新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~ 作:朝陽晴空
<2000年 南極 葛城研究所>
南極大陸の地底に存在するジオフロント。
そこには死海文書に記された通りに南極遺跡があり、その中に巨人が静かに鎮座していた。
巨人を発見した葛城調査隊は遺跡研究のために研究所を建てた。
葛城調査隊は古代に失われたテクノロジーの発掘・再利用を目的とする科学者が集まっていた。
今まで様々な遺跡を調査してきたが、大した成果を上げられなかった葛城調査隊は資金的に苦しい日々を送っていた。
そこに降って湧いて来た話がキールが所有する死海文書と闇の財閥集団だった。
南極遺跡探険を決意した葛城博士は妻と娘のミサトを日本に捨てるように残して南極に行ってしまった。
本格的な研究所を建てるとは、日本には戻らない決心の表れだった。
「お父さん……この大きなロボットに乗せるために私を呼んだの?」
「ああ、正確にはロボットじゃない。第一使徒『アダム』だよ」
巨人の正面で見上げるように、山男のようなたくましい髭を生やした白衣を着た葛城博士と14歳になるコートを着た少女、ミサトが立っていた。
「お父さんが誕生日に贈ってくれたオルゴール、とても嬉しかった。そのお礼をお父さんに言いたくて来たのよ」
「そうか、ミサトも見ない間に若い頃の母さんに似て来たな」
葛城博士はそう言って、ミサトの髪を撫でた。
ミサトの母親は葛城博士の人柄に惹かれて結婚したのだと言う。
確かに父親は優しかった、しかし研究者は家庭中心の生活が出来ないのが宿命だ。
ミサトの母親もミサトも忍耐を強いられて来た。
久々に父親に呼び出された用件も、「アダムに乗れ」だった。
「お父さん、わたしが乗りたくないと言ったらどうするの?」
ミサトは父親の葛城博士に大事な用事があると言われて呼び出されたが、ミサトはオルゴールのお礼を言うために南極の研究所に来ただけだった。
「ミサトと同じ歳の別の被験者を探さなければならない」
葛城博士に言われて、ミサトは考え込んだ。
「乗ったらお父さんは喜んでくれる?」
「ああ、そうだな。ミサトはただ乗ってくれればいいんだ」
葛城博士はそう言ってミサトを胸に抱いた。
研究のために娘を利用する。
彼はミサトの事を気遣いながらも、成果を出す事に焦りを感じていた。
アダムに乗らなければ直ぐに研究所から帰らなければならない。
ミサトは父親に認められたい一心で決意を固めた。
「わたし……アダムに乗る」
そうミサトが言うと、ミサトは『00』とナンバーが印字された伸縮するタイツの様な、身体のボディラインが出るような服に着替えさせられた。
アダムの首の背面から筒状の操縦席のあるコックピットが突き出ていた。
ハシゴを昇ったミサトは、コックピットへと開いた扉から中に入り、操縦席に座る。
操縦席と言ってもレバーやサドルのようなものは見当たらず、ミサトはどうやってこのアダムと言う『ロボット』を動かすのか疑問に思った。
ミサトの乗った筒状のコックピットはアダムの中に納まり、完全にアダムの体内へと飲み込まれた。
「L.C.L.の注入を開始します」
研究所のスタッフである科学者の1人が葛城博士にそう告げた。
中に居るミサトは溺れてしまうとパニックになってしまっているだろう。
しかしアダムの外に居る自分達からは中に居るミサトに声を掛けられない。
アダムは自分達が作ったロボットではない、古代人が神を真似て作り上げた人の造りし巨人なのだ。
暗かったアダムの両目に光が灯ると、研究所に集まった科学者達から歓声が上がった。
「葛城博士の言う通り、生体ユニットには女性が適しているようですね」
嬉々とした科学者に声を掛けられた葛城博士は、複雑な表情を浮かべた。
今まで葛城博士を筆頭に、葛城研究所に居た科学者達がアダムに乗り込んで起動させようとしたが、巨人は沈黙を守ったままだった。
アダムとのシンクロ率を起動指数まで持って来たのは、ミサトが初めてだった。
「これでアダムは地球の救世主となるでしょう! 冷たい目で我々を見下していた連中も、手のひらを返したように我々への評価を変えるに違いありません!」
「私は別に世間に認められたいために研究をしているわけではないよ」
興奮したとある科学者に声を掛けられると、葛城博士は不快そうな顔で答えた。
第一使徒アダムは兵器としてではなく、地球環境の浄化を目的として造られたものだった。
汚染物質の分子レベルでの除去を可能とし、搭乗した人間の精神に反応して起動する、汚染物質に塗れた現代の地球にとっての救世主となる存在となるはずだった。
「お父さん……わたしはどうなっちゃうの……?」
事前に何の説明も無く、L.C.L.の液体に飲み込まれたミサトは、膝を抱えて座っていた。
コックピットの中はオレンジ色の海の中のようで、ミサトは自分が独り別の世界へと行ってしまった感覚になった。
ミサトが辺りを見回すと、自分と同じように膝を抱えて座っている、金色の光を放つ人影があった。
顔や姿は判別できず、シルエットしか分からなかったが、ミサトには自分と同じ人間のように思えた。
「あなたは誰? どうしてここに居るの? ……ずっと、独りぼっちだったの?」
ミサトがそう尋ねて、光る人影に向かって伸ばして手を触れると、耳をつんざくような絶叫がミサトの耳に響いた。
「いやっ、わたしの中に入って来ないで!」
そうミサトが拒絶反応を起こすと、ミサトの乗っていた筒状のコックピットはアダムの首の背面から高速で飛び出し、空の彼方へと消えた。
「ミサト!?」
葛城博士は驚いた表情で、ミサトが消えた方向の空を見つめた。
「生体ユニットが居ないのに、どうしてアダムは動いているんだ!」
「まさか、暴走!?」
混乱を起こした科学者達の声が辺りを満たす。
生体ユニットとなる人間が居なくなれば、アダムを制御する事は不可能だ。
「ロンギヌスの槍を使う!」
葛城博士はロンギヌスの槍の射出用カタパルトを使うように命じた。
ロンギヌスの槍で使徒アダムのコアを破壊すれば、アダムを殲滅する事が出来る。
起動実験が失敗し、アダムが暴走した時に備えた切り札を、葛城博士達は用意していた。
「ガフの部屋が開いた、時間が無い、早く槍を撃つんだ!」
再度葛城博士が急かしても、ロンギヌスの槍は発射されない。
「葛城博士、アダムが消えてしまえば、我々の偉業は無へと帰してしまいます」
「君達は正気でそんな事を言っているのか! 世界に禍を振り撒くような真似は止めたまえ!」
集まった葛城調査隊の科学者達は、今まで自分達を冷遇して来た世界に復讐する道を選んだのだ。
科学者の1人が葛城博士の頭を殴打した。
「ミサト、すまない……」
地面へと倒れた葛城博士はそう言って目を閉じた。
暴走する使徒アダムから無数の光の弾が隕石のように地球の各地へと降り注いだ。
葛城研究所で起こった大爆発は南極大陸全体を巻き込み、20世紀は終わりを告げた。
ロンギヌスの槍は使われる事無く、南極の海へと沈んだ……。
<ネルフ本部 発令所>
次の使徒の襲来の無いまま平穏な14日間が過ぎ、発令所の空気は少し緩んでいるように見えた。
「使徒襲来が無いまま2週間か……」
作戦部長の席に座るミサトは、少し退屈そうに呟いた。
「お陰で職員達も週休2日制が保たれているって喜んでいるわ。私も田舎のお婆ちゃんと猫に久しぶりに会いに行けたしね」
マヤとお揃いの座布団が敷かれた席に座ったリツコは、普通のカフェインのコーヒーを飲みながら答えた。
忙しい時は、カフェイン増し増しのエナジードリンクを混ぜ込んだコーヒーを飲んで徹夜も珍しくない。
エヴァンゲリオンの2次創作をしているアイツのようだった。
「睡眠不足じゃイザと言う時に力が出ないから、休息は大切よ。でも有事に備えて気を引き締めていないとね」
ミサトはそう言って空席の司令席を仰ぎ見た。
ゲンドウとコウゾウは発令所で待機する事もしていない。
何か用事があればポケベルで呼び出してくれと言っている始末だ。
昔はかなりの釣りバカだったらしいゲンドウが、この前シンジと釣りに行ったと言う話まであった。
オペレータ席に座る3人も、顔色がつやつやしているように見える。
「それで、曲作りの方は進んでいるのか?」
「ああ、休日は捗っているよ」
「楽しみにしています!」
マコトとシゲルとマヤも楽しそうに談笑している。
「あの霧島って子達もシンジ君達との学校生活に馴染んで来たみたいじゃない」
「あたしが干渉しなくても、一緒にお弁当を食べるほど仲良くなっているのは嬉しいわ」
「今のミサト、発令所に居ても先生の顔をしているわよ」
本当はもっと学校に居たいのだが、上司の2人がサボリーマンなのでこうして発令所の責任者として詰めていなければならない。
そんな時、アメリカの衛星が衛星軌道上に現れた巨大な使徒に撃ち落されたと報告が入った。
発令所にブザー音が鳴り響き、緊張した空気が久々に復活する。
撃墜される直前の衛星から送られて来た映像を見る限り、使徒は今まで襲来して来たどの使徒よりも巨体のように見えた。
「碇司令と副司令のとの連絡は?」
「繋がりました。さすが鉄の着信ポケベル、使徒の放つ強力な電波妨害も物ともしませんね!」
「公衆電話を探す方が大変なのよ」
旧き時代のテクノロジーに感心するマヤに、ミサトはため息を吐き出した。
セカンドインパクトの前から、携帯電話の電波が届く場所では公衆電話は減らされていた。
ゲンドウもコウゾウも、交通の便の悪い場所に居たとミサトは考えた。
強力な電波妨害で街の交通網にも乱れが生じている。
2人がネルフ本部に戻って来るまで時間が掛かる、ミサトが独断で素早い判断を下さなければならない場合もあるかもしれない。
別の衛星が捉えた映像には、巨大な使徒の体の一部がちぎれて落下して行くのが見えた。
着水地点では大きな波が起こり、海底には大きなクレーターの様な溝が出来た。
「最初の攻撃は南極海に着弾、次はインド洋に着弾しました。津波は1mに達する見込みです」
マコトはミサトに被害の状況を報告した。
日本各地に津波警報が出されているはずだ。
「地球の引力による落下のエネルギーも利用しているなんて、考えたものね」
リツコは関心をしたように呟いた。
「ねえ、使徒はここを狙っているのよね?」
「使徒は第三新東京市に本体ごと墜ちて来るとMAGIは予測しているわ」
ミサトの質問に、リツコはハッキリと断言した。
「聞きたくないけど、その結果は?」
「第三新東京市全体が巨大なクレーターになって、ジオフロントまで抉れるわね」
「裏切り者を確実に葬り去るつもりね」
「ええ、私達も命懸けで守ると考えているかもしれないわね」
「だけど直ぐにでも、落下して来ないのはどうして?」
出現して不意打ちをすれば、あっという間にネルフ本部を消滅させる事が出来たはずだ。
それが身体の一部を切り離して第三新東京市から遠く離れた場所に着弾させる意図が分からない。
「使徒は慎重を期しているのかもしれないわね。万に一つ、仕留め損なうといけないと考えているとも思えるわ」
「どういう事?」
「地球の衛星軌道上から引力で降下するとは言っても、月の引力の影響もあって、その引力は一定ではないわ。最大限に引力の威力を利用できる瞬間を待っているのかもしれないわね。南極海とインド洋への2回の攻撃はその計算のための試射と考えられるわ」
「それで、その仮説から導き出される使徒の降下する予想時刻は?」
「今から7日後よ」
リツコの言葉を聞いたミサトは厳しい表情を見せるのだった。
<ネルフ本部 司令室>
ネルフ本部に戻ったゲンドウとコウゾウは、直ぐにミサトとリョウジとリツコを司令室へと呼び出した。
「加持三佐、使徒殲滅の作戦は思い付いたのかね?」
「はい、衛星軌道上に居る使徒に攻撃する手段はありません。従って、降下して来た使徒を迎撃して殲滅します」
コウゾウに尋ねられたミサトはそう答えた。
「高速で降下して来る使徒を迎撃する事なんて出来るのか?」
「落下予測地点にエヴァ及びトライデント級を配備。使徒の動きを止めてA.T.フィールドを中和し、コアを破壊して使徒を殲滅します」
リョウジの質問にミサトが答えると、司令室に居たリツコたちからため息が漏れた。
「使徒をエヴァで受け止めるなんて、無茶な作戦ね。使徒を上手く受け止められたとしても、落下衝撃で辺りが滅茶苦茶になるわよ」
「A.T.フィールドで何とかならない?」
「そんなにA.T.フィールドは万能ではなくってよ」
誤魔化し笑いを浮かべたミサトが尋ねると、リツコはあきれた顔でそう答えた。
「だが、ジオフロントは守る事は出来るかもしれん。考える価値はあるかもしれんな」
コウゾウはミサトの作戦に一定の理解を示した。
「加持三佐、衛星軌道上に居る使徒に攻撃が出来る方法があるとしたらどうだ?」
今まで黙って居たゲンドウが発言すると、ミサトは目を丸くした。
「君にとっては辛い思い出かもしれないが、南極で暴走したアダムを止めるために『ロンギヌスの槍』と言うものが用意されていた。それは一度投擲されれば、コアを狙って貫く槍となる」
「その槍が使われていたら、父は助かったのかもしれないのですね」
ゲンドウの言葉を聞いたミサトは暗い表情でそう呟いた。
自分が取り乱しても、葛城博士は戻って来ないとミサトは理解していた。
「ロンギヌスの槍は、南極海の底に沈んでいる。そのロンギヌスの槍を用いて、使徒を殲滅させる」
「碇、後7日間で南極の海底からロンギヌスの槍を探して引き上げると言うのか、それも奇跡に近いぞ」
コウゾウがゲンドウの作戦に困惑の声を上げた。
「私と冬月は、これから南極に向かい、ロンギヌスの槍で使徒を殲滅させる作戦を指揮する。加持三佐は我々の作戦が失敗に終わった時に備えて、君の立案した作戦の準備にかかれ」
「はい、司令も奇跡をお祈りしています」
ゲンドウの命令に、ミサトはそう答えるのだった。
ロンギヌスの槍を用いて倒す作戦は『グローランサー』、使徒を受け止めて殲滅させる作戦は『ヘラクレス』と名付けられた。
<ネルフ 作戦会議室>
MAGIの計算によれば使徒が第三新東京市に降下を始めるのは7日後である。
しかしそれはリツコの仮説によるものであり、使徒が今すぐにでも降下を始める可能性もある。
衛星軌道上から使徒が降下を始めて第三新東京市まで到達するまで60分間、市民全員が脱出するには難しい制限時間だった。
シンジ達エヴァのパイロットを筆頭に、ネルフのスタッフ達がぞろぞろと作戦会議室の中へ入って行く。
みな真剣な表情で壇上に立ったミサトを注視する。
「みなさん、今回の使徒は第三新東京市を全壊させるほどの力を持っています」
ミサトがそう話すと、作戦会議室は悲愴感に包まれた。
「使徒殲滅作戦が成功しても、第三新東京市が更地になってしまう可能性が大いにあります」
作戦が失敗した時のリスクでは無く、確実に起こる損害についてミサトは話している。
自分達の住む第三新東京市が消えてしまう事に、集まったメンバーの中には目を潤ませる者も居た。
「ネルフ技術部の計算によると、使徒が落下して来るまでに7日間の猶予があるそうです。しかしそれは使徒が落下の際に地球の引力が最大限に強まる時を利用すると言う仮説によるものに過ぎず、今すぐにでも落下を開始する可能性もあります。その場合は60分で第三新東京市に到達します」
ミサトの説明を聞いて、一同は青い顔になった。
1時間では第三新東京市の市民が脱出するのにとても間に合わない。
「エヴァがA.T.フィールドを展開すれば、ネルフ本部の地下深く、ジオフロントは死守できる可能性があります。ですから、第三新東京市民の皆さんにはジオフロント一時避難して頂きます」
ジオフロントはネルフ本部の機密に関わる部分で、一般人の立ち入りが許される場所ではない。
しかし今回は緊急避難、後でキールに怒られる事になってもゲンドウは人命を優先する事に決めた。
「ここに集まった皆さんも、希望するならどうぞ避難して下さい。私は危険な地上に残れと命令はしません」
ミサトがそう言っても、作戦会議室から出る者は誰1人居なかった。
「あなたたち……ありがとう」
そう言ってミサトが涙ぐむと、リツコがそっとハンカチを差し出した。
「戦いの前の涙は不吉よ」
「ごめんなさい、リツコ」
それからミサトは大型モニターを使って使徒迎撃作戦『ヘラクレス』の説明を始める。
「エバー3機とトライデント級ロボットである紫電、雷電、震電の3機は、使徒の予測落下地点をカバーするように地上で待機。近くに居る機体と力を合わせて使徒の身体を受け止め、エバーで使徒のA.T.フィールドを中和し、殲滅するのよ」
「ええーーーっ!? あんなに大きな使徒を手で受け止めるなんて無茶よ!」
ミサトの作戦を聞いたアスカは、シンジ達の気持ちを代弁するかのように不満の声を上げた。
「無茶でも頑張って貰うしかないわ、6人で力を合わせて奇跡を起こして使徒を倒すのよ」
「もっと範囲を絞り込んで、お互いの距離を縮める事は出来ないんですか?」
「ごめんなさい、使徒が衛星軌道上に居る今の状態では、これ以上範囲を絞り込む事は出来ないのよ」
シンジの質問に、ミサトは心の底から申し訳なさそうに謝った。
「危険な地上に残って作戦に参加するあなた達は、戦いの前に遺言を残す事も出来るわ」
「アタシ、パス。死ぬ気なんて絶対にないもの」
アスカの言葉に同調するように、シンジ達の中には誰も遺言を残そうと名乗り出る者は居なかった。
大人であるネルフのスタッフ達や、戦略自衛隊の士官の中には遺言状を作成する者も居た。
「あのさ俺、マナのこと……」
「ムサシ、その事は使徒を倒してから話そうよ」
A.T.フィールドを持たないトライデント級ロボットはエヴァより危険度が高い。
不安を覗かせるムサシを、マナはそう言って励ました。
シンジは身体を震わせて、アスカとレイの手を握った。
「碇君は死なないわ、私が守るもの」
「違う、そうじゃないんだ。僕が死ぬ事は怖くない。だけど……」
レイの言葉に、シンジは首を強く振って否定した。
シンジは自分の目の前で大切なものを失ってしまうのを恐れているのだ。
「アタシたちは奇跡を起こして生き残る! これで人生終わりじゃないわ!」
アスカはそう言ってシンジの手を強く握り返した。
パイロットのチルドレンたちが恐怖を振り払らおうと必死に奮起している。
大人達はせめて作戦会議室の中では毅然とした態度でいようと決意するのだった。
ミサトはゲンドウ達の『グローランサー』作戦については秘密にした。
ゲンドウ達の作戦を知れば、『ヘラクレス』作戦に参加するメンバーに油断が生まれる。
まず欺くのは味方からと心を鬼にしたミサトだが、シンジ達の不安を和らげたい気持ちとの葛藤に悩まされた。
<第三新東京市 市街地>
ネルフのスタッフや戦略自衛隊の仕官達は不安に押しつぶされそうな気持ちを誇りを懸けて奮い立たせていたが、街に暮らす一般市民にも同じ気概を持てと言うのは難しい話だった。
空中から巨大な使徒が墜ちてくる、しかも今までより深度の深い特殊なシェルターに避難しなければいけないと緊急避難警報を聞いた市民達は大パニックになった。
第三新東京市の郊外に居た人々は自力で逃げ出したが、第三新東京市の出口は直ぐにネルフや戦略自衛隊の手によって閉鎖された。
「第三新東京市に特別緊急避難警報が発令されました。市民のみなさんは落ち着いてネルフ本部へと避難して下さい! 貴重品以外の荷物は持たないでください!」
小さな子供達は恐怖のあまりに泣き叫び、中には第三新東京市の外へ出せと戦略自衛隊の兵士に掴みかかる市民達も居た。
避難の隊列を乱す市民達は容赦無く逮捕して連行された。
人道に反する行為だと抗議の声も上がったが、人命を救うためだと戦略自衛隊の士官達は自分に言い聞かせて奮戦した。
この使徒との戦いで、決して一般市民の犠牲は出してはなるものかと、日本の戦士達は立派だった。
第壱中学校に居たトウジたちも根府川先生に引率されて避難していた。
「ここが碇たちやミサトセンセが居るネルフっちゅうところか、ごっつい建物やな」
トウジはネルフ本部の正面ゲートの広さに圧倒された。
一般市民にネルフ本部の施設内を延々と歩かせるわけにはいかない。
ジオフロントへの誘導は直通のモノレールで行われる事になった。
「ああ、ネルフ本部を生で撮影してみたかったな」
避難中だとは思えない、呑気な声でケンスケはぼやいた。
機密情報を取り扱う特務機関ネルフだけあって、ケンスケのハンディカメラは没収の対象となった。
目を付けられたケンスケは隠しカメラを持っていないか念入りに身体チェックをされた。
トウジとヒカリの2人はケンスケの検査が終わるまで、順番待ちの列に並ばずにモノレールのホームで待っていた。
いつもトウジの側に居るケンスケが離れて2人きりになったこの状況にも後押しされて、決意を固めたヒカリはトウジに大きな声で言った。
「す、鈴原、私あなたの事がずっと好きだったの!」
「何をいきなり大きな声で言いさらすんじゃボケ!」
突然大声でヒカリに告白されたトウジはズッコケそうなほど驚いて、ヒカリに向かって大声で怒鳴った。
「だって使徒が墜ちて来て私達みんな死んじゃうかもしれないと思ったら、その前に鈴原に私の気持ちを伝えようって決心したの」
ヒカリが目に涙を浮かべてトウジの手を握ると、トウジはヒカリを激励するように声を掛ける。
「委員長、おのれは惣流たちを信じてないのか、使徒が来てもエヴァでパーッと倒すに決まってるやんけ!」
「うん……」
トウジに励まされて、ヒカリは少し元気を取り戻したような笑みを浮かべた。
「ワイはな、仕切るだけで他のやつに仕事を押し付けたり、自分の気持ちを遠回しに言いよる委員長は大嫌いやった」
「そう、だから私って誰からも頼られない委員長なのかな」
そのトウジの言葉を聞いて、ヒカリはシュンとなって下を向いた。
ヒカリはクラスメイト達に囲まれるタイプの委員長では無かった。
入学直後に流されるように委員長となったヒカリは、そのうちに委員長と言う肩書を笠に着てトウジの言う通り仕切るだけの人間となってしまった。
「せやけど、綾波を手伝うようになったり、素直におのれの気持ちを言える今の委員長は嫌やないで…」
少し照れくさそうな顔をしたトウジに言われたヒカリは、顔を輝かせてトウジに抱き付いた。
「羨ましいぜ、トウジのやつ……」
身体検査から解放されてモノレールの駅に戻ったケンスケは、ヒカリに抱き付かれているトウジを見て、そうつぶやいたのだった。
<南極深海 戦艦ヴンダー>
『グローランサー』作戦を決行するため、ゲンドウとコウゾウが乗る全長2kmの巨大戦艦が日本から南極へと潜航しながら向かっていた。
「最高出力を維持しろ、思い切り飛ばせ!」
時田シロウ博士はネルフの技術班のスタッフ達にそう指示を出した。
動力源として組み込まれているのは、原子炉からN2リアクターへと改良された、ジェット・アローンだった。
人型ロボットから発電施設に転用されたり、様々な形態へと改造されているジェット・アローンは、今回は巨大戦艦の船底で『ドルフィン・クロール』を泳いで戦艦ヴンダーを引っ張る形となっていた。
どうしてジェット・アローンが再び人型のロボットへと形態を戻したのかと言うと、南極海でロンギヌスの槍を引き上げた後、ジェット・アローンが使徒に向かってロンギヌスの槍を投擲すると言う重要な役割を果たすためだった。
「ヴンダーの名前の通りに、この船で奇跡を起こす事が出来ると良いですね」
リョウジは艦長席に座るゲンドウと副長として側に立つコウゾウにそう声を掛けた。
「南極海への移動だけで6日間。我々は実質24時間弱で海底へと沈んだロンギヌスの槍を探さなければならない。君の言う通り、作戦の成功率は奇跡に近いよ」
コウゾウはリョウジの言葉にそう答えた。
「だが奇跡を起こさなければ、我々は更なる奇跡に頼らざるを得なくなる」
ゲンドウがそう言い放つと、ブリッジに緊張が走った。
自分達の作戦が成功すれば、第三新東京市を失う事無く使徒を殲滅させる事が出来る。
「使徒が現れてからロンギヌスの槍を探すなどとは、泥縄だな」
「それを言われると耳が痛いです」
コウゾウが囁くように言うと、ゲンドウも小声で答えた。
使徒殲滅の切り札となるロンギヌスの槍は、使徒襲来が無かった2週間のうちに確保しておくべきだったと後悔しても先に立たず。
この作戦は『ヘラクレス』作戦とは違い秘密裏に行われる作戦、OTR艦隊など他国の艦隊を使うわけにはいかなかった。
そこでジオフロントの地底湖で密かに建造されていた戦艦ヴンダーを出撃させる事になった。
ヴンダーの機関長には時田シロウ、操舵手に加持リョウジ、整備長に高雄コウジ、ブリッジオペレーターとして長良スミレ、多摩ヒデキ、北上ミドリが選抜された。
「まるで血の池地獄みたいだな」
「海だけじゃなくて、空も真っ赤だなんて、有り得ないっしょ!」
6日後、セカンドインパクト後に初めて南極を訪れたヒデキとミドリはそう声を上げた。
幼い頃の記憶で抱いていた南極のイメージとのギャップに、ショックを受けている様子だった。
「生物が生きていけない場所と言う意味では、地獄は正しい表現かもしれんな」
コウゾウは赤く染まった海と空を見て、そう呟いた。
セカンドインパクトの爆心地である南極は、L結界濃度が強すぎて、生身の人間ではL.C.L.となって溶けてしまう。
ゲンドウ達が人の姿を保っていられるのは、戦艦ヴンダーの中だからだった。
ロンギヌスの槍の探索は有線ラジコン操作で動くジェット・アローンと、戦艦ヴンダーが移動してサーチライトで暗い海底を照らす事で行われた。
セカンドインパクトの爆発の影響でロンギヌスの槍が何処へ飛ばされてしまったのか、当時のデータが残っていないためMAGIでも1つのポイントに絞り込む事が出来ず、雲を掴むような話だった。
「このポイントも外れですか……どうやら我々のくじ運は悪いようですね」
リョウジは皮肉めいた口調でそう呟いた。
「もうほとんど時間が残ってないじゃん! どうするのよ!」
ミドリはゲンドウ達の前でも苛立ちを隠さずにそう叫んだ。
「ロンギヌスの槍を発見しました!」
ポイントJでスミレがそう報告をすると、ジェット・アローンは直ちにロンギヌスの槍を回収するために向かった。
改良されたジェット・アローンが両腕で海底に突き刺さったロンギヌスの槍を引き抜こうとする。
「使徒が降下を始めました!」
スミレの鋭い声がブリッジに響き渡ると、緊張感に包まれた。
「ロンギヌスの槍の回収を急げ!」
「心得ました!」
ゲンドウの命令に、シロウはそう答えた。
ジェット・アローンは海底に突き刺さったロンギヌスの槍を引き抜き、海面まで泳いで浮上し、戦艦ヴンダーの甲板の上から使徒に向かってロンギヌスの槍を投擲しなければならない。
使徒が第三新東京市に墜ちるのが先か、南極から投げられたロンギヌスの槍が使徒のコアを貫くのが先か。
奇跡の勝利を誰もが願っていた。
果たしてジェット・アローンは間に合うのか……!
<ネルフ本部 発令所>
使徒が降下を開始した様子は、第三新東京市に居るミサト達にも感じ取れた。
『グローランサー』作戦は間に合わなかった、それならばせめて『ヘラクレス』作戦を成功させる。
そう決意したミサトは、直ちにエヴァやトライデント級ロボットの出撃を命じた。
この7日間、シンジ達は何度も使徒が降下して来た時に備えて訓練を行っていた。
シンジ達6人はネルフ本部で寝食を共にして、連携を深めて来た。
使徒がどのポイントに降下して来ても、迎撃出来るだけの自信はあった。
「人事は尽くした、後はあなた達の起こす奇跡に任せるわ」
「はい!」
ミサトの言葉に、シンジ達は力強く答えた。
作戦に成功すれば、街は壊れても人は守ることが出来る。
使徒の高度が下がるにつれて、落下予測地点も絞り込む事が出来た。
「アスカ、弐号機でMAGIの示すポイントに向かって! 他の皆も至急弐号機を援護!」
「了解!」
第三新東京市のビル群が形を変えて、使徒の迎撃ポイントへの道を作った。
弐号機は他の機体が駆け付けるまでの間、A.T.フィールドで使徒の巨体を受け止めなくてはならない。
初号機は弐号機から離れた場所に居た。
「アスカ……っ!」
1秒でも早くアスカの元に駆け付けたいと言うシンジの焦りによって、初号機はミサトが作り出した『道』を外れてしまうミスを犯した。
「シンジ君、早く正規のルートに戻って! 落ち着けば間に合うわ!」
「くそぉぉっ!」
初号機はビルにぶつかってしまい、速度を落としてしまった。
その事がシンジをさらに苛立たせる。
「シンジ、アタシは大丈夫だから! エースパイロットのアタシの実力を信じなさい!」
アスカは自信たっぷりにそう言い放って、弐号機の両手を空に向かって突き出した。
相手は落下の威力も利用して落ちて来る巨大な使徒。
両手が痺れる程度では済まないだろうなとアスカは思った。
シンジはこの7日間、弐号機が使徒に押し潰される悪夢を見ては汗びっしょりで目を覚ます事が何回もあった。
だから弐号機の近くには使徒が落ちて来ないように願っていたのに、よりにもよって、である。
「さあ、来るなら来なさい! アタシがしっかりと受け止めてやるわ!」
「惣流さん! あたしじゃ大して力になれないかもしれないけど!」
一番早く弐号機の側に駆け付けたのは、マナの乗る紫電だった。
トライデント級ロボット兵器は、ブースターを持っていて、しばらくの間なら浮遊も可能だった。
「アタシが使徒のA.T.フィールドを中和したら、使徒のコアの攻撃を頼むわよ」
「えへへっ、そうしたらあたしの紫電が2体連続で使徒を倒す事になっちゃうね」
アスカとマナはお互いにそう言って笑い合った。
初号機と零号機は60分で弐号機の場所へとたどり着けるギリギリの位置に配置されていた。
3機揃って使徒を受け止めるのは絶望的だろう。
しかもシンジはミスを犯して10秒ほど時間をロスしている。
その10秒が弐号機の生死を分ける事になったら、シンジは後悔してもし切れない。
発令所で見守るミサト達も、6人の子供達と、第三新東京市、そして市民達が奇跡によって守られる事を願った。
「高速で飛来する飛行物体があります!」
オペレータのマヤがそう報告をすると、発令所や通信を聞いていたシンジ達に動揺が走った。
真実を知るミサト以外は新たな使徒の攻撃かと色めきだった。
光り輝く槍のような物体は、落下して来る使徒のコアを貫き、空の彼方へと消えて行った。
「碇司令たちの作戦は、間に合ったのね……」
ミサトは奇跡が起こった喜びを感じるより先に、脱力して膝から崩れ落ちた。
大気圏突入直前でコアを貫かれて爆発した使徒の破片は、大気圏で全て燃え尽きた。
アスカ達は使徒が殲滅された事を聞かされてもポカンとしていた。
奇跡が起きたと言っても、実際の反応はこのようなものだろう。
<第三新東京市 加持家>
使徒が殲滅された後、戦後処理はネルフの技術班と戦略自衛隊の士官達に任せて、ミサトはシンジ達を連れて、我が家へと戻った。
加持家ではヨシアキがバイキングの様に大量の料理を作って、トウジ達と一緒にダイニングキッチンとリビングを繋げた大部屋でシンジ達を待っていた。
「凄いたくさんの料理だね、これ全部ヨシアキ兄さんが作ったの?」
「洞木さんや鈴原君、相田君にも料理を作ってもらったんだよ」
ヨシアキはシンジの質問に対してそう答えた。
テーブルに並ぶ料理の中には、豪華絢爛な料理の他に親しみやすい料理が並んでいる。
焼きそばやお好み焼き、おでんやカレーなどはヒカリとトウジの共同作業で作ったらしい。
7日間のジオフロントの避難所生活で、2人の距離はグッと縮まっていた。
ケンスケのミリ飯がバイキングにしては異彩を放っていた。
「アンタバカァ!? ミリ飯なんてマズいもの、こんな時に食べるわけないじゃない」
「でも惣流達も食べる事になるかもしれないから、体験しておいた方が良いと思うぜ」
アスカに対して、ケンスケは不敵な笑みを浮かべてそう答えた。
「このミリ飯、戦略自衛隊のより美味しいよ! ありがとう、相田君」
「俺達にはミリ飯の方が馴染みが深いからな、こんなに旨くなるなんて意外だった」
「ケンスケの料理、とっても美味しいよ」
マナとムサシとケイタの3人に褒められたケンスケは、どうだとばかりに胸を張った。
「それにしてもミサト、『グローランサー』なんて作戦があったなら、アタシ達にも教えて欲しかったわ。お陰でシンジとレイが余計な事を考えて、落ち込む事になったじゃないの。マナ達もネルフに不信感を持つようになっちゃったし」
「ごめんね、『ヘラクレス』作戦で油断が生まれないようにするためにも、言えなかったのよ」
アスカが責める様な厳しい視線でミサトをにらみつけると、ミサトは両手を合わせて謝った。
ネルフ本部からゲンドウとコウゾウの姿が消えたのを見て、トップの2人が自分の命惜しさに逃げ出したのではないかと憶測が飛んだ。
ネルフ本部に留まったミサトは何とか第三新東京市の人々をまとめ上げたが、シンジとレイはゲンドウが自分を見捨てたのではないかと心の片隅で不安を抱いていた。
ミサトは地球上のどこに逃げても使徒の脅威から逃れる事は出来ないとシンジ達を説得していたが、南極に行っている事を話す事も出来ず、ネルフに来て日が浅いマナ達は、信用できるのはミサトしかいないとゲンドウへの不信を募らせていた。
「でもこうして君のお父さん達の誤解も解けたんだから、楽しくご飯を食べようよ。僕も霧島さん達の歓迎会なんだから、腕によりをかけたんだよ」
「うん、そうだねヨシアキ兄さん」
「分かったわ」
ヨシアキが穏やかな笑顔でそう言うと、シンジとレイも明るい笑顔になって、ヨシアキが腕を振るった天ぷらやローストビーフを食べ始めた。
しかしヨシアキの言葉を聞いたアスカが顔色を変える。
「マナ達の歓迎会って、この女スパイも一緒にこの家に住むの!?」
「そう、この7日間ネルフ本部の同じ部屋で暮らす事になったし、もう慣れたでしょう。アスカもマナちゃんを名前で呼ぶような間柄になったし♪」
アスカの質問に、ミサトは笑顔でそう答えた。
「でも空き部屋は1つしかないじゃない。アタシ達にこの家を出て行けって言うの?」
「そんな、あたしはアスカを追い出すなんてしたくありません!」
マナはアスカの言葉を聞いて、慌ててミサトに訴えかけた。
「相部屋になれば問題ないわ」
「他の人と同じ部屋ですか……」
今度はミサトの案を聞いたシンジが暗い顔になった。
自分の部屋で1人になりたい時もあると言う性格のシンジにとって、急に相部屋となるのはストレスを感じる。
「心配しないでシンジ君、相部屋になるのはマナちゃんとムサシ君、ケイタ君の3人よ。その方がお互いになれているでしょう?」
事情を知らない人間から見れば、1人部屋と3人部屋ではミサトはえこひいきをしているように見えるだろう。
しかしシンジは幼い頃は親戚の家のプレハブ小屋で1人隔離された生活、マナ達は戦略自衛隊の相部屋生活で3人いつも一緒だった。
育ってきた環境に馴染んだ部屋割りをミサトは考えたのだ。
今のところ、アスカとマナは部屋や洋服の趣味とかは合わないし、同室にしてもマナとケイタが一線を超える恋愛関係になるとは思えない。
状況が変わって来れば、アスカとマナを同室にするなど部屋割りを変更すればいい。
「家が手狭になって来たから、増築工事をする予定よ。その点は承知して居てね」
「大工さんが家に来たりするんですか?」
ミサトの話を聞いてマナはそう尋ねた。
「違うわマナ、きっとネルフ技術部のお出ましよ。壁を叩いてみなさい」
アスカの言葉にマナは不思議そうに首を傾げると、壁をコンコンと叩いて驚いた。
明らかに木では無く硬い金属の反応だった。
「えっ、この家って木造じゃないんですか?」
「シェルターも兼ねているから、N2爆弾の直撃にも耐えられるようになっているの」
ミサトはマナにウインクしてそう言った。
「へえ、ネルフって凄いんだな。おいら、驚いちゃったよ」
「ミサトさんの家がおかしいんだよ」
感心するケイタにシンジはそう声を掛けた。
「ところでマナ、同居するにあたってシンジに関する協定があるんだけど……」
「碇君独占禁止法」
アスカの発言を聞きつけたレイもマナに近づいて厳しい視線を向けた。
「あはは、あたしには必要ないかな。もうミサトさんから任務完了のお墨付きも貰ったし」
そう言ってマナはムサシと視線を合わせた。
アスカとレイのマナに対する警戒レベルがグンと下がる。
「それじゃとりあえず、女性パイロット同士仲良くしましょう」
そう言ってアスカがマナに手を差し出すと、マナもそれに答えてレイを交えて三角形の形で友情のグータッチをした。
そんな3人の様子を見て、ヒカリも友情の輪に取り残されないように慌ててマナに近づいた。
「霧島さん、今度一緒にお洋服でも買いに行かない?」
「嬉しい、あたしは制服の他にはほとんど可愛い洋服を持っていなかったんだ」
マナにそう言われると、ヒカリは嬉しそうな笑顔で頷いた。
ムサシもトウジと意気投合をしたようにカバディ部の話を始め、ケイタもケンスケと戦略自衛隊の装備品について話している。
南極に行ってしまってるこの家の主人であるリョウジが不在なのは寂しい事だったが、加持家の賑やかな夕食会は大いに盛り上がるのだった。
<ネルフ本部 司令室>
南極から戦艦ヴンダーの乗員たちがネルフ本部へ帰って来たのは7日後だった。
ゲンドウとコウゾウが2週間振りに司令室に戻ると、ゲンドウの机の上には書類のようなものが山積みになっていた。
「……これは何だ?」
「碇司令に対する苦情の書類です。司令が第三新東京市を離れた事で、MAGIでも情報統制が追いつかないほどネットも炎上しています。ネルフのトップが逃げるとは何事かと」
ゲンドウの質問に、リツコは淡々と答えた。
「何だと!? 我々は逃げるために南極に行ったわけではない!」
「いやあ、秘密の作戦とは言え、南極行きは副司令に任せて、司令はネルフ本部でライブ演説を配信していた方が良かったんじゃないですか?」
確かにリョウジの指摘通り2人とも南極に行く必要は無い、ゲンドウはコウゾウに戦艦ヴンダーの艦長を任せる手もあった。
「加持君、気が付いていたのなら早く言え!」
リョウジの言葉を聞いたゲンドウは、机をドンと叩いて怒鳴った。
「しかし司令もあの計画のために、何としてでも南極に行きたかったのでしょう?」
「……そうだな」
リョウジに尋ねられると、ゲンドウは真剣な表情で頷いた。
使徒を殲滅させた後、戦艦ヴンダーは1日南極に留まり、ゲンドウは海水と混ざらずに海底に沈殿していたL.C.L.の回収を命じていた。
1滴のL.C.L.も取りこぼさないように命令するほどの念の入れようだった。
「そちらの計画も成功を祈っていますよ。……ミサトのためにも」
真剣な表情で懇願するようなリョウジの言葉に、ゲンドウは何も答えられなかった。
「それで作戦が成功して明るみに出た今、我々の名誉挽回出来たのかね?」
「いいえ、全く汚名は返上されていません」
コウゾウが話題を変えるためにリツコに話を振ると、リツコはキッパリと言い放った。
「どういう事だ?」
「少し前にシンジ君と釣りに行った事をブログの記事に上げた事が逆効果になっていますね」
ゲンドウは自分も父親らしい部分もあると見栄を張りたくなってしまったのだ。
「さらにジェット・アローンが使徒を倒した事になっていて、時田シロウ博士がヒーローとなっています」
「訂正記事は出したのか、ネルフの司令と副司令が使徒殲滅作戦の陣頭指揮を執った事を!」
リツコの報告を聞いたゲンドウが思い切り激しく机を叩くと、丈夫な黒檀の机でも振動が発生し、書類の山が崩れた。
「世間の人間が間違った情報を受け取った後、その訂正はほとんど届きません」
「ウンダーやロンギヌスの槍の存在を公に出来ない以上、真実を証明するのは難しいでしょう」
リョウジとリツコに言われたゲンドウは、元気の無い様子で肩を落とした。
「このような事態を招いたのは、碇司令が2週間使徒の襲来が無かったからと言って油断していたからです」
リツコがピシャリとそう言うと、ゲンドウは完全に観念したのだった。
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文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。
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