追放ムーブ直後に前世記憶が覚醒した元阿呆勇者の俺は、ざまぁルートから離脱、強く生きていきます   作:辰の巣はせが

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第2話 転落の始まり……に俺は抗う!

「はぁっ、はぁっ! 待て、待ってくれ! トシロー!」

 

 俺は、ジリマーハ王国の都で、息を切らせながら走っている。お昼時だから通行人がやたらと多い。ええい、邪魔だ! そこをどけ!

 ああ、もう! 前世の記憶が覚醒したばかりで、今世の『阿呆勇者』としての記憶と融合してるとか、そんな感じだろうか。上手く頭が働かないし、吐き気がする。てか、このまま走ってたら絶対に吐く!

 ついさっき、おそらくは有能な仲間、トシロー・ザマフリーを得意げにクビにして叩き出した俺は……この世界で三人居る勇者の一人だ。最悪なことに、追い出した直後に自分が転生してきた日本人であることを思い出し、今はトシローを探して走っているところなのだ。

 なぜ、そのような行動を取っているかと言えば、転生前の日本でネット小説を読んでいたことによる。異世界転生とか最高だろ。剣と魔法の世界で成り上がれるなら、トラックに撥ねられるなんて屁でもないわ。運送トラックの通行量が多い道路で、一日寝転がることだって苦ではないな。

 いや、今はそんな場合ではない。

 ネットで読んだ異世界転生系小説では、『ざまぁ展開』が人気ジャンルの一つだった。有力パーティーから無能呼ばわりで追放された主人公は、実は隠れた才能持ちだとか、単に理解されていないだけだとか、加えて言えば転生した日本人だとかで成り上がり、一方で、追放した側は主人公が抜けたことで一気に転落していくのだ。その無理解や阿呆さから来る自業自得の転落劇。それを楽しむことを『ザマァ展開』と言うのだが……。

 最大の問題点は、転生者たる俺が追放した側の勇者であること。そして、すでにトシローを追放した後であることだ。タイミングが悪すぎて、走りながら口元が笑みで引きつっちまうよ~。ああ、違う。笑みで引きつるんじゃなくて、引きつった笑みが浮かぶだ。走ってると酸欠で脳が麻痺してくるのでいけない。

 よくある『ざまぁ展開』だと、主人公はパーティー追放後、物凄く早い段階で理解のある有能な仲間とパーティーを組んだりする。別パターンだと、似た感じで追放された同じ境遇だったり、更に別パターンでは奴隷を買ったりとかだな。ああそうだ、才能を見いだしてくれた有力冒険者パーティーに引き取られたりってのもあるな。

 そんなことになったら、終わりの始まりだ。俺のな!

 主人公は、良い環境と仲間の協力を得た途端、ドンドン成り上がっていく。作品によっちゃあ仲間の協力も必要なしで勝手に成り上がることもあるんだぜ? お前、覚醒しすぎだろ?

 ……居たっ! トシローだ! んんっ? 一緒に居るのは……冒険者パーティーか! やばい! 案の定、王都で有名なSSSクラス……女性だけのパーティー、ブルーローズじゃねーか! あ、それとAクラスの上がSってのは、外国じゃ通用しないって聞いたような……いや、そんなことはどうでもいい!

 俺は、何か話している風のトシロー達に駆け寄ると、トシローの左肩を掴んで振り向かせた。トシローは希望に満ちた明るい表情だったが、俺の顔を見た途端、路地裏の汚物を見るような目で見てくる。気持ちはわかる! だが、俺の話を聞いてください!

 

「はあ? 転生してきたニホンジン? 俺を追放した後で記憶が覚醒した? 何言ってるんだ? 気でも狂ったのか? 言い訳するにしても下手すぎだろ?」

 

 くっそぉおおお! お前、トシローなんて名前のくせに、転生日本人じゃなくて現地人なのかよ! 同じ日本人なら話が早かったのに!

 無理だと思うが、救いを求めてブルーローズの面々に目をやると、こちらも事情は聞いているのかゴミを見る目つきだ。全員、美人に美少女なので御褒美とも言えるが、今は俺を助けてくれ!

 

「ちょっと? 貴方、今更トシローを引き戻そうだなんて、虫が良すぎるんじゃない?」

 

 金髪をポニーテールにした女剣士が言う。こいつがリーダー、シャーノ・タカビーか。俺と違い、実力が伴った高飛車さが有名だが、その高飛車さでトシローを見放せば良いのに……。くそ、見る目は確かってことか……。どうせ高飛車なのは表面だけで、実は人格者なんだろうな~……ちくしょー。

 

「いや、嘘みたいに聞こえただろうが、本当なんだ! 俺は、日本人なんだよ! だから、さっきトシローに言ったのは俺の本心じゃなくて、前世の記憶が覚醒する前……勇者が勝手に言ったことで……」

 

「その勇者は、お前だろうがよ!」

 

 褐色で長身の女性が口を開く。噂に聞いたブルーローズの盗賊……いや、盗賊は聞こえが悪いから冒険者ギルドが、『偵察士』って呼び方に変えたんだったな。名前は、キミコだったか? ちなみに俺の勇者パーティーに偵察士は居ないが、実はトシローが罠の解除とかやってくれてたんだぜ? どんだけ器用なんだよ。阿呆勇者は気がついてなかったけどな!

 

「私達はトシローの真価を見抜いたわ。諦めた方が良いと思うの」

 

 淡々と言うのは魔法使いのユーノ・マダラトゥか。確か、クーとは魔法学院の同期で、この娘は次席卒業だったな。実は、阿呆勇者はクーとユーノを天秤に掛けて、クーの方を勧誘したんだ。勿論、首席卒業者というのが理由だ。実地訓練ではユーノの方が上だったらしいから、選択ミス……いや、クーは世間知らずなところがあるが、磨けば光る! 俺が、『ざまぁ展開』を突き進まなければの話だけど……。

 

「貴殿の行いは誤りだったと言える。それを悔いている姿勢は評価に値するが、すべては遅かった。トシローは我らのパーティーに加入したのだ。諦められよ」

 

 お侍さんみたいな口調で黒髪の僧侶が言う。うはー、めっちゃ大和撫子。あんたも日本人じゃないんだろうな~……見た目が和風美人なのに。イクネス・クリッサンスマム。貴族出身で、クリッサンスマム家の御令嬢。もっとも三女だそうで、気ままに出家して冒険者生活を送っているのだとか。

 ……で、結局のところ、俺はトシローを説得しきれなかった。

 土下座までしたのに! 地面に額を擦りつけたのにぃぃぃいい!

 腹を割って話そうと思って「俺は転生した日本人だ!」とか話したのが不味かったのかな~……。直前にやらかしたことがアレなので、心証悪いところから話が始まったのも良くなかったか。路上でへたり込む俺の前から、ブルーローズが去って行く。トシローを連れて……。

 これで、初期段階で主人公を引き戻す作戦は頓挫したな。上手く行けば、チート主人公におんぶに抱っこな感じで、富と名声が手に入ってたろうにな~……。馬鹿なことしたよな、覚醒前の阿呆勇者。いや、俺なんだけどさ。記憶が覚醒する前のことだから、俺のせいじゃなくていいだろ? ……わかってるよ。こっちの世界の人々からしたら、俺がやったことにしか見えないし、そうとしか思えないんだよな~。

 いや、待てよ。よくある『ざまぁ展開』だと、阿呆勇者が名声を落とすのは、主人公を追放して暫くたってからだよな。主人公不在の状態で、それまでどおりの感覚で高難易度依頼に手をつけて、失敗して……失敗を繰り返すんだ。痛い目を見たらなら、何でそうなったのか考察すりゃいいのにな。解決策を見いだせたら良し、それで駄目なら、次善の策を模索するとか……。少なくとも、俺にはまだ猶予はあるはずだ。そうだ、まずは仲間に聞いて、普段よりランクの低い依頼を取ろう。魔王を倒すのが勇者の仕事だが、路銀稼ぎで冒険依頼を引き受けたり、国からの討伐依頼を受けたりしてたし。控えめなところから手を付けてレベルアップとかを頑張ろう。なぁに上手くやれば、今のメンバーだけでも……あ、トシローの代わりが必要だな。ここは同じ支援魔法の使い手を雇うしかないな。そいつは……たぶんトシローより劣るだろうから、俺達と一緒にレベルアップだ。

 だが、そんな俺は、遅れて駆けつけてきた仲間……サキの言葉を聞いて絶望の底に突き落とされることになる。

 

「どうしたのよ、ファルディオ。トシローをクビにしたら、明日からの依頼について話し合う予定だったでしょ? ほら、昨日私が頼まれてた、手頃な冒険依頼の依頼書! ギルドで受付も済ませて来たし、もう私達以外じゃ請けられない高難易度なんだから!」

 

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