差しウマ「エンドスコープ」の馬生 作:注釈n
追記:感想、評価などいつも本当にありがとうございます。諸事情によりちょっと10月いっぱいが死ぬほど忙しくなるっぽいので、次章はもう少々お待ちください。章だけに。
以下要素の説明とか。
モアザンアライブ:元ネタは主な勝鞍は「若草ステークス」な馬。ネタバレになりそうだが、今後はひとつも勝ち星はない。どころか掲示板にも入れない。当然種牡馬入りはしない。
ダイサンゲン:ウマ娘にも名前付きで出てきたので実質ウマ娘キャラ。ただしおそらく今後の出番はない。
マチカネの種牡馬:マチカネイワシミズ。ダ○スタで有名になったやつ。なお産駒の成績は……
久保村:元ネタは「ミサカサンクスの元ネタ」の主戦騎手。顔が良い。
降級制度:今はなくなったんだった、ということに気づいて追記。5歳夏(現4歳夏)から収得賞金が半分になる制度(ってこれも今は「n勝クラス」の呼び名なんで通じにくいかも……?)。降級馬は一度その条件で勝っているため、予想の主軸になっていた。やっぱり降級馬がいないと条件戦はつまらん(老害)。
個室病室のテレビは、競馬を映していた。
「マックイーン届かない! これはびっくりダイサンゲン!」
そのメインレース。有馬記念は、しかし彼の目当てではなかった。
「……では、お別れのお時間となりました」
「なんだぁ、やらねえのか」
彼はベッドの横のラジオをつける。そう、目当ては有馬記念の後の発走の阪神11R、六甲ステークス。
ツマミを回して周波数を合わせると、ガサガサとした音が実況の声を流し始めた。
「……でありま……そしてキネマクルーズが……ってきました。先頭は……キタ……であります。まだリードが……逃げ切った、2着に……ルーズ、3着に……」
ところどころが聞き取れないのは、ラジオの音質が悪いからだけではない。彼の耳もまた、衰えをみせはじめている。だが、それでも、実況が彼の馬を読み上げていないのははっきりとわかった。
「だめかんねえ」
実際、モアザンアライブはこのとき9着に敗れている。秋は始動した京都新聞杯で惨敗、菊花賞でも惨敗し、続くGⅢ愛知杯では9頭立ての5着でなんとか掲示板を守ったものの、ここにきてオープン特別の六甲ステークスで惨敗。
もう、勝ちの目はほとんどない。またダートにでも出してみるか、いや5歳夏の降級からもう一度。その程度しか、望みはなかった。
彼はどうしもこの馬を種牡馬入りさせたかった。いや、種牡馬入りさせるだけなら、一応はできるかもしれない。しかし、重賞勝ちすらない馬を種付けしたがる馬産者が、いったいどこにいるだろうか。
種付け料無料だとうたっているマチカネの種牡馬だって、もっと戦績が良くて、もっと良血なのに。
もちろん、彼はガーサント直系のモアザンアライブをこそ良血だと主張したいのだが、残念ながらほとんどの馬産者は首を横に振ることだろう。
現実逃避的に牝馬にも目を向ければ、この前の阪神3歳牝馬ステークス4着のエンドスコープが居る。たとえばこれがオークスでも勝ってくれれば、似た血統、すなわちガーサント系がいくらか注目を浴びるかもしれない。
が、そうなったところで、それも所詮はいくらかの延命装置にしかなり得ないことは、彼もわかっている。牡馬が活躍しなければ、途絶えるのだ。
「いつまで見てられっかなぁ」
彼はしわだらけの腕を撫でた。その「いつまで」は、ガーサント系の馬が消滅することを指していたのか、自分の死を指していたのか。どちらにせよ、そう長くないことは明白だった。
せめて、オークスくらいまでは見ていたいのだが。
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「え、乗せてくれないんですか?」
久保村は大袈裟なリアクションで言った。
言ってから気づいたように「ああ、一度断ったらダメとかってやつですか? ニシノの人にも言われました、そういえば」などと付け足す。
それが、この調教師にはどうにも嫌いになれなかった。
「いやいや、そういうわけじゃないんです。私はもう今すぐにでも久保村さんに乗ってもらいたいくらいですよ」
「おお、そりゃありがたい。でも、それでもダメな理由があるってことですね?」
「そうなんです。オーナーの方に言ったらですね、『この前のGⅠではこっちの方が上だったんだから変えなくていい』って、『変えるなら岳か岡田がいい』なんて返されちゃいまして」
この調教師は、そこまで彼に伝えるつもりはなかった。それなのに、気づいたら全部話してしまっている。
「あはは。それはなんというか……ご苦労様です」
この男には、やはり不思議な魅力でもあるのだろうか。
「いえいえ、わざわざすみませんね。うちのオーナーはほんと気が変わるのが早い人なんで……もしかしたら、また『やっぱり乗って欲しい』とか言うかもしれませんよ」
すると、久保村は嫌な顔一つせずに。
「そしたらまた言ってください。あっちの馬では僕のミスで一回負けたんで、完全にフリーですから」
そんな答えを返した。
調教師は、言葉を選ばずにいえば、もうこの男に惚れこんでしまっていた。次こそ、オーナーを説得して、久保村を乗せようと決心したのである。
そして、「次」の機会となるのは――
「オークスだな」
T原がいつから3A3Qに乗っていたかですって?
オ ー ク ス か ら ですよ。