Infinite possibility world ~ ver Sword Art Online 作:花極四季
後、GWだから少しだけ頑張った。
どこにでも確執ってあるもんなんだなぁ、なんて益体もないことを考えた一層のボス攻略からちょいと経ちました。
いやぁ、コボルド・ロードは強敵でしたね……。
実際、ありゃソロは無理だ。体力多すぎる。
攻撃力はたいしたことないし、パターンは組みやすい部分はあったけど、それでもジリ貧になるのは目に見えている。
オンラインゲームなんだから、パーティプレイが前提なのは分かるけど、それを前提に組みすぎている気はしなくもない。
それはそうと、あれからどうなったのかというと、だ。
確執の消えたディアベルとキバオウは、どうやらディアベルを隊長、キバオウを副隊長としたギルドを結成しようと考えたらしい。
そのギルドに僕も誘われた。というか、本来副隊長は自分が良いと推していたんだよね、ディアベル。
だけど、丁重にお断りしておいた。
別にディアベルの提案がイヤだった訳ではない。ただ、ギルドとかって入っちゃうとどうしても足並みを揃えないといけなくなるから、個人でやりたいことが出来なくなるかもしれないってのが痛いんだよね。
特に僕の場合、スキルの熟練度上げという、他の人からすれば不必要なレベルでの頑張りを行わなければならないから、足並みを揃えるのは難しいと判断したのだ。
だから、やることがあるという理由でお断りして、フレンド登録だけしておいた。
図々しいかもだけど、ボス戦の時ぐらいは力になれるから誘って欲しいとは伝えてある。
それを快く受け入れてくれるディアベルマジカリスマ。
そんな感じで、一人黙々とスキル上げをしています。
二層になったからといって、道中のモンスターが極端に強くなることはなかったので、誰かに助けを求めるとか、そういう情けないことにはならなかった。
むしろ、他の人達の助けに入ったりもしたぐらいだからね(ドヤァ
すいません、調子乗ってました。むしろ経験値ありがとうございます。
「――――ん?」
ふと、視界にフード姿の誰かが追われている様子が映る。
もしかして、PKか?こんな序盤から物騒だなぁ。
見てしまったからには、見捨てるのは流石に無理だ。と言うわけで、行ってきます。
「待て、何をしている」
「え?」
「な、何者でござる!」
よく見ればどこか忍者を彷彿とさせる防具を装備したござるメンは、突然現れた僕に対しそう告げる。
「何者も何も、そちらこそ何をしている。その様子からして、PKでも行おうとしていたのか?もしそうなら――」
警告と共に、スキル上げ真っ最中だった両手槍の柄を手に取ると、ござるメンは慌てて弁明を図る。
「ち、ちがうでござる!拙者はただ、この者が持っている情報を所望しており、しかしその情報を教えることを渋るこの御仁にどうしても聞き出したく、追いかける形になっていただけでござる!」
「……らしいが、そこのフードの人。今の言葉に偽りはないか?」
「……無イヨ」
「――で、だ。何故貴方は情報を渋るのだ?そんなに重要な情報でもなければ、教えてしまえば後腐れが無くて良いと思うのだが」
「それは――教えられないものは教えられないんだヨ」
「頑なだな。まぁ、教えられないというのであれば、そちらの忍者の貴方も諦めた方が――」
言い終える前に、ござるメンの横にモンスターがPOPする。
「ちょっ、まっ、うわあああああああ!!」
忍者らしく敏捷特化のステなのか、物凄い速度でモンスターを振り切らんと逃げ出していった。
まぁ、あれなら振り切れるだろう。
「あ、ありがとう。助かったヨ」
フードに覆われた顔を、僅かに覗かせる。
猫の髭ようなペイントと、フードのデザインも相まって、その少女のインパクトはとても強く、印象に残った。
「感謝されるほどのことをしたつもりはない。それよりも、何故情報を渡さなかったのだ?まさか、プライベートなことを聞かれた訳でもあるまいに」
「そんな訳ないヨ。こっちは情報屋としてベータテスト時代から名を売っている【鼠のアルゴ】なんだから、金になる情報なら大抵は売るヨ」
「ほう……情報屋だったのか。道理であの様な手合いに絡まれていたのか」
「そういうコト。それよりも、もしかしてお兄さんはヴァルディって名前じゃないカ?」
「何故そのことを?」
「噂の範疇でしかなかったから、何とも言えなかったけど、馬鹿みたいな長身のイケメンがいるって耳にしてナ。情報と一致した外見だったから、そう判断しただけダヨ。それに、最近追加された噂で、ベータテスターに対する不信感を少しか拭うのに一躍買ってくれたって話じゃないカ。ベータテスターとして、感謝しているヨ」
「イケメンとは、嬉しいことを言ってくれるな。だが、それを言うなら君だって随分と可愛らしい顔をしているじゃないか。猫のような風貌も相まって、とてもキュートだ」
実際、この外見もキャラメイクの賜物であって、このキャラがイケメンだと言われても、ああそうだねぐらいの感想しか抱けない。
でも、誉められていることに代わりはないので、こっちも思ったことを返しておく。
「キッ、キキキ――な、何を言い出すかなキミは!」
「何を、とは?」
「人をいきなりキュートだとか可愛いとか、女の子に言うものじゃないヨ!」
「思ったことを言っただけなんだが……いけないのか?」
「~~~~ッ!!とにかく!折角助けてもらったんだから、その礼も兼ねて、オイラが隠してた情報を教えてあげるヨッ」
何か悶えてた猫少女だが、話題をすり替えるようにそう言い出す。
キャラの姿を可愛いと言っても、ここまでオーバーリアクションで返されるなんて思わなかったよ。
男と女じゃ感性が違うのかな。アクセサリとか髪型誉められたら嬉しいみたいな、そんな感じ?
そういえば、他の女性に対してもそんな反応されてたのを思い出した。やっぱりそうなのか……?
「いいのか?」
「こっちが良いと言ってるんだから、大人しく好意を受け取るのが大人の対応と言うものだヨ」
「……まぁ、キミがそれで良いと言うのであれば」
「アルゴでいいヨ」
「そうか、ならばアルゴ。キミの言う情報とは何なんだ?」
「フフフ、それは【体術】スキルの存在についてダヨ」
「【体術】スキル?」
「まぁ、簡単に言えば戦闘用スキルダヨ。武器を装備していなくても使えるのが特徴で、同系統の武器から連続してスキルを使えないシステム上、ミリ残りのHPを狩るにも使えれば、咄嗟の反撃にも使えるという意味ではそれなりに有用なスキルだヨ」
「ほう……しかし、何故そんな重要なスキルを教えなかったのだ?」
「まぁ、教えることはやぶさかじゃないんだけど、習得方法が、ネ」
バツの悪そうに頬を掻くアルゴ。そんなに面倒なのか?
「この世界で生き残る為の技術ならば、何でも習得しておきたいからな。多少の苦難ならば乗り越えてみせるさ」
「アレが多少なら、どれほど幸せカ……」
遠い目でそう呟くアルゴ。なんか怖くなってきたんですが。
「それだけ言うなら、ついてくるといいヨ。後悔しないといいけどネ」
振り向きざまに見せたアルゴの不敵な笑みが、とても印象に残った。
ヴァルディという青年のことは、噂で聞いていた。
二次元に三次元要素を加えたのがSAOならば、三次元から二次元要素を加えたのが彼という存在だと言われたら、納得できてしまうほどに、彼の容姿は整っていた。
キー坊も線の細い女の子のような顔つきだったけど、彼はそういうレベルではない。
言い方は悪いが、不気味すぎるほどに美しかった。
だが、そんなことはすぐにどうでもよくなった。
そう思わせる要因となった出来事が、今目の前で起こっているのだから。
「どうだ、似合ってるか?」
無表情でそんなふざけたことを聞いてくるヴァルディ。
彼は今、【体術】スキル習得の為に刻まれた呪い、顔に猫のようなヒゲをつけられるというものに掛かっている。
はっきり言おう。シュールすぎる。
変わらない表情や口調から、口数の少ないとっつきにくい雰囲気があると思っていた反面、こんな反応を見せられて、普通の人はどう返せば良い?
「……いや、全然」
「そうか……」
声の調子が僅かに下がったヴァルディ。落ち込んでいるのだろうか。
何だろう。さっきまでの印象がガラリと変わって、今では親しみやすさが先行している。
というか、なんだか可愛い。これがギャップ萌えって奴なんだろうか。
「それで、さっきも言った通り、この岩を素手で壊さない限りスキルも取れないし、このペイントも取れないカラ」
「分かった」
それからは、物凄く淡々とした作業だった。
本当に壊れるのか?そんな疑問さえ持ち、遂にはβテスト期間中に壊すことが出来なかった大岩。
それに挑む彼は、オイラが抱いたような絶望が先の見えない不安など存在しないかのように、無心に大岩へと正拳突きを繰り返している。
もう三十分はやっているが、表情、動き共に一切の淀みは見られない。
普通の人間なら、最初は十分持てば御の字ぐらいの苦行だというのに、よくやる。
如何に肉体疲労と言う概念が存在しないとはいえ、実際に稼働している脳は疲労する。
そのはずなのに、ここまで集中力が持つなんて、相当苦行慣れしている。
ベータテスターではないようだけど、戦闘慣れもしていたらしい。
益々興味深いよ、彼は。
「おーい、アルゴー!!」
聞き覚えのある声が耳朶を打つ。
声のした方へと振り向くと、そこにはキー坊と知らない女性がいた。
「おー、キー坊じゃないカ。それと、そちらの子は誰カナ?」
「あ、私はアスナって言います。よろしくね」
「あい、よろしく。オイラはアルゴ。【鼠のアルゴ】の名で通っている情報屋だヨ」
アスナと名乗った女性と握手を交わす。
「それにしても、どうしてここにいることが分かったんダ?」
「ああ。それはさっき忍者ロールプレイをしていた……名前忘れたけど、βテストにも参加してた奴がモンスターに追われてたところを助けて、その際にアルゴがここにいるってことを教えてもらったんだ」
「ナルホド。それだけで訪ねてくるとは、相変わらずの物好きだナ」
「そういう訳でもないんだが……それよりも、あそこで岩を殴ってるのって誰だ?」
「ああ、彼はヴァルディだヨ。ボス攻略に参加していたキー坊なら、見覚えがあるんじゃないカ?」
「……ああ、彼か。戦闘の上手さもさることながら、ベータテスターに対する不信感も彼とディアベルの説得で少しかは和らいでくれたおかげで、協力的な姿勢を見せるベータテスターが増えたよな」
「そのようね。キリト君も前に比べて気負った感じがなくなったと思うよ」
「それはアスナもだろ。前の鬼気迫る感じに比べれば、全然だ」
二人の仲の良さそうなやり取りを見ていると、少し胸が痛む。
そんな痛みから逃れたくて、慌てて話題を逸らす。
「そ、それよりも。キー坊も【体術】スキル習得していかないカ?」
「【体術】スキル?なんだかおもしろそうだな」
興味を抱いたキー坊に、概要を説明すると、僅かに渋い顔をする。
「うーん、ソロだった頃はともかく、今はアスナがいるからな。あんまり長く時間の掛かりそうなものは避けたいな」
「そんなこと気にしなくてもいいのに。便利そうじゃない、そのスキル」
「まぁ、でも。彼もああやってスキル習得に勤しんでいる姿を第三者的に見ると、やる気が削がれると言いますか……」
「それはまぁ、凄くわかるけど……」
傍から見て、無言で岩に拳を振るうその姿は、面倒な事この上なく映る。
しかも、受けてしまえば終わるまでヒゲがつくという点を考えると、結論を出せないのも無理はない。
「そういえば、二人はどういう関係なんダ?」
「アスナとは、ボス攻略の際に組んだのが切っ掛けで、今もこうして一緒にいるんだ。アスナは戦闘の才能があるから、一緒に戦っててとても心強いよ」
「生きるのに必死なだけだよ。だから頑張って強くなろうとしただけ」
「……まぁ、キー坊はβテスト時代からソロで行動する傾向があったから、アーちゃんと組むことは良い流れだと思うヨ」
「あ、アーちゃん?」
「アスナだからアーちゃんダ。別にイイダロ?」
「ま、まぁいいけど……」
多少納得してないながらも、そう返してくれたので、心置きなくそう呼ぶことにする。
「よし、折角だから彼にも挨拶しましょうよ。あれだけ強かったんだもの。恐らくこれからも顔合わせはするだろうし、今の内に情報を共有するのも悪くないと思うんだけど」
「……それもそうか」
アーちゃんに手を引かれる形で、キー坊はヴァルディの方へと向かっていく。
……あれはもう、取り付く島もないだろうね。やってられないよ。
俺が知るヴァルディという男の情報は、あまりにも少ない。
一層のボス攻略に遅れて参加し、ベータテスター顔負けの戦闘技術を見せつけ、ベータテスターと一般プレイヤーの溝を埋める一助を成したということぐらいだ。
あんな衆目を集めそうな外見、手際が良くあまりにも都合良く進む話の流れ。彼が茅場晶彦なのでは?と最初疑うのも無理のないことだった。
だが、冷静に考えて、これほどの大規模なテロを企てる男が、こんな序盤で身元バレするようなポカをやらかすとは考えられない。
可能性でさえも、一度仄めかすような真似をしてしまえば、奴の望むこの世界の観察とやらに支障が出る。
そもそも奴がこの世界にプレイヤーとして紛れ込んでいる保証なんてないのに、下手に疑心暗鬼に駆られるような行動は避けるべきだ。
彼が茅場だろうとそうでなかろうと、現状は決して悪い方向に進んではいない。
ならば、今は様子見に留めておくのが正しい判断だろう。
「こんにちは」
俺の手を引くアスナが、無心で岩に拳を打ち付けるヴァルディの背中に挨拶をする。
その声に遅れて振り返ると、やはりそこにいたのは網膜に焼き付いて離れない美麗な男の顔があった。
いや、美形だからってのもあるけど、事前に聞かされていたとはいえ、その端整な顔立ちに不釣り合い極まりない動物の髭がこしらえられている事実に、必死に笑いを堪えるしか出来なかった。
ていうか、なんでアスナは平気なんだ?
「こんにちは。して、君達は一体?」
「あ、ごめんなさい。私はアスナ。彼はキリトって言って、一層のボス討伐に参加していた者です」
「そうだったのか。すまない、記憶にないんだ」
「仕方ないですよ。私達はあぶれ組で、センチネルを狩っていたのがメインでしたから」
「しかし――そういえば、君達がトドメを刺していなかったか?」
「ええ。私じゃなくて、キリト君がですけど」
閉口を貫いていた俺に、いきなり話題が振られる。
「成る程、キミが……」
興味深げに観察される感覚に、居心地の悪さを感じる。
「俺なんか大したことはしてないよ。それよりも、アンタの両手剣捌きの方が凄かった。アンタぐらいの手練れならβテストにいたら噂にならない訳がないし、正真正銘の新規なのか?」
「ああ」
「それであの動きか……。アスナ以上に才能があるのかもな」
そう思うと、少し嫉妬してしまう。
俺が持つ彼らとの差異は、βテストで得た知識と経験がせいぜいだ。
才能という優位性を覆すには、あまりにも些末で小さな差だ。
何度も死んで経験したことで得られた情報は、確かに価値のあるものだ。
だが、今度からはそうはいかない。
そんな捨て身なやり方で得られた情報も、後に活かせないのならば何の価値もない。
だからこそ、凡人と才能ある者とでは明確な隔たりが出来る。
一を知り十を知ることが出来れば、それだけ凡人よりも早い速度で成長が出来る。
必然的に、死から遠ざかる。死から遠ざかると言うことは、後の成長に繋げることが出来る。
スタートラインが限りなく同一であるということも踏まえれば、才能が如何に重要かが分かるだろう。
一般プレイヤーがベータテスターを非難していた気持ちが、今ならなんとなく分かる。
結局、同じなんだ。誰もが自分が持たないものを持っている相手を嫉妬する。
俺も、二人の才能に対し、ほんの少し似た感情を抱いていることを否定することは出来ない。
「……なぁ、少しいいか?」
「ん?」
「いや、アンタの強さは一層の時に見たからなんとなく分かってるけど、それでも実際に肌で感じてみたくてさ。デュエルの【初撃決着モード】で、一回戦ってみないか?」
自分でも、何を言っているのか、と思った。
だが、同時に納得している自分もいた。
俺の予想だと、彼は間違いなくアインクラッド攻略の要になる。
余程の無茶をしない限り、彼はこれからも生き残り続ける。それだけの技術と才能が、彼にはある。
だからこそ、知りたかった。
彼を指針とし、自分の実力が今どの程度のレベルにあるのかを知りたかった。
それと――βテスト参加者として、一般プレイヤーに負けたくないという、下らない意地もこの行動の理由に含まれていた。
「別に構わないが……」
「ありがとう」
「ちょっと、キリト君?」
「おいおい、キー坊。いきなりすぎじゃないカ?」
アスナ達の複雑そうな表情を尻目に、コンソールを操作していく。
「大丈夫だ。【完全決着モード】じゃないから、死ぬなんてことはない。仮にシステム不備が起こったとしても、こっちなら歯止めが十分に利く」
アスナの考えも分かる。
アスナはゲームシステムを把握している部分が少ない為、デスゲームとなったSAOで決闘を行うなんて、殺し合いをするのと同義と捉えていても何らおかしな話ではない。
俺もこうなった状況でのデュエルは初めてだから、完全に安全である保証があるとは言い切れない。
だが、先も言った通り、【初撃決着モード】なら、一撃で勝負がつかなかった場合でも、半分HPが減れば強制的にシステムが終了するようになっている。
そのシステムが働かなくても、半分ぐらいならば十分ストップを掛ける猶予がある。
他人任せになるが、場合によってはアスナ達の介入で事なきを得られるだろうし、問題はない筈だ。
「じゃあ、行くぞ」
俺は片手直剣を、腰を落として構える。
対してヴァルディの装備は、コボルド・ロードを倒した時と同じ両手剣。
一撃でも貰えば、それだけで【初撃決着モード】の条件のどちらも達成する可能性は十分に有り得る。
敏捷を重視する為に盾を捨てたスタイルである俺のステータスでは、両手武器のダメージは致命傷一歩手前のそれだ。
取り回しが難しいという点と、大振りにならざるを得ない戦闘スタイルを鑑みれば、実質的な相性の差は存在しない。
求められるのは、明確な技術の差。純粋な戦闘能力。
「はっ――!!」
息を止め、持てる限りの全力で地を蹴る。
【初撃決着モード】において、かすり傷であろうと最初の一撃がヒットすれば勝利判定になる性質を利用した、速さを活かした突進突き。
しかし、その一撃は両手剣の腹でいなされる。
だが、そうなるのは予想の範囲内。直ぐさま踏みとどまり、右足を軸に回転し、横薙ぎの一撃を繰り出す。
ヴァルディはそれさえもすんでの所で回避。意趣返しのように、彼も身体を回転させ、暴風のような横一閃を叩き込んでくる。
咄嗟のバックステップでギリギリ射程外に逃げ込めたが、衝撃の余波で軽く吹き飛ばされる。
それ自体に攻撃判定がなかったようで、ダメージはない。
つまり、これからが本番ということになる。
「――――」
両手剣を正眼のように構えて、微動だにしないヴァルディ。
この状況では、武器の性質上攻めるも守るも両手剣では困難だ。
攻めればカウンターを喰らう可能性が高く、後手に回れば手を出しにくくなる。
彼が如何に強くても、一度懐に入り込みさえすれば、反撃が困難になるのは自明の理。
展開がリセットされた今、攻めていかなければ勝ちの目は見えない。
「ああああああああっ!!」
気合いの込めた掛け声と共に、ヴァルディへと肉薄する。
剣戟が交差し、金属音が響き渡る。
敏捷特化のステータスが繰り出す縦横無尽の攻撃は、彼の動きを確実に封じていく。
手を止めれば、隙を与えてしまう。
肉体的な疲労がないSAOの性質を利用すれば、休まずに攻撃を繰り出すことも不可能じゃない。
求められるのは、集中力。相手の一挙一動を見逃さず、確実に制圧していく力だ。
両手剣を盾に攻撃を防ぐヴァルディの表情は、一切変化を見せない。
不利な状況であるにも関わらず、俺の放つ攻撃を鋭い眼光で見逃さない。
攻撃は全て最適な形で逸らされ、下手に踏み込みすぎればさっきと同様、力を利用されて隙を作る手段にされてしまう。
端から見れば圧倒的にこちらが有利に見えるだろうが、当事者からすれば全く気が抜けない。
虎視眈々と俺のミスを伺うその瞳に、次第に恐怖を覚える。
人生においても今まで出逢ったことのないタイプ。未知の存在。
人は未知に恐怖を抱く生き物だ。故に、その枠内にいる俺もまた、同じ感情を抱く。
剣が跳ね返る反動で、距離を取る。
そして直ぐさま、ソードスキルの構えを取る。
「【レイジスパイク】ッ!!」
ソードスキルによる突進、そこにシステム外スキルである【ブースト】を上乗せする。
【ブースト】は、ソードスキルのような、発動からは自動で行動が成立する状況を、自らの意思で誘導することで、従来のダメージを超える威力を叩き出すことが出来る技術だ。
【レイジスパイク】はそこまで威力のあるソードスキルではないが、こうすることで――
「――――ッ」
ヴァルディの堅牢な両手剣の壁が、初めて上段に弾かれる。
彼にも予想外の出来事だったらしく、初めてその表情に焦りが浮かんでいた。
懐はがら空き。この期を逃す手はない。
「うおおおおおお!!」
腰を落とし、足のバネを活かした突きを繰り出す。
勝った――俺はそう確信していた。
だが、そうではなかった。
「は――?」
ヴァルディはあろうことか、弾かれた両手剣を手放した。
両手剣の重さに縛られることのなくなった身体は俊敏で、俺の突きを半歩身体をずらすことで回避する。
そして、空いた手はそのまま俺が剣を持つ右手首を掴んだ。
そのまま懐を掴まれ、思い切り地面に叩きつけられる。
それが柔道の背負い投げだと気付いたのは、デュエルが終了してからのことだった。
「がっ――!!」
「キリト君!」
叩きつけられたことで、肺の空気が絞り出される錯覚を覚える。
実際に痛みは無いはずなのに、ここまでリアルにダメージを感じたのは、それだけ堂に入った動きだったからだろう。
しかし、実際のダメージはない。ならば、まだ反撃の余地はある。
気を取り直し、改めて自身の置かれている状況を整理しようと目を開く。
「【アーマー・ピアース】」
そこにあったのは、先程まで両手剣を握っていた筈のヴァルディが、短剣のソードスキルを発動しようとしている光景だった。
状況の変化に理解の追い付かない。その思考停止が、俺の決定的な隙だった。
ソードスキルの一撃が、俺の身体を貫く。
そこからは、一方的な蹂躙だった。
反撃する間も与えられないまま、怒濤の連続攻撃で削られるHP。
あっという間に【初撃決着モード】の最終判定まで到達し、俺の敗北という形で勝負は決した。
あれから俺は、草原の上を寝そべったままでいた。
完膚無きまでに敗北したというのに、悔しさはない。
これが後一歩のところまで追い詰めていたとなれば別だったかもしれないが、結局俺はヴァルディに一撃もダメージを与えていない。
これでは悔しいと思うよりも、納得の方が先行してしまう。
因みにそのヴァルディは、一言断りを入れて再びスキル取得の作業に向かっていた。
疲労の様子は一切無く、変わらない動作で拳を打ち付けている。
それ程の実力の差が、彼との間にあるということを、嫌でも理解してしまう。
「大丈夫?キリト君」
「派手にやられたナ。それにしても、噂以上の戦闘能力だナ。キー坊がああもあしらわれるとハ……」
俺を挟むようにアスナ達は座り込み、ヴァルディを見つめている。
「なぁ、二人とも。なんでヴァルディは短剣を持っていたんだ?」
「……多分だが、キー坊が投げられた辺りから、コンソールを操作して武器を変更していたんだと思うゾ。実際、いつの間にか使っていた両手剣はなくなっていたしナ」
「そんなことが出来るの?」
「無理ではないけど、普通ならやらないな。アイテムを使って回復、ぐらいならある程度の安全さえ確保されていれば出来るけど、装備の変更――ましてや戦闘中にそんなことをするなんて、下手をしなくてもリスクが大きすぎる。画面を見る余裕なんてないだろうから、ブラインドタッチになるだろうし、少しでも操作が遅れたりミスをすれば、致命的な隙になる。武器がないからってそんな選択肢を取る奴なんて、いるわけがないと思ってたけど……」
「そんな馬鹿が、ヴァルやんだったってことカ」
「ヴァルやんって、もしかしなくてもヴァルディのことだよな……?」
「ソウダヨ。良いあだ名が浮かばなかったんだヨ」
「なら無理して呼ぶ必要はないんじゃないか?」
「それはオレっチの矜持に反するってものだヨ。それは譲れないネ」
「ああ、そう」
アルゴのどうでも良い説明をおざなりに返し話を戻す。
「ヴァルディの手先の器用さもさることながら、どんな状況においても冷静でいられる胆力に、戦闘技量の高さもあって、まさに鬼に金棒って奴だな」
「でも、あんな戦い方をしていたら、いずれ下手を打つ可能性があるわ。凄い技術であることは確かだけど……」
「そうだな。対人戦では虚を突けるスキルだけど、プログラムによって構築されているモンスターには通用しないだろう。その辺りは釘を刺しておいた方が良いだろうな。――さて、俺も【体術】スキルを習得しようかな」
勢いよく身体を起き上がらせ、立ち上がる。
「おや、どういう風の吹き回しダ?」
「さっきの投げはスキルとは無関係のものだったけど、あの状況で【体術】スキルがあれば、まだ反撃の余地はあった。武器を落としてなぶり殺しなんて状況は、二度とゴメンだからな」
「キリト君がそう言うなら、私は止めないよ。私は【体術】スキルを覚えても使いこなせる自信がないから、別のスキル上げでもしようかな」
「別のって?」
「それは――【料理】とかかな?前みたいな味気ない食事は嫌だもん」
「余程あの時のクリームが感動的だったんだな」
「……悪い?」
ぷう、と顔を膨らませるアスナ。
「悪くはないさ。こんな逼迫した状況なんだ。こういった部分で娯楽を求めるのは間違ってはいないと思うぞ」
「まぁ、あといつまでこの世界に閉じこめられたままなのかなんて分からないしナ。毎日美味くもない食事で腹ごなししていても、気が滅入るだけだし、いいんじゃないカ?」
「スキルが上がった暁には、ごちそうしてあげるから」
「それは愉しみだ」
そんな談笑をしながら、俺達は時間をつぶした。
あれから二日ほど掛けて、ようやく【体術】スキルを手に入れたよ。
感謝の正拳突き一万回も、こんな感じだったんだろうかと思うぐらい辛かったよ。
あ、そうそう。あれからお近づきになったキリトとアスナっていう攻略参加組の二人なんだけど、その内のキリトって人が【体術】スキル取得に参加し始めたんだよね。
その前に彼とデュエルで……【初撃決着モード】?っていうので戦ったんだけど、ぶっちゃけルール分かんなかったんだよね。
初撃決着って言うぐらいだから、西洋のガンマンがやるようなアレをイメージしてたんだけど、何か違ったし。
キリトはめっちゃ強かった。何て言うか、動きが凄い速いのよ。
だからといって攻撃が軽いという訳ではなく、思いっきり攻撃弾かれたりもしたし、ぶっちゃけあの時は焦った。
咄嗟に投げたはいいけど、その後のことを考えてなかったから滅茶苦茶必死に装備を漁って、運良く短剣を装備出来たから勝てたようなものだ。そうじゃなきゃ、負けていたのは僕だっただろう。
「さて、私はもう行くが」
「一人でカ?ソロは危険だから、キー坊達と一緒に行動すればいいと思うゾ。何ならオイラがついていってもイイガ?」
「そこまで気に掛けるようなことはないさ。何、一人でいるからには無茶をするつもりはない」
「その言葉、信じるからナ」
「ああ、次に会うときは二層のボスだろうから、この場にいないアスナにもよろしく伝えておいてくれ。こっちでもメールは出しておく」
「あいワカッタ」
「キリトもあの集中を阻害するのは気が引けるし、その辺りのフォローも頼む」
それだけを告げ、僕はアルゴ達と別れた。
さて、【体術】スキルはどう成長させるかな……。あくまでサブスキルだから極めるのは愚作だろうし……うーん、悩むね。
Q:おい、プログレッシブは導入しないんじゃなかったのか。
A:冷静に考えると、アニメにしたってヴァルディが介入できない部分が結構あるから、どうしても別の話題を盛り込まないとキンクリ現象が著しいので、こういうテコ入れしないといけないんだもん。(路線変更しまくって)すまんな。
Q:クロス要素はいつ出るの?
A:作者自身把握していない。
Q:アルゴにフラグ立ってる?
A:立って欲しい?
Q:キリトさんの変化はどんな感じなの?
A:原作ではビーター扱いされていたけど、そもそもベータテスターの不和がある程度解消されている+ビーター呼ばわりされていないこともあって、一緒に組んでいたアスナとそのまま行動を共にすることになりました。
アスナの足並みに揃えることになったことで、原作のようにアルゴに出くわすのがキリトではなく、ソロプレイをしており自由度の高い状態だったヴァルディだったって感じ。序盤だからその程度の差異しか出てません。
Q:キリトさん負けちゃった……。
A:相手が悪かった。この世界でキリトさんに主人公補正なんてないから(迫真)