283プロの眠り姫事件   作:キョクアジサシ

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幕間  ~ベイビートーク~

「やりづらい……」

 

 そして迎えた、オペラ仕事の初日。

 別件での打ち合わせを終え、事務所へ戻ったプロデューサーは、正直な気持ちを感想を口にした。

 パソコンデスク前の椅子に座り、背もたれに身体を預けて、ギシギシ言わせては見るものの、回復のため、ソファーで横になっている甜花からの反応はない。

 

「新作ゲームの発売日とバッティングしちゃったってのは、悪かったよな……」

 

 仕事だから仕方がないとはいえ、譲れないものはある。

 通販を待たず、店舗に並び、特典と共に商品を購入。

 そしてパッケージのビニール包装を破り、ゲーム機へディスクを挿入する際の、ワクワク感はプロデューサーにも大いに理解出来る。

 年単位で発売を待ち、夢にまで見た日が訪れたというのに、仕事だからガマンしろというのは、やはり酷だ。

 

「というか、俺でも拗ねるぞ、そんなの……」

 

 実際、甜花はこちらに背を向け、ゲームキャラクターのプリントされた大きめのブランケットを全身にまとい、横になったまま、こちらを見ようともしない。

 ソファーの横には乱暴に甜花のショルダーバッグが放り投げられていて、その怒りを如実に表現していた。

 プロデューサーから見えるのは、その後頭部だけだが、ありありと不機嫌オーラが伝わってきて、申し訳ない気持ちになってしまう。

 

「俺が事務所へ来た時から、ふて寝してたし、これは根が深いな……」

 

 プロデューサーは苦い顔で、頭をかく。

 恐る恐る、口を開く。

 

「て、甜花ー? 今度、埋め合わせはするから、そんなに怒るなよー……?」

 

 甜花からの反応は、「むー……」という拗ねた微かな吐息だけだ。

 これは、相当だ……とプロデューサーはため息を漏らす。

 

「甜花、何か話さないか……? 別に、大きな声を出さなければ、のどの負担じゃないから、怒られないし……」

 

 その後頭部はやはり、ぴくりとも動かない。

 極端な話、のどを痛めない範囲であれば、何をしていてもいいのだから、スマホでネット巡回でもしていいと思う。

 だが、もし、「あのゲーム、神作!」とか、「微妙」とか、「まあまあ」とか、そういう情報を拾ってしまったら?

 待ち望んだ人間として、それ以上の悪夢はないだろう。

 自分で手に入れ、自分でプレイして、判断を下したいというのは、ゲーマーの性だ。

 すると必然、やることがなくなる。

 となると……。

 

「甜花……? もしかして、寝てる?」

 

 よく見ると、ブランケットを羽織った肩が、わずかに上下している。

 ……まあ、いいかとプロデューサーは思う。

 もしいつもの調子で、「にへへ……寝てるだけで、お金がもらえる……! やった……!」と目を輝かせていたら、「いやいや、資料の一つも読みなさい」と言うところだが、事情が事情だ。

 多少、大目に見ても構わないだろう。

 触らぬ神に祟りなし、君子危うきに近付かず、だ。

 

「じゃあ、眠り姫にはゆっくり休んでもらって、俺は報告書をまとめるか……」

 

 プロデューサーはそう言って、パソコンと向かい合う。

 それから三時間ほど、作業に集中した後、プロデューサーは背伸びをした。

 

「……もう、九時半か。甜花……は、まだ寝てるし……」

 

 ソファーへ視線を向けると、夕方と変わらず、甜花はすやすやと眠っているようだ。

 いや、しかし、よく寝る子だなとプロデューサーは苦笑する。

 とはいえ。

 

「甜花、すまん。俺、こんな時間だけど、深夜帯のラジオの生放送の立ち合いがあって、事務所を出るから。もう決められた時間は過ぎてるし、鍵を閉めて帰っていいからなー?」

 

 のろのろと、甜花が手を振る。

 最後にプロデューサーは、「うん、おつかれ。あと二日、頑張ろう」と言って手を振り返し、事務所から出て行った。

 

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