Infinite possibility world ~ ver Sword Art Online   作:花極四季

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一年越しという巫山戯たスパンでやっと第十話到達。
読み返してみると、この作品の作りがあまりにも自分の理想というか、最盛期の構成で作られていたので、正直崩しかねないと思っていたけど、どうにか多少はマシな出来になったんじゃないかと思う。

取り敢えず言えることは、ホロウ・リアリゼーションがVR対応になったら本気だす。


第十話

【血盟騎士団】団長ヒースクリフの指示により、僕達はその本部の中にある作戦会議室に身を寄せている。

正直、狭いです。

 

「今回、君達を招集したのは、先日行われたボス攻略において、イレギュラーな事態が発生したことと大きく関わりがある」

 

端を発したのは、ヒースクリフだ。

中年男性特有の渋みのある声が、作戦会議室に響く。

 

「この場にいる者の殆どは把握しているだろうが、知らない者もいるだろうから今一度説明しよう。結論から言わせてもらえば、ボス部屋にいた取り巻き――そしてボスも、限定的不死状態となっていた」

 

マジか。あれがボス戦で出たのか。やべぇよ……やべぇよ。

その発言に、キリトがすかさず声を上げる。

 

「取り巻きは分かるが、ボスもだって?ならなんで倒せたんだ。アイツは確かに、俺の手で」

 

「キリト君。君の考えも最もだが、まずは説明させてもらえないだろうか」

 

「……ああ、悪い」

 

仕切り直しの咳払いと共に、説明は再開される。

 

「限定的不死に限らず、その状態に陥っていたモンスターの攻撃を受けたプレイヤーは、大小問わずレベルを奪われるという、前代未聞のペナルティを受ける事態に陥っている。――だが、もしかすると例外があるかもしれない。私は、その足掛かりを掴んだ」

 

ヒースクリフの言葉に、どよめきが走る。

顔には出ないけど、自分も驚いてる。

流石ヒースクリフ、俺達に出来ないことを(ry

 

「静粛に。……あくまで推測の域を出ない、信用に値しないものだ。だからこそ、限定的な招集となった訳だ」

 

「強い奴を集めたっていうのは、理由あってのことか?」

 

「そうだよ、ヴァルディ殿」

 

え、なんで僕だけ殿なん?

そういえばヒースクリフと話したのはこれが初めてだった。一応攻略組なのにェ……。

 

「単にボス攻略の為の人数の水増し、という意味ではない。――はっきり言おう。あのバグモンスターに対抗できるのは、ユニークスキル保持者だけかもしれない」

 

またしても、どよめきが走る。

 

「理解が追い付いていないだろうから、憶測に至った証拠を上げていこう。まず、先程キリト君が言ったボスの限定的不死化についてだが、あれは取り巻きのヴァンパイア・サーヴィターと違い、後天的に発症したものだ。事実、後半までは誰の攻撃でも通っていた。私も気付けたのは奇跡と言っていいぐらいに、僅かな差異だった。だが、そんな僅かな浸食で、モンスターは不死化することも実証できたのは大きな進歩だ」

 

「それで、何が言いたいんだ」

 

「キリト君が【二刀流】というユニークスキルを持つことは、ここにいる殆どが周知していることだろう。加えて、私も【神聖剣】というユニークスキルを持っている。ダメージの殆どはキリト君の【二刀流】が出してくれたが、対して私の方にも他の者とは違う変化があった。ダメージを受けても、レベルが変動しなかったのだ」

 

「……なるほど、ユニークスキルを持つキリトとヒースクリフが、バグモンスターの影響を受けていない。だからこそその推測か」

 

というか、その推測当たってそう。

だって、僕もユニークスキルあるし。バグモンスターの攻撃受けてもレベル下がらなかったし。

 

「本来、スキルの詮索はマナー違反であり、証拠として扱うには些か曖昧な部分も多い。ましてや、事が事だ。ユニークスキル保有者があのバグモンスター……いや、これからはウィルスバグと固定して呼ぼう。ウィルスバグ対策がユニークスキルなのかどうか、検証を重ねるということは、つまり君達の誰かが犠牲になれと宣言しているようなものだ。故に、私から無理強いをすることは出来ない。だが、このままではボス攻略さえも覚束ないまま、すべてが終わってしまいかねない。だからこそ、私は君達に願う。――どうか、私のやることに付き合ってくれないだろうか」

 

ヒースクリフは、深々と頭を下げた。

どこまでも堂に入った、言葉以上に物語る彼の思いの集約。

焦燥、悲壮感。そういった感情が見て取れる。

――だというのに、何故だろう。彼が何故頭を下げているのかが、理解できない。

彼の語ったことにも、その思いにも偽りはないことは理解できた。

だけど、何というか――彼は誰かに頭を下げるような人間じゃない、そう確信できる自分がどこかに居て、結果としてその感覚が違和感となっている。

自分はヒースクリフのことを一切知らない筈。なのに、なんでこんなにもその違和感に納得できているんだろう。

 

「……いいだろうか」

 

僕は挙手をして、前に出る。

ともあれ、膠着した現状を打開するには必要なことであることも理解している。

ならば、躊躇う理由はない。

 

「私はユニークスキル保有者だ。名前は【錬装】と言い、装備武器を瞬時に切り替えることが出来るスキルだ」

 

これはフィリアに【双剣】のことを教えてもらった後に調べたことだけど、どうやら【錬装】は武器の変更だけでなく、武器の変更によってそれ以前に発生していた硬直をキャンセルすることが出来るという、トリッキーな使い方が出来ることが発覚している。

盾に関しては武器としてカウントはされないけど、片手武器を装備する際に自動的についてくるらしく、逆に盾だけ指定して出すということは出来ない。

武器の変更は一方通行で、クールタイムを置かないと一度切り替えた武器をユニークスキルの効果で装備することは出来ない。手動は可能。

使える武器が多ければ多いほど強くなるスキル。今の自分にはぴったりだ。

 

「……私も、あるよ」

 

僕のカミングアウトに動揺が走る中、フィリアも恐る恐る手を上げる。

 

「フィリア、君は――」

 

「いいの。我儘言ってられない状況だって、私にも分かるもん」

 

フィリアは改めて皆の前に向き合う。

 

「私のユニークスキルは【双剣】。キリトさんが【二刀流】ってスキルを持ってるのは聞いたけど、多分似た感じのスキルだと思う。私のは、短剣を二本持つことが出来るの。プラス効果で敏捷性が上昇、専用ソードスキルも使えるようになったわ」

 

「キリトでいいよ。……そうか、君も俺と似たスキル持ちか」

 

「習得したのは、というか気が付いたのはごく最近だけどね。だからキリトの方が先輩になる、のかな?」

 

「使う武器も違うし、そういった関係は少しむずかゆいから、普通でいいよ。――そうだな、俺も説明しないといけないよな」

 

キリトが決意した表情で語り始める。

 

「俺の持つユニークスキル【二刀流】は、フィリアが説明してくれた奴と大きな違いはない。俺の場合は、片手剣を二本装備できるってだけだ。専用ソードスキルもある。多分、【双剣】と大きな違いはないんじゃないかな。……まぁ、俺の方はステータス的に敏捷が上がった様子はなかったから、どこか差異があるのかもしれないけど」

 

まぁ、聞いた限りだと武器の差異しかないし、ユニークスキルなんて特別な代物がコピペのような中身な訳ないし、違いはあるだろうね。

 

「他にはいるかね?」

 

ヒースクリフが観衆に問いかけるも、それ以上前に出る人はいなかった。

 

「4人か……。状況を考えれば不安の残る数だが、むしろこの場に4人もいたことが重畳と言うべきだろう。では、この4人を軸に改めて話を進める。先ほども言った通り、検証をしないことには膠着状態をどうにかすることもままならない。という訳で、ここからも立候補制になるが、私達の検証に付き合ってもらえるメンバーを募集したい」

 

「それって、ウィルスバグ以外の敵を惹きつけておく役割ってこと?」

 

「そうだ。君は――」

 

「ストレアだよ」

 

ストレアの姿を見たヒースクリフが、一瞬だけ視線を揺らした気がした。

 

「その通りだ、ストレア君。私達の目的はウィルスバグだが、他のモンスターと遭遇しないとも限らない。いや、確実に共にいると考えた方がいいだろう。実験で全滅、なんてことになれば目も当てられない。だからこそ護衛役が必要なんだ。……とはいえ、参加すればウィルスバグによる被害が広がる可能性も高まる。だからこそ、強制はしない。だが、もし君達が私達のやることに意義を感じたのであれば、どうか願いを聞き入れてほしい」

 

そう言い終えて、ヒースクリフは頭を下げた。

……その真摯な態度に何故か違和感を覚えるも、詮無き事だと切り捨てる。

そして静かになる部屋の中、一人の影が矢面に立つ。

 

「私、やります」

 

その正体は、アスナだった。

 

「アスナ……」

 

「止めても無駄だよ。キリト君が危険な目に会うときに、私だけ待ってるなんて出来る訳ないもん」

 

「わ、私も!足手纏いかもしれませんけど、キリトさんに鍛えてもらったから、手助けぐらいできます!」

 

アスナに続いて、シリカも手を上げる。

覚悟を決めた、強い目だ。キリトもそれを理解したのか、否定の二の句を告げないでいる。

 

「当然、私も行くよ?サチも、ね」

 

ストレアがサチの手を取り、僕の傍に立つ。

それに続くように、サチも頷く。

 

「うん。私でも露払いぐらいなら出来ると思うし、皆を助けられるなら……」

 

そうして、次々に俺も私もと立候補する人達が増えていく。

一致団結している、と言うよりもこの空気にほだされている感じが強い。

運営でも対処が出来ていない現状、プレイヤー側がデバッグ作業を行うのはおかしなことではない。

事実、βテストと言った先行プレイの権利は、バグをプレイヤーに見つけてもらう為の代償行為でしかない。

その延長線上にあるオープンサービスが行われたからと言って、バグが見つかっても報告しなくても良い、という訳にはならない。

何せ、それは予期せぬ不具合であって、ゲームを楽しむ事を著しく阻害する要素でしかない。気持ちよくゲームを楽しみたいのであれば報告するのは当然であり、ましてや悪用することなどあってはならない。

とは言え、今回の件はあまりにもイレギュラーが過ぎる。

集団心理が働いたことが結果的に良かったのか悪かったのかは今は分からない。

解決した後に失ったものが戻ってくるかどうかも現状は不明。そんな状態で危険に飛び込もうとするなど、余程の物好きでなければ有り得ない。

従来のMMOと違い、このゲームのレベル上げはかなりしんどい。それを含むとなれば、正義感で動こうとしている人は恐らく少数で、それ以外はほぼ確実にその場のノリで立候補しただけだろう。

簡単な問題ならともかく、ゲームの存続に関わるレベルのバグともなれば、吐いた唾を呑みこむなんてことそうそう出来る筈もなく、なし崩しで今があると推測した。……だからなんだって話だけどさ。

 

でも、自分でも不思議に思う。

確かに深刻なバグではある、が――言ってしまえば所詮ゲームであり、現実の自分達に大きな影響を及ぼすこともないのだから、自分が思う以上に皆は気楽に事を構えているのかもしれない。そんな選択肢だってあった筈なのに、それは絶対(・・)にあり得ないと最初から切り捨てた思考に陥っていたことに、今更気付く。

そして、その事実に違和感すら覚えず、寧ろ当然だと納得している自分自身に不気味ささえ感じてしまう。

何かが、おかしい。しかし、その何かはとっかかりさえ掴めず、ただただしこりのように頭の中に残り続ける。

 

「――ありがとう。では、参加してくれる者達には軍資金として私の方からある程度のコルを支給させてもらう。元より無茶を頼むのだから、それぐらいはさせて欲しい」

 

ヒースクリフの太っ腹な発言に、良い意味での活気が部屋中に満ちていく。

悩んでも仕方がないと思考を切り替え、長蛇の列と化したヒースクリフへ続く道に並ぶことにする。

誰もが喜びを大なり小なり表現する様子を眺めながら、ついに自分の番にまで辿り着く。

 

「受け取ってくれたまえ」

 

簡潔にそう告げると、トレードで50万コルが手に入る。

そして、トレードのアイテム欄にもうひとつ紙のようなものがあることに気付く。

 

「人目の着かない所で読んでくれ」

 

自分にしか聞こえないぐらいに小さい声で、ヒースクリフは呟く。

すわ告白か?だなんてふざけたことを考えもしたが、流石に茶化せる雰囲気ではない。

何というか、値踏みされているような。そんな感じ。

何事かと思いつつも、僅かに頷いてその場を後にする。

 

血盟騎士団本部をを後にする面々を尻目に、渡された紙をこっそりと黙読する。

内容は、少し時間を置いて血盟騎士団の団長室に来てほしい、とのこと。いや、どこだってばよ。

取り敢えず言われた通りに行動し、虱潰し上等でようやく辿り着く。

 

「待っていたよ、ヴァルディ殿」

 

血盟騎士団のメンバー全員が入れるぐらいに広大な部屋の窓際に、こじんまりとしたデスクとそこに座するヒースクリフの姿。

逆光に紛れた笑みは、どこか不遜で尊大な雰囲気さえ感じられる。当人にその意図はないのだろうが、何故かそう感じてしまう。

 

「血盟騎士団の団長ともある者が、いちプレイヤーに何用だ?」

 

「大したことではない。ちょっとした世間話さ、一対一で、誰にも聞こえない環境でするだけのね」

 

「男同士で逢引とは、なんとも華のない光景だな」

 

「時間を取らせるつもりはない。下手な噂になることはないだろう」

 

此方の皮肉もどこ吹く風で、ヒースクリフはおもむろに立ち上がると背後の窓に手を添え、遠くの景色に視線を移した。

 

「――君は、この世界をどう思う?」

 

「藪から棒だな。意図も理解しかねる」

 

「単純な好奇心さ。……この世界は、仮想なれど現実と相違ない感覚をプレイヤーに与えている。食事を始めとした一部のデータは完璧とは言い難いとしても、視覚、聴覚、触覚、嗅覚に関しては限りなくリアルだ。ここは第二の現実と言っても相違ない環境であり、いずれはその領域へと至るであろう革新的な技術。そうだとは思わないかね?」

 

いきなり語り始めましたよ団長さん。

冷静な態度から滲み出る興奮は、いかんせん隠しようがなく、アバター的にも年甲斐なくはしゃいでるおっさんにしか見えなくてコメントに困る。

それが駄目って訳じゃないんだけど……なんで自分とそんな話をしたかったの?って思うと正直謎が謎を呼んでどう対応して良いのか判断つかないのね。

 

「確かに、粗はあるがそれでも現実へと迫る勢いがあるのは認めざるを得ないだろう」

 

「この世界では、最早ゲームクリアなくしての脱出は不可能。なればこそ、ここを現実と定める者も少なからず出てくるだろうし、それは必然だ。誰もが一度は妄想した、現実にはない世界への逃避、体験。その妄執の結晶がこの世界だ」

 

いや、ゲームクリアしなくてもやめられる人はいるでしょ。

そもそもオンラインゲームってクリアの定義ないようなものだし、如何にここが凄くても、余程の廃人でもない限りは別の所へと居場所を求めるんじゃないかな。

ヒースクリフがこのワールドに没入していることは反応からして最早語るまでもないが、それに同調できるかと言われたら別問題であって。

そんな脳内突っ込みの存在など露知らず、ヒースクリフはどんどんテンションを上げて言葉を続けていく。

 

「そんな私達にとって、現実とは一体どこに存在するのか。ゲームをプレイしている状態からの肉体的な死を遂げた場合、魂は果たしてこの世界と外の世界、どちらに行き着くのか。魂は果たして、どちらを現実と許容するのか。そもそも魂とは電子世界に於いてどう言う処理が施されるのか。気にはならないかね?」

 

「残念だが、そんな無粋な問いに関心を寄せるほどのことはないな」

 

「……ほう、無粋とな。ならば君は、どんな考えを持っているのか、聞かせて貰いたい」

 

背中越しに放たれる視線。

有無を言わせないといった覇気を乗せたそれを受けて、言い方間違えたかねーと緩い思考で言葉を組み立てていく。

 

「そも、私にとっての前提だが――ゲームはどこまで行ってもゲームでしかない、と言うのが私の持論だ」

 

「ふむ」

 

「リアリティとリアルは、似て非なるもの。私達が今生きている現実という基盤が存在しているからこそ、仮想現実という新たな領域が生まれたのであり、その逆は決してありえない」

 

「故に君は、鳩が産んだ卵が親をも超えることはないと言うのかい?先か後かなど、実際に生まれてしまえば差など無い。あるとすれば、それは人間が勝手にそう線引をしているに過ぎない」

 

「たとえそうだとしても、その線引を定義するのは過去の知識や経験だ。そも、優劣を語っている時点で的外れにも程がある。少なくとも、他者の同意の尻馬に乗って得られた答えなど薄っぺらいだけで、重みも何もない。貴方がこの世界に如何に正当性を見出したところで、他の誰かが共感できるかは別問題だろう」

 

「……だからこそ、皆がゲームクリアと言う終わりを求めている、か。なるほど、ここにいる者達を見ていれば、同意せざるを得ないな。だが、それこそ生きていると言えるのではないかね?現実世界では、社会的な成功者は稀で、殆どは平坦とした人生を歩んでいく。能力の有無以前に、生きることに貪欲ではないことが理由だと私は考えている。先の見えない未来に、周囲を見れば誰しもが同じような生き方をしているばかりで、自分自身さえも前後不覚になってしまう。そうしていつしか、社会の歯車の一員となっていく、その繰り返しこそ今の社会の骨子を作っていったのだと」

 

「――極論が過ぎるのではないか?」

 

「では、君は夢想したことはないのかな?お伽話に出てくるような神秘的な世界で、自由気ままに生きてみたいと。剣や魔法を携えて、戦いの中に生を見出してみたいと。……いや、聞くまでもないな。何故なら、君自身がここにいる事こそが、何よりの証明なのだから」

 

「…………」

 

ヒースクリフは静かに振り返り、()と視線を合わせる。

野望に揺らめく男の目。同時に、どこまでも童心に寄り添った、真水の如き目でもある。

しかし、一点の濁りの無い水の中に適応できる生物は殆ど存在しない。しようとすれば、その前に身体が保たず死滅する。

環境そのものが生死に関わらない適応だとしても、求められる年月は短くて十年単位、長ければ億単位にも相当する。

そこまで極端でないとしても、あの目に宿る思想に適応するには、あまりにも性急が過ぎた。

彼は、人間を理解してはいない。

 

「ヒースクリフ。貴方の言葉は正しい。人は誰しも変化を望んでいる。変身願望、英雄願望といった陳腐で子供染みた思想は、大人になろうとも決してなくなることはないだろう」

 

一呼吸置き、再び視線をヒースクリフへと向ける。

 

「だがな、それは今の自分を否定してまで望む者はそういないんだ。確かに人は変化を望むだろう、しかし同時に安定も望んでいる。二律背反の欲望であるからこそ、人は仮想や空想に思いを馳せる。ゲームなどがまさに最もな例だ。現実では倫理や常識に阻まれて出来なかった行動も、ゲームの中ならば許容される。二次元の中だけに留まるのならば、人は英雄にも生物の枠を超えた存在にだってなれる。人殺しだろうと、な」

 

ヒースクリフは黙って此方の言葉に耳を傾ける。

此方の意見を聞くことを、どことなく楽しんでいる様子さえも見受けられる。

それはまさしく、同じ趣味を持つ者同士の議論の交わし合いのよう。

 

「だがな、それも所詮はゲームと言う非現実という線引が存在するからこそ成せることであって、そうでなければ誰が好き好んで生死を掛けた毎日に身を置こうと思う?仮に好奇心で手を出したとして、後悔するのは目に見えている」

 

「それもひとつの論に過ぎないのではないかね?人間とは意外と図太い生き物だ。嫌悪している行為も、繰り返せば慣れてしまう。たった一度でもタガを外れる切っ掛けを与えてしまえば、君が考えるような理性的な人類など数えるほどしか存在しなくなるだろう。戦争こそ、人間の矛盾の総意だ。人殺しは間違いだと謳いながら、自国を護り反映を築く為ならば血を流すことも厭わない」

 

「それが望んだ結果だというのならば、何も言うことはない。しかし戦争で被害を被るのは、一部の偉い奴らの身勝手な意見の皺寄せを受けた兵や民草だ。選択の余地もない流れを前に、人が現状維持を望むなど有り得ない。命よりも尊い物など、この世に有りはしない。それに――」

 

「それに、何かな?」

 

「人が異世界などを夢想するのは、それが決して現実を侵食することはないと認めているからだ。憧れはあるだろう、しかしそれは空想の出来事以上には成り得ないと、現実を見据えた上で仮想現実という限りなく近い場所に理想を求め、妥協している。仮想現実が私達の言う現実と同じになってしまえば、そこには夢もロマンもなくなってしまう。非現実特有の逸脱した世界に逃避し、現実との折り合いをつけることで辛くても精一杯現実を生きられるんだ。そして同時に、先も言った通り非現実故の自由度の高さに魅力を感じるというのに、それが損なわれてしまえば残るのは現実とそう大差ない世界だけだ。そんなの、楽しい訳がない」

 

思いの丈を吐き出し終えると同時に、ヒースクリフの視線は閉じられる。

思うところがあったのか、無言で思案に耽る。

……それよりも、先程自分の中に襲いかかった違和感。

何が、と具体的な事は言えないが、とにかく何かがおかしかった。

歯に魚の骨が挟まったような居心地の悪さを、今にして自覚する。

少し前にも、こんな感覚を覚えたような、気がする。或いは、夢のように記憶の複合から起こる既視感の類だろうか。

 

「……やはり、君とは分かり合えそうにはないな」

 

どこか寂しげに笑うヒースクリフ。

外見相応に老成した姿からは、僅かばかりの悲壮感が感じ取れる。

 

「貴方の考えを否定するつもりはない。だが、人には人の考えがある。思想が交わるならばそれでよし、そうならないからと言って強要するのはそれこそ間違いだ」

 

「手を取ることもせず、突き放そうともしない、か……。随分と手酷くフラレたものだ」

 

ゆっくりと、しかし着実な足取りでヒースクリフが近づいてくる。

手を伸ばせば届く距離に至ると、そのままコンソールを操作し始める。

そして、トレードの要請が届く。訝しみつつも、それを承認した。

 

「君に必要なものだ、受け取って欲しい」

 

テキストには、【死ヲ刻ム影】と表記されたアイテムが載っている。

 

「これは?」

 

「【錬装】を習得した者のみが扱える、特殊武器だ。これからの役に立てて欲しい」

 

「何故――」

 

その条件を知っている、という言葉を遮るように、トレード完了の音声が流れた。

まだ、私は承認していない筈。不可解の連続を前にして、何故、がゲシュタルト崩壊を起こしそうになる。

 

「私からの話は以上だ。先程の武器は今回呼びつけた詫びも兼ねてのものだから、間違っても恩を返そうとすることはしなくても良い」

 

「……分かった」

 

恐らく、言及したところでヒースクリフは何も語らないだろう。

興味を失くしたように外を眺める姿を一瞥した後、退出した。

背中で隠された、彼の笑顔に気付かないまま。

 

帰りも特に誰ともすれ違うことなく、無事に脱出が出来た。

皆、貰った金で買い物してるのかね。

自分もそうしようかな、と考えているとキリト達の姿が目に入った。

アスナは最早当然として、知らないローブを纏った人も同行しているようだ。

 

「ヴァルディか」

 

「キリト、何をしていたんだ?」

 

「別段特には。ヒースクリフからコルを貰ったけど、正直今の装備以上のものはかなり上質な鍛冶装備かレアドロップぐらいしかないだろうし、取り敢えずは今後のことを考えながら食事でもしようか、って流れになるかって所だったんだ」

 

「食事、か。もし良ければ私もお相伴に預かりたいのだが、いいかな」

 

「あー……、アスナ、どうだろう」

 

「うーん、ヴァルディさんが一緒となると、量がねぇ……。予定変更して、どこかのレストランにする?ヘルバちゃんは、それでいい?」

 

ヘルバ、と呼ばれた少女?はアスナの問に答えない。

ローブの隙間から、此方を一点に見つめているからか、そもそも声が届いていないのか。

 

「……お兄、ちゃん?」

 

ヘルバは漏れた声に続いて、大慌てな様子でローブを脱いだ。

 

「――――な、」

 

目を、見開いた。

そこには、信じがたい光景があった。

 

その姿を忘れる筈がない/その姿を忘れる筈がない

 

自分は、彼女を知っている/私は、彼女を知っている

 

だが、そんな筈はない/だが、そんな筈はない

 

何故なら彼女は/何故なら彼女は

 

もうこの世に居ないのだから/メディキュボイドで療養中なのだから

 

「木綿季、か?」

 

「そうだよ、お兄ちゃん――!!」

 

涙混じりの笑顔を抱えて、木綿季は私の胸に飛び込んできた。

忘れる筈のない温もりが、データ越しに確かに感じられた。

 





Q:なんだ、ヒースクリフっていい奴じゃん!
A:実際悪人ではない。結果としてそうなっただけで、誰よりも純粋すぎた結果だと思う(ネタバレ並感)

Q:このヒースクリフがヴァルディを一方的に知っている感じ。
A:ホモよ!(違)

Q:ヘルバ=ユウキだと……
A:しかも主人公とはただならぬ関係の予感。さて、何がなにやら。
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