・宇宙歴837年/新帝国歴39年 バーラト星系 首都星ハイネセン
かつて自由惑星同盟と呼ばれた国の中枢を擁した惑星ハイネセンは、仰ぐ旗の名をハイネセン共和自治政府と変えど、変わらずに民主共和制の中枢であり続けた。それを成し遂げるために何万Lの血と涙が流れたが、詳細は長くなる故に省こう。一つ言えるのはその流血と涙の海は全く無駄では無かったということだ。
そんな惑星ハイネセンの第二の都市「テルヌーゼン」。この町は自由惑星同盟軍の士官学校の所在地として有名だったが、現在は施設を流用し規模を小さくした士官学校と「ヤン・ウェンリー記念大学」を中心とした大学都市として栄えていた。
青春を謳歌する若者達のエネルギーから距離を取るように、町の中心から少し外れた郊外の一軒家で一人の老人が静かにまどろんでいた。その男の名はアレックス・キャゼルヌ。末期の同盟軍きっての軍官僚で、同盟史上最高の智将であり、民主共和制最大の守護者ヤン・ウェンリー元帥の軍事行動を裏方から支え続け、彼の死後は彼の後継者達を助け続けた一人の英雄だった。
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キャゼルヌは深夜、安楽椅子の上で目を覚ました。昔のアルバムを整理しているうちにどうやら寝てしまっていたらしい。最近眠る時間が少しづつ長くなっているのを感じていた。少し前までは眠りが浅くなり、朝早くに目が覚めてしまうのに困っていたが、気が付けばふとした拍子に寝入ってしまうようになっていた。
(それもそうだ、もう俺はあのビュコック爺さんよりも年上なのだから)
あの同盟軍には勿体なかった爺様はその死に様で同盟国民の精神を再び覚醒させ、カイザーに民主共和制の価値を初めて認識させた。後の事を後輩達に託し、彼は同盟軍に幕を引いたのだった。
(そう思うと、随分長生きしたもんだ。いい奴ほど先に死ぬという言葉はどうやら嘘だったらしい)
運動不足になりやすいデスクワーカーだったキャゼルヌがこの年まで健康体でいれたのは長年連れ添った妻オルスタンスの手料理のおかげだった。そんなオルスタンスも5年前に病で先に逝ってしまった。人員不足でカツカツの自治政府の要職をやっと退職して、ようやく二人の時間が作れると考えていたのに…。娘から誕生日プレゼントにもらってから愛用している老眼鏡をかけてPDAを手に取る。電源を起動してスワイプすれば、かつての懐かしい日々がそこには切り取られていた。
礼服が全く似合っていないヤンと、美しいウェディングドレス姿のヤン婦人の結婚式のビデオ。控室ではオルスタンスが介添え人として緊張する花嫁を励まし、まだ幼い娘達がフラワーガールとして頑張っている。二次会では若々しい自分とアッテンボローとシェーンコップがヤンを揶揄い、ユリアンが呆れながらフォローをいれている。イゼルローン要塞での新年パーティー。ローゼンリッターの面々が女性士官の魔の手にかかり抵抗出来ずに女装させられる。男と知らずナンパしたポプランと、それをコーネフが実に悪い顔で傍観していた。ムライが日系イースタン伝統のライスケーキを用意してくれたので、パトリチェフとマシュンゴがその巨体を生かしてライスをハンマーで捏ねている。フィッシャーとメルカッツが初めて食べるライスケーキを一気に頬張って喉を詰まらせ、シュナイダーが慌てて飲み物を取りに行っている。
(あいつらも生きていればどんな爺になってたことやら)
目を閉じれば、鮮明に頭に浮かぶあの日々。銀河の殆どを敵に回し、人も金も物資もカツカツで無茶振りばかりしてくる後輩達の後始末に追われて、本当に大変だった。だが、どんなに厳しい状況でも皮肉と冗談を忘れずに伊達と酔狂で、甲斐性無しな後輩を頭領に立てて戦い抜いたあの日々は間違い無くキャゼルヌにとって黄金の日々だった。
ふと、瞼が重くなってくる。キャゼルヌはその睡魔に逆らわずに老眼鏡を外す。
(今日はいい夢が見れそうだ)
キャゼルヌは意識を再び睡魔へとに委ねた。
「キャゼルヌ先輩!」
どこからか、自分を呼ぶ声が聞こえた気がした…。
翌朝、孫を連れて遊びに来た娘夫婦が、祖父が自室の安楽椅子で静かに息を引き取っているのを発見した。
不敗の魔術師の背中を守り、黎明期のハイネセン自治共和政府を裏方から支え続けた偉大なテクラノートの死は国葬で追悼された。その葬列には多くの人が参列したという。
銀河の歴史が、また1ページ。
艦これは兵站ゲーなので取りあえず、戦記物事務屋としては最強格のキャゼルヌをぶっこんでみました。キャゼルヌがいれば大型建造しまくり、大和型出撃しまくりのロマン経営しても大丈夫だって安心しろよ~。ヘーキヘーキ、ヘーキだから(大嘘)