新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~   作:朝陽晴空

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第十一話 生息してた、闇の中で(2022/03/17 13:54)

<ネルフ本部 司令室>

 

 ミサトはゲンドウから新たな戦力について話があると司令室に呼び出された。

 エヴァ3機の他にミサト直属の部隊が増える事もあり、ミサトは三佐への昇進の辞令も降りた。

 

「戦略自衛隊の少年兵達をネルフで引き受けると言うお話ですか?」

「そうだ。特務機関ネルフは使徒せん滅のための組織だが、対人要撃の戦力は不足している。防衛庁との協議の結果、戦力を提供してくれるとの事だ」

「確かに、シンジ君達の身辺警護を引き受けてくれる事は助かりますね」

 

 その代わり、戦略自衛隊の少年兵達を預かる自分の監督責任は重大となる。

 昇進も言い渡されたミサトは自分の気を引き締めた。

 

「戦略自衛隊のロボット兵器トライデント級3機とその専属パイロット少年兵3名は加持三佐の指揮下に入る事になる。作戦会議室で顔合わせをしたまえ」

「はい、承知いたしました」

 

 ゲンドウに言われたミサトはピシッと背筋を伸ばして司令室を出て行った。

 監督指揮する子供の数が2倍に増えるのだ、シンジ達3人だけに目を掛けて居ればよかった今までとは違う。

 

「碇、上手くあの3人をネルフに引き入れることが出来たな」

 

 ミサトが去って行った後、コウゾウはゲンドウにそう声を掛けた。

 

「トライデント級3機は対人要撃や威力偵察に役立つだろうが、それは二次的なものだ。冬月先生、防衛庁との交渉はお任せしましたよ」

 

 自分達の本懐が達成される前に、防衛庁の風向きが変わってトライデント級が呼び戻されてはマズイ事になる。

 トライデント級の少年兵達の懐柔はミサトに任せ、防衛庁の幹部の掌握はコウゾウに任せる。

 ゲンドウはネルフの総司令として毅然とした態度で、双方と馴れ合う姿を見せる訳にはいかないのだ。

 

「ふっ、老人達の相手は任せておけ」

 

 要人との交渉はリツコのMAGIにする事は出来ない自分の領分だ。

 ネルフをライバル視した事から始まった、戦略自衛隊のロボット開発計画を完全にネルフへ引き入れるため、コウゾウは懐柔活動を始めるのだった。

 

 

 

<ネルフ本部 作戦会議室>

 

 司令室を出たミサトはロボット兵器のパイロットである少年兵達と顔合わせをするために、作戦会議室へと向かった。

 作戦会議室では戦略自衛隊の士官達と共に、3人の少年兵達が硬い表情で直立不動でミサトを待ち受けていた。

 3人の少年兵達は警戒するような視線をミサトに向けたが、ミサトは努めてシンジ達に接するように優しい笑顔を返した。

 しかし3人の少年兵達の表情は強張ったままだった。

 この3人の反応を見たミサトは、接し方を変えなければならないと考えた。

 

「特殊兵器小隊所属、霧島マナ軍曹です!」

「特殊兵器小隊所属、ムサシ・リー・ストラスバーグ軍曹です!」

「特殊兵器小隊所属、浅利ケイタ軍曹です!」

 

 戦略自衛隊の士官に促されたマナ、ムサシ、ケイタの3人はミサトに向かって敬礼をした。

 マナは茶色のショートカットの少女。

 ムサシは紫色の前髪を切り揃えたハーフを思わせる茶褐色の少年。

 ケイタはおでこが印象に残るほどの短い黒髪の少年だった。

 

「戦略部長、加持ミサト三佐です」

 

 ミサトも毅然とした表情で、挨拶を返した。

 気軽に名前で呼び掛けるわけにもいかない、彼らはシンジと同い年でも小さな軍人なのだ。

 随行した戦略自衛隊の特殊兵器小隊の士官達も難しい顔をしている。

 上層部からの命令とは言え、これまでの研究成果をネルフに売り渡す形になるのだ。

 

「我々の開発したトライデント級巡洋艦は、補給無しで7日間の連続作戦行動を行う事が出来ます」

「それは素晴らしい、私達の所有する兵器は内部電源が5分と持ちません」

 

 士官達のプライドを損ねないため、ミサトは下手に出る事にした。

 話しながらミサトは頭の片隅で前に似たような話があったなと思った。

 

「残念ながら、A.T.フィールドは持ち合わせていませので、使徒との戦いのお役に立てるかどうか……」

「いいえ、パイロットの身辺警護をして頂けるだけでも十分な助けになります。それにこのロボット兵器も使徒に対する武力偵察もこなせる十分な戦力になると思います」

「そう言って頂けると有難い。それでは、我々の部下をよろしくお願いいたします」

 

 ロボット兵器とパイロットの少年兵達をネルフに派遣した戦略自衛隊の特殊兵器小隊は形骸化し、完全にネルフに接収された場合、解散と言う形になるだろう。

 士官達からは無念の気持ちが痛いほど感じ取れた。

 

「彼らは我々が責任をもってお預かりします」

 

 ミサトは士官達の目を真剣な瞳で見つめてそう誓った。

 戦略自衛隊の士官達は肩を落として作戦会議室を去って行った。

 

「さあ、上官の皆は行ってしまったから、リラックスして良いわよ」

 

 そうミサトはマナ達に声を掛けるが、マナ達は体勢を崩さなかった。

 

「上官として命じる、全体、休め!」

 

 ミサトが命令を下すと、マナ達は椅子に腰を下ろした。

 

「あなた達3名は、現時刻を持ってネルフの所属となりました。ここでは戦略自衛隊のやり方は通用しません。全ては直属の上司である私の命令に従う事。返事は、「はい」で敬礼も禁止します。分かったわね?」

「はい!」

 

 マナ達3人は反射的に敬礼をしそうになる手を押さえながら、大きな声で返事をした。

 しかしマナ達3人は、まだミサトへの警戒を解けなかった。

 表面的に見せるミサトの優しい笑顔を信じてしまうまでには至っていなかった。

 

「単刀直入に尋ねます。あなた達3人は、特殊兵器小隊でどのような扱いを受けていたの?」

「それは……」

「命令です、答えなさい」

 

 言葉に詰まったマナに対して、ミサトは強い口調で詰問した。

 自分達が話した事が、特殊兵器小隊の耳に入ってしまう恐れもあった。

 しかしマナには目の前に居るミサトは、自分達がどんなウソをついて取り繕っても見ぬいてしまうのではないかと思えた。

 

「戦略自衛隊のロボット兵器計画はあまり上手く行っていませんでした。ネルフのエヴァンゲリオンが使徒を倒す度に、特殊兵器小隊には冷ややかな視線が向けられるようになったんです」

 

 現在世界は使徒と言う共通の敵を持ち、国家同士の戦争の大きな抑止力となっていた。

 すると使徒と戦えるエヴァとは相対的に、通常兵器しか持たない軍隊は低く見られるようになる。

 

「早くネルフのエヴァンゲリオンに匹敵するロボット兵器を完成させろと、特殊兵器小隊への突き上げも大きくなって来ました。追い詰められた特殊兵器小隊の上官達も苛立って、私達に八つ当たりで暴力を振るうようになりました」

 

 マナはそう言って上半身の上着を脱ぎ、肩に付けられたアザを見せた。

 外から見えない部分に暴力を加える、最悪なやり方だ。

 

「辛かったでしょう、もうあなた達にそんな思いはさせないからね」

 

 ミサトはそう言うと、マナをしっかりと抱き締めた。

 マナもそうだが、ムサシとケイタも驚いて目を丸くした。

 そしてマナから身体を離したミサトは、素早い動きでムサシを抱き締めた。

 

「上官命令よ、身動きをしないで」

 

 ミサトから逃れようとしていたムサシは、その一言で抵抗を止めた。

 

「母ちゃん……」

 

 最後にミサトに抱き締められたケイタが目に涙を浮かべながらそう呟くと、マナとムサシも複雑な表情を浮かべた。

 

「上官として最初に下すあなた達への任務は、明日、第壱中学校の制服に着替えて学校へと行く事です」

 

 ミサトがマナ達に向かってそう言い放つと、マナ達3人は困惑した顔で顔を見合わせた。

 この3人はいつもそうだ、信じられる味方は自分達しかいないと思っている。

 

「戦略自衛隊の諜報活動の任務だと思ってくれても構わないわ。作り笑いでも良いから、笑顔を絶やさず、周囲に溶け込む努力をしなさい。そして、あなた達の目的はエヴァのパイロット3人の情報を盗み取って来る事です」

 

 ミサトはマナ達にシンジ達と仲良くしろではなく、スパイとして接近し、個人情報を収集してミサトに報告しろと言う命令を下した。

 従ってシンジ達をネルフ本部に呼び出して、マナ達と顔合わせをさせる計画は中止にした。

 

 

 

<ネルフ本部 赤木リツコ研究室>

 

 マナ達と別れたミサトはその足で、リツコの研究室へと向かった。

 パイロットの次は、戦略自衛隊のロボット兵器について知る必要があるためである。

 

「ミサト、聞いたわよ。戦略自衛隊の子達はネルフの兵舎に住まわせるみたいね。あなたなら、直ぐにでも家族だと言って同居するものだと思っていたけど」

「うーん、あの子たち3人は深海魚みたいな感じがするのよ。それにシンジ君達も気心の知れない内にあの子達と同居するのもストレスになると思うしね」

 

 リツコの言葉に、ミサトは難しい表情をしてそう答えた。

 

「深海魚って、暗闇の海の底で生息している魚ですか?」

 

 すっかり赤木研究室の住民となってしまったマヤが話に加わった。

 

「そう、だから光が差す海面に引き上げる時には、ゆっくりと段階を踏む必要があると思うのよ」

 

 先ほどの深海に潜む使徒を減圧で弱らせて殲滅させたミサトは、人の心も同じだと考えた。

 

「凄い、エヴァに関しては赤木先輩が一番ですけど、パイロットに関してはミサトさんが一番ですね!」

 

 マヤが目を輝かせてそう言うと、ミサトとリツコはやれやれと言った感じで顔を見合わせた。

 

「それで、これが戦略自衛隊のロボット兵器……トライデント級巡洋艦とは聞いていたけど、これじゃまるでカエルみたいね」

 

 機体データを参照したミサトは、操縦席の位置が気になった。

 

「ねえリツコ、操縦席が機首近くにあるみたいだけど、これじゃあパイロットが体感する振動は相当のものじゃないかしら」

「ミサトの言う通り、乗り心地は最悪ね」

「長く乗って居たら、内臓を悪くしてしまうんじゃないでしょうか」

 

 ミサトの意見に、リツコとマヤも同意した。

 

「パイロットのメディカルチェックと、操縦席の改良が緊急課題ね」

「預かっている勝手に機体を改造してしまっていいのかしら?」

「もうあの子達を戦略自衛隊に返すつもりはないから」

 

 ミサトはリツコに対して真剣な表情でそう断言した。

 戦略自衛隊のロボット兵器の改良は、ジェット・アローン事件でネルフに参入した時田シロウ博士をリーダーとするチームで行われる事となった。

 

「やあ、大忙しのようだな」

「そうなのよ、だからエネルギーを充填させて」

 

 研究室に姿を現したリョウジに、ミサトは飛び付いて熱烈なキスをした。

 リツコはあきれた顔でため息をつき、マヤは慌てて両手で顔を隠しながらも指の間からしっかりと見ていた。

 

「お熱いのは結構だが、そろそろ俺達の用件をさせてもらえないか、リョウジ?」

「おっと、すまない」

 

 スキンヘッドの男性にそう言われたリョウジはミサトから口を離して振り返った。

 

「どうしたの、こんなに大人数で押し掛けて?」

「ああ、こいつらはネルフ技術部の新人達だ。伊吹整備長の元に就く事になったから、着任の挨拶をしに来たんだ」

 

 ミサトの質問にリョウジはそう答えた。

 

「へえ、マヤちゃんが整備長だなんて、随分と出世したじゃない」

「そんな、赤木先輩に比べればまだまだです」

 

 ミサトに言われて、マヤは照れくさそうに謙遜した。

 戦略自衛隊のロボット兵器3機がネルフに参入した事で、ゲンドウはネルフ技術部の増員を命じたのだった。

 

「俺は、高雄コウジと申します。よろしくお願いいたします、伊吹整備長!」

 

 スキンヘッドの男性、コウジはそう言って頭を下げた。

 

「ふ、不束者ですが、こちらこそ!」

 

 自分より年上の男性に頭を下げられて、マヤは軽いパニックになった。

 

「長良スミレです、よろしくお願いいたします」

 

 後ろに居た長い黒髪の褐色肌の女性も頭を下げた。

 

「多摩ヒデキです、よろしくお願いいたします」

 

 隣に居るぼさぼさ頭の男性も少し不愛想な顔で頭を下げた。

 

「北上ミドリです、よろしくです」

 

 さらに隣に居るピンク髪の女性はヒデキに輪を掛けて気だるそうに頭を浅く下げた。

 個性的な部下達で、マヤちゃんも大変そうね、とミサトは思った。

 

「私は赤木先輩と一緒に居られる時間が少なくなるのが一番辛いんです」

「あー分かっているわよ、マヤちゃんの気持ち」

 

 リョウジ達が去った後、目を潤ませて話すマヤに、ミサトは棒読みのようなトーンで答えるのだった。

 

 

 

<第三新東京市 第壱中学校>

 

 次の日、ミサトは自分が担任教師をする2-Aの教壇に立ち、黒板に綺麗な字でマナ達の名前を書くと、教室に居る生徒達に元気な声で呼び掛けた。

 

「みんな、今日は転校生が来たわ、それも3人!」

 

 マナ達は任務だと割り切って、精一杯の笑顔を作ってクラスメイト達にあいさつをする。

 

「霧島マナです、宜しくお願います!」

「俺はムサシ・リー・ストラスバーグ、ムサシでお願いします」

「僕は浅利ケイタだよ、よろしく」

 

 マナ達3人が自己紹介をするとクラスからは歓声が上がった。

 しかし使徒との交戦が始まり、第三新東京市から離れる生徒もいる状況での転入生。

 何か理由があるのではとクラスメイトたちは不思議に思っていた。

 

「ミサト先生、3人はエヴァのパイロットですか?」

 

 ケンスケが手を上げて質問すると、クラス内ではエヴァが6機もあるのかとざわついた。

 

「違うわ、この子たちはネルフに居るけど、別のロボットのパイロットなの」

 

 戦略自衛隊のロボット兵器開発計画は秘密裏に行われていた事もあって、ケンスケもその情報を掴んでいないようだった。

 ミサトは近いうちにネルフの戦力としてマナ達の乗るロボット兵器も使うつもりでいたので、存在を隠す事はしなかった。

 転入生のマナ達は、休み時間になると以前のシンジ達と同じようにクラスメイトたちに取り囲まれて質問攻めにあっていた。

 ミサトはマナ達に特に機密情報となるものは無いので、自分達が答えられる範囲なら話しても構わないと言い聞かせていた。

 

「どうせ通常兵器ではA.T.フィールドを破れないんでしょう? 足手まといも良い所だわ」

「でも僕たちと一緒に戦ってくれるんだから、ミサトさんから言われた通りに仲良くしなくちゃ」

 

 後でネルフ本部で顔を合わせる事になると知っていたシンジとアスカは他のクラスメイトと違って離れてマナ達とクラスメイト達が話す様子を自分達の席で眺めていた。

 レイもマイペースに自分の席で本を読んでいる。

 

「やっぱり鈴原は明るい女の子が好きなのかな……」

 

 トウジがケンスケと一緒にマナの方を見て話しているのを見て、ヒカリは胸がざわついた。

 2人はアスカが転入してきた時と同じく、写真を撮ればいくらで売れるのか話しているだけなのだが、ヒカリは勘違いをしていた。

 クラスメイトの質問攻めが落ち着いた放課後になって、マナはシンジの席へとやってきた。

 

「霧島マナ軍曹は、本日碇シンジ君のためにこの第壱中学校の制服を着て参上いたしました! どう、似合ってる?」

 

 マナはそう言ってシンジの前で身体をくるっと1回転させた。

 

「えっと、どうって言われても……」

 

 マナに声を掛けられたシンジは戸惑いながら答えた。

 そこにムスッとした顔のレイとアスカが割って入る。

 

「学校に制服を着て来るのは当たり前の事だわ」

「アンタ、シンジに馴れ馴れしいのよ!」

 

 アスカはそう言ってマナに人差し指を突き付けた。

 

「あなたたちはシンジ君の保護者か何なの?」

 

 するとマナも負けじと頬を膨れさせてアスカに言い返した。

 

「アタシはシンジと同じエヴァのパイロット、同僚よ」

「私もそうよ」

 

 アスカとレイは胸を張ってマナに答えた。

 

「じゃあ、わたしも同じネルフで戦うパイロットなんだからシンジ君と仲良くしても良いじゃない」

 

 マナはそう言うと、笑顔でシンジの手を握った。

 慌ててアスカがそのマナの手を弾き飛ばした。

 

「アンタたちはどうせ戦略自衛隊のスパイで、ネルフの機密情報を盗みに来たんでしょう。それならアタシたちの敵よ!」

「酷い! ミサト先生が言ってたの? 証拠はあるの?」

 

 マナは怒った顔でアスカに向かって抗議した。

 

「お前の負けや惣流、霧島に謝れ」

 

 真剣な表情をしたトウジに言われてしまっては、アスカもこれ以上マナを攻め立てることは出来なかった。

 

「悪かったわね!」

 

 転校初日から、アスカとレイはマナをシンジに積極的に近づく警戒すべき存在だと認識した。

 ヒカリはトウジがマナを庇った事で、やっぱりトウジはマナが好きになってしまったのかと思いをこじらせてしまっていた。

 

「おいマナ、会うなりなんでアイツに色目を使うんだよ」

 

 ムサシに呼び止められたマナはウンザリをした顔で言い返す。

 

「もしかして、ヤキモチを焼いているの? 加持三佐の任務じゃない、エヴァのパイロットの情報を盗み出せって。あの碇君って子がガードが甘そうだから、落しに掛かっているの。なんなら、ムサシが他の2人の子から情報を聞き出してみる?」

「いや……俺にあの2人の攻略は無理そうだ……」

 

 ムサシは強気なアスカと凛としたレイの姿にすっかり腰が引けてしまった。

 ケイタはいつも2人に迷惑を掛けてごめんと人懐っこい笑顔で謝るしか出来なかった。

 

「じゃあ、わたしは碇君を追いかけるから」

 

 そう言って教室から駆け出して行くマナをムサシは悔しそうに見送るしか出来なかった。

 

 

 

<第三新東京市 モノレール車内>

 

 ネルフ本部の入口の最寄りの駅に通じるモノレールの車内。

 長椅子にアスカとレイはシンジを真ん中に挟む形で並んで座っていた。

 

「あの霧島って子はいやらしいわね、会った早々に色目なんか使っちゃってさ」

「そんな子じゃないと思うよ」

「どうしてシンジがそんなこと判るのよ!」

 

 シンジはマナが自分に惚れているわけでないと判っていた。

 それはアスカとレイが自分を見つめる熱っぽい瞳と違い、マナの目は獲物を狙う鋭い眼光を放っていたからだ。

 シンジ達が話していると、別の車両からマナがやって来てシンジたちの前に姿を現し、シンジの席の目の前の吊り革を掴んだ。

 

「えへへ、ついて来ちゃった」

「アンタもしつこいわね、他の2人のお友達と一緒にネルフに行けばいいじゃない」

 

 アスカは怒り心頭に発したと言った表情でマナをにらみつけた。

 

「シンジ君、わたしはムサシやケイタと付き合っているわけじゃないの。わたし、シンジ君の事が好きになっちゃったから、シンジ君の事なら何でも知りたいの。だからシンジ君の事を教えて、ねっ?」

 

 マナはそう言ってシンジに顔を近づけた。

 そこへまたしてもアスカとレイが割って入る。

 

「アンタってば、シンジに馴れ馴れしいって言ってるでしょう!」

「碇君には近づけさせない」

「シンジ君は、惣流さんと綾波さんのどちらかと付き合っているの?」

 

 マナに尋ねられたアスカとレイは、シンジを巡って協定を結んでいるとあからさまに言う事出来ず、言葉に詰まった。

 

「それなら、わたしとシンジ君が付き合っても文句は言えないはずよ」

「シンジ、アンタがしっかりと断らないからこうなるのよ」

「碇君、ハッキリと言って」

 

 アスカとレイの怒りの矛先がシンジへと向かった。

 

「霧島さん、僕達はまだ知り合って間もないんだから、付き合う訳にはいかないよ」

「だから、これから深い関係になりましょうってお話ししているの」

 

 シンジが勇気を振り絞って発した言葉も、マナには通じなかった。

 

「もっと強く断りなさいよ! お前なんか嫌いだ、アカンベェ! くらいに!」

「それは流石にひどすぎると思うよ」

 

 シンジはアスカの言葉に苦言を呈するのだった。

 

 

 

<ネルフ本部 正面ゲート>

 

 モノレールから降りたシンジ達は、マナと一緒に徒歩でネルフの正面ゲートへとやって来た。

 するとマナが大げさに声を上げる。

 

「あっ、わたしネルフのIDカードを部屋に忘れちゃった」

「霧島さん、これから先はIDカードが無いと通れないんだよ」

「ほら、とっととIDカードを取りに帰りなさい!」

 

 アスカはシッシッとうざったいものを追い払うかのように手を振った。

 しかしマナは何か企んでいるような笑みを浮かべる。

 

「こうすれば、シンジ君のIDカードでわたしも一緒に入れるんじゃない?」

 

 シンジの首に両腕を絡ませて、シンジの背中にピッタリとマナが抱き付いた。

 

「アンタ、何やってるのよーーーっ!」 

 

 アスカとレイは慌ててシンジに駆け寄り、シンジの前に回したマナの腕を振り払い、シンジの背中からマナを引き剥がした。

 自分達はシンジと手を繋いで歩きたいと思っているのを我慢しているのに、シンジの背中に〇っぱいを押し付けて抱き付くとは、非常にうらやまけしからん女だとアスカとレイは憤慨した。

 

「こんな女、置いて行きましょ!」

 

 アスカの言葉にレイも怒った顔で頷いた。

 しかし、アスカがIDカードをネルフのゲートのカードリーダーに通しても、ゲートは開かなかった。

 

「何で反応しないのよ!」

 

 ムキになったアスカは何度もIDカードを振り回していた。

 

「おかしいわ、電気が通っていない」

「ネルフが停電なんて、そんなことあるの?」

 

 レイがそう呟くと、シンジが不安そうな表情でそう尋ねた。

 

「主電源が落ちても、直ぐに予備電源に切り替わるはず」

「あり得ないことが起きてるって事だね」

 

 レイの言葉に深刻さを感じ取ったマナは、真剣な表情でそう呟いた。

 

「とりあえず、ネルフの緊急対策マニュアルに沿って行動しましょう」

「レイが仕切らないで、リーダーはアタシよ!」

 

 アスカはそう叫んで主張するが、レイは全く無視した。

 結局ネルフの全ての通路を熟知しているレイに先導されて、シンジたちは迷路のような道を進んで行く形となった。

 

「どうして、アンタまでついて来るのよ!」

 

 シンジの後をついてくるマナに、アスカは怒号を浴びせた。

 

「霧島さんを独りぼっちでここに置いてはおけないよ」

「仕方ないわね、暗闇に紛れてシンジを襲ったりしたらぶっ飛ばすからね!」

 

 シンジの言葉にアスカは渋々マナが同行する事を承知するのだった。

 

 

<第三新東京市 コインランドリー内>

 

 第三新東京市のとあるコインランドリーでは、ネルフのオペレータのマコト、マヤ、シゲルの3人が顔をそろえて洗濯をしていた。

 

「やれやれ、今週もやっと家に帰れるよ」

「15年振りに使徒がやって来てから私達、週休1日ですものね」

「オレも使徒が来るまでは、ネルフがこんなに忙しいブラック企業だとは思わなかったよ」

 

 3人は洗濯機が洗濯を終えるまでの間、コーヒーを飲みながら待つ事にした。

 

「青葉はネルフに入る前はバンドを組んでいたんだっけ?」

 

 マコトに尋ねられたシゲルは大きくため息を吐き出しながら答える。

 

「ああ、『星色アテンションムーン』って曲でメジャーデビューしたけど、結局その次の曲はサッパリ売れなくてさ。バンドは解散したし、こう忙しい今じゃ作詞する時間も無いよ」

「えっ、『星色アテンションムーン』は青葉さんの曲だったんですか!? 私、あの曲大好きです!」

「ありがとう、マヤちゃん」

 

 感激してテンションを上げるマヤに、シゲルは穏やかな笑顔を浮かべてお礼を言った。

 

「でもこれからは俺達もまた週休2日に戻れるかもしれないぞ、新しいオペレータが3人もネルフに入ったんだし」

「休みが増えれば、青葉さんも作詞する時間が持てますよ」

 

 マコトとマヤはそう言ってシゲルを励ました。

 

「サツキ、アオイ、カエデちゃんだっけ?」

「でもどうして女の人ばかり……それも、赤木先輩の直属の部下になるなんて」

「おいおい、そこは男が居なくて安心する所じゃないのか、マヤちゃん?」

 

 不満顔になるマヤにシゲルは少し困った顔で声を掛けた。

 話をしている間に3人の洗濯が終わったようだ。

 洗濯物を取り出して乾燥機に掛ける作業を黙々とこなした3人は、コーヒーのお代わりをして再びティータイムを始める。

 

「でもこれから大変なのは整備長になったマヤちゃんだよ」

「そうなんです、リョウジさんと同じ歳ぐらいの男の人が私の部下になっちゃうなんて、困ります」

 

 シゲルの言葉を受けて、マヤは深いため息を吐き出した。

 

「そのうちマヤちゃんも、顎で部下を使いこなせるようになるかもしれないよ」

「酷い、私はそんなキツイ性格じゃありません」

 

 マコトがそう言うと、マヤはむくれたように頬を膨れさせた。

 もちろんシゲルとマコトも、マヤには今のような穏やかな性格でいて欲しいと思っている。

 

「戦略自衛隊のロボット兵器の改良の方は、時田博士が担当するみたいだけど、どんな感じだい?」

「うーん、熱意は伝わって来るんですけど、発想力は赤木先輩と違って凡人ですね」

 

 マヤちゃんも意外とバッサリと斬るなあと、尋ねたシゲルは思った。

 

「それならマヤちゃんがとんでもない発想で活躍してみたらどうかな?」

「そんな……私にそんな才能は無いですよ」

 

 そうは言っても、マヤちゃんは将来トンデモ兵器を作るとか、何かしでかしそうだなとマコトは思った。

 話をしている間に、洗濯物の乾燥が終わったようだ。

 オペレータの3人は洗濯物を抱えてコインランドリーから出ると、自然界ではありえないような巨大な蜘蛛のような生物が第三新東京市を闊歩している事に気が付いた。

 市民たちの逃げまどう悲鳴が上がっている。

 

「あれは……使徒だよな?」

 

 分かりきった事だがマコトが確認するように呟いた。

 

「どうしてネルフから連絡が来ないんですか!? 緊急避難警報は!?」

 

 電話を掛けてもネルフと連絡が取れないマヤはパニックになった。

 そんなマヤを落ち着かせるようにシゲルが両肩を掴んだ。

 

「マヤちゃん、落ち着いて。使徒が出た以上、俺達がするべき事があるだろう」

「そうだ、どうにかして緊急避難警報だけでも出して、市民を避難させるんだ」

「はい!」

 

 マコトの言葉に返事をしたマヤの顔は、ネルフのオペレータになっていた。

 3人は辺りを見回して広範囲に使徒襲来を報せる手段を探した。

 使徒が間近に現れたので、近くに居た市民は車も放置して逃げ出していた。

 古新聞と古雑誌が積まれた軽トラック、音楽が流れ続ける移動パン屋のワゴン車、拡声器が屋根に着いた選挙カーにそれぞれ3人は乗り込んだ。

 使徒はきっとエヴァで倒してくれると信じ、自分達は市民に緊急避難警報を伝えるのが使命だと街中を走り回るのだった。

 

 

<ネルフ本部 非常用通路内>

 

 ネルフ本部全体が停電している中、レイを先頭に非常用照明を頼りに進むシンジたちの耳にも選挙カーで叫ぶマヤの声が届いていた。

 

「第三新東京市に緊急避難警報が発令されました、市民の皆様はシェルターに避難して下さい! 第三新東京市に……」

「使徒が来たのね」

 

 レイが重い声でそう呟いた。

 

「どうしよう?」

「とりあえずこのまま発令所を目指しましょう、そして加持三佐の命令を仰ぐ」

 

 シンジが不安そうな声で尋ねると、レイは冷静な声でそう答えた。

 

「レイが仕切って癪に障るけど、それしかないわね」

 

 アスカも不満を漏らしながらもレイに従って歩き出した。

 

「でも電気が無いとエヴァは動かないし、エントリープラグが動かないからエヴァにも乗れないよ」

「わたしたちのロボットなら、7日間電気が無くても動かせるよ」

 

 シンジが再び不安を口にすると、マナがそう答えた。

 

「アンタバカァ? 使徒にはA.T.フィールドがあって通常兵器は通用しないの!」

「言い争いをしている場合じゃないわ」

 

 レイが少しあきれた口調でアスカの発言を押さえた。

 

「それで、今度はこの中に入れって言うの!?」

「ここが発令所への近道」

 

 先導するレイが進むように指示したのは、地上の空気を取り込むためのダクトだった。

 この中では四つん這いになって進まなければならない。

 

「ジェット・アローンで発電した電力はMAGIとセントラルドグマの維持へ回せ!」

 

 コウゾウの指示がシンジ達の耳に届いた。

 今、自分達の居るダクトの足元が発令所のようだった。

 

「重さが私1人では足りない、みんな、私の所に集まって」

「どういう意味よ?」

 

 アスカ達は這うように進みながら、レイの居る場所へと向かった。

 思い切り身を寄せたシンジは、アスカのお尻に顔を埋める事になった。

 マナがシンジの所に近づいたタイミングで、ダクトの底が重さに耐えられずに抜けた。

 レイはそれを狙っていたようで足から華麗に着地したが、シンジはアスカのお尻に顔を埋めたまま、うつ伏せに着地する事になった。

 

「あなたたち!」

 

ダクトから降ってきたシンジたちにリツコは驚きの声を上げる。

 

「あの、リツコさん、使徒が来たみたいですけど、エヴァは出撃出来るんですか?」

「もちろん、あなたたちが来てくれる事を信じて出撃準備をしているわよ、碇司令も協力してね」

「父さんも?」

 

 リツコの言葉に、シンジが驚きの声を上げた。

 

「だからシンジ君は急いで初号機ケージへと向かいなさい」

「はい」

 

 シンジはネルフのスタッフに先導されて、初号機ケージへの非常用通路へと向かった。

 何しろ停電によりネルフの扉は全てロックされている。

 

「アタシの弐号機は?」

「残念だけど、初号機を動かすだけで手一杯なのよ」

 

 アスカが尋ねると、リツコは残念そうにそう答えた。

 

「わたしの紫電も出撃させてください! トライデント級は7日間無補給で戦闘できるように設計されています!」

 

 マナがそう叫ぶと、アスカは怒った顔で叫ぶ。

 

「アンタバカぁ!? 通常兵器しか持たないロボットなんて、初号機の足を引っ張るだけじゃないの!」

「あなたたちはミサトの指揮下にあるから、私の一存で勝手な事は出来ないのよ」

 

 リツコは困った顔でマナにそう告げた。

 

「でも、せっかく戦える力があるのに黙って見ているだけなんて嫌です! 加持三佐もそう言うはずです! シンジ君のためなら使徒の攻撃を引き付けるおとりでも何でもしますから!」

「そうね、ミサトならそう言うかもしれないわね」

 

 マナが強く訴えかけると、リツコは考え込むような表情になった。

 使徒の力は未知数である。

 今まで初号機単独で使徒を撃退した事はあったが、今回も上手く行くとは限らない。

 ミサトの様に作戦を立てるのは得意ではないリツコだったが、マナを加勢に行かせた方が良いと判断した。

 

「分かりました、紫電の出撃を許可します。初号機と連携して使徒を殲滅させなさい」

「了解です!」

 

 マナは大きな声でそう答えると、喜び勇んでシンジの後を追いかけた。

 

「ところで、ミサトとリョウジさんはどうしたのよ。肝心な時に居ないなんて」

「この停電でエレベータにでも閉じ込められて居るのかもしれないわね」

 

 アスカの質問に、リツコはそう答えた。

 

「それならアタシとレイは、加持三佐の捜索へと行ってきます!」

「ちょっと、発令所に居ないと危険よ!」

 

 レイの手を引いたアスカは、リツコの制止を振り切って発令所を出て行ってしまった。

 

「アスカ、さっきの事だけど」

 

 通路に出ると、レイはアスカに冷たい声で告げた。

 

「何の事よ?」

「碇君がアスカのお尻に顔をずっと密着させていた事」

「ああ、アレは……不可抗力よ」

 

 アスカは顔を赤くしながらそう答えた。

 

「それなら、私も不可抗力で〇っぱいを碇君の顔に押し付ける」

「ちょっと、それは不可抗力とは言えないわよ、レイ!」

 

 静かだったネルフの通路に、アスカとレイの賑やかな声が響き渡るのだった。

 

 

 

<ネルフ本部 初号機ケージ>

 

 初号機ケージにたどり着いたシンジが目にしたのは、ネルフのスタッフに混じって初号機のエントリープラグを引き上げるロープを引いている汗だくになっているゲンドウの姿だった。

 普段は発令所の司令席に座って「問題無い」としか言っていないゲンドウが、初号機のために汗水垂らしている姿を見て、シンジは胸が熱くなった。

 

「父さん!」

「シンジか。初号機の内部電源も充電をしておいた」

 

 ゲンドウが指差した先には、多くの台数のペダル式の人力発電機が置かれていた。

 近くには体力を使い果たしたネルフのスタッフ達が倒れている。

 

「技術部なのに原始的な肉体労働なんて、チョベリバ! こんなのでエヴァが充電出来るなんて、絶対に変!」

 

 ピンク色の髪を汗でびっしょりと濡らしていたミドリはそう喚いていた。

 

「父さんもネルフの皆さんも、ありがとうございます!」

 

 自分のためにここまでしてくれると感激したシンジは大きな声でお礼を言った。

 

「別にお前さんのためにやったんじゃないんだからな!」

「ハゲ男のツンデレなんて、キモイだけっしょ」

 

 コウジがシンジに気を使わせないようにそう言うと、ミドリはそうツッコミを入れた。

 

「人の手でもエヴァを動かす事は出来る。内部電源の稼働時間内で使徒を倒せ」

「分かったよ、父さん」

 

 シンジはゲンドウに向かってしっかりと頷いた。

 

「それで父さん、カタパルトが無いけど、どうやって使徒の居る所へ行けばいいの?」

「使徒は溶解液を使って地面とネルフの特殊装甲を溶かして大穴を開け、ネルフの地下へと侵入を試みているようだ。その縦穴をよじ登って使徒を倒せ」

「父さん、僕はロッククライミングなんてした事が無いんだけど」

 

 シンジはゲンドウの立てた作戦に不安を訴えた。

 

「シンジ、やるなら早くしろ! でなければ、レイを呼んで来い!」

「はい!」

 

 ゲンドウに言われたシンジは急いでエントリープラグに乗り込んだ。

 手荒な方法だが、ここでグダグダと議論をしている時間は無い。

 

「エヴァンゲリオン初号機、出撃!」

 

 ゲンドウは拡声器で号令を出したが、大きなハウリング音が響き渡り、ネルフのスタッフ達は耳を押さえたのだった。

 

 

 

<ネルフ本部 通路内>

 

 初号機は使徒の居る場所を目指して携帯電話のアプリに登録されている地点へと向かうが、ほとんど真っ暗なネルフ本部。

 エヴァが通れる大きな通路は限られているので、初号機は何度も壁に阻まれたり、天井から突き出た梁に頭をぶつけたりして苦戦していた。

 

「シンジ君!」

「霧島さん?」

 

 そんな初号機の元に駆け付けたのが、マナの乗っているロボット兵器の紫電だった。

 

「わたしの乗っている紫電の方が小回りが利く。わたしが先行して偵察するから、シンジ君はわたしの案内に従って!」

「ありがとう、霧島さん!」

 

 マナが先導してくれなかったら、初号機は目的の場所にたどり着けなかっただろう。

 彼女はその点においては世界を救う功績を上げたと言える。

 蜘蛛のような形をした使徒マトリエルは、ネルフ本部直上で足を止めると、平べったい胴体から溶解液を垂らして第三新東京市の地面に穴を開け、地下のネルフ施設への侵入をしようとしていた。

 どうして無限に溶解液が湧き出て来るのか、もっと素早く攻撃できる手段を使わないのか、疑問は尽きないが、シンジ達の仕事は使徒の思考を分析する事ではない、倒す事だ。

 初号機とマナの乗る紫電は連れ立ってネルフ内の通路を進み、使徒が溶解液で開けた大きな縦穴の近くへとたどり着いた。

 初号機と紫電は縦穴の側面にある横穴から使徒の様子を窺う。

 ゲンドウの話の通り、使徒は胴体である腹から溶解液を垂らしている。

 使徒の胴体にはたくさんの人の目のようなものがあり、目玉が赤い球体になっている。

 たくさんある赤い球体の内、どれが使徒のコアなのだろう、もしかして全部の目玉を潰さないといけないのかな、こちら側から見えない反対側に使徒のコアがあったら倒せないかもしれない、とシンジは思った。

 

「霧島さん、あのドロドロとしたものに触れたら機体が溶かされる。この横穴から顔を出さないで」

「シンジ君は大丈夫なの?」

「初号機のA.T.フィールドで使徒の攻撃は防げると思う」

 

 横穴から壁をよじ登り、使徒のA.T.フィールドを中和し、プログレッシブナイフでギョロギョロと動く目玉を突き刺さないといけないのかと思うと、シンジは骨が折れる事だとため息を吐き出した。

 

「わたし、この穴から威嚇射撃をしてみようか? 使徒がわたし達に気が付いて攻撃して来たら、初号機でわたしの事守ってくれる?」

「うん、分かったよ」

 

 シンジは使徒が2つ以上の攻撃方法を持っているかもしれない危険性を、マナに指摘されて初めて気が付いた。

 溶解液以外の攻撃方法で、壁をよじ登っている間に不意打ちを受けたら、初号機は使徒が開けた深い縦穴の底まで落ちてしまう危険性がある。

 マナの乗っている紫電の武器は機首部分の100ミリ機関砲と肩の部分に装着された中距離ミサイル。

 狭い横穴の中でミサイルは使えない、紫電は機首部分の機関砲を使徒の胴体の中心にある一番大きな目玉を狙って放った。

 不意打ちされた使徒は機関砲の1撃によって体の中心にある目玉を貫かれると、足を折り曲げて自らが開けた穴の中に落ちて行った。

 そして穴の底の方から爆発音のようなものが響き渡った。

 

「えっ!?」

 

 100ミリ機関砲で貫けるほどの弱いA.T.フィールド、解り易い使徒のコア。

 シンジは自分が考えた作戦がバカバカしくなってどっと疲れた気分になってため息を吐き出した。

 

「凄ーい! わたし、1発で使徒を倒しちゃったみたい。シンジ君、褒めてくれる?」

「うん、凄いね霧島さん」

 

 シンジは乾いた声でマナの事を褒めるのだった。

 エヴァの内部電源が切れそうになったシンジは、あっけない幕切れに呆然としながら初号機のエントリープラグから降りた。

 紫電から降りたマナもシンジの側へ駆け寄った。

 

「暗闇の中で2人きりだね、シンジ君」

「すぐにみんなが駆け付けて来るよ」

「じゃあ、今がチャンス!」

 

 マナはそう言って身を乗り出すと、シンジへと顔を近づける。

 このままではマナとシンジはキスをする事になってしまう。

 

「止めてよ!」

 

 シンジはそう言ってマナの顔を手で力強く払い退けた。

 

「そんな事されると、私としては凄いショックなんだけどな。私って可愛くない?」

「違うよ。だけど好きでもない相手と無理してキスするなんて、霧島さんが傷付くじゃないか」

 

 シンジがそう言うと、マナは驚いた顔になった。

 

「なんだ、シンジ君には見抜かれていたんだ」

「どうして、僕と無理に距離を詰めようとしたの?」

 

 力無い笑顔を浮かべるマナに、シンジはそう尋ねた。

 

「ミサトさんに命令されたの。エヴァのパイロットの個人情報を聞き出して来いって」

「そっか、ミサトさんにしては直ぐに霧島さん達と同居だって言い出さないし、おかしいと思ったよ」

「ミサトさんの事を悪く思わないで。ミサトさんは、戦略自衛隊に居た私達3人が命令でしか動けない人間だと知っていて、気を遣ってくれたんだと思う。私達は暗闇の世界で生きていたから」

 

 マナの話を聞いて、シンジは会ったばかりのレイの事を思い出した。

 誰かの命令でしか行動が出来なかったレイ。

 さらについ最近、深海魚はゆっくりと海面へと引き上げなければ減圧によって弱ってしまうと知った。

 シンジはアスカとレイに、マナ達3人はまだ深海魚なのだから、そう考えて接してあげなくてはいけないと話そうと思った。

 

「だけど、女の子のキスを頑なに拒否するなんて、もうシンジ君の心の中には決めた人がいるの? 惣流さん? それとも綾波さん?」

「分からないよ。でもこういう事は結論を急いだらみんなを傷付けてしまって後悔する気がするんだ。決められない僕を霧島さんは軽蔑する?」

「ううん、シンジ君って恋に真剣なんだなと思った。わたし、本気でシンジ君の事が好きになっちゃった」

 

 そう言って身体を近づけて来たマナに、シンジは後ずさりをした。

 

「あ~っ! アンタってばシンジに何をしようとしていたのよ、油断も隙もあったもんじゃない」

 

 ネルフ本部の中を捜索していたアスカとレイがシンジとマナの所へとやって来た。

 

「惣流さん、綾波さん、心配しないで。シンジ君は2人に返すから。シンジ君、楽しい思い出をありがとう。……さよなら」

 

 マナはそう言って駆け出すと、紫電に乗り込んだ。

 

「霧島さん、さよならってどういう意味だよ!」

 

 シンジが紫電に向かって大声で叫んだ。

 

「霧島マナ軍曹、あなた達の脱走作戦は失敗です。実行犯であるムサシ軍曹とケイタ軍曹、協力者である特殊兵器小隊の士官達は全員が既にネルフに拘束されています。大人しく投降しなさい」

 

 突然姿を現したミサトが拡声器で呼び掛けると、紫電は動きを止めて降伏した。

 

 

 

<特務機関ネルフ 司令室>

 

 ネルフの停電が回復した後、今回の事件の主だったメンバーは司令室へと集められていた。

 本部が停電した原因は、ムサシとケイタの乗る2機のロボット、雷電と震電がネルフの発電施設を破壊した事だった。

 今回のロボット兵器のネルフへの派遣の件に不満を持った戦略自衛隊の特殊兵器小隊の一部の仕官達が、2人に脱走計画を甘い言葉で持ち掛けたのだった。

 ミサトは格納庫から雷電と震電が姿を消している事に気が付き、この計画を察知した。

 直ぐにゲンドウへと報告したが、阻止する時間も無く停電が起きた。

 コウゾウは直ぐにシロウ博士を呼び出してMAGI等への電力確保を指示、ミサトとリョウジは暗闇を逆に利用して、雷電と震電を落とし穴へと嵌めた。

 戦略自衛隊の特殊兵器小隊の士官と協力者になったネルフ職員は諜報部員に全員逮捕された。

 

「さて碇、この度の事件、お前はどのように裁定するんだ?」

 

 コウゾウの一言で、大岡裁きならぬ『ゲンドウ裁き』が始められる事になった。

 ゲンドウの目の前、中心に居るマナ、ムサシ、ケイタの3人は覚悟をして息を吞む。

 

 「雷電と震電がネルフの発電施設を破壊した事は重大な罪ではあるが、紫電が初号機の使徒殲滅を手助けした功績の方が遥かに上回る。よって2人の罪は不問として、これからもネルフのエヴァと連携して戦う事を命じる」

 

 無茶苦茶なゲンドウの理論だったが、マナ達3人は抱き合ってお互いの無事を喜び合った。

 引き続きネルフに在籍すると言う事は、戦略自衛隊からも守ってくれると言う事だ。

 ネルフのトップであるゲンドウがそう約束してくれた安心感はとても大きい。

 もう3人がネルフを脱走する心配も無くなった。

 

「良かったね、霧島さん」

「うん、ありがとうシンジ君!」

 

 そう言ってシンジに飛び付いたマナを、アスカとレイが引き離した。

 大人達は6人の子供達の件はこれにて一件落着とホッとしたが、まだ片付けなければならない問題が残っている。

 

「今回の事件の首謀者となった、戦自の士官とネルフ職員の処遇についてだが、ネルフ技術部への転職及び、元の役職への復職を命じる。再びネルフへの利敵行為を行えば、2度目の恩赦は無いと思え」

 

 ゲンドウの言葉に、仕官達と職員は身体を震わせた。

 特殊兵器小隊の士官達が事件を起こした動機の中には、研究成果を奪われ、閑職に追い込まれたと言う恨みもあった。

 それならば、ネルフ技術部で活躍の場を与えるまでだ。

 ロボット兵器の事を知り尽くしている技術者がいれば、シロウ博士のチームによる改造もし易くなる。

 

「ですが司令、一度ネルフに敵対した彼らを味方に引き入れる事は獅子身中の虫となりませんか?」

 

 マコトがそう言うと、司令室の空気の温度が下がったように感じられた。

 当事者の居る前で、余計な事を言いおって、口にチャックをしていろ、と思いながらもコウゾウはその質問に答える。

 

「碇司令は戦略自衛隊との関係を悪化させたくないと考えている。今回の事件の犯人は、確かに戦略自衛隊に所属していた者達によるものだ。だからと言って、戦略自衛隊を責める様な事はしたくないのだよ」

「はっ、碇司令の深慮遠謀に私は感心致しました」

 

 コウゾウの言葉にマコトはそう答えた。

 これ以上大人数が司令室で話し合っても口を挟まれて面倒な事になると考えたコウゾウは、影の参謀であるリョウジを残して、他の全員は司令室から退出するように命じた。

 

「それで碇司令、委員会には今回の事件はどう報告するお積りですか?」

 

 司令室に3人だけとなった後、リョウジに尋ねられたゲンドウとコウゾウは眉間にしわを寄せて難しい表情となった。

 ありのままを報告するわけにはいかない。

 

「……初号機が暴走してしまった事にするか?」

 

 ゲンドウが安直な解決方法を口にすると、ゲンドウのデスクの電話が鳴り、リツコからケージの初号機が怒ったような声を上げていると連絡が入った。

 

「ユイは勘が鋭いな、エスパーか」

 

 ゲンドウは滝のような汗を流して心の中で何度もユイに謝って、「もうしません」と誓った。

 

「それでは使徒に大暴れしてもらうしかありませんね」

「そうか、停電だったから証拠はほとんど残っていない。素晴らしい考えだぞ、加持君」

 

 リョウジがそう提案すると、コウゾウは明るい顔でそう言った。

 

「うむ、使徒マトリエルは我々の予想以上に強かった。我々の大活躍で被害を抑えることが出来た、そのシナリオで行こう」

 

 ゲンドウもその提案に賛成し、使徒マトリエルを主役とした二次創作活動が行われる事になった。

 

「大浴場のマッサージチェアも壊れてしまったんだが、これも何とか使徒の仕業にして経費として落とせないかね」

「そうですね、使徒の溶解液が飛び散った事にしましょう」

 

 暗闇の中で初号機がぶつかって壊れた壁も使徒の攻撃の仕業とされて、ネルフ全体の経費を水増しする二次創作活動は深夜まで及んだ。

 リョウジとミサトは停電中にエレベータに閉じ込められたとアリバイ工作も用意。

 使徒マトリエル本人が聞いたら、頭から湯気が出るほど怒るかもしれない。

 もし本人が聞いたらと言う仮定の話ではあるが。

 

 

 




青葉シゲルの曲はデビュー曲メーカーで作らせて頂きました。

青葉シゲル1stシングル
星色アテンションムーン
作詞 うそこメーカー
唄 青葉シゲル
涙のあとはデリケートゾーン
耳をすませばフェイクファー

不倫と言う名の光の射す方へ
愚行を重ねた月末

Ah 商人たちがあざ笑う日常
Uh 貫けない無限の錯乱

星色アテンションムーン
節約に追われる尻軽なんて
濃い恋ネチケットワールド
無邪気な苦しみの隣の隣へ・・・レッツ

「宝くじは大体外れる」
無限の可能性を秘めた魔法の言葉

Ah 揺れない懲りない生まれない
Uh 嬉しい女々しい苛立たしい

星色アテンションムーン
浪漫に裏切られた気分屋とは言え
濃い恋ネチケットワールド
一瞬の陶酔を具現化した世界へ・・・突撃しまーす

https://usokomaker.com/deview/

文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。

  • 本文は今の量が読みやすいので外伝形式で
  • 本文の量が増えても加筆修正が良い
  • 外伝で活躍させたいキャラ(メッセージで)
  • 第〇話の修正希望(メッセージで)
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