Infinite possibility world ~ ver Sword Art Online   作:花極四季

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下手をすれば一年ぶりになりそうだった作品。なんだこれは、たまげたなぁ……。
ようやく何とクロスしているかが露見します。前回でもありはしましたが、ね。

もう一万文字超えるのにも慣れたよ。どこで区切ればいいんだよ。


第五話

今日も今日とて、攻略組にフロア攻略を任せ、自分はクリア済みのダンジョンに潜っています。

そんなところに何の用じゃ、と思う人もいるだろうが、ぶっちゃけた話スキル上げです。

ダンジョンだから敵が出るし、フィールドと違って狭い範囲でのPOP判定なので、闇雲に歩いて敵を探すより効率がいいのだ。

相変わらずのソロなので危険性は高いが、スキルの関係上自分のレベルより下の敵しか相手にしていないので、囲まれても対処することは出来る。

いざとなれば熟練度の高い武器に変えればいいだけだしね。最近は戦闘中でも武器を変えるのに慣れてきたし。

え、あれは危険だからやめろって言われてなかったっけって?……気にするな!

いやぁ、自分捻くれ者ですから。やるなと言われたらやりたくなるって言うか、誰もやらないことをやりたくなる性格っていうか。

兎に角、自分だけの特技ってかっこよくね?って感覚でやっています。我ながらあほ臭い理由だと思う。

でも、慣れれば意外と便利なこの特技。

だって、自分の望むリーチを常に保てるってことでもあるからね。

とはいえ、格上に使うのは流石に自粛しています。当たり前だね。

 

そして、今は短剣のスキル上げの真っ最中。

短剣に盾なんて不釣り合いなので、なんとなく両手に短剣を装備しています。

当然従来のやり方と異なるのでソードスキルは使えない。

盾を装備していても、それはプログラム上の仕様として組み込まれているからソードスキルを使えるのに対し、武器を各手に一つずつ持つのは仕様に反しているため、エラーの結果ソードスキルが使えなくなる。

従来のゲームなら、そもそも装備自体が出来ないがここはVRMMOの世界。そもそも持つことが出来ない、なんて不自然なことにはならないから、結果デメリットという形でエラーが起こるだけに終わる。

スキルも使えなければ、盾という防御手段を捨ててまでそんなことをするのは、ネタプレイぐらいのものだ。そう思っているそこのあなた。

確かにスキルは使えない。しかし、同じ武器を二つ持てば、その攻撃判定は二倍になり、熟練度の成長も二倍になるのだ。

これを知っている人は意外と少ないんじゃないだろうか。自分みたいなスタイルの人見てないし、きっとマイナーな裏技に違いない。

熟練度を上げるなら、ソードスキルによる大ダメージはむしろ邪魔でしかないし、こういう状況にはまさにうってつけなのだ。

 

……まぁ、それはいい。それよりもさっきから気になっているんだけど、背後から視線を感じるんだよね。

ダンジョンに潜り始めて三十分ぐらい経ってから感じるようになったけど、視線を感じる以外は特に何も被害もないので放っていたんだけど、そろそろ踏破できそうだし、探りのひとつでも入れようと思い、声を上げる。

 

「先程から何故私を監視している?」

 

ダンジョンに反響する声が消えて間もなく、曲がり角から視線の正体が現れた。

そこにいたのは、オレンジのショートヘアで軽鎧とケープを纏った少女だった。

 

「流石に気付いてたか」

 

「最初から気付いていたよ。害がなかったから放置していただけでな」

 

「そう」

 

つっけんどんな態度をそのままに、彼女から話を切り出す。

 

「それで、アンタはなんでこんなところにソロでいるの?ここは踏破済みのダンジョンなのに」

 

「お互い様だろう。私がいる理由は、ただの武器スキル上げの為だ」

 

「武器スキル上げ?こんな助けも来ないような深い場所で?馬鹿なんじゃないの?」

 

「辛辣な言葉ありがとう。だが、それは君とて同じだろう。見たところ君もソロのようだが」

 

「それは……」

 

バツの悪そうに視線を逸らす。

売り言葉に買い言葉になってしまったが、別に彼女の発言に傷ついたとかそういう事は一切無い。当然の疑問だ。

ただ、ヴァルディ翻訳がどこか皮肉っぽく変換するのが悪いのよ。

 

「……ねぇ、アンタはただスキル上げの為に来ているのよね?」

 

「そうだが」

 

「だったら、ちょっとだけでいいから協力して欲しいの」

 

少女は躊躇いながらも、そう提案してくる。

 

「協力?」

 

「ええ。……私、トレジャーハンターをやってるの。SAOにそんな職業はないから、ただそう思っているだけなんだけどね」

 

トレジャーハンター、か。

ローグとかシーフとか、そういったジョブ制度のないSAOならではのロールプレイだろう。

 

「トレジャーハンターと言うからには、お宝探しが目的か?」

 

「ええ、そう。このダンジョンはもう踏破済みだってことは言わずもがなだけど、噂ではまだこのダンジョンには隠し要素があるって話なのよ。でも、結局それが真実か嘘かを見極めるより早く、ここに人は寄り付かなくなったわ。当たり前よね、踏破済みのダンジョンなのにそんな噂が流れている時点で、デマだと思うのが自然だもの」

 

「だが、君はそれを信じなかった」

 

「というよりも、そういう噂にメスを入れてこそのトレジャーハンターってもんでしょ。……まぁ、そんな人の寄り付かなくなったダンジョンに、あるかも分からないお宝探しに一緒に行きませんか?なんて誘える訳ないじゃない。だから、潜入でどうにかしようって考えたわけ。幸い、私のレベル的にここのモンスターは二、三体囲まれたぐらいじゃ対処できるぐらい差はあったし、なんとかなるとは思ってた。でも、やっぱり保険は欲しいと思ってたところに、アンタに会ったって訳」

 

「君はお宝集めのパートナーが欲しい、私はどうせモンスターを狩るならそれに協力しろ。って解釈でいいのか?」

 

「ええ。別に協力関係を結ばなくてもいいわよ。アンタの後について行って、更地になったところを勝手に探すから」

 

「嫌と言ってはいない。私はお宝とやらに興味はないし、自由にすればいい」

 

「……掠め取るなんて真似したら、ただじゃおかないわよ」

 

「疑り深いな」

 

「……まぁ、少しぐらいなら分けてあげてもいいわよ。分けられるものだったらの話だけど」

 

「気にする必要はない。どうせこのレベル帯のダンジョンのアイテムなら、今の私にとって不要なものだろうしな。売って金にする気もない」

 

実際、自分はレアアイテムに固執するタイプではない。

ユニークグラフィックな装備は憧れなくはないけれど、やっぱり質を求めるタイプなので狙ってそういうものを取ろうとは思ったことはない。

でも、レベルが上がれば上がるほど装備はかっこよくなってきているので、序盤のようなダサい感じの装備とはとっくにおさらばしている。

 

「その言葉、今は信じるわ。それと、私はフィリア」

 

「ヴァルディだ。よろしく」

 

ぎこちない関係ながらも、僕たちは互いに握手を交わし、パーティを組んだ。

 

 

 

 

 

それは、ある噂から始まった。

『迷宮の奥底に隠されし神殿に至りし者、鎖に繋がれし妖精の籠愛を受ける』そんな謎のメッセージが同じ階層にある石板に刻まれているという情報。

当初はそんな情報に誰もが惹かれ、奔走したが、遂に見つかることなく誰もがその噂をデマだと完結させて、見向きもしなくなった。

だけど、果たしてそうだろうか?

もし、そこにこのデスゲームと化した世界の攻略法があるかもしれないのに、そんな適当なことをしていいのだろうか。

とはいえ、最早後の祭り。攻略組はとっくに上の階層を目指しており、ここにいるプレイヤーは限りなく少ない。

 

私は攻略組の踏破したダンジョンを一人で再び探索するという、ハイエナのようなやり方を何度か繰り返している。

あまり群れるのは好まないし、お宝関係となると揉めるのは目に見えている。

最悪、こじれて殺し合いになる可能性だって捨てきれない。或いは、最初からそれを前提にしてくるか。

信用できるような仲間もいない私は、必然的におこぼれを漁るような真似しかできないでいた。

今日もいつも通りの作業になる。そう思っていた。

 

「……人?」

 

戦いの音が聞こえた私は、息を潜めて隠れながらその様子を観察する。

遠くでも分かるほどの長身の男が、短剣を両手に一本ずつ持ち、驚くほどの連撃を持って無数のモンスターを圧倒していた。

その強さは攻略組を凌ぐのではと思わせる。実際に攻略組を見たことはないからそんな気がするというだけだが。

少なくとも、この層のマージン以上のレベルを抑えている私でも、何も出来ずにやられてしまうであろう実力差が見て取れた。

そんな実力者が何故ここに?まさかあの男も、噂を信じてここに来ているのだろうか?

それを見極める為に、私は監視を続けた。

モンスターは彼が一匹残らず倒してくれるおかげで、道中の安全は約束されていた。

しかし、彼はモンスターを倒す一方で、それ以外のことをする様子はなかった。

何かを調べる様子もなければ、階層深く潜ろうという意思も感じられない。手当たり次第にモンスターを狩るだけ。

そうして、そろそろ最下層に辿り着くと言ったところで、彼は確信するように声を上げた。

ハイドスキルを可能な限り上げていた私の動向が見破られた驚きはあったが、下手に隠れていて敵対の意思ありと勘違いされても困るので、早々に顔出しを決意。

いざ会話をしてみれば、この男はスキル上げの為にここに潜っていたことが発覚。何とも拍子抜けである。

それが真実かはさておき、どうせモンスター狩りが目的ならそれを利用しない手はない。

利があるかはともかく、害のない提案として護衛紛いのことを頼んでみれば、あっさりと了承。リターンを要求しない辺り、逆に怪しい。

だけど、私一人では手に余る問題であったことも事実。私から提案したことなので、そのまま流れるようにパーティは結成された。

 

「それにしても、強いわね」

 

レベルの問題ではなく、技術そのものが抜きんでている。

動きひとつ取っても、現実離れしている。

後ろに目があるのか?と言いたくなるほどに的確な迎撃をしたかと思えば、私に対してのヘイトを残さず受けるという暴挙にさえ出ている。

両手が短剣という、完全に防御を捨てたスタイルの癖に、よくやる。

それぐらい余裕だってことでもあるんだろうけど、死と直結しているこの世界では狂気の沙汰のそれだ。

まぁ、こちらに被害が来ないのであれば別にいい。彼が勝手にやっていることだし、私がどうこう言う義理もない。

 

「それを言うなら、君も相当なものだ」

 

「トレジャーハンターなんてやってれば、お宝独占したいからソロでやるなんてザラだからね。自衛の手段ぐらいは身に着けているつもりよ」

 

「短剣捌きも素晴らしい。見習いたいくらいだよ」

 

「これでも初期からこれ一本でやってきたもの。両手持ちなんてお遊びをしているアンタには負けられないわ」

 

なんて言っては見たが、強がりだ。

確かに熟練度だけで言えば私のが上だろう。ここのモンスターでは私の短剣熟練度はもう上がらないのだから。

だが、技術は別だ。

単純な戦闘技術では、私は圧倒的なまでにヴァルディに敵わない。

私の戦闘技術は、あくまで自衛の延長線上でしかない。どちらかと言えば、戦闘を行うならハイドスキルを併用した不意打ちが基本で、真正面からなんて戦いには疎い。

ソロを基本としている以上、リンクからの戦闘なんてザラだけど、だからと言って彼のように真っ向勝負するのではなく、逃げることを前提として立ち回っている。

当たり前だ。ゲームの中とはいえ、死ねば現実にも死が反映されるこの状況下で、彼のような無謀な戦いをすること自体おかしいのだから。

 

「ん……?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、この壁なんだが……微かに他の場所とは違うように見えてな」

 

「ちょっと待って」

 

ヴァルディが発見した壁に近づく。

確かに、色がここだけ僅かに明るい。

色の違う壁に耳を当て、ノックする。

すると、他の壁と比較してみても、明らかにここだけが音の響きが良い。

これは、奥が空洞になっている証拠だ。

 

「ここに隠し部屋があるわ」

 

「本当か。しかし、どうやって入る?」

 

「鍵穴もないし、仕掛けも恐らくなし。そもそも扉じゃない時点でそういった枠組みとは違うのかも」

 

「……なら、原始的な手段で攻めてみよう」

 

「え?」

 

ヴァルディの手には、先程まであった短剣ではなく、まるで人体の背骨のようなしなりを持つ大剣が握られており、彼はそれを全力で壁に向けて振り下ろした。

轟音と共に崩れ去る壁。奥には予想した通り、大部屋が展開されていた。

 

「ちょっと、危ないじゃないの!」

 

「すまんな。私も気になって仕方がなかったんだ」

 

「……まぁ、気持ちは分からなくないけど、せめて一言言ってよね」

 

「了解した」

 

両者納得したので、改めて部屋の中に入る。

内装は一変して、まるで神殿のようになっており、荘厳さをより一層高めている。

明らかに、ここだけが異色の空間。確信する、ここが隠されたお宝に続く道だと。

私は逸る気持ちを必死に抑えて、一帯を探索する。

部屋の中央に祭壇のようなものがあり、その上には宝箱が置かれている。

今まで見たことのないぐらい物々しい雰囲気の宝箱の配置に、少しだけ躊躇いが生じる。

 

「どうした、開けないのか」

 

「……アンタが開けていいわよ」

 

「トラップ対策か?しっかりしている」

 

皮肉気な言い回しはすれど、そのこと自体に反抗する様子もなく、彼は躊躇いなく宝箱を開けた。

覗き見ると、そこに入っていたのは一冊の本と石板だった。

 

「黄昏の書……か」

 

「そっちの石板は?」

 

「何か書いているな。

 

 星辰の巡りて後

 東の空昏く大気に悲しみ満ちるとき

 分かつ森の果て、定命の者の地より、

 波来る先駆けあり

 行く手を疾駆するはスケィス

 死の影をもちて、阻みしものを掃討す―――」

 

「何それ、意味わかんない」

 

脈絡のない言葉の羅列に、思わず呟いてしまう。

 

「私に言われてもな。取り敢えず、この黄昏の書を読もう。何か関連性があるやもしれん」

 

「そうね――って、きゃっ!」

 

ヴァルディが黄昏の書を開いた途端、眩いまでの閃光が本から発せられる。

光が収まると、彼の手の中にあった筈の黄昏の書は最早形すらなく、代わりに黄金の腕輪が嵌められていることに気付いた。

 

「ちょっと、さっきの本はどうしたのよ。それにその腕輪――」

 

「すまない、私にもさっぱりなんだ」

 

「もう……疲れたわ。めぼしいものはこれぐらいらしいし、帰りましょ――」

 

あまりの訳のわからないことの連続で疲労も限界に近い。

だが、そこまで言い終えて、突如視界がブレる。

そのブレは部屋全体を侵食し、まったく別の形へと変容していく。

 

「え……?」

 

そこに広がっていたのは、神殿のような内装の部屋ではなく、荒廃した大地だった。

周囲を見渡し、今私たちが立っている場所は浮遊していることに気付く。

物理的に隔絶された空間。ただのエフェクトの変化かと思いきや、どこまで外側に手を伸ばしても壁に触れる感覚は訪れることはなく、何かしらの要因で転移されたのだと予想する。

 

「もう、さっきから何なのよ!」

 

「落ち着け」

 

「これが落ち着いていられ――」

 

「来るぞ」

 

ヴァルディの言葉を反芻するよりも早く、それは姿を現した。

ノイズのような空間の乱れと共に、少しずつその輪郭を露わにしたそれを見て、戦慄した。

 

「Phase1:Skeith……レベル、50!?」

 

レベル50は、今の攻略組が挑んでいるであろうボスより低くはあるが、それでも二人だけで倒せる相手かと言われれば、否だ。

その表面は白で支配されており、胴と頭が一体になっている以外はすべて部位ごとに独立して浮遊しており、それでも人型を模していることだけは理解できる。

各部位には瞳のような模様が刻まれており、頭の上には天使の輪のようなものが。

そして何よりも目を引いたのが、そんな白一色とは逸脱した、血のように赤い巨大なケルト式の十字架。

その無機質でどこまでも綺麗なその姿から発せられる圧倒的なまでのプレッシャーを前に、私は恐怖するしかできなかった。

 

「ひっ―――」

 

心の底から震え上がる、恐怖の感情。

そう、これは――久しく忘れていた感情。【死の恐怖】だ。

安全マージンを徹底して貫き、決して無謀な行動を取らず、生きることを最優先にしてきた私が、進退窮まったこの状況で絶望に染まるのは、まさに必然だった。

 

「て、転移!……飛んで、飛んでよぉ!!」

 

回廊結晶は一切の反応を示さず、ただ声だけが響く。

そんな気はしていたけど、それでもやらずにはいられない。

もう、私の中であのモンスターと戦うなんて選択肢はなかった。

ただ、逃げたいと。そう思っていた。

それなのに、どうして。

 

「なんで……アンタは」

 

この圧倒的な存在を前にしても、一歩も引かず、それどころか私を庇うように仁王立ちしている目の前の彼は、一体なんだというのか。

無言で両手剣を腰低く構え、そのままモンスター――スケィスへと爆ぜるように向かっていった。

 

「はあああああっ!!」

 

「―――――!!」

 

ヴァルディの先程までの冷静な表情は崩れ、必死の形相でスケィスの攻撃を捌いている。

攻略組が揃ってなお、勝てるかどうか分からない化け物に、彼は立ち向かっている。

無様を晒さず、泣き言も言わず、必死に生き足掻く。

勝てないと分かっていても、それでも何故あそこまで勇ましく在れる?

私の表面だけの気丈さと違って、彼はどこまでも強い。心も、身体も。

 

「がっ―――!」

 

「ヴァルディ!!」

 

一瞬の隙を突かれ、ヴァルディの身体が十字架の先端によって吹き飛ばされる。

たったの一撃で、HPバーは半分近く削られた。いや、それ以上にあれだけの技量を持つヴァルディが、あんなにあっさりと吹き飛ばされた現実が、より一層の絶望を呼び起こす。

ボウリングの玉のような頭が、こちらに向けられる。

浮遊している身体をゆっくりと進ませ、私との距離を詰めてくる。

 

「来ないでっ、来るなぁ!!」

 

子供が駄々をこねるように、手に持つ短剣を悪戯にただ振り続ける。

そんなことしても何の意味もないのに、それしか出来ない自分が情けない。

目と鼻の先まで互いの距離が迫ったとき、スケィスは十字架をこちらへと振りかぶる。

その動きが、異常なぐらい緩慢に見える。見えるだけだ。

ああ、これが死ぬ直前の感覚なんだなって。諦めの境地に達した思考は、私の意識をシャットダウンさせようとした。

瞬間、視界の外から急激な速度で何かが飛来し、十字架を大きく弾き飛ばした。

カラン、と音を立てて私の近くに落ちてきたのは、ヴァルディが使っていた短剣だった。

ヴァルディの姿を確認しようと顔を上げると、そこにはスケィスの眼前まで距離を詰めた彼の姿があった。

武器を弾き飛ばされたスケィスは、ヴァルディの放つソードスキル【メテオフォール】によって大きくその巨体をのけ反らせる。

だけど、それだけで終わらなかった。

 

「嘘……」

 

まるで夢を見ているようだった。

【メテオフォール】がスケィスの身体を切り刻んですぐに、彼の手には両手剣の代わりに片手剣が装備されており、そこから間髪入れずに【スター・Q・プロミネンス】が発動。

その次は槍の【フェイタル・スラスト】、片手棍の【ストライク・ハート】と流れるような連撃がスケィスに吸い込まれていく。

本来、ソードスキルには発動硬直が存在し、程度の差こそあれ発動すれば例外なく一定の硬直が発生する。

彼は、その隙を武器の切り替えでリセットしている。

だけど、あり得ない。

彼はコンソールを操作している様子はないし、何も操作せずに武器が変更できるなんて、仕様上あり得ないことだ。

でも、現実にこうしてそのあり得ないが広がっているのだから、信じない訳にはいかない。

 

「フィリア!!」

 

ヴァルディの叫び声に、意識を引き戻される。

側面からスケィスの十字架が回転しながら迫っていることに気が付き、回避行動を取ろうとするも間に合わない。

しかし、私の身体が十字架に吹き飛ばされるより早く、ヴァルディが私の前に立って十字架を受け止めた。

だけど、それも一瞬。移動するのに必死で崩れていた彼の体勢はまさに急ごしらえのもので、そんな状態で間違っても拮抗するなんてあり得なかった。

ヴァルディは、まるで紙切れを飛ばすかのように簡単に吹き飛ばされ、虚空を舞った。

そんな様子を、茫然と眺めていた。

思考が、状況の変化に追い付いていない。

 

「あ、あ……」

 

残り半分近くまで削れていたスケィスの体力を見れば、彼が如何に奮闘したかが分かる。

文字通り孤軍奮闘。もしかしたら、倒せていたかもしれない。

そう、彼だけなら。

 

「私の、せいだ」

 

私がいたから、私を庇ってくれたから、致命的な隙を晒してしまったから。

放っておけばよかったのに。所詮さっき会ったばかりの利害もまともに一致していないパーティメンバーでしかないのに。

どうして、そんなにボロボロになっても、アンタは――

 

「まだ……だ……!!」

 

ヴァルディは両手剣を地面に突き立てて、杖にして身体を起き上がらせていた。

HPは最早風前の灯火。次にダメージを喰らえば、間違いなく彼は死ぬ。

だけど、回復する様子はない。それどころか、また私の方へと這う這うの体で歩み寄ってくる。

 

「回復して!私のことはいいから!!」

 

「そうは……いかない。その間に、君が狙われる」

 

「私のことなんて放っておいてよ!そうじゃなきゃ、アンタが……!!アンタが私を護る義理なんて、これっぽっちもないじゃない。そんなことで命を散らすなんて、馬鹿じゃないの!?」

 

こんなことを言っているが、それもこれも全部、私が招いた負債だというのに。

馬鹿は、私だ。何も出来ない癖に、守られているだけの癖に、口だけは一丁前で。情けなくて。虚しくて。

そうだ。そもそも、私が彼をここに招いたようなものなんだ。

私が誘わなければ、いや、そもそも会うことさえなければ、犠牲は一人だけで済んだ。

私のせいだ、私のせいだ、私の――

 

「馬鹿で、いいさ」

 

それでも、彼は私を非難しない。

どこまでも誠実に、私の言葉を受け止めてくれる。

 

「護りたいから、護るんだ。天才だって理由でこんな単純なことを行動に起こせないぐらいなら――"僕"は、馬鹿でいい」

 

それはどこまでも綺麗事で、どこまでも偽善で――どこまでも尊い言葉だった。

人間は助け合わなければ生きていけない。人は自分を背負うので精一杯。

助け合いという名の生存競争。独善と欺瞞に満ちた人間の本性。

SAOがデスゲームになり、現実世界の法律が通用しないこの世界では、人間の剝き出しの感情が悪意という形で顕現しているなんてことは、ザラであった。

自らの目的の為に他者を蹴落とすなんて日常茶飯事。裏切り、策謀、なんでもあれだ。

当然、そんな奴らばかりではないことは承知しているけど、だからと言って自分が巡り合った相手が善人である保証なんてない。

だから、私はソロであることを望んだ。

自分だけなら、その全ては私自身の責任で賄える。身の程をわきまえていれば、危険に晒されることもない。

他人を下手に信じれば、その分だけ付け入られる。博打を打って、痛い目を見るくらいなら最初から一人でいい。

……でも、もうそうはいかないんだろう。

ヴァルディは、私を見捨てない。

嫌だと言っても、頑なにそれを否定する。

独善で、身勝手で、偽善的で――なのに、どうしてこんなに暖かいんだろう。

 

「――ええ、本当」

 

私は、近くに落ちていたヴァルディの短剣を左手で拾い、立ち上がった。

身体の震えも、スケィスへの恐怖心も、もうない。

 

「私も、アンタの馬鹿が移ったみたい」

 

私は、私を命を懸けて守ってくれるヴァルディの助けになりたい。

恐慌状態から来る刹那的な感情かもしれない。でも、確かにそう思えたから。

誰かを信じるということが、こんなに勇気を与えてくれるものだなんて、知らなかったから。

多分もう、その甘美な味に呑まれてしまっているんだろう。

右手に私の愛用の短剣を手に取る。

何故だろう。このデメリットしかないスタイルが、とてもしっくりくる。

まるで、私のデータがこの構えに適応していくかのように、私の身体は異様に軽くなっていく。

 

「あああああああっ!!」

 

腹の底からの叫びと共に、スケィスへと肉薄する。

身体が羽になったかのように軽い。たったの一歩、全力で踏み込んだだけで私の身体は一瞬の内にスケィスとの距離を詰める。

その予想外の展開に、スケィスの背後にまで勢い余って行ってしまうが、すぐさま反転。勢いを殺さずに再度スケィスの懐へと飛び込む。

一息で繰り出される二本の短剣からの乱舞。

スケィスの大振りの攻撃は、見てからでも反応できるぐらい今なら緩慢だ。

 

「疾風双刃!」

 

逆袈裟斬りから、身体を捻り上段の振り下ろし。

息つく暇のない三連撃がスケィスに確かな傷を残す。

私の知らないソードスキルなのに、まるで知っていたかのように身体が動く。

ソードスキルの補正を抜きにしても、おかしい何かが私の中で起こっている。

だけど、それがどうした。

それが此奴を倒す力になってくれるというのなら、ただ受け入れるだけだ。

 

「一双燕返し!!」

 

斬り上げからの跳躍、そのままスケィスの頭部めがけて両手の短剣を叩き込む。

スケィスが両腕を胸元で交差させ防御の体勢を取る。だけど、それでは足りない。

 

「削三連!!!」

 

その腕ごと、貫く――!!

短剣を束ね、一点集中の一撃を腕へと放つ。

金属が擦れる音が数秒。両者の勢いが拮抗する。

それを破ったのは、スケィスの方だった。

交差させていた腕を思い切り押し出し、私はその勢いで壁まで吹き飛ばされる。

 

「あぐっ……!!」

 

呼吸が肺から搾り取られる感覚。

データでしかない肉体だというのに、こんなところまで再現されるなんて、恨めしいとしか言えない。

そのせいで、私は敵の反撃を許す結果になってしまった。

 

「な……何?」

 

身体がゆっくりと宙へ浮き、そのまま十字架の中心に磔にされる。

何が何だか分からないけど、本能が告げている。

スケィスは何かをしようとしている。それは絶対に使わせてはいけないものだと。

スケィスの掌を中心に、青と緑の透明の棒状のエフェクトが現れる。

そしてそれが円形に広がると、膨大なエネルギーがそこへ向けて収束していくのが肌で感じ取れた。

ヤバい、ヤバいヤバいヤバい――!!

 

「は、な、してえええええ!!」

 

どんなにもがいても、指一本動く気配はない。

システム上の問題なのかは分からないが、こうなってしまえば後に残るのは絶望だけ。

そうして、エネルギーが臨界点まで達しそうになった瞬間――スケィスの腕が両断される光景が映った。

 

「――すまない、遅れた」

 

「ううん、ありがとう」

 

両手剣を優雅に振り回すヴァルディの近くへと着地する。

HPも全快になっている。私の頑張りにも、意味はあったんだと実感する。

 

「でも、まだアイツ倒れそうにないわね……」

 

これだけ必死にやって、まだHPバー一本分残っているのだから、笑えない。

HPこそこちらは十全だが、精神的疲労は最早限界を超えている。

単純な攻撃力だけでなく、あの良くわからない攻撃という新たな危険性さえ露見してしまった今、更なる緊張感が場を支配していた。

そんな時、異変が起きた。

 

「腕輪が……!?」

 

ヴァルディの腕輪が発光したかと思うと、それは徐々に形を変えていく。

驚くべきは――その形状が、スケィスに捕まった時に私に向けて発動していた何かと、まったく同じものだということ。

ヴァルディは理解したのか、困惑の表情をすぐに塗り替え、スケィスに向けて腕をかざす。

腕を斬られて暴走状態に入ったスケィスが突貫するのと同時に、腕輪の光がスケィスを貫いた。

光に貫かれたスケィスは、データ破損でも起こったかのように継ぎ接ぎの不気味な姿に変化した。

光の残滓が腕輪へと吸収されていき、再び腕輪は元の黄金へと姿を戻した。

 

「見て、スケィスのレベルが1になってる!」

 

あの腕輪の光を受けたスケィスは精彩を欠いた動きでこちらに迫ってくる。

先程までの威圧感など最初からなかった風で、思わず気が抜けてしまうほどである。

 

「何が何だか分からんが……チャンスだろうな」

 

「そ、そうね。あのレベル表記に偽りがなければ、だけど」

 

イレギュラーな事態が起こりすぎていて、エフェクトバグで中身はそのままだったなんて言われれば笑い話にもならない。

 

「左右から一気に仕留める!」

 

「了解!」

 

ヴァルディの号令と共に左右に散開、互いが互いにソードスキルの構えを取り、同時にスケィスへと斬りかかった。

 

「メテオフォール!」

 

「旋風滅双刃!」

 

ソードスキルの光の軌跡が、交差するようにスケィスの身体に吸い込まれていく。

スケィスの身体に無残な傷痕を残し、ポリゴンの粒子が散っていく姿を眺める。

スケィスの消滅と共に、世界が元の神殿へと姿を変える。

 

「お……わった、の?」

 

「そのようだな」

 

ヴァルディの噛み締めるような言葉に、私の身体が脱力していく。

極度の緊張状態からの解放で、変な笑いさえこみ上げてきそうになる。

 

「大丈夫か?」

 

「腰……抜けちゃったみたい」

 

情けないが、虚勢を張る余裕もない。

SAOで何度も危機を乗り越えては来たが、今回ほど危ない橋を渡ったのは初めてだ。

攻略組は、こんな思いを毎度しているのかと思うと、尊敬の念を抱かずにはいられない。

 

「立てるか?」

 

「ごめん……無理かも。少しだけ休ませて」

 

「分かった。私はその間に部屋に変化があったかどうか調べてみる」

 

ヴァルディの背中を見送り、再び思考を巡らせる。

そういえば、あの短剣を両手で装備した時の感覚は一体何だったのだろう。

正規の行程で組まれたプログラムから成る結果ならば、何かしら事前に反応が出る筈。

クエストで知らない内に、というのはあまり考えられない。ソードスキル関連ともなれば、そんな頭から通り抜けるような味気ないクエストである訳がない。

じゃあ仕様外か?と聞かれれば――あり得そうで怖い。

何せ、あの茅場晶彦のことだ。どんな底意地の悪いプログラムを組んでいるか分かったものではない。

今回のスケィスがその最もたる例と言っても過言ではない。

 

「取り敢えず、コンソールを調べてみようかな」

 

腰も抜けて立てない今、それぐらいしかすることもない。

手当たり次第にステータス欄からアイテムスロットと、色々調べてみる。

その中に、気になるものを発見した。

 

「【双剣】……」

 

スキルロットの中に入っていたそれは、明らかに他の物と一線を画していた。

こんなもの装備した覚えもないし、ましてや習得した記憶さえない。

なら、あの時短剣を両手に持った瞬間から、【双剣】の習得条件を満たしたってことになる。

意味が分からない、が――これが噂に聞くユニークスキルだというのなら、かなりの儲けものだ。

とはいえ、大手を振って使える代物でもないが。

プラスにしろマイナスにしろ、衆目の目を浴びるのを嫌う私にとっては、使える状況は本当に限定されるだろう。

 

「そういえば、ヴァルディのあの武器切り替えも、もしかしたらユニークスキルだったり……?」

 

そうなると、この空間にいる二人中二人が、ユニークスキル持ちという何ともおかしな話になる。珍しいとは一体何だったのか。

 

「フィリア。奥の方に先程まではなかった扉がある。ボスを倒したことで、新たな道が開けたのかもしれない」

 

戻ってきたヴァルディが、その方向を指さしながら告げる。

 

「まだあるの……?」

 

そう嘆きつつも、そういえば本来の目的はあの噂話から始まっていたことを思い出す。

確か、『迷宮の奥底に隠されし神殿に至りし者、鎖に繋がれし妖精の籠愛を受ける』……だったかしら。

もしその言葉通りなら、その鎖に繋がれし妖精とやらが、あの扉の奥にいると解釈できる。

そうと決まれば、あとは踏ん張るのみだ。ここまで来て帰るなんて、勿体ない。

 

「ごめん、肩貸して」

 

「いや、私が支えよう。身長差を考えれば、私の肩は君には不自由だろう」

 

確かに、ヴァルディの身長は私と20cmは違う。

腕を伸ばす体勢は辛いし、お言葉に甘えることにした。

ヴァルディに腰に手を回し、私は彼に肩を抱かれるように横並びに歩いていく。

電脳世界とはいえ、男の人に肌をこうもしっかりと肌を触れられたのは初めての経験だ。しかし、嫌悪感はない。

あるのは、絶対の信頼。

身体を預けて安心できる、安息の場所。

自分でもちょろいと思う。だけど、実際こんなものなんだろう。

孤独を是としていた私は、本心では誰かと繋がっていたかった。それだけの話。

 

扉の前に立つと、地響きと共に重厚な扉が開いていく。

部屋の中は、祭壇らしき台座と申し訳程度に意匠を凝らした柱が均等に並んでいるだけの簡素な造りで、誰かに見せるための部屋ではないことは一目瞭然だった。

 

「あれ?祭壇が、光って……」

 

祭壇へと近づき、いざ調べようとした時、それは起こった。

光の粒子が祭壇の上に集まったかと思うと、それは次第に人型に収束していく。

一瞬の閃光。反射的に目を閉じ、開いたその先を見て驚愕した。

 

「女の……人?」

 

祭壇の上では、薄紫の髪と胸部の二つの黒子が特徴的な女性が、静かな呼吸と共に仰向けで寝ているという異様な光景が広がっていた。




はい、という訳でここまで書けば分かると思いますが、クロス先は「.hack」です。
現在のVRMMOというジャンルの先駆けになった?作品だと思います。
SAOは実際に身体を動かしていますが、.hackは視覚だけをVR化して後はボタンポチーなゲームです。それでも当時は革新的な作品として根強いファンが多い作品でもあります。
やはり以前よりゲームの世界に入る、という発想は全人類の夢みたいなものだったんだなぁ、としみじみ思います。

ここからは.hack知らない人に、元ネタ説明タイム。ネタバレが強そうなものはスルーするかも。


スケィス

.hackシリーズに登場する八相と呼ばれる存在のうちの一つ。第一相『死の恐怖』スケィス。
今回登場したタイプは、初代である「.hack// Vol.1 感染拡大」のラスボスモード。
その強さはイベントボスでは?と思わせる性能で、キャラの能力を極限まで突き詰めても苦戦は必至というバランスブレイカー。私は攻撃アイテム連打で削りまくってなんとか倒した記憶があります。だって殴られたら一発で瀕死なんだもの……。
そんなスケィスとある程度拮抗できた我らがヴァルディが如何にチートなのかが分かりますね。いや、あの性能そのままではないですけれど。
それ以前に、SAOのボスって複数人での討伐が前提だった筈なんだけど。流石にひくわー。
まぁ、ホロウエリアっていう前例があるし、大丈夫だよね(震え声)


双剣

.hackシリーズにおける武装の一つ。
剣と称してはいるが、その長さはSAOでいうところの短剣相当の長さ。
シリーズ内では双剣士と錬装士の二つのジョブが使用可能。
攻撃力は低いが、手数と隙の少なさが特徴で扱いやすいものとなっている。
フィリアの使用したソードスキルは、すべて.hack内で使用可能なスキルである。


黄昏の書、黄昏の腕輪

黄昏の書が変化したものが、黄昏の腕輪。
スケィスのレベルを1にする攻撃を繰り出せる腕輪の正体は?
そして、スケィスが腕輪の攻撃とまったく同じことをしようとした、その関連性は?



Q:まさかのフィリアこの時点で登場。
A:ホロウ・フラグメントなんてなかったんや。その代わりのストーリーは用意するつもりですが。

Q:フィリアってこんなキャラだっけ。
A:ぶっちゃけロスト・ソングで性格変わりすぎな気がする。あれか、精神的に解放されたからか。あのクールな感じも好きなんだけどなぁ。まぁ、ポーズなんですけどね。
 原作フィリアより精神的に弱そうに見えるのも、原作より前でまだ精神的余裕があった時期だったからってことで。

Q:紫髪の女性……一体何レアなんだ……。
A:どんどん一話以降出ていないサチの肩身が狭くなるね。ていうか中の人のボイスがヤンデレの素質ありすぎて、サチもそれでいい気がしてきた。
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