Infinite possibility world ~ ver Sword Art Online   作:花極四季

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まーた話進んでないよ。重要な伏線はあるけど、読む価値あるのかこれ。
あとこの小説の勘違い要素が希薄だから、詐欺だと思われてそうで怖い。

あ、そういえば主人公の容姿のイメージは、さすおにで有名な司波達也の表情筋を柔らかくした感じです。(というか漫画版劣等生ぐらいの雰囲気)



第九話

宿屋の一室は、重苦しい空気に満ちていた。

迷宮区での一件で、未知を体験した私達の思考は、未だ混乱の渦中にある。

レベルダウンを引き起こすモンスター。今までにない、厄介なんて言葉など生温い敵の出現。そしてその被害を蒙った私達は、その恐ろしさを骨身に沁みこませた。

特にダッカーは、自分の責任だと誰よりも沈み込んでいる。

誰もそんなことはない、と否定の言葉を言えない。言えば余計に自分を責めることは分かっていたから。

 

「……一度、整理しよう。えっと、あのポリゴン欠損を起こしたモンスター――取り敢えずバグって仮称するけど、そのバグはこっちのダメージは一切通らなくて、バグの攻撃を受ければレベルダウンが発生した。今のところはそれぐらいの情報しかないってことでいいのかな」

 

サチが口火を切り、バグについての情報整理を始める。

 

「一応ではあるが、ダメージ量自体の変化はなかったと付け加えておく」

 

「状態異常を持つモンスターに変化した、なんてレベルじゃないけど、考え方としてはそういうことなのかな」

 

「問題は、あれが意図的なものなのか、それとも茅場にとっても不具合なのかってところ?」

 

「うーん、それはどっちでもいいんじゃない?どっちにしたって、対処の仕方が大きく変わる訳じゃないし」

 

「そう、だよね。もう迂闊に迷宮区には行けそうもないかな」

 

サチが自らの身体を抱きしめ、不安そうに呟く。

バグの正体が未だ不明瞭なままな現状、転移結晶が使えなくなる迷宮区になんて、恐ろしくて行けやしない。

 

「それ以前に……」

 

ヴァルディがケイタ達に視線を移す。

レベルが下がってしまった彼らは、攻略組に参加するという夢を目前に、予期しない形でその夢を折られたのだ。

あまりにもあっけなく。あまりにも一瞬で。

命を懸けて必死に培ってきた経験を、丸ごと奪われた喪失感。血と汗と涙の結晶が、まったくの無意味だったのだと否定される絶望。

それを思えば、また上げなおせばいい、なんて安易な言葉を吐ける訳がない。

それが例え、臍を噛んでいた所で何も変わらないと理解していても。

これはゲームであっても、ゲームじゃない。茅場の言葉の重みが、死という形以外で突きつけられた瞬間だった。

 

「……どうしたの?ヴァルディ」

 

突然メニューを操作し始めたヴァルディを見て、そう問いかける。

 

「メールが来たんだ。こんな時に見るものではないのだが、相手が相手だからな」

 

「誰?」

 

「ディアベル――【アインクラッド解放軍】のリーダーからだ」

 

その言葉を聞き、誰もが驚きを露わにする。

 

「ヴァルディ、そんな大物と知り合いなの?」

 

【アインクラッド解放軍】と言えば、下層の治安維持から攻略組にかけて幅広く手掛けている、超大規模ギルドだ。

ギルドメンバーの多さだけでいえば、攻略組で主に構成されている【血盟騎士団】以上と噂されている。

ディアベルというリーダーの名も有名で、誠実で部下に慕われるカリスマを持ち、優秀なタンクとしても【血盟騎士団】団長のヒースクリフに並ぶとされている実力者。

 

「一層の頃からの付き合いだ。それより、内容なんだが……『緊急の用事だ。有志を募って55層グランザムの血盟騎士団本部まで集まって欲しい』とのことだ」

 

「何だろう、ボス攻略かな?」

 

「いや、ボス攻略は先日59層の開通を終えたばかりで、時期的に迷宮区の攻略にも手が届いていない筈だ。それに、ディアベルはボス攻略の際に私に参加要望のメールなんて送ったことはない。今後ないとは言えないとはいえ、するならもっと早い段階からするものだろう」

 

「じゃあ、何だろう」

 

「分からん、が――行かない訳にはいくまい。彼がこういうメールを送るときは、大抵が厄介事だ。それに、血盟騎士団本部前というのも気になる」

 

「ほぼ確実に、血盟騎士団も絡んでくる問題ってことよね」

 

二大看板ギルドが関係する問題が、厄介事な訳がない。

ふと、私の脳裏にバグの姿が過る。

あまり考えたくないけど、バグとの関連がないとは言えない。寧ろ、可能性としては高い。

あの悪夢が、あんな所で終わるなんて、そんな楽観できるほど私の警戒網は薄くない。

 

「みんなには悪いが、私は行く。嫌な予感がするんだ」

 

「……だったら、私も行く。きっとその嫌な予感は、ヴァルディのものと同じだろうから」

 

「フィリア……」

 

私がヴァルディにとっての有志足り得るかは分からない。

それでも、一緒に居たい。我儘だけど、ケイタ達のことを差し置いて自分勝手な考えだけど、この気持ちに嘘は吐けない。

もし彼が駄目だと言うのなら、潔く諦めるつもりだったけど、その様子はない。

 

「私も行くよ。ヴァルディ達を置いていくなんて出来ないもん」

 

私に続くように、ストレアも立候補する。

 

「わ、私は……」

 

ストレアが参加の意思を告げるのに対し、サチはケイタ達と私達を交互に目配せしている。

ヴァルディについていきたいという思いと、ケイタ達を置いてはいけないというリーダーとしての責務に板挟みなっている。

どちらも譲れないが為に、行動を起こせない。

 

「……行きなよ、サチ」

 

ケイタが明らかに無理をした笑顔で語りかける。

 

「で、でも――」

 

「いいんだ。俺達も、これからの事を考える時間が必要だから、いい機会だと思う」

 

それを言われてしまえば、サチは口を紡ぐ他ない。

必然的に足並みが揃わなくなってしまった現状、力になってあげたいという私達の献身と、足を引っ張る訳にはいかないというケイタ達の謙虚な考えは、決して交わることはない。

普通のゲームなら笑って済ませられる問題だけど、ここはデスゲームなんだ。

そして、私達の現実の肉体に残されたタイムリミットを考えると、悠長に構えてもいられない。

 

「じゃあ、行くね。……早まらないでよ、みんな」

 

「しないよ、サチより先に死ぬつもりはない」

 

ケイタ達に背中を押される形で、私達はグランザムへと向かう。

サチは後ろ髪を引かれていたが、振り返りはしなかった。それが、ケイタ達の決意を無駄にすることを知っていたから。

それでも、心は晴れない。そんな気遣いも所詮、偽善でしかないから。

 

転移門を通じてグランザムに到着した私達は、足早に血盟騎士団本部へと進む。

入り口前には、遠目にもまばらに人が集まっているのが分かる。

 

「ディアベル」

 

「おお、来てくれたか。ありがとう、俺の招集に応えてくれて」

 

ディアベルと呼ばれた青髪の青年とヴァルディは、互いに握手を交わす。

たったこれだけのやり取りなのに、彼らが互いにどれだけ信頼を置いているかが分かった。

 

「後ろにいる彼女達は、君の仲間かい?」

 

「ああ、皆が信頼を置ける人物だ」

 

はっきりとそう宣言する。

まだ会って一日がいいところなのに、そう思ってくれているんだ。

ストレアもサチも、初対面の相手の手前自粛しているけど、嬉しそうにしているのが丸わかりだ。

 

「君も隅に置けないな」

 

「それほどでもないさ。それを言うなら、お前もだろう」

 

「はは……違いない。こんな世界で、まさか出会いがあるなんて思ってもいなかったからな」

 

「え、何何?どうしたの?」

 

何かを察したのか、ストレアが興味ありげに前に乗り出す。

 

「君の名前は?」

 

「ストレアだよ、よろしくね。それより、出会いって?」

 

「ああ、実は最近のことなんだが――」

 

「ディアベル、話すのは結構だけど少しは自粛して欲しいのだけれど」

 

透き通った声と共に、美しい女性がディアベルの隣に立つ。

 

「いいじゃないか、レイミ。それだけ嬉しいんだ、君と結ばれた事が」

 

数秒の沈黙。

 

「「「ええええええええっ!?」」」

 

女子三人の驚きの声が響く。

そんなリアクションをした私達を見て、レイミは嘆息する。

 

「いちいちこういう反応されるのは、正直疲れるのよ」

 

「幸福の代償って奴さ」

 

「発信源である人に言われたくないわね」

 

「違うぞ、発信源は俺とレイミの二人だ」

 

「私は誰かさんと違ってひけらかしたりはしないの」

 

レイミの冷静な返しに、楽しそうに返すディアベル。

でも、レイミもそこはかとなく嬉しそうにしている辺り、まんざらでもないのは確実。

否定していないこともあって、ディアベルの言葉の信憑性はより高まる。

……結婚、か。

こんな殺伐とした世界で、互いが互いを想い合い、愛を育むなんて、考えられなかった。

確かにヴァルディのことは好きだけど、そんなことに現を抜かしてしまえば、どこか心が妥協してしまいそうで、怖かった。

彼と一緒なら、この仮想世界で一生を終えるのも本望だと。

 

「こうして広めておけば、すべてが終わった後に祝福してもらえるだろ?クリア記念と結婚式、祝い事はまとめてやった方が盛り上がるじゃないか」

 

「……もう」

 

でも、ディアベル達は違う。

停滞することなく、幸せに溺れることなく、未来の道程に繋げている。

強い。素直にそう思えた。

攻略組のギルドリーダーになれるぐらいだから、それぐらい当然なのかな。

 

「いいなぁ~結婚」

 

ストレアが物欲しげにそう呟いたかと思うと、突然ヴァルディの腕に抱き着いた。

 

「ね、ね。ヴァルディも結婚しない?アタシと」

 

「……は?ちょ、何言って――」

 

私もサチも、突然のストレアの発言に目を丸くしている。

 

「いきなり何だ」

 

それでもヴァルディは冷静で、にべもなくそう答える。

 

「え~嫌なの?アタシおすすめだよ?可愛いし、胸も大きいし」

 

「そういう問題ではないだろう」

 

呆れた様子ではあるが、突き放す様子はない。

それが彼の優しさでもあるんだろうけど、個人的にずっと抱き着かれたままを維持しているのは納得いかない。

 

「えっと、ヴァルディも困ってるし、離れよう、ね?ストレアさん」

 

「ちぇ~」

 

口を尖らせながらも、サチの意見に素直に従う。

ストレアはこういうところがあるから、素直に怒れない。

ヴァルディもそれが分かってて、敢えて好きにさせているのかもしれない。

というか、ヴァルディが邪な感情を抱くというイメージがまるで沸かない。

 

「はは、仲がいいんだな」

 

ディアベルはそんなやり取りをどこか嬉しげに眺めている。

 

「長い付き合いではないが、皆親しみやすくいい奴らだから、仲良くしてやって欲しい」

 

「ああ、勿論だとも。――っと、どうやら他のメンバーも集まってきたらしい」

 

後ろを振り向くと、続々と人の列が歩いてくる。

人数こそ多いとは言えないけど、装備を見るだけでも強さが分かる。

その内の一人である、無精髭が特徴的な武士のような男が、ヴァルディを見るが否や近づいてくる。

 

「ヴァルディ、お前も来てたのか」

 

「ディアベルからの願いでな、今回の会合に参加することになった」

 

「そうなのか……。って、そちらのお嬢さん達は?」

 

「ああ、紹介しよう。順にサチ、フィリア、ストレアだ」

 

「おお……!!俺はクラインと言います、【風林火山】のギルドマスターをやっておりますので、もし何か困ったことがあれば是非俺を頼ってください!」

 

目を見開き、興奮気味に自分を売るクライン。

何というか、悪い人ではないのは確かなんだろうけど、ちょっと引く。

押せ押せ過ぎるというか、下心丸見えというか。

まぁ、私はともかくサチもストレアも美人な部類に入るし、こうなるのも分かる。

……そんな女子に囲まれて、それでも揺れることのないヴァルディは逆に何なんだろう。

外見からして、行ってて大学生ぐらいの年齢だろうけど、年下には興味がないとか?

私達三人とも童顔だし、それなら納得できる。

……いや、違う。ヴァルディは紳士だから、表に出さないだけだよ。うん、そうに決まってる。

だって、ヴァルディはサチと……その、寝たって言ってたし。少なくとも関心がないってことはないと思うんだ。

そう考えると、ストレアを忠言するサチの立ち回りは、所謂正妻の余裕という奴なのかな。

 

「……どうした?フィリア」

 

「べつにー?」

 

プイ、と視線を逸らす。

ヴァルディの鈍感、馬鹿、朴念仁。

いや、分かってるよ。別に表だって好意を向けたことはないから、気づけっていう方が無理だってことは。

それでも、やっぱり男性側がそういう機微に聡い方が、女性側としては嬉しいわけで。

 

「それでよ、お前は今回の集まりが何なのか知ってるか?」

 

「いいや」

 

「攻略組ってことで俺も代表で参加したはいいけど、正直嫌な予感しかしないぜ。何てったって、軍とKoBのリーダー主催の会合だって話だからな。大事なのは確実だろ」

 

軍とはアインクラッド解放軍、KoBは血盟騎士団の略称だ。

血盟騎士団はともかく、アインクラッド解放軍の方はよく略称で呼ばれていることが多い。

 

「……ん?おーいキリト!アスナさん、こっちだ!」

 

突然遠くに向けて大振りに手を振ったかと思うと、有名な名を叫ぶクライン。

クラインの視線の先には、黒のコートを着た剣士と、白の軽鎧と赤いスカートの女性が並び立って歩いている姿があった。

それと、近づくにつれて彼らの背後にモンスターを二匹ほど追従させて歩く少女も確認できた。

 

「クライン、それにヴァルディもか」

 

「キリトか。息災で何よりだ」

 

黒の剣士――彼がキリトだった筈。

実際に目にかかるのは初めてだけど、ここまで特徴的なまでの黒ずくめはキリト以外あり得ない。

そもそも、二つ名に黒とついている時点で、どれだけキリトという存在を象徴しているのかが分かる。

 

「久しぶりね、ヴァルディ」

 

「アスナ、相変わらずキリトと一緒なんだな」

 

「べ、別にいいでしょ」

 

そして、閃光のアスナ。

キリトの相棒として有名で、閃光の二つ名は彼女の操る細剣は剣先が見えないほどの速度で繰り出されることから付けられたとされている。

 

「あ、あの!ヴァルディさん、ですよね?」

 

「シリカ……?何故君がここに」

 

「えっと、私は先程までキリトさん達とパーティを組んでいたので、そのついでに一緒に来ただけです。本当は抜けようと思ったんですけれど、キリトさんが気にする必要はないって言うものですから」

 

シリカ……確か、数少ないビーストテイマーとして有名な少女が、そんな名前だった気がする。

ただでさえ数の少ないビーストテイマーで、レアなテイムモンスターを二匹従えているビーストテイマーは彼女ぐらいのものだ。

しかし、攻略組に参加できるほどの能力があるのだろうか。黒の剣士と一緒にいるとなれば、実力はあるのかもしれないけど、攻略組に参加しているという話は聞いていないし、私達と同じ境遇なのかな。

 

「シリカは謙遜が過ぎるんだよ。俺の見立てでは、攻略組の一人になっても問題ないぐらいの成長はしている。ピナとチムによる三位一体の連携は、シリカの実力を最大限に発揮出来ている。即席で作ったパーティなんかより、シリカ達のチームが独立して戦っていた方が強いと思えるぐらいだよ」

 

「キリトさん……そう言ってくれるのは嬉しいですけど、アスナさんとの連携を見てる方としては、ちょっと」

 

キリトの手放しの賞賛に嬉しそうに頬を染めるシリカ。

……あー、なるほどね。そゆこと。

 

「アスナとは長い付き合いだしな。もうすぐ一年になるのか」

 

「そうね……。もう半分クリアしたのを早いと思うべきか、遅いと言うべきなのか分からないわね」

 

アスナが遠くを見て呟く。

哀愁漂う言葉は、恐らくこの世界に生きる誰しもの総意だろう。

肉体のタイムリミットが刻一刻と迫っていることは分かっていても、その感覚が私達にフィードバックされることはない。

もしあるとすれば、それは――現実の肉体が死んだときなのだから。

 

「キリトもアスナさんも、今回の集まりが何なのかは知ってるのか?」

 

「……おおよその見当はつく。俺達もその現場に立ち会っているからな」

 

「そりゃどういうことだよ」

 

「――どうせ、すぐに答えてくれる」

 

キリトが視線を向けた先には、【血盟騎士団】の証である赤と白が本部の入り口から歩いてくる姿があった。

 

「初めましての者もいるかもしれないから、ここで改めて自己紹介しよう。【血盟騎士団】の団長を務めている、ヒースクリフだ」

 

そう、どこか胡散臭げなな笑みを込めて、会合の始まりを告げた。

 

 

 

 

 

俺たちがソレと対峙したのは、59層のボス部屋でだった。

フロアボスであるザ・ヴァンパイアロードと、その取り巻きであるヴァンパイア・サーヴィターの群れ。

ヒューマンタイプの珍しいモンスターであり、ボスも取り巻きもその名の通りプレイヤーからHPを吸収する特殊能力を持つという、非常に厄介な攻略になることは確実だった。

油断も慢心もない。決して負ける戦いではないと信じ、誰もが心を奮い立たせてボス攻略に挑んだ。

……それが、真の意味で地獄の門戸を叩く行為だと、気づくことのないまま。

 

俺達はすぐに異変に気が付いた。

複数いるヴァンパイア・サーヴィターの中に、ポリゴンの乱れが発生しているものがあった。

モンスター全員がそんな状態なら分かる。だが、一部だけにあんな特殊効果が施されているなんて、あり得ない。

この世界を第二の現実として認識しているであろう茅場晶彦が、データの象徴であるポリゴン効果を反映させるなんて、もってのほかだ。

だからこそ、言える。これは茅場にとってもイレギュラーな事態だと。

そしてあの天才がこんな露骨なバグを残しているということは、このバグが突如として現れたものだからか、或いはあの男でさえも対処しきれない異常事態かのどちらかだ。

 

二つ目の異変は、バグモンスターにのみ一切の攻撃が通用しないということ。

ノックバックは発生するが、ダメージは一向に与えられない。

ふざけるな、そんな言葉さえ生ぬるい憎悪と絶望が、俺達の足並みを狂わせる。

俺達は急遽作戦を変更。バグを引き付けつつそれ以外の取り巻きを倒すチームと、ボスを倒すチームという、事実上の三パーティに分割。

倒せない敵という壁は、下手なボスと対峙する以上に俺達を疲弊させた。

 

そして、三つめの異変。

バグモンスターは攻撃によって、致命的とも言える変化をプレイヤーに与えた。

それは――レベルダウン。

この世界はゲームだ。死を直結させようとも、それは決して揺るがない。

故に、俺達はこの世界にとってのルールには絶対に従わなければならない。

その最もたる例が、レベルだ。

経験値を得てレベルを上げれば、見た目に変化はなくともHPの最大値が増加したことによって死ににくくなり、まったく同じ攻撃でもレベルひとつ違うだけでダメージの量は目に見えて変わる。

究極的な話、レベル50の赤子にレベル1の大人は逆立ちしても勝てない。そんな現実では絶対にあり得ない理屈が、この世界の絶対だ。

逆に言えば、レベルさえあればどんな化け物染みた外見の敵にさえ勝ててしまう。

平等であり、理不尽な要素。それがレベル。

それが、奪われた。失われた。

恐らく、決して戻ってくることはない。

心が、折れる音が聞こえた気がした。

 

一人、また一人と犠牲者が出る。

レベルダウンという絶対的な恐怖の前に、皆の身体が竦む。

ダメージを受けても、回復すればいい。死にさえしなければ、その余地はある。

だがこれは、一発でもダメージを受ければレベルがダウンするかもしれない。そして、それは回復できるものじゃない。

ボス討伐チームは、一秒でも早くボスを倒そうと努力を重ねるも、なまじ多いHPに回復能力が、それを阻害していた。

 

決断の時を、迫られた。

俺が今までアスナ以外に隠してきた、ユニークスキル。【二刀流】を解放することを。

人間が特別に対して向ける感情がどんなものか、俺は知っている。

一層の時、ディアベルがβテスターだと公表した時は、肝が冷えた。

ディアベルだからこそ問題が出ることはなかったが、俺があの立場だったなら、果たしてあんなに丸く収まっていただろうか。

元々俺は、社交性のある人間じゃない。小さな輪の中で、自分に出来ることだけしか出来ない。そんな人間だ。

ディアベルのように大規模ギルドを持ち、維持することが出来るのは実績と人徳が為せる業で、それは誰しもが持っているありふれた能力ではない。

だからこそ――怖い。

俺の持つ特別が、結果として他者にどういう視点で見られる材料になるのかを、知るのが怖い。

ヒースクリフは【神聖剣】というユニークスキルを持っていることを公言しているが、それもまた彼が【血盟騎士団】の団長という地位に落ち着いているからこそ堂々としていられるだけであって、俺のような内輪パーティだけで攻略組に参加して、なまじ実績を出してしまっているような男は、ヒースクリフやディアベルのような特別に対して吐き出せなかった嫉妬の感情をぶつける格好の的になってしまう可能性が高い。

俺だけならいい。でも、アスナやシリカにリズベット、そして最近出逢った特別な境遇にある少女――ヘルバへ飛び火するかもしれないと考えたら、おいそれと使うことは出来ない。

 

だけど、俺は使う決意をした。

泥を啜ってでも、草を食んででも、悪意の矢面に立つ決意だ。

彼女達を失うぐらいなら、その方がよっぽど気が楽だ。

……なんて、間抜け。こんな簡単なことに、窮地に陥ってから気付くなんて。

 

かくして、俺は【二刀流】を解禁。

ヒースクリフ、ディアベルの二大タンクによるヘイト稼ぎと、【二刀流】から繰り出されるソードスキル【スター・バースト・ストリーム】による猛攻によって、ヴァンパイアロードのHPをゼロにすることに成功した。

極度の緊張で意識を落とす瞬間、バグモンスターも一緒に粒子となって消えていく姿を確認し、安堵した。

 

それからどうなったかというのは、アスナから聞いた話になるが、俺の【二刀流】についての追求はディアベルとクライン、そしてエギルの説得によってどうにか場を収めることに成功したらしい。

本当に、感謝してもしきれない。俺の力では成し得なかった結果だ。

そんな感じで何とか平和にすべてが収まった――なんてことにはならない。

あのバグモンスターの正体は不明。悪戯に混乱を招いてはいけないという理由で、情報収集は風の噂に頼らざるを得ない。

ボスをあの状況で倒せたのは奇跡というもの。そんな状況が二度続かないなんてことは口が裂けても言えない。

ましてや、あれがボス部屋だけの問題だなんて考えは早々に唾棄すべきだ。

俺とアスナは、シリカと例の少女のレベルアップに精を出し、時間を潰した。

レベルの低い地帯なら、仮にバグモンスターに襲われても対処が出来るという理由からだ。

シリカの二体のテイムモンスターによる連携が素晴らしいが、例の少女は最近になってレベルを上げ始めたというのに、その体捌き足るやとても洗練されており、気を抜けば追い抜かれそうな才能を有していた。

 

少女は記憶に欠落があるらしく、自分が何故ここにいるか、果ては名前さえも憶えていないとのことだ。

ステータス画面にも名前は存在せず、思えばこのイレギュラーもバグモンスター出現の前触れだったのかもしれない。

仮でも名前が欲しい、ということで決まった名前が、ヘルバだ。

何でも記憶に薄らと残っている義理の兄との記憶が、その名前を想起させたという。

義理の妹……か。スグは元気にしているだろうか。

俺とスグの距離感はどこまでも中途半端で、どこまで歩み寄ればいいかが分からず、同じ家に住んでいるのに疎遠になっていた。

そんな後悔が、こんな世界で生きることになってようやく訪れるなんて、馬鹿すぎる。

俺とは境遇は違うだろうけど、その義理の兄も少女の心配をしているのは確実だ。

助けになってやりたい。少女にスグの面影を重ねた俺は、素直にそう思った。

 

三日。ヒースクリフからの音沙汰がなくなり、迷宮攻略に出たくても出られないもどかしい時間は、簡単に過ぎていった。

そして今日、攻略組を中心に腕に覚えのあるメンバーを招集させ、大事な話をするらしい。

その会合の主催がヒースクリフとディアベルならば、十中八九バグモンスターについての話だろう。

俺達は、レベルの劣るヘルバを置いて三人で参加することにした。

そこで俺達は最近攻略組に参加していなかったヴァルディと再会。

直接の会話はしていないけど、後ろにいた三人の女性は彼の仲間だろう。雰囲気が即席のPTのような微妙な距離感を感じない。

人のこと言えた義理じゃないが、ソロであることに固執していた節のある彼がこうして誰かと一緒にいるというのは、やはり嬉しく感じる。

俺だけじゃない。アスナ、シリカ、クラインだって、彼に救われた経緯がある。

だからこそ、死に急いでいる風の彼を止められない自分を悔いたし、そんな彼がこうして誰か心を許せる相手が出来たというのが、嬉しくてたまらない。

なんとなくだけど、彼が来たということが、大きな転機になるんじゃないか――そんな予感がする。

大げさかもしれないが、彼ならなんとかしてくれる、という妙な安心感がある。

俺に限らず、彼を知る大半の人物は俺の考えに同意してくれるだろう。

だからこそ、願う。彼との再会が、最悪と言っていいほどの現状を打開する一石となることを。




Q:話進んでないことについて、釈明は?
A:キリトの独白が予想以上に長くなったせいです。この世界線ではサブ主人公にもなれない協力者K君なのに……実際ダイジェストだったし。

Q:レイミって誰。
A:またもやコード・レジスタからの出演で、レア2なのにかなりの美人さん。

Q:二刀流解禁はやくね?
A:現状がハードモード過ぎて……。いつ解放されたかは不明なので、このぐらいの時期ならあっても不思議ではない。

Q:シリカの立ち位置。
A:安定性だけで言えば最強のソロプレイヤー。チムの能力は後ほど説明しますが、パないです。

Q:ヘルバ……誰なんだマジで。
A:少なくとも.hackのヘルバとは違います。
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