追放ムーブ直後に前世記憶が覚醒した元阿呆勇者の俺は、ざまぁルートから離脱、強く生きていきます 作:辰の巣はせが
「何よ、これ……。ドラゴンワームを倒したのに……。トシロー以外、まるでレベルアップしてないじゃない!」
街道を離れた……夕暮れ前の荒野。
冒険者パーティー、ブルーローズの前で巨大なモンスターが倒れていた。ドラゴンワームと呼ばれる全長25m、胴の太さが直径2mほどのミミズのようなモンスター。全身から脂分を分泌して刃を滑らせ、先端部からは溶解液を放散する難敵である。
普段は地中に隠れているので、冒険者にしてみれば探しにくいモンスターなのだが、今回は頻繁に出没し、街道を彷徨いている姿が目撃されていた。このことで討伐依頼が冒険者ギルドから出ており、依頼を受けたシャーノ達は首尾良く討伐に成功したわけだ。
しかし、その倒れたドラゴンワームの前でシャーノ・タカビーが叫んでいる。
今日までの三日間、依頼遂行を兼ねて荒野でモンスターを狩っていたのだが、大物を何度倒しても、トシロー以外のメンバーがレベルアップしないのだ。一方で、トシローは順調にレベルアップしている。パーティー加入時にすでに高レベルであったため、何か1体倒すたびにレベルアップ……とはいかないが、それでも他のメンバーに比べて、かなり早い周期でレベルアップしていた。
ところが、試しに支援魔法を使用しないで戦ってみたところ、個々の差はあるが皆がレベルアップしたのである。
「間違いない。マスル殿からの手紙……あれに書かれた情報は真実だ……。このレベルアップの差……その原因は、支援魔法の有無だ……」
「じゃあ、本当に? トシローが私達の分も経験値を……」
僧侶のイクネスと魔法使いのユーノが呟くと、皆がトシローを見る。女性4人からの視線を浴びたトシローは、一瞬、後ずさったが……すぐに頭を下げた。
「すみません。どうやら、マスルの手紙にあった指摘どおりだったようです。俺の支援魔法は、仲間の経験値を奪う……。俺は……薄汚い経験値泥棒だったんだ! ぶ、ブルーローズの皆さんには、ここ何日かで御迷惑を……」
下げ続ける頭の下……地面に水滴が落ちた。
自分は、なんて滑稽で大馬鹿野郎なんだ……と、トシローは思う。
風の勇者ファルディオから受けた扱いは、今でも許せない。ブルーローズで過ごした数日間、本当に居心地が良かったので、この気持ちが揺らぐことはない。しかしだ、自分は勇者パーティーに居た頃、ファルディオ達に何をしてきたのか……。
(必死に頑張ってるようで、ファルディオ達の成長を邪魔してきたんだ。経験値を盗んでたんだ……。俺は……俺は……追放されて当然のクズ野郎だったんだ……。それに……)
言いがかりで追い出された悲劇。
ブルーローズに拾われた後で、それを心地よく感じてはいなかったか。
そこに考えが及ぶと、今度は吐き気も催してくる。
(恥ずかしい。もう誰にだって合わせる顔が無い……。ここから走って逃げたい……)
だが、ブルーローズのリーダーであるシャーノの裁定を仰がなければならない。勝手に逃げ出すなど、それこそ卑怯者のすることだ。
「頭を上げなさい、トシロー……」
「は、はい……」
涙と鼻水でグシャグシャの顔を上げると……シャーノが困り顔で微笑んでいる。
「何て顔をしているの。そんなに気に病むことはないわ。だって、勇者パーティーのマスルさんから来た手紙の内容、そのままだっただけ。そうでしょ? 勇者パーティーの人達と違って、私達は先に知っていたんだから……」
シャーノが腰のポーチから預かっていた手紙を取り出す。
勇者パーティーに所属する重戦士、マスルからの手紙は『検証』を初める前日に届けられたものだが、その内容とは次のようなものだ。
『トシロー、元気でやっているか? マスルだ。先日はキツい物言いをして追い出すことになって、本当に申し訳ない。あの頃のファルディオは、増長が過ぎる状態だったので、君はパーティー外での活路を見出すべきだと思ったのだ。許されることではないが、本当にすまなかった。
さて、君がパーティーを抜けてから、あることが問題となった。支援魔法が無くなってパーティーが弱体化するのは当然だが、以前に討伐実積のあるモンスターを倒して、大きくレベルアップできたのだ。……かなり前に倒したモンスターを再び倒し、それで数段階のレベルアップ。しかし、トシローが居る間は、そんな派手なレベルアップは無かったように思う。妙だとは思わないか?
ここからはクーロンの仮説に寄るのだが……』
支援魔法の発動中は、モンスター討伐によって得た経験値はトシローに集約される。
この記述を呼んだとき、トシローやシャーノ達は一笑に付した。パーティー結成の盟約を結ぶ以上、倒したモンスターの経験値はパーティーメンバーに分配される仕組みになっている。これは子供でも知っている常識だ。
なのに、トシロー一人が経験値を総取りに近い状態であると、マスルは手紙で述べている。これは、風の勇者ファルディオが、メンバーのマスルを使って嫌がらせをしてきたに違いない。
そうトシロー達は判断し、途中で手紙を読むことを止めた。
しかし、マスルからの手紙を廃棄することなく、シャーノに預けていたのは、手紙が届いた時点で既にトシローの能力を検証することが決まっていたからだ。加えて言えば、「もしかしたら……」という思いがトシロー達にはあった。
言わば、念のために取っておいたのである。
「トシロー?」
シャーのは手紙を、以前に読むのを止めた所まで読みあげてから、トシローを見た。
「色々心配してるだろうし、私達も思うところはあるのだけど。安心していいわ。あのとき、この手紙を途中までしか読んでなかったけど。ごめんなさいね、私……一人で最後まで読んじゃったの。さっきは、まあ……本当に経験値が入らなくて驚いちゃったけど……」
「それは構わない……。だって、読みたくないから好きにして良いって言って、シャーノに預けたのは俺だし……」
今、手紙の内容を話題に出すと言うことは、手紙の続きが何か重要な内容だったのだろうか。トシローが布切れで顔を拭いていると、シャーノが手紙の続きを読み上げていく。
『……というわけで、君の「経験値集約取得」がブルーローズで問題視された場合、再び君の立場が危うくなることもあるだろう。しかし、安心して欲しい。支援魔法を使うと、メンバーに経験値が行き渡らないのであれば……支援魔法を使わなければ良いのだ。
そして、支援魔法が有益な魔法であることに変わりはない。
トシローを集中して鍛えたいのであれば、支援魔法をバンバン使えば良い。
そうすることで、ブルーローズは大きく成長することだろう。君も含めてな。
それだけのことだ。恐れることは何もない。
そちらのパーティーメンバーが怒って耳を貸さない場合は、この手紙を見せると良いだろう。なに、シャーノ・タカビーは人格者と聞く。きっと理解してくれるはずだ。
君とは行く道を違えてしまったかも知れないが、我々は皆が君のことを気にかけている。今ではファルディオも……だ。彼は大きく変わった。機会があれば、話し合うべきだろう。
トシロー、君の支援魔法は本当に素晴らしい。
トシロー・ザマフリーの名が、この空の下で響き渡る。
そんな日が来ることを切に願っている。
マスルより 』
シャーノが読み終えると、荒野に立つブルーローズの面々は皆が黙り込んだ。それぞれが俯き、足下を見ている。中でも、再び涙腺の緩んだトシローは肩を揺らして泣いていた。
「マスルさん……。いい人よね?」
「……はい……」
泣き続けるトシローは、それだけしか言えなかった。
基本的に、主人公視点以外では、この書き方でいきます。
トシロー・パート、なんて真面目な流れなんだ……。
ファルディオ・パートは基本ノリで突き進むので
また雰囲気が変わると思います。
なんか勢いで、次話が書けたので
このまま第11話も投稿します。