追放ムーブ直後に前世記憶が覚醒した元阿呆勇者の俺は、ざまぁルートから離脱、強く生きていきます 作:辰の巣はせが
トシローの支援魔法が発動している間、パーティーに入る経験値はトシローに集約される。その結果、トシローだけがレベルアップし、他のパーティーメンバーはレベルアップしないか、レベルアップが遅れる……。
というのが、クーロン・キジョウの仮説だ。
俺的には、結構いい線行ってる気がするけど……証拠とかが無いんだよ。今からトシローに合流して、検証させてくれって頼むわけにもいかないし……。
それと、仮にクーの言ってることが当たってたとしてだ。
気になるのはトシローが、意図的にやってたかどうかだな。
俺の思うところ? 俺は……意図的じゃなかったと思う。
トシローはトシローで、頑張ってパーティーを増強してたんだよ。俺みたいな『無理解の阿呆』に、こき使われながらな!
マスル達に聞いてみると、俺と同じ意見のようだ。
「言ってみりゃあ、トシローに楽させて貰ってた代わりに……トシローには多く経験値が回っていただけだしな!」
俺がそう言って話を締めると、マスルとクーは意外そうに俺を見た後で頷いてる。
「……なんだよ?」
「あ、いや……。トシローが、内緒で経験値をネコババしてたんだ! とか言って怒り出すかと……」
失敬だな。そんなこと言うもんかよ~。
……記憶が覚醒する前の俺なら、まんまそのとおりに言ったと思うけど……。
「クーの話が正しかったとしてだ。結果的には、トシローが居たおかげで大物食いができた。その素材を売った金があるから、暫くは金には困らない。ワイバーンを捜索するのだって、金の力で何とかなりそうだしな。あとは普通に頑張ればいいんだよ。頑張ってモンスターを狩ってぇ、強くなって素材は売り飛ばし、金儲け……じゃなかった、資金稼ぎすりゃとかするんだ。地道な努力ってやつだ」
ハン! と鼻で笑って言い放つと、マスル達は感心したような顔になる。う~ん、思ってた以上に俺の評価って下がってたんだな……。
わかってたことだが、ちょっとショックだ。
「まあ、それはともかく……。俺としちゃあ、トシローを加入させたブルーローズが気になるね」
「……ああ、なるほど。このパーティーに居たときのように、トシローが経験値を吸ってしまう……か」
俺はマスルの視線を受け、頷いて見せた。
クーの仮説が正しい場合、またもやトシローだけが成長して、ブルーローズは現状維持に近いか、レベルアップが遅れるという事になるだろう。
「忠告するべき?」
クーが小首を傾げつつ聞くので、俺は肩をすくめた。
「あくまで仮説だしな~。俺が言っても信用して貰えないだろ? マスルやクーが言ったとしても、今が上手く回ってるのに耳を貸すと思うか? しかも、俺のパーティーメンバーの忠告だ。俺が悪いこと考えて、指図してるとか思われるんじゃないの? んまあ、知ってて……と言うか、確定じゃないから心配事か……。心配事を伝えないってのも何だから、手紙ぐらい出してみるかな……。マスルの名前を借りていいか? ……筆跡でバレそうだから、代筆してくれる?」
「承知した。お安い御用だ」
追放したトシローが面倒な状況になるのが心配だったのか、マスルは白い歯を剥いて笑った。だが、すぐに笑みを引っ込める。
「ファルディオ。トシローのことだがな……。今のままだと、彼はパーティーの経験値を吸い取る存在でしかなくなる。本人は真面目に頑張ってるんだろうがな……。ただ……」
俺達……じゃなかった、クーが考えついた仮説にブルーローズが行き着いた場合。トシローは『役立たず』ではなく『経験値泥棒』として再度追放されるかもしれない。
まあ、不憫だよな。俺が言うのも何だけどさ……。
トシローが実力を発揮しつつ、ブルーローズのメンバーに経験値が行き渡るようにするには、どうすれば良いかって?
それをマスルが聞いてくるんだけど、俺に聞かれてもな~……。
んん~……。トシロー自身が成長やら覚醒とかして、上手いこと経験値を分配できるようになるとか……。
「手っ取り早いのは、時々、支援魔法なしで戦うとか……そんな感じじゃないのか? 経験値吸ってる仮説が確定の場合……だけどさ……」
危ない敵やモンスターと戦うときだけ、全面的に魔法で支援させて、それ以外では支援魔法なしで戦うとか……だな。
「要は、肝心なときの切り札的として、トシローには頑張って貰うんだよ。普段の戦闘は……支援魔法なしで修行だ。トシローのレベルアップに注力したいときは、支援魔法をバンバン使う感じ?」
「なるほど……。そのことも手紙には書いていいだろうか?」
「書いちゃえ書いちゃえ。手紙のことで何か言われたら、俺のせいにしていい……あ、駄目か。上手いこと説明してくれる? そもそも……これ、仮説なんだから、心配のしすぎで済めば……それが一番いいんだしさ」
これで、上手くいくかな?
俺にとっちゃ、トシローを追い出したのは記憶覚醒する前のことだけど、責任は感じてるし……。
トシローには気分良く、第二の人生ってやつを楽しんで欲しいんだよ。
ざまぁ系創作の主人公みたいに……。
◇◇◇◇
ファルディオ(野仲悟郎)やマスル達は、トシローのことを心配している。
だが、多くの『ざまぁ展開』小説の主人公がそうであるように、勇者パーティー追放後のトシローは、自分を重要視して貰える喜びを噛みしめ、かつてのパーティーメンバーについては時折思い出す程度であった。思い出した場合でも、追い出してくれて良かったと考えている。
そして、現在はファルディオ達が向かったのとは逆方向の地方都市で依頼を受け、モンスターの討伐中だ。なお、討伐対象は山の麓の村を襲撃した……アーマーライノスである。
奇しくも、ファルディオが死ぬ思いで倒したモンスターと同種であるが、トシロー達……ブルーローズはどうだったかと言うと、実にアッサリ倒していた。
リーダーであるポニーテールの金髪女剣士、シャーノ・タカビーが先頭に立ち、トシローの支援魔法を受けてパワーアップ。突進してくるアーマーライノスを前に跳躍するや、背の装甲を切り裂いて心臓に攻撃を加えたのである。
「やりましたね! シャーノさん!」
「え? あ……うん、そうね……」
無駄なく、素早く、力強く。そして鮮やか。
そう評するしかない戦いぶりであったが、興奮するトシローをよそに、シャーノは呆然としている。
(こ、こんなに? こんなに凄かったの? トシローの支援魔法って……)
シャーノが知る支援魔法とは段違いの増強ぶりなのだ。
その違いはどこから来るのか、そう思って最初にチェックしたのがトシローのステータスであるが、トシローからステータス・シートの内容を聞き、パーティーメンバー全員で目を剥くことになる。
職業 :支援魔法士
レベル:130
名前 :トシロー・ザマフリー
年齢 :16歳
魔法レベル82
<習得魔法>
範囲筋力増強(大)、範囲増速(大)、範囲高耐久化(大)
範囲体力回復(大)、範囲耐魔法(大)、範囲高速治癒(大)
範囲魔力回復(大)、範囲疲労回復(大)、範囲耐毒(大)
範囲魔法強化(大)
範囲減力(大)、範囲鈍化(大)、範囲低耐久化(大)
範囲体力減衰(大)、範囲耐魔法減衰(大)、範囲治癒阻害(大)
範囲魔力減衰(大)、範囲疲労回復阻害(大)、範囲耐毒減衰(大)
範囲魔法阻害(大)
※範囲魔法は、対象を単独に変更することが可能。
味方は徹底的に強化し、その一方で敵対者の弱体化。
パーティーが『強く』なるわけだ。
「我ら、ブルーローズのレベルは平均で27ぐらいだったか? トシロー……。貴殿、これほどの実力があって勇者のパーティーを放り出されたのか。勇者達は、この数値を知っていたのか?」
和風黒髪美人の僧侶、イクネス・クリッサンスマムがいつもの口調で言うのだが、その表情は困惑に満ちている。
「ま、前のパーティーメンバーは知らない。ファルディオが……勇者が、『お前のステータス値など知る必要はない。お前もまた、僕たちのステータス値を知る必要はない!』って言って……」
これは事実だ。
記憶覚醒前のファルディオは、トシローを見下していたので、トシローからの発言はほとんど聞く耳を持たなかった。それを聞いてシャーノ達は納得しかけたが、魔法使いのユーノ・マダラトゥが「ちょっと待って」と挙手する。
「私達は、トシローからの情報と、噂で聞いた風の勇者の言動しか知らないわ。けれど、先日見た風の勇者は、石畳に額を擦りつけて謝っていたよね。……何だか、良くわからなくなってきたわ……。もしかして、トシローに何か……あるのかしら?」
この発言を受けて、褐色の長身偵察士……キミコが自身の赤い髪を手櫛で掻き回し、ユーノに食ってかかる。
「ええい、まどろっこしい! トシローが有能なのは確かなんだろ! 気になることがあるんだったら、ユーノが好きな『検証』とかすれば良いじゃん!」
「検証……この場合、誰の何を検証しろと言うの? 勇者のこと? トシローのこと?」
ユーノが聞き返す。
キミコは深く考えての発言ではなかったようで黙り込んだが、ここでシャーノが先程のユーノを真似て挙手した。
「二人とも、興奮しないの。ファルディオ……風の勇者のことは、後で良いと思う。今ここに居ないのだし……。けど、トシローについては、本人を何か疑ってるようで嫌だし……」
「俺は構わないよ!」
トシローがシャーノの言葉を遮って発言する。
勇者パーティーに居た頃は、無我夢中で支援魔法を使っていたが、解ったことと言えば『自分の支援魔法は成長し、有効に発動している』ぐらいのものだ。
「他のメンバーのステータス値を詮索するな! って勇者に言われてたし……。俺、自分が他と比べてどうなのかも良くわからないんだ……」
これを聞いて顔を見合わせたブルーローズの面々は、アーマーライノスの討伐報告をした後で、数日を費やし、トシローの『支援魔法』について検証を行うこととなる。
結果、支援魔法の発動中に倒したモンスターの経験値が、ほぼトシロー一人へ集約されることが判明し、トシローの立場が一時的に危うくなるのだが……。
直前に届いた一通の手紙によって、事なきを得る。
その手紙の内容とは、マスル直筆による『トシローの支援魔法に関する懸念について』というものだった。
今回、起承転結の『転』部分かな?
ファルディオ(主人公)が次に活躍するのは、第11話となります。
第10話は早ければ、今夜に投稿できそうです。
考えてみたら、本来の悪役で転落役(ファルディオ)が頑張ってるので
この作品、ざまぁ脱落するキャラって居ないかも。
サキや、ブルーローズのキミコあたり、危ないかもですけど。