Infinite possibility world ~ ver Sword Art Online 作:花極四季
読者「そ、そうだ作者。た、助け……」
作者「あれは嘘だ」
ウワァァァァァァァァァ……
そんなノリで投稿。相変わらずゲームしないでこっちにのめり込んでます。自分で自分が分からない。
そして相変わらず進まない話。
一年越しのサチとの再開に、感動してしまった。
思い出すなぁ、一年前のゲームを始めたばかりの頃を。
クラインの次にパーティを組んだプレイヤーで、モンスターにやられそうになったところを助けたんだっけ。
サチに会ったことで記憶がどんどん鮮明になっていくのが分かる。
短い付き合いだったのにこれだけ覚えていられるということは、それだけあの時間が濃密だったことに他ならない。
うーん、こういう繋がりが、まさにMMOだよね!
まさか抱き着かれるレベルで喜ばれるとは思わなかったけどさ。
「そっか……ヴァルディはずっと下層にいたんだ。だから会えなかったんだね」
「心配かけさせたようで、済まなかった」
「ううん、いいの。またこうして会えただけでも嬉しいから」
淡く微笑むサチ。
なんか、一年前とそんなに変わっていなくて安心した。
とはいえ、装備は攻略組と遜色ないものに仕上がっている上に、目つきもどこか芯の強さを宿している気がする。
ここでの生活を経て、色々強くなったのだろう。
なんというか、娘の成長を喜ぶ父親のような感傷に浸ってしまいそうになる。
MMOの経験だけなら、多分僕の方が上だし、ある意味ではそうなんだろうけどさ。
「それで、そちらの方たちは?」
「ああ、紹介しよう。フィリアにストレアだ」
「フィリアよ、サチさん、だっけ。よろしくね」
「アタシはストレアだよ!」
「うん、よろしくね――わぷっ」
二人と握手を交わし、例のごとくストレアの抱擁と言う名の挨拶も終えたところで話を進める。
「せっかくの再開だ。互いに近況報告と行こうじゃないか。私は――」
言い出しっぺの自分が先陣を切って最近のことを話していく。
とはいえ、今日の出来事ということもあって、フィリアとストレアのことがメインになっていたけど。
「へぇ……記憶喪失なんだ。なんていうか、大変だね」
「ううん、平気だよ。見るもの全部が新鮮で、すっごい楽しいから!」
「とまぁ、彼女はこういう奴なんだ」
「あはは……強いんだね」
「能天気なだけとも言うけどね」
記憶喪失はロールプレイの一環だろうし、それを差し置いても楽しんでいるようだから、深くは追及しないのが人情というものだろう。
「それじゃあ、私の番だね。――その前に、ずっと言いたかったことがあるから、そっちが先かな」
サチは姿勢を正し、改めて僕に向き合う。
「ヴァルディ。【月夜の黒猫団】に入ってくれないかな?そして、ずっと一緒に過ごしたいの」
「なっ――」
上の絶句するような反応をしたのは、フィリアだ。何か驚くことでもあったのかな。
僕はというと、ギルドの誘いかーぐらいにしか考えていなかったりする。
「それが、君が以前に言っていたメンバーの集まりか?」
「うん。聞いて、ヴァルディ。私ね、そのギルドでリーダーやってるんだ。少しでもヴァルディ見たくなりたいって思って頑張ってたら、いつの間にかね」
「そうか……頑張ったんだな」
「うん」
「私なんかを目標に、よくぞここまで……」
「なんか、じゃないよ。ヴァルディを目標にしたから、ここまでやっていけたんだから」
うっはあ、なんかすっげえ感動すること言われてしまった。
もうね、その全身をなでなでして労いたいです。そんなことすれば、ハラスメントコードに抵触しまくりだけどね!
「それで、どう、かな。ギルドの件」
「ああ、それなら是非――」
「ヴァルディが入るなら、私も入る。いいよね?」
お願いする、と続けるところにフィリアが割り込んでくる。
どことなしか、機嫌が悪いように見える。
「そろそろ私も腰を落ち着けるギルドが欲しかったところだし、ヴァルディが信頼している相手がリーダーのギルドだからね。私としては優良物件な訳だから」
「えっと、断る理由はないよ。うちのギルドも、そろそろ攻略組の中に入ろうと思ってたところだし、戦力は少しでも多い方がいいからね。それに、ヴァルディが信頼しているって言うなら、フィリアもだよ。だから、私もフィリアを信用する」
サチの言葉に、何故かフィリアの表情に微かに影が差す。どうしたんだろう。
「ねぇねぇ、アタシは?」
「勿論、ストレアもだよ」
「やったあ、褒められちゃったよフィリア」
「そ、そう。良かったね」
よくわかんないけど、打ち解けられているようで良かったよ。
「なら、三人でギルド加入ということでいいか?」
「うん。よろしくね、三人とも」
ギルドに入ると融通が利かなくなりそうだったから今まで避けていたけど、友達付き合いのギルドならそうでもないだろうし、こちらとしては願ったり叶ったりかな。
「しかし、今更だがメンバーに事前に通知しないでいいのか?」
「ヴァルディのことは結構前から話してたから多分大丈夫。フィリア達にしても、女の子が増えるなら喜ぶんじゃないかな」
「そういえば、君以外は男だけなんだっけか」
「そうだよ。そんな中で女の私がリーダーなんだから、人生って良くわからないなぁって思ったな」
「それだけ頑張った証拠だ。誇ってもいい」
「……うん、そう言ってもらえると、自信が出てきたかな」
そんな他愛のない会話をしながら、ギルド加入申請を滞りなく済ませる。
「じゃあ――ようこそ、【月夜の黒猫団】へ」
こうして、僕達はあれよあれよという間に、ギルドに加入した。
【月夜の黒猫団】のメンバーと合流を果たし、自己紹介していく。
ケイタと名乗った青年は、元団長らしく、今はサチに団長を譲り副団長の地位に落ち着いているとのこと。
他にもテツオ、ササマル、ダッカーといった男所帯に歓迎される形となった。
みんな気の良い人達ばかりで、アットホームな雰囲気漂うギルドだと、素直にそう思えた。
正直、そんな場所に私たちが入っていいのかと思ったりもしたが、そんな心配もどこ吹く風。
まさか歓迎会まで開いてくれるとは思わなかった。
ストレアなんかすっごいはしゃいじゃって、そんな様子を優しい顔で見守るヴァルディが、まるで父親のようで面白かった。
……今日は人との繋がりが多い日だ。まるで、今まで手放してきた分がいっぺんに返ってきたかのようだ。
そうして、私はというと、外の風に当たっている。
外はもう夜で、宿屋の中の喧噪とは対照的に、静かで落ち着く。
ああいった騒がしさもいいけど、だからこそ今の一人の時間が尊く感じられる。
逃げるように孤独でいた頃とは違う。どんなに離れていても、そこに確かな繋がりがあると分かるから、こうして一人でいても満たされている。
誰にも気づかれないように、小さく溜息を吐く。
あの時のサチに対しての態度は最低だな、と自分でも反省する。
どうして、もっと素直に受け答え出来ないんだろう。
サチは何も悪いことしていないのに、自分に不都合だって理由で目の敵にして。
サチは気にしていない風だったけど、それはつまり、彼女の方が大人だという証拠。
何故嫉妬したのか。それはきっと、一目見ただけで二人の心の距離が近いって分かってしまったからだ。
話を聞けば、一緒に過ごした時間だけなら同じぐらいの筈なのに、どうしてこんなに違うんだろう。
……いいや、分かってる。それは、私が幼稚だからだ。
子供な自分が、大人なヴァルディに釣り合う訳がない。逆に言えば、精神的にも私より成熟しているサチとお似合いに見えるのは、至極当然の節理なんだ。
同じ女だから分かる。サチもまた、ヴァルディに好意を抱いていることに。
そして私も――漸く、自分の感情に向き合うことが出来た。
私は――ヴァルディが好き。
切っ掛けなんて些細なもので、だからこそ、確かな想いであると実感できる。
SAOの中に閉じ込められてから、私はどこか空虚に生きていた。
生きるという明確な意味を見い出せず、ただ惰性で生きていた私にとって、SAOに入ってやってみたかったトレジャーハントだけが行動理念になっていた。
心のどこかで、いつ死んでもいいと思っている自分がいることも、理解していた。
だけど、出逢ってしまった。
私を決して見捨てず、見放さず、護ろうとしてくれるバカでお人よしな男と。
だけど、そんな彼が与えてくれる温もりは、私の中の空虚を確かに埋めてくれた。
彼は――ヴァルディは、私にとってのホロウ・フラグメントなんだ。
理解してしまえば、後はなし崩しだ。
この想いに嘘は吐けない。だから、これからはもっと素直になろう。
ストレアほどは無理だけど、せめて自分の心に嘘だけは吐かないようにはしたい。
それが、私の決意。私の、生きる意味。
「フィーリアッ」
突然、聞き覚えのある声と共に背中に柔らかい感触が訪れる。
「ストレア……」
「こんなところで一人でいるなんて、折角の歓迎会が勿体ないよ?」
「大丈夫、そんなに長く離れるつもりはなかったから。だからそろそろ離れて?」
「え~?フィリアが戻るまで離れないもーん」
「まったく……」
無邪気で、遠慮がなくて、だけど嫌だと思えない。そんな魅力がストレアにはある。
この背中にかかる重さが、誰かと共に在るという証なんだと、再認識する。
「あ、そうだ。記憶のことなんだけど――スケィスって言葉に、聞き覚えない?」
ふと、思い出したことを口にする。
あの神殿の中で現れたボスモンスター、スケィス。
安全マージンを無視したレベルに、突然の戦闘ステージの変更、そして、奥で待ち構えていたストレアの存在。
今にして思えば、なんで関連性がないと決めつけていたんだろう。
疑問を口にして、数秒。ストレアは無言になる。
普通なら、知らないなら知らないと一蹴するであろう場面で、どうしたのだろうか。
「――――ィス」
「え?何、聞こえな――」
ぼそぼそと何か言っているが、小さくて聞こえない。
より聞こえるように耳を澄まして――絶句した。
「――八相、黄昏の腕輪、黄昏の碑文、モルガナシステム、トライエッジ、…………」
普段の彼女からは想像がつかないほどに無機質で平坦な声で、淡々と言葉を紡いでいる。
顔が見えない体勢で良かった。恐らく、今のストレアの表情は見るに堪えないものだろうから。
聞いたこともないような言葉の中に、黄昏の腕輪というタイムリーな単語が聞こえて、ぎょっとする。
私とヴァルディしか知らない筈の単語を知っているという事実。それは、間違いなくあの部屋とストレアが大きく関わりがあるという証拠だ。
現状に心地よさを覚えているが故の、漠然とした未来への不安がもたらした幻聴だと信じたい、が――そんなのはきっと、甘い幻想だ。
「……スト、レア?」
「――ん?どしたの、フィリア」
背中越しに、いつものストレアの声が聞こえる。
まるで先程の出来事はすべて夢だったと言うかのように、いつも通りのストレアに戻っている事実に愕然とする。
だけど、あれは確かに夢じゃなかった、筈。
「ううん、なんでもない」
平静を装い、取り繕う。
あれが夢だとは思えない。だけど、それを問いただす勇気はなかった。
もしそれが真実なら、この殺伐と世界の中にある僅かな温もりを手放してしまいそうだったから。
「?変なフィリア」
「はいはい、私のことはいいからもう戻るわよ」
「はーい」
ストレアの身体を引き剥がし、ストレアと隣り合ってあの暖かい喧噪の中に戻った。
心の中に、僅かなしこりを抱えたまま。
歓迎会を終え、いざ就寝しようと思った時、部屋にノック音が響く。
「えっと、サチだけど」
ドア越しにサチの声が聞こえる。
「どうした?」
「えっと、まだお話したくて……駄目、かな」
「私は構わんが」
「ありがとう。えっと、入ってもいい、かな」
「どうぞ」
僕の返答後、ほんの少しの間をおいてドアが開かれる。
そこには、淡い青で彩られたパジャマに身を包み、何故か枕を胸元に抱えているサチがいた。
「えっと、変じゃない、かな」
「似合っているよ」
リップサービスでもなんでもなく、素直にそう思う。
青というイメージがサチにあるせいか、やっぱりなと思う反面、納得できるチョイスだった。
寝間着だというのに、部屋着と言っても差支えないぐらいにしっかりしたデザインで、流石はVRMMOだ。
「ヴァルディは、その恰好のままなんだね」
サチに指摘された通り、自分の恰好は防具を外しただけで後は普段着のままだったりする。
「ああ。寝間着なんて洒落たものは持っていないんだ」
「どうして?」
「必要ないからだ。そもそも私は、宿に泊まること自体が稀でな。普段はダンジョンやフィールドで野宿、最悪鎧を着たまま何日も過ごすことだってある。こんな贅沢、久しぶりだ」
「ダンジョンでって……危ないよ!」
「問題ない。その為に索敵スキルは可能な限り上げている」
「そうじゃなくって……」
「サチの言いたいことは分かる。今まではソロだったからそんなやり方だったが、ギルドに入った以上そんな無茶をするつもりはないさ」
「なら、いいんだけど……もう、そんな真似しないでよ?」
「ああ。それより、立ったままでは何だろうし、座ったらどうだ?とはいえ、ベッドぐらいしかないが」
そこで一旦話が一区切りついたので、立ちっぱなしのサチにそう促す。
「え?ベッドって……」
「私は来客用の椅子を使う」
「え?そっちが私なんじゃ――」
「女性にこんな固い椅子に座らせるほど、無神経なつもりはない」
リアルでも、女性には紳士かつ真摯であれ、と教えられてきたからね。
これぐらいは、普段からも当たり前のようにやっている。
「だ、だったら。一緒に座らない?」
「いいのか?流石に狭いと思うが」
こう言ってはなんだけど、一人用のベッド、しかも宿屋の一品ともなれば贅沢な要素は一切排斥されているもので。
ゲームの中の癖に、ベッドの大きさは大の男一人がたまに足をはみ出すぐらいのスペースしかないのだ。
「いいの。その方がもっと話がはかどると思うし」
「君が構わないのであれば、私に異論はないが……」
「じゃあ、決定ね」
サチは軽いステップを踏む感じで私の隣まで移動し、ベッドに腰掛ける。
そこからは、本当に他愛のない会話が続いた。
楽しそうに笑顔を向けるサチを見ていると、こっちまで笑みがこぼれそうになる。
まぁ、例のごとくヴァルディ補正であんまり変わってないんですけどねー。
「――それでね、最近有名な【黒の剣士】キリトや、【閃光】のアスナのような二つ名が欲しいって話になって、私は【蒼海】のサチになったんだ。カッコいいけど、イメージカラーが青だからって安直じゃないかって思うんだけど、どうかな」
「いいんじゃないか?二つ名なんてものは、イメージに直結した方が認識されやすいだろうしな。キリトなんて、まんまだしな」
「そういえば、攻略組にいたからキリトさんとは面識あるんだよね。どんな人?」
「どんな、か。あまり面識があった訳ではないから何とも言えないが、単純に強いと思ったな。相棒のアスナとの連携もあって、ボス戦は彼らがメインという流れがままあったな。とはいえ、ディアベル達が作ったギルド【アインクラッド解放軍】の徒党が成す連携も目を見張るものがあるぞ。規模も血盟騎士団と一、二を争うと言われているぐらいだ」
「あ、二つとも知ってる。有名なギルドだよね」
「血盟騎士団はともかく、ディアベルとは一層からの付き合いでな。まさかあんな巨大ギルドを創設するに至るとは昔は思ってもいなかったよ」
話によると、キバオウ、シンカー、ユリエールの三人がディアベルの補佐として優秀に立ち回っているおかげで上手く回っているらしい。
ディアベルにはメールでギルドに入ったことを報告しておいた。
こっちの提案を断っておいて、なんて考えもあっただろうに。ディアベルはギルドに入ったことを喜んでくれさえいた。
まじでディアベルカリスマだわ。クラインに続くいい兄貴キャラだよ、うん。
「ヴァルディはさ、もう半分階層突破したって状態で今更攻略組に参加するのって、どう思う?」
「実力次第だな。一層から攻略組として動いている人達には流石に敵わないだろうが、それでも役割次第では十分に貢献できるさ」
実際にサチの動きを見ていないから、絶対とは言い切れない。
だけど、サチのあの眼を見れば、成長を期待せずにはいられない。なんて偉ぶった感想を抱いてみる。
「ヴァルディは、さ。この世界で何がしたい、とかって明確にイメージして行動してる?」
「藪から棒だな」
「私はとにかく、強くなりたかった。この世界で生きていけるぐらいに、そしてヴァルディに次に会うときに失望されない為に。でも、それは能動的な理由で、私自身から湧いてくる願望とかは、別にないんだ。だからたまに、自分の生きている意味が少しだけ分からなくなるの」
「与えられた理由では、満足できないと」
「……そういうこと、なのかな。或いは、それが出来ないと私は一生半人前だからかも。自分でもよくわかってないんだ」
迷いを体現するように、視線を泳がせる。
サチは真面目だなぁ。僕は結構その場のノリでやっていくタイプで、なんとなく歩いて棒に当たった時は、その時どうするか考えることにしている。
未来のイメージが掴めないのは分かる。だけど、肩肘張った所でどうにかなるものでもない。
そもそも、イメージ出来る=実現できるではない。イレギュラーがどこかに発生すれば、そこから綻びが生じ、まったく別の何かに変わる。
考え方としてはバタフライ・エフェクトが近いかな。
実際にそうなるのか、とか。それを証明できるのは神の視点を持つ者だけだ。
成功する可能性、失敗する可能性。どちらも形がないなら五分五分だ。
どっちに転ぶ可能性だってあるなら、考えずに真っ直ぐ歩いたほうが、どっちか一方に傾くことがない分、公平になるんじゃないかと僕は思っている。
決して、何も考えていないことを正当化する訳ではない。
「――私はとにかく、この世界で楽しもうと毎日過ごしているよ」
「楽、しむ?」
「ああ。この世界の死は、特別だ。ゲームの世界でありながら、死という現実が限りなく近い。一度そう考えてしまえば、生き辛いことこの上ないだろう。だが、そんな世界だからこそ、楽しむという心を忘れちゃいけないと、私は考えている。戦うだけじゃない。生産スキルを上げて商いに勤しむもよし、壮観な景色を探す旅に出るもよし。自分なりの楽しみを見つけて、それを心から楽しむ。それでいいんじゃないか?」
「――――」
「死を恐れるな、とは言わない。だが、縮こまっていたらただ虚しく毎日を過ごすだけになる。それは最早、心の死に他ならない」
「心の、死」
「……なんて、偉そうなことを言ったが、私が言いたいことは一つ。この世界に来たときに馳せていた思いを、忘れないことが大事だということだ」
ゲームは楽しむ為にやるものだ。
そして、楽しみ方もまた、人それぞれ。
求めれば、無限に近い楽しみが広がっている。それがこのオープンワールドな世界なら、据え置きのゲームなんか目じゃないぐらいにあるだろう。
楽しめないゲームは、ゲームじゃない。自分にとって価値がないなら、それは路頭の石と何ら違いはなくなる。
だけど、楽しもうと思えば石ころにもいつかは愛着を持てるかもしれない。そして、いずれは宝石に突然変異だってあり得る。
可能性とは、つまりそういうことなんだ。
「……ねぇ、ヴァルディ。私も、色んな楽しみを見出したい。ただ戦うだけじゃなく、生きるためじゃなく。もっと、こう――充実した一日を過ごしたって思える、そんな何かが欲しいの。手伝って、くれますか?」
「当たり前だろう?」
仲間なんだから、当たり前だ。
サチが花開くような笑顔を向ける。この笑顔を見れただけで、僕にとっては最上の報酬だ。
「――それより、先程から気になっていたんだが、その枕は一体?」
今更な突っ込みを入れると、サチは突然動揺し出す。
「え、えっと。あ、ああああのね、違うの」
「違うとは?」
「そ、その。別に一緒に寝たいなーとか、そんなこと考えてたとかそういうことじゃなくて、」
「寝たいのか?私は別に構わないが」
「え!?」
誰かと一緒に一夜を過ごすなんて、よくやってたことだし、自分としては別段気にすることはない。
ただ、そうなるとベッドがひとつしかないのが問題だなぁ。
狭いベッドだから、二人で入ればギリギリになってしまう。
疑似睡眠とはいえ、寝転がっている時まで窮屈になんてなりたいとは誰も思わないだろうし、どうしよう。
「じ、じゃあ。よろしく、お願いします……」
「何故そんなに畏まるのか分からんが……流石に君と寝るならこの格好は戴けないな」
防具を上に着込んでいるとはいえ、下はそのままと考えると、ゲーム内とはいえ不衛生極まりない。
一人ならともかく、サチが隣にいるならそのぐらいのエチケットは考慮しておかないと。
まぁ、シャツに着替えるだけなんですけどね。
取り敢えず、一回脱がないことには始まらないし、ちゃっちゃと脱ぎますか。
「うわ……」
「どうした?」
「え?あ、ごめんなさい!まじまじと見ちゃって」
……しまった。普段通りの感覚で脱いでしまったが、人前で肌を晒すのは流石にマナー違反だった。
ハラスメント行為ギリギリじゃないか、これでは。
「っと、すまない。見苦しいものを見せた」
「い、いえ。とんでもない、です」
流石に気恥ずかしくなったので、ちゃっちゃとシャツを着てしまう。
「さて、寝ようか。電気、消すぞ」
「は、はい」
遠慮しがちにベッドに入るサチ。
さーて、おやすみなさーい。
夜の帳が降り、部屋に静寂が訪れる。
隣で静かな寝息を立てて、同じベッドで眠るヴァルディと私。
狭い空間である筈なのに、私に気を使ってか端っこを定位置に、呼吸の上下運動以外では一切のブレなく静止しているおかげで、私が取れるスペースはかなり広い。
申し訳ないと思う反面、寝てしまっている彼を起こす方がよっぽど気が引けるため、彼の好意にあやかることにした。
この状況に至るまでの間の記憶はブツ切れで要領を得ないものだった。
ケイタに渡されたジュースを呑んでからの記憶の欠如が著しいことから、アレが原因なんだろうな、と漠然と理解はしていた。
このゲーム、お酒とかはないって事前に聞かされていたんだけど、じゃあこののぼせるような感覚は一体何だと言うんだろう。
まぁ、今はそれを考察するときじゃない。考えるべきは、今こうしてヴァルディと同じベッドに入り、寝ているという現実。
お酒?の酔いから覚めてなお、夢か現実かも定まらない状況に再び酔いしれる。
なんとなく覚えているのは、私がヴァルディの部屋に訪れ、お喋りしたこと。そして、彼の方から一緒に寝ようと誘ってきたこと。
いや、その言い方は誤解を生む。正確には、私が何故か枕を抱いたまま部屋を訪れたものだから、ヴァルディが気を利かせてくれたに過ぎない。
そもそも、なんで私は枕なんか抱いていたんだろう。
眠る直前だったから?パジャマを着ていたから?それとも――最初からそれが目的だったから?
酔っていた時のことだから、自分自身でさえ真意が掴めない。あるとすれば、酔っていたからこそ本能が素直に働いた可能性が強い、ということだけ。
「うう……!!」
思わず顔に手を当て呻く。
ヴァルディが隣にいなければ、恥を捨てて転げまわっていたところだ。
なんて破廉恥なことを行動に移していたんだろうか。
ヴァルディに失望されていないだろうか。軽い女だと思われていないだろうか。
そんな後悔を抱く反面、私を受け入れてくれた現実と、ヴァルディの懐の深さに感謝していたりもする辺り、随分と自分勝手で現金だなと思わずにいられない。
とはいえ、彼はベッドに入るが否や、あっという間に眠りについてしまい、ないまぜになったあらゆる感情が急激に元の温度まで低下していく。
「……でも、きっとヴァルディにとって私は妹みたいな感覚なんだろうな」
そうじゃなければ、こんなに容易く異性を懐に入れるとは思えない。
普段のどこか人を寄せ付けない孤高な雰囲気とは一変して、今の彼は無防備極まりない。
宿屋という安全が保障されている場所での睡眠だからなのか、それとも――私が傍にいるから、なのか。
自惚れも甚だしいと思う。でも、もし後者だったら。こんなに嬉しいことはない。
「――やっぱり、そういうこと、なんだよね」
始まりはきっと、憧れだった。
あの日、命を救われたあの瞬間から、私はヴァルディに魅せられていた。
あの時感じた、まるで大海に身を寄せるような安心感。
あんな風になりたい。そんな思いの火種が灯ったのが原点。
そこからは、ただがむしゃらだった。
脳裏に焼きついた情景を思い返しては、憧れた背中を追いかけるべくやれることはなんでもやってきた。
成功もしたし、失敗もした。
そのどちらもが得難い経験で、リアルの私では決して成しえないような偉業だって達成したことさえあった。
でも、そんな自分になれたのも、全部ヴァルディとの出会いがあったから。
そうでなければ、私は今もギルド内のヒエラルキーの最下層にいただろうし、それどころか、死んでいても不思議ではない。
私にとって、ヴァルディは理想
でも――今は、違うとはっきり言える。
「好きだよ、ヴァルディ」
眠る彼の顔を、そっと撫でる。
端正な顔立ちはどこか幼く見え、普段の凛とした感じとのギャップについ笑みがこぼれる。
安心しきった寝顔。私の前で許し[てくれる、きっと特別な姿。
友愛ではなく、異性としての好意。
友情ではなく、愛情。
Likeではなく、Love。
憧れが先だったのか、それとも自覚していなかっただけで愛情が先だったのか。その答えは分からない。
それでも、行き着くところが一緒なら、それでいいじゃないか。
今はまだ届かない思いかもしれない。それでも、いつかきっと――
「おやすみなさい、ヴァルディ」
ヴァルディの頬に触れるように軽いキスをする。
こんなに大胆なのは、きっと月がこんなに綺麗だから、その魔力に中てられているだけなんだ。
そう自分に言い聞かせ、眠れない夜を過ごすべく瞳を閉じた。
おはようございます、僕です。ヴァルディです。
すがすがしいほどに気持ち良い朝ですが、気持ちは少しだけブルーです。
え、なんでって?それはね?
「――で、どういうことなのか説明してもらえるよね?」
有無を言わせない迫力で迫るフィリアと、そんな彼女の前で正座する自分。
サチはおろおろと僕とフィリアの顔を交互に見やり、ストレア他月夜の黒猫団のメンバーは何事かと遠巻きに眺めている。
「何のことだ」
「しらばっくれないで。昨日、サチと一緒に、その、えっと――一緒に、寝ていたことよ」
どんどん尻すぼみになっていくフィリアの声だったが、なんとか全部聞き取れた。
「そのことか。別に、どういうことも何もそのままの意味だが」
「そのままって――」
「サチが夜遅くに訪れてな。一緒に寝ようと催促されたからそれを了承しただけだ」
その言葉を皮切りに、周囲がざわめきだす。
対してフィリアの目つきは依然鋭いままどころか、一層キツさを増した気がする。
その視線は、一瞬サチに向くも、すぐにこちらに戻ってくる。
「貴方って、求められたら誰でも受け入れるの?」
「誰でも、かは分からんが。少なくともフィリアやストレアに同じお願いをされたなら、私は受け入れるつもりだ」
「なっ――」
ボン、と一気に顔を赤くするフィリア。何かおかしなことを言っただろうか。
「え?ヴァルディはアタシと一緒に寝たいの?」
突如として会話に乱入するストレア。
「そうだな。私からそう提案することは恐らくないだろうが、求められる分には断るつもりはない」
「そっか。じゃあ、今日はアタシと寝ない?ぎゅーってしてあげるよ?」
「ああ、いいぞ――」
「ダメッ!!」
僕とストレアの間に割って入るフィリア。
身体を震わせ、何か言いたそうに逡巡している。
「だったら――私と一緒に寝てよ!」
「何かと思えば。何なら、私としては二人同時にでも構わんが。ああ、そうなるとベッドが狭いな。もっとランクの高い宿屋の手配が必要になるな」
フィリア達とのお泊り会計画を頭の中で構築していると、フィリアがどこかしおらし気に身体をくねらせ、ストレアも珍しく顔を赤く染めている。
「あ、あうあう……」
「あ、あははー。ヴァルディったら、元気なんだね」
サチを除く黒猫団の他メンバーは、「イケメン爆発しろ」とか「これが若さか……」とか訳の分からないことを言っている。
そんな感じで、慌ただしいながらも月夜の黒猫団に入って初めての朝を迎えた。
Q:月夜の黒猫団に加入しちゃったね。
A:しかしサチ以外の扱いは雑。知ってた。
Q:モルガナシステムって?
A:ああ!
Q:何?同じベッドに男女が入ったのならアクセルシンクロするものではないのか!?
A:(無言の腹パン)これはそういう作品ではない。
Q:主人公が純粋すぎる件。
A:D×D次元では全裸のナイスバディ相手にハリセンかませるメンタルの持ち主ですし。だがホモではない。