差しウマ「エンドスコープ」の馬生 作:注釈n
今回はミサカサンクス陣営のお話。
追記:実況の部分は音通りに書くので、前話の「マチカネタンホイザー」は誤字ではありません。誤字報告いただいた方には申し訳ない。
以下要素の説明とか。
ミサカサンクス:元ネタは札幌記念勝った4歳(現3歳)牝馬……って言ってたら某アイドルホースが勝っちゃいましたね。あとよくよく調べたらハープスターも勝ってたのか……印象薄いのう。
ヨド:ガーサント狂いの人の冠名。本当に大阪関係ないかどうかは知らない。
ニシノ:冠名。ミサカサンクスの元ネタはこの頃既にこの冠名の某ウマ……じゃなくて馬に一度負けている。
ミサカ建設:捏造。バブル時代は信じられないような事業展開が成功したりしていたんですよ。なお崩壊後。
サクラの血統:母父シーホークは天皇賞馬モンテプリンスやダービー馬アイネスフウジンなどを出している。父ダイナサンキューは……彼女以後の産駒はパッとしない。今でこそフジキセキやアグネスタキオンの例がありますけど、昔は早期引退馬の産駒は割と地雷臭がしたんです。
「うわ、ギリギリか……」
「っ!」
裁定写真を見て、西は何が起きたのか嫌というほど思い知らされた。
わざと上げたのかと思うほどに首があがった外の馬と、わざと押し込んだのかと思うほどに、いや、おそらくはその通り押し込んだ、内の馬。
「やばいですね、
嫌味のような口をきくこの男を、できることなら一思いに殴ってしまいたかった。その整った顔を崩してやるほど強く。だが、この男は本心からそれに感心しているのだ。
それに、理由はなんであれ、殴れば騎乗停止をくらうのはこっち側。握り拳に込めた力は、そのまま逃すしかなかった。
「かくてーい!」
電光掲示板の「Ⅰ」の横には、9の数字。
西は、あの男に負けたのだった。
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「くそっ、くそっ、くそっ!」
男は何度も机を叩いた。灰皿がわずかに浮かび、机に燃え滓が溢れる。
「なぜっ、なぜ負けたっ!」
カタカタと机で音を立てる灰皿に、煙草を押し付けて黙らせる。彼の気が立っているのは火を見るよりも明らかだった。勝ちをもぎ取りかけた競馬で、穴馬に足を掬われたのだから。
「あのクソジジイめ! とっととくたばれっ! 大阪に帰れっ!」
次に出たのは罵倒。その「淀」を冠名に使っていた馬主は、大阪生まれでも何でもなかったのだが。それは彼にとってはどうでもよかった。
「くそっ、畜生!」
ともすれば子供じみた言葉が、尽きることを知らず繰り返される。
いや、その子供のような精神性こそが、ミサカ建設の業績の源泉だったのだ。ほんの少し前までは。
「絶対に、絶対に超えてやる! 『ヨド』も『ニシノ』も!」
しかし、今やそれが良い方に出るとは思えなかった。
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馬主にせっつかれた調教師ができることは、そう多くない。馬はそんなにすぐには育たないのだ。だから、馬以外のものをいじる。たとえば路線を変えるとか、馬具をつけたり外したりしてみるとか。
「そこを何とかお願いしますよ。……久保村さん」
あるいは、騎手を変える、とか。
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周囲の狂騒に比して、馬の側は冷静だった。
『次は勝つ』
「次はGⅠだぞ」――厩務員から、彼女はそう聞いていた。GⅠ。それならヨドも出る。もちろん前に負けた他の馬も来るだろう。だから、次に勝てば問題ない。
『大舞台で勝つ方が、かっこいいじゃない』
彼女は高く嘶いた。
「おうおう、落ち着けサクラ」
声をかける厩務員も、相当に落ち着いていた。もとより、オープン重賞で戦える馬とは思っていなかったのだ。母はそれなりの血統だったが、父はあまり期待できない戦績だった。「現役無敗」と言えば聞こえは良いが、実のところ、3歳のうちにたった3戦で引退しただけの馬だ。早熟なだけの尻切れトンボなんてごまんといる。
「お前はよく頑張ってるよ」
厩務員は現状にほとんど満足していた。「足るを知る」とでも言うべきか。しいて言えば多少出走は多いが、それも走らせて育てる方針なのだろうと納得していた。
しかも、サクラはまだまだ成長途上に見える。これが3歳で完成してしまうとは思えない。4歳でもまだ強くなるだろう。5歳、6歳でも、走るならきっと活躍してくれるはずだ。
それに、繁殖入りした後の仔だって。
そう思えば、彼には不満や焦りなど出てこなかった。
「先は長いんだ。落ち着いていこう」
その言葉を解したかのように、彼女は首を少し前に曲げた。
次走:阪神3歳牝馬ステークス
(馬体が前なのに負けてる→それだけ鞍上が完歩を合わせられていないということ)