追放ムーブ直後に前世記憶が覚醒した元阿呆勇者の俺は、ざまぁルートから離脱、強く生きていきます 作:辰の巣はせが
冒険者ギルドで、レンジャーと偵察士の臨時雇用広告を貼りだした後、明日は荒野に出かけるんだが……そこで一度自由行動とした。
ちょっと疲れたのもあるから、俺は宿に入る。腹が減ったら一階酒場で飯だな。
サキが付いて来ようとしたが、疲れてるからお断りした。美人が相手だからベッドで、腰の運動でも……と、それを考えた瞬間、頭が重くなったからだ。やっぱ疲れてるんだな。
装具を外して剣をベッド脇に立てかける。町で居るのに鎧とか着たくないんだが、そこは勇者。見る者を安心させる義務? 暗黙の了解ってやつがあるのよ。気が安まらないったらないわ~。
……勇者って、定年退職が無いらしいんだけど、俺……爺になっても、こんなことしてなくちゃいけないのか? いや、さすがに高齢化したら、日常の鎧着用は免除して貰えるはず。
静かな老後が期待できそうか?
……魔王の生える周期は数百年……。いや、二、三百年周期だっけ? 俺が生きてる間に、前倒しで生えてくるとかなければいいな……。ないよな?
そんなことを考えつつ、俺はベッド上で横になった。夕飯時の前だけど、横になりたいんだよ。特に腹も減ってないし、もう飯抜きで寝ちゃえ。
けど、そのまま一眠りしようとしても、頭から離れないことがある。
トシロー……のことではなく、俺が異世界転移したとき、俺の担当だとか言って対応していた自称女神のことだ。
◇◇◇◇
その日の深夜。
俺は帰宅途中、歩道でトラックに撥ねられた。
仕事疲れでボウッとしていたのもあるが、夜に無灯火のトラックが突っ込んできたんだぜ? 避けられるかよ。しかも、街灯に照らし出された運転手は居眠りしてた……ひどい話だよな。
そして俺は、蹴られたサッカーボールみたいに飛んで、歩道脇のビルの壁に激突したってわけ。まあ、即死だな。トラック運転手の野郎、この異世界転生がらみで許せねぇ奴の第一号だわ。この先、ゲームクリア的な何かがあって、幾つか願いを叶えましょうって展開があったら、お前が不幸になるように願ってやるからな。絶対にだ。
さて、話の続きだが、すっごい衝撃を感じた瞬間、俺の意識が暗転。気がつく足下に白い……ドライアイスの煙みたいなのが流れる空間に居た。周囲は『白』って感じだったな。奥行きが無限大な感覚だから、白い壁があるから白いんだか、遙か地平線の向こうまで白いんだか解らない感じ。太陽や電灯みたいなのは無かったけど、上の方も空だか天井だか区別が付かなくて、やっぱり『白』だった。ただ、明るかったのは覚えてるね。感覚的に白色LED灯で照らし出されてる感じだ。
ここが天国って奴か? 地獄……じゃないよなぁ?
なんて、後から思えば気楽極まりないけど、そんなことを俺が考えてると……目の前に女が出現した。金髪で、身長百七十五センチの俺より数センチ低い感じだったかな? 巨乳過ぎない程度にナイスバディで白人美女って感じだったから、なんとも嬉しかったねぇ。服装が、RPGに出てくる女神様風で、腰に金属ベルト。パルテナかイシュタルだったか?なんとかの塔って言う、昔のアクションRPGに出てくる女神様風と言えば解るかな?
で、俺が見とれてると、その女神っぽい女が話しかけてきた。
……。
……ああ、やっぱり眠いな……。
ここからは、回想風じゃなくて当時の状況に立ち返って考えようと思う。その方が俺の寝付きが良さそうだから……。
◇◇◇◇
「あなたは死にました」
「直球だな~……」
この状況で出てきた女神っぽい人だから、これは異世界転移って奴か……と思ってると、開口一番で死亡宣言である。気になるのは、金髪ナイスバディの女神様が、嫌そうな顔をしていること。
俺の面構えが気に入らないとかか?
ともかく話を聞きたい。トラックに撥ねられて死んだのは解るが、わざわざ会いに来たってことは……異世界転移や転生ってことでいいんだよな?
転生を選ぶか、地獄行き覚悟で復讐を選ぶか……とかだったら、素直に転生するか……。トラックの運転手野郎に復讐したり、地獄行きにしてやったりしてみたいが、それは俺の地獄行きと引き替えにするようなもんじゃないしな。
「で? 御用件は?」
「あなたは死ぬべくして死にましたが、異世界への転生が確定しています」
ほうほう、やっぱり異世界転生か。と言うか転生なのか……。
……。
……。
……ちょっと待て。今、死ぬべくして死んだとか言ったか?
あのトラック事故……偶然じゃなくて、意図的なものだったとか?
……俺を異世界転生させたくて、この女神が仕組んだんじゃあ……。
「違いますよ? あなたをトラックに轢かせた……ああ、撥ねられたんでしたか。まあ、どっちでも良いですね」
おい、こら。どっちでも良いだぁ? そうかもしれんが、言葉には気をつけろよ?
「言っておきますが、考えてることは読めますので」
「ああ、そうですか。遠慮しなくて良いってこってすね?」
……数秒ほど、俺と女神の間で沈黙が続く。
「気持ちはわかりますけど、態度には気をつけた方がいいですね。では、事情説明に移ります」
再開された説明は、俺の想像を超えるものだった。
実は、俺の家系には物凄い呪いがかかっていたらしい。何でも七代ほど前の先祖が悪徳商人で、あちこちから恨みを買っていたんだとか。で、あるとき通りすがりの娘を拉致して手籠めにして、殺してから川に捨てたんだとか、マジかよ? 鬼畜生ってのは、まさにこのことだ。
さて、その殺された娘の父親が凄腕の陰陽師だか術士ってやつで、当たり前だが大激怒した。それはもう血の涙を流すほどにだ。そして、俺の先祖の悪徳商人を真っ当な方法で罪人にできないと知ると、跡継ぎの長男と協力して強烈な呪詛をかけたんだと。
「それで、俺がトラック事故で死亡? ……七代前の先祖がやったこととか、俺に関係あるのか?」
「ほら、日本の時代劇で良く言うじゃないですか。『末代まで祟ってやる!』って……。あなたが色々あって『末代』なんですよ。だから特に、念入りに……ねっ?」
ねっ? じゃねーよ……。
ご先祖様……いや、先祖の悪行のとばっちりで死ぬ羽目になるとか……。そんな事情、知りたくなかったわ。わざわざ、死んだ後に聞かせやがって……。
……。
おい……まさか……。
「御明察。訳もわからないまま異世界に飛ばしたんじゃあ、『呪詛』にならないって……術士殿の呪いを聞き入れた神がね~、言うのよ~……」
うわ~……嫌がらせするためだけに、この女神を寄越したのか。何処まで念入りな『呪詛』なんだよ。けど、俺は異世界転生するんだっけ? 呪いで地獄行きにあれる展開の方がキツそうだけど、死んだことで『呪詛』から解放されたってことなのか?
「ぶっぶ~っ。ハズレです。地獄行きの方が辛くて苦しいでしょうけど、そこまでやったら術士も地獄行きですからね」
ああ、相手の地獄行きを願ったら、自分も地獄に落ちる系か。そりゃあ、憎い相手を苦しめたいけど、それで自分が地獄に落ちるんじゃあ割に合わないものな。その辺、術士って奴とは気が合うな。
「ひょっとして、末代で呪詛殺しされる羽目になった俺が気の毒だから、異世界転生を?」
「だったら良かったんですけど。あなたが異世界へ転生するのは、『呪詛』とは関係ありません。と言いますか……『呪詛』の最後の一撃……。そのために、異世界転生が妙なことになってるんですよ。あなたの場合は……」
「はっ!?」
そのとき、俺は自分史上で最高に珍妙な顔になっていたと思う。
「はぁああああああああああっ!?」