人魚と天狗と人狼と猫又と耳長とえーとドワーフ? 作:仲間はずれのドワーフ
日本国首相、雨竜 康隆は期待に胸を膨らませていた。
「首相、いくらなんでも訓練無しで即座に魔界に調査に向かわせるのは厳しいのでは?」「スピードが命なのだ! 法律に則り、しかし日本が何より早く魔界に乗り込むことが重要なのだ! いいか、日本の調査隊は絶対に本日中に出発させる!」
「それは素晴らしい! アメリカの調査隊も準備は万全です。早速向かいましょう!」
ぐっといつのまにかそこにいた大使がふぁいと! とポーズを取る。大柄の男が可愛いポーズをしても可愛くないのである。
「ああああああ……orz 一緒に頑張りましょう……」
スパイ天国日本がアメリカに情報戦で勝とうと思うほうがおかしいのである。
米軍兵士達はサワサワしていた。
それはそうである。
「猫又チームはこっちでーす」
「耳長集まれ―」
「ドワーフはこっちー」
「人狼はこっち! ワオーン!」
「天狗集まれ―」
「人魚集まれ―」
そう、異種族がいっぱいいるのだ。元日本人だけど。
郷に入っては郷に従えという日本のことわざがあるが、種族すら変えるとは。解剖したい。
「傾注! ミオ殿からお言葉である!」
「あー。はるか昔、酷い亜人差別があって、亜人狩りが行われたらしい。その関係で人間の街とは距離をとっていて、言葉を含めて今はどうなっているかさっぱりわからない。心して探索して欲しい。それぞれの種族の出来ることを書いて配ったから、覚えておいて欲しい」
なんだ、何もわからないのか。
「最後に、皆に翻訳魔法を掛ける。一ヶ月は持つはずだ」
「ありがとうございます!」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
訂正。これだけでも大助かりである。
しかも、栄えている街の近くにそのまま道を開いてくれるという。優しい。
街近くの森に出て、まずゲートを守る部隊と移動する部隊に分ける。
そして、移動を開始した。
ダグはあくびを引っ込めて、同じくあくびをしているトムをつついた。
「おい、あれ」
「なんだあれ。皆を呼べ!」
トムのへにょんとした耳がピンと張る。
馬がなくても進む馬車、その背に乗るのは明らかに訓練された男達である。すわ侵略か。
一触即発の空気となる。
「初めまして。私、日本国の外交官の田上と言います。この度、こちらの国を見つけ、ご挨拶をと思いまして。そもそも、首都はどこですかね?」
「ええ……? 待て、連絡をする。とにかく待て」
「わかりました。ちなみに貴方は、人狼さんですか?」
「俺!? 目が高い! そうだ! 狼の獣人、その名も狂犬のトムよ!」
「犬じゃね―か! お前なんていいとこチワワだチワワ」
「貴方は天狗?」
「天狗? なんだそれ? 俺は鷹のダグよ!」
「とべない雀じゃね―か」「うるせー、鼻の効かない犬が」
いつもの漫才をやって、ハッとする。
「あんたら、人間至上主義か!?」
「そんな、まさか! 人間族は極めて多いですが、獣人への寛容さに追いては群を抜くと信じております」
「寛容っていうかケモナーだろ? あー、この一団の半数が獣人だから大丈夫。おい」
「全く、アレックスさんは……。倉見さん、変身して下さい」
「ハッ」
倉見と呼ばれた男が人狼的な姿に変身して、ダグは腰を抜かした。
「じゅ、純血主義者だ……純血主義者がハーフを狩りに来たぞ―! ひぃ、ひー!」
「失礼なことを言わないで下さい!」
「はひっ」
「そういえば、オオタカさんがハーフは間引きされると言ってましたが……ハーフでも間引きされない街はあるのですね。それはそうですよね。ハーフが産まれないはずはないですから」
ふむふむと田上と名乗った男が頷く。
「心配せずとも、ご挨拶に来た街で、まさか攻撃されてもいないのに無体な真似はしませんよ。私達はあくまで、この国の事を知り、国交を開きたいだけです」
「フロンティーア!」
「アレックスさん、やめてください。振りじゃなくやめてください」
田上がダグとトムを落ち着かせるのに一時間かかった。