとう。」
沈黙が流れる、どうもこの子は口下手らしい。
視線が泳いでいるし、明らかに何かを言いあぐねているように見える。
「言いたい事があるなら言ったら?」
「………私と、協力してくれませんか?」
予想通りの質問。この話のスタートから概ね予想はついていたし、答えも決めていた。
「あの子達に協力するって約束したから、ごめんね。」
この子の母親を悪く言いたくはないけれど、間違いなくこれは次元犯罪。
ナノハから彼女達に乗り換えるメリットなんて毛ほども無いし、何よりそんなことをすれば、お父様のご計画に支障が出る。
そんなことはあってはならない。
「…そう、ですか。」
目に見えて落ち込んでいる。こうして話してみるとずいぶん感情表現が豊かな子だ。
もっと別の形で会えたら、違う関係になれたかも。
そして、この場の空気が途端に冷えていくのを感じた。
「なら、貴女は私の敵です…。」
決意を新たに、そんな様子。…何を今更…それは…
私のセリフだ。
「ッ………!?」
弾かれたように彼女が私から距離を取った。
少し睨んだだけで、彼女は私の取れるレンジの外に瞬間移動…いや高速移動したように見えた。
成る程、そういう魔法も、持ってるんだ。
「良い反応だね。先生は誰?お母さんかな?」
「母さんの、使い魔です。」
「そう怖い顔しないでって、少し試しただけ。私と、話をしにきたんでしょう?」
私はまだ武装すらしていない。彼女からすれば敵意は無いことへの良い証明になる。
「私の先生はね、魔法と格闘の先生が一人ずつ。…どっちもお父様の使い魔なの、貴女と同じだよ。」
「…………。」
彼女の身構えは解かれることはない、私の一挙一動に集中しているようだ。
そんなことしても、何もしないってば。
「こっちにはね、留学に来てるんだ。さっき言った…友達の日常を守るってのは、そういうこと。」
「……。」
まるで貝のように、彼女は口を閉ざした。
自分語りはこのくらいでいいかな、
「お母さんってどんな人なの?」
「…とても、優しい人、です。今は少し…疲れちゃってるけど。」
やはり、ここが彼女のウィークポイントか、もう少し情報をくださいな。
「大好きなんだね?」
「はい、とっても…でも、今は…少しだけ、怖い、です。」
「怖い?」
「うん、私が母さんの足を引っ張っちゃってるから、よく叱られるんだ。」
少しだけ違和感を覚えた。
母さんも怒ると怖かったけど…私が反省したらギュッと抱きしめてくれた。その度に安心して良く泣いたのを覚えてる。
だから、怯える意味が、私にはよくわからない。
「それは辛いね、でも、貴女のこと、きっと愛してくれてるよ。好きじゃなきゃ、叱ってなんてくれないからね。」
子供を愛さない親なんて存在しない。
いたとしたら
「…うん…ッ。そうだよね、ありがとう。」
少女の顔がふにゃりと緩む。
仏頂面ばかり見てきたけど、笑うと凄くかわいい子だった。
よし、本題といこう。
「アレが、どれだけ恐ろしいモノか、知ってる?」
「ジュエルシードのこと、ですか?」
「アレはね、爆弾だよ。それも次元世界一つ楽に吹き飛ばせるほどの。」
「………。」
魔導師は何も言わない、思うところがあるのか、
それともまた私を警戒し始めたのか。
「貴女は素直でいい子、そんなこと、望んでないよね?」
私の経験が告げている。この子は悪人じゃない。
目的の為でも手段は選ぶ、そういうタイプだ。
「叶えたい願いが、あるんです。」
母親の願いの為…か。
私には、二度と出来ない親孝行だ。
でも、その親孝行は間違ってると思う。
「無理だね、アレを制御しようとして、たくさんの世界が消滅してる。」
「母さんなら、出来ます…!」
「それと引き換えに、この次元世界が崩壊するとしても?」
「……ッ!?」
この子は現実が見えていない、…いいや、見ようとしていない。
ジュエルシードを複数個起動させる、そのリスク…
知らないとは言わせない。
「貴女に、その覚悟はある?何万人なんて物じゃない。何億人の命を踏み躙ってでも、母親の願いを、優先するの?」
「それ、は…!」
ほら、やっぱり貴女は善人だ。
そこに迷うだけの倫理観と理性を、正しく持っている。
そしてたった今、ナノハがジュエルシードの封印を完了した。お喋りはここまでだ。
「封印、できたみたいですね。」
「そうみたいだね、ほら早く行って…あの子食い下がるとしつこいから。」
「はい。…フェイトです。フェイト・テスタロッサ。」
「ご丁寧にどうも。カタリーナ・ウィリアムス・グレアム。」
名乗り合いもそこそこに、フェイトと名乗った少女はあっという間に、彼方まで飛行して行った。やっぱり速い、この力量差…一度お姉様に相談するべきかな。
…あ、フェイトにカータって呼び名を教えるの、忘れてた。
でもまあ敵同士だしちょうど良いか。
5秒後、慌てた様子でナノハが合流した。
「カータちゃん!あの子は!?」
「ごめん、逃がしちゃった。」
自分でもわかるほどの白々しさ。
明らかに不満そうに見つめられてしまった。
うん、バレバレだよね。
「ごめん、そんな顔しないで、あの子フェイトって言うんだってさ。次に会ったら自己紹介でもすると良いよ。」
「フェイトちゃん……。」
「そ、フェイト。次にあったら殴り合うなりして仲良くなったら良いよ。得意でしょ?そういうの。」
「なっ……!?だ、だから違うよー!得意じゃないもん!人聞きの悪いこと言わないでってばー!」
何を今更、私は知っているぞ。あのアリサに正面切って啖呵を切った上に、平手打ちまでかましているのを…。
…それはともかく。彼女には随分と警戒されてしまった。
少し睨んだだけのつもりだったのだけど…
私って、そんなに人相が悪いんだろうか…今度、メアリにでも聞いてみよう。呑気に丸まって寝てる問題児を見たら、久しぶりに会いたくなった。
「さ、戻ろう。みんな心配してるだろうし。」
誤魔化しながら結界を解除。スズカ達の元に戻ることにした。
色々聞かれたけど、
…ハヤテには多分隠し事をしてるってバレてると思う。あの顔は、後でじっくり聞き出してやろう、そんな顔だ。
さて、どう説明すればいいか、ちょっとした憂鬱を飲み込む様に、メイドさんが淹れ直してくれた紅茶を喉に流した。
部屋に戻ってから、フェイトは静かにソファに沈んだ。
身体が重い、カタリーナの言葉が、いつまでも頭にこびりついて離れない。
『何億人の命を踏み躙ってでも、母親の願いを、優先するの?』
自分の心の中を見透かされた様な思いだった。
心の底ではわかっていたはずだ、アレがどういう代物であるかなんて
その上で自分は、母親の為と目を逸らして来た。
フェイトは、彼女に明確な返事を返すことができなかった。
どちらを答えても、自分自身を否定することになる。
そして、ジュエルシード集めに…フェイト自身の正義が、信念が備わっていないことを思い知らされた。
「断られて、当然だよね。」
きっと、あの白い魔導師にはあるのだろう、明確な想いが
例えば…この町を守る為、友達を守る為、カタリーナを守る為…
ならば自分はどうだろう、母親の為と自分を奮い立たせて来た。
でも本当にそうだろうか、もしそうなら…あの時自分は
『それが、母さんの為なら…!』
胸を張ってそう答えられたはず。
しかし、そうはならなかった。
「私は、なんのために…戦ってるんだろう。」
「あのクソババアの為だろう?電気もつけないで…何をしょげてるんだい?」
「アルフ…」
「何があったんだい?」
戻って来た使い魔は彼女の隣に座る。
彼女は自分の弱みを他人に見せたがらない。
それは、最も信を置いている使い魔にすらだ。
だからこそ、使い魔は彼女の見せた弱みを見逃さない。
フェイトは、昼間の顛末を話した。
使い魔…アルフは黙ってフェイトの話を聞いた後に…
「ほんっと真面目だねぇ…フェイトは、いいかい?仮に全部吹き飛んだら…あのババアのせいだ、アンタのせいじゃない。だから、胸を張りな、『母親のために、私は戦ってるんだ』ってね」
「でも…ジュエルシードを集めてるのは私だ。だから…」
「じゃあ私も同罪だよ、全部一人で背負わないでおくれ。私は、アンタの使い魔なんだ、少しくらい主人の役に立たせてくれよ。」
アルフの胸に顔を埋めてフェイトは弱々しく抱き返すことしかできなかった。
自分は果報者だ、こんな素敵な使い魔に、恵まれたのだから。
しばらく、彼女の温もりに包まれて…漸くフェイトは落ち着きを取り戻した。
そして…今の状況整理が始まった。
「敵は二人なんだろう?」
「うん、カタリーナは私が…」
「もう一人は私だ。ど素人相手、テキトーにこづいて終わらせてやるよ。」
息巻くアルフをよそに…フェイトが思い出していたのは…
カタリーナだった。
彼女は強い、そして…得体が知れない。
私のセリフだ。
あの時、目の前の人物が豹変したように感じた。
凡そ人間とは思えない無機質な顔。
殺意が、服を着て歩いている。そんな印象をフェイトは抱いた。
武装をしてない相手に、″殺される″と恐怖を抱いてしまった。
何より怖かったのは…何事もないように喋り出した事。
フェイトは自分の発言を、心の底から後悔している。
彼女を、敵に回すべきではなかったのかもしれない。
もう、話し合いは難しいだろう。
だか…
あの白い魔導師の子は、どうだろうか。
彼女は…大きくなった猫を傷つけないよう…立ち回っていた様に見える。
もしかすると、こちらから歩みよれば話を聞いてくれるかもしれない。
カタリーナも、戦いたくない様に見える。
あの時、武装しなかったのは…もしかするとその意思表示だったのかもしれない。
虫が良すぎるのは重々承知だ、でも彼女とは戦ってはいけない。そんな予感がフェイトの脳裏から離れない。
本気でヤレば、勝てない相手ではないと、確信できる。
同時に、自分もタダではすまない事も。
「しかし、アイツらはナンのために集めてるんだろうね?」
次に彼女にどう話を切り出すべきか、使い魔の言葉に切り口を思いついた。
カタリーナは友達の為と言っていた。
でも具体的に何の為にとは言っていない。
仮に白い魔導師のためなら…利害の一致程度には話が持っていけるのかもしれない。
「友達の為って言ってた。」
「なんだいソレ…?釈然としないね。そんな奴には見えないけど。」
「嘘は、ついてないと思う。」
「…フェイトがそういうのならそうなんだろうね。」
アルフはあの夜のことを根に持ってるようだ。
確かにひどいことを言われた。
怖いところもあるが彼女は優しい人だと思う。
あの夜は彼女の苛烈な一面に過ぎない。
誰にだって怒る時もある。
相棒は彼女を嫌ってるかもしれないが、自分の見た彼女を見れば、きっと考えは変わるはず。
出来ることなら、彼女のことを知りたい。
そして、彼女が協力しているあの魔導師とも、話をしたい。
事情を話せば、理解してくれるかもしれない。
「ねえ、アルフ。もし白いバリアジャケットの魔導師の女の子がいたら、攻撃はしないで協力を仰いでみようよ。」
「アイツの仲間だろう!?弱みにつけこんで攻撃してくるんじゃないのかい!?」
「カタリーナはそんな事しない。」
あの時、怯んだフェイトに一発見舞う事もできた。
でも彼女はそうはしなかった。
『そう怖い顔しないでって、少し試しただけ。』
怖いカタリーナと、優しいカタリーナ、どちらがあの人のホントウなんだろう。
あの夜もフェイトが実力行使に出た故の戦闘だった。
彼女の敵意は全てフェイトの行動に応えたモノで、
積極的に自分へ敵意を向けている訳ではなかった。
そんな事に今更気づくことを恥じる。
「……わかった、話してみるけど、あんまり期待しないでおくれよ?」
「うん、ありがとうアルフ。」
戦わずに話し合いで済むのなら…。
次は、間違わない。
アルフの敵意カンストしてて受けるw