差しウマ「エンドスコープ」の馬生 作:注釈n
幼駒期はスキップ。次かその次あたりに新馬戦が書けそうな感じです。
なお、念のために言っておきますが、本作品は無双モノではありません。
以下要素の説明とか
藤原:調教師。戸山調教師(ミホノブルボンの人)の反対の感じ。そこまではっきりしたモデルはいない。
「現実に藤原調教師がいるじゃないか!」というご意見を頂戴しそうですが、今ご活躍中の藤原英昭調教師は2001年からなので明らかに別人です。
久保村:騎手。モデルは「ありゃ馬」の原作者。普通に面白かったので作者は田原成貴の才能に嫉妬している。
馬主さん:オーナーブリーダー。命名センスがない。作者のせいだという説もあるが、作者は黙秘権を行使すると主張している。
ゲイフタイショウ:元ネタはダイカツブランド。ブランド→烙印→黥→黥布(英布、楚漢戦争の頃の人)とダイカツ→大勝→タイショウ。エンドスコープの新馬戦の日に史実の田原成貴が乗ってた馬だが、今後は出てこない。
指さす
「来てくださったんですか、久保村さん」
「ええ、オーナーから是非ともと言われまして……」
久保村が頭を掻く。
「それに、せっかくゲイフタイショウの鞍上蹴って来たんですから」
「セントウルSの?」
「そう、G3ですよ。その分こっちで勝たないと割に合わないでしょう」
人が聞けば嫌味だと思うかもしれない。しかし、これが久保村という男なのだと、藤原はわかっていた。
悪意ではなく、ある種の幼児性。良くも悪くも純真な男である。
「そりゃ、こっちも頑張らにゃいけませんね」
「ぜひ頼みますよ。それで、馬はどうですか?」
藤原は少し躊躇う。
「いや、調子は悪くないですね。むしろデキ過ぎてるくらいです」
「藤原さんがそこまでおっしゃるとは。ほら、いっつも新馬の仕上げは手抜いてるじゃないですか」
「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。馬優先なだけです」
「つまり、今回は馬が、いや馬ばかりが走りたがっている、と」
息を呑んだ。
相変わらずのカンの鋭さだ。心臓に悪い。こっちが言いたくないことばかり当てやがって。そんな言葉が藤原の頭を駆ける。
だが、伝えなければならないことに変わりはない。
「実はですね。オーナーの意向なんですが――」
彼は医療機器メーカーの社長であった。
競馬に疎い者から見れば、彼の情熱はすべて癌治療に向けられていた。
それもそのはず。彼自身が癌に侵されていたのである。当事者ゆえの熱意があるのだと、大多数の関係者は考えていた。
これは事実だった。実際、彼は欧米から新たな手術法や治療法をいくつも輸入していた。直近の有名どころでは、
しかし、彼が癌治療に
彼の情熱は、30年前からずっと――ある男にしか向いていなかったのだ。
1961年。アイルランドのとある牧場に来た吉里は、開口一番こう言った。
「この馬を売ってくれ」
牧場一番の稼ぎ頭、名種牡馬
その場の誰もが正気を疑った。当時の日本はまったくの競馬後進国で、欧米人の視界にすら入っていなかったのである。当然、英国人の牧場主は顔面に血管を浮かせながら怒鳴った。
「
これに対し、吉里はこう答えた。
「
日本側の誰もが慌てふためいたことは言うまでもない。
しかし、この一件で吉里の相馬眼を評価した牧場主は、最終的にこの馬を約3.2万ポンドで売却する。これがニットエイトなどを輩出した名種牡馬ガーサントの来日であった。
この"事件"に同行していた彼もまた、その相馬眼と度胸に惚れこみ、そして心の内で誓った。
「絶対に
だが。ガーサントは後継種牡馬に恵まれなかった。種牡馬として失敗したニットエイト以外に牡馬の活躍馬がおらず、直仔最後の種牡馬ヨドヒーローもいまだアスコットエイト(84年中日新聞杯)以外に活躍馬を出せていない。
一方で、吉里佐道の息子
「吉里佐道の馬でノーザンテーストを超える」
どだい不可能であることは、彼以外の誰もがわかっていた。
しかし、ノーザンテーストが活躍馬を輩出すればするほど、彼はガーサントとそのサイアーラインに入れ込んでゆく。
それでも、前述のとおり活躍馬はほとんど出なかった。彼の牧場はほとんど非ガーサント系の馬が稼いだ賞金を、ガーサント系産駒の費用で溶かすという経営状態となる。
そして、ついにあのガーサント購入から30年。ヨドヒーローは種牡馬を引退した。
後に残ったのはわずかなヨドヒーロー産駒のみ。それもガーサントの悪いところを受け継いだのか、多くが牝馬だった。
そのうちの一頭こそ、エンドスコープである。
「ええ? 勝たなくていい、ですか?」
久保村は大袈裟に驚く。
「いや、もちろん勝てるならそれに越したことはありませんけれどもね。とにかく無事に回って来ることを優先して欲しいんです」
藤原はエンドスコープのオーナーの様子を思い出していた。
かねてから癌の状況は芳しくなかったが、夏に入ってから一層やつれたようだった。もうほとんど外出もできないらしい。
それでもなお、あの人は叶わぬ夢を見続けている。「万が一にでもヨドヒーロー産駒の故障なんて話は聞きたくない」と、何度も何度も念を押された。
彼の家族からも念押しされているものだから、これでこの馬を壊してしまったら馬が回ってこなくなるかもしれない。藤原にとって、彼の牧場はそれなりの優良顧客――ただしガーサント系産駒を除く――なのだ。
「まぁ、そりゃケガされたら俺もまた腰イワしちゃうかもしれませんから。気をつけときますよ」
久保村は既に二度落馬事故を経験していた。一度目は腎臓摘出、二度目は骨盤骨折という大怪我である。当然予後の影響もあり、いまだに騎乗数を絞っている。
「しかし、それならやっぱりゲイフタイショウに乗っときゃよかったなぁ。あいつもなんだかんだ直線で結構いい脚使ってたんですよ。こっちのはどんな馬なんです?」
「短距離向きで、前に馬を見ながらの走り方が向いてるんじゃないかと思います」
「ほう、差し馬ですか」
「馬格がおっきいんで本格化はまだ先になりそうですが、まぁ久保村さんならそのうち未勝利は勝ってくれるんじゃないかと期待してますよ」
言いながら、藤原はエンドスコープを指さした。
「いやいや、未勝利と言わずオープン重賞と……」
すると、久保村の威勢の良い声がだんだんとしぼんで
「…………まぁ、その、どっかで一個勝てたら御の字ですわ」
弱気な言葉に変わった。
吉里佐道:元ネタは近年G1で運動会を開いている某企業の創業者。当然ながら諸々のエピソードは作者が捏造した。「善
馬主さん:ホモではない。
ガーサント:実は「Louis Benoît Guersant」という名前の医者に由来するらしい。
「勝負服なんもわからん……まず服がわからん……だいたいたった2000年くらいでこんな複雑な布纏いやがって人間ども……」
↓
「せや! 勝負服くらい読者に考えてもらえばええんや!」
↓
「案募集の活動報告でも出すか」
↓
「活動報告使えんが……」←イマココ