新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~   作:朝陽晴空

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第十三話 ダミープラグ計画始動!使徒ウイルス、侵入(2022/04/04 21:55)

<ネルフ本部 作戦会議室>

 

 その日、ネルフ本部の作戦会議室ではエヴァとトライデントの無人化計画がゲンドウにより告げられた。

 高度な人工知能により、パイロットが乗らなくてもエヴァやトライデントを動かす事が出来るようにする計画だった。

 

「エヴァが無人で動くようになったら、アタシたちはクビって事?」

「14歳の子供達を危険な目に遭わせたくないと言う、大人達の気持ちも分かってあげて」

 

 さっそく噛みついて来たアスカをなだめる様に、ミサトはそう声を掛けた。

 ゲンドウの説明によれば、エヴァはダミープラグ、トライデントは高性能AIによって無人化をするのだと言う。

 

「ダミープラグの開発には、あなた達パイロットの協力が必要となります。よろしくお願いね」

 

 ダミープラグの開発責任者であるリツコはシンジとアスカとレイの方を見つめて、そう話した。

 

「トライデントの自動操縦プログラムは、私が開発を担当する。よろしく頼むよ」

 

 時田シロウ博士はリツコより柔らかい表情を作ってマナとムサシとケイタに向かって微笑みかけた。

 マナ達3人はミサトやシンジ達以外のネルフの人間とは親しくない。

 まだ戦略自衛隊からの出向扱いと言う事もあって、ネルフに完全に溶け込んだとは言えないようだ。

 

「初号機、零号機、弐号機はシンクロ率の専属パイロットが存在するように、ダミープラグも3本とも画一的に開発するわけにはいきません。そこで、それぞれのエヴァ毎にチームを組んで開発する事になります」

 

 リツコがそう説明すると、リツコの後ろに立っていた新人のオペレータ3人が前面に出て来た。

 

「彼女は阿賀野カエデ、MAGIのバルタザール主任オペレータで、初号機開発チームに配属します」

「よろしくね、碇君」

 

 幼さが残る童顔の女性が人懐っこい笑みを浮かべてシンジに向かってペコリとお辞儀をした。

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 照れくさそうに答えるシンジを見て、アスカとレイは厳しい視線を向けた。

 シンジとカエデを握手でもさせたら飛び掛かりそうな勢いだ。

 リツコもその辺りは心得ていた、だからお辞儀程度に留めたのだった。

 

「彼女は最上アオイ。MAGIのメルキオール主任オペレータ、零号機開発チームに配属」

「よろしく……」

 

 眼鏡をかけた、真面目そうで飾り気のない女性がレイと無表情で握手をした。

 

「そして彼女が大井サツキ。MAGIのカスパー主任オペレータ、弐号機開発チーム配属よ」

「よろしくね、アスカちゃん」

 

 少しだけ青色が混じった黒目の外国人とのハーフの女性が、アスカに向かってウインクをしたが、腕組みをしたアスカはプイっと横を向いた。

 何となくミサトと似た性格である気はするが、いきなり馴れ馴れしくされるのも、アスカは好きになれないのだ。

 

「3人とも、私の顔と名前くらいは知っているかな?」

「はい、戦自も防衛庁の開発したロボットについては調査していたので、ジェット・アローンの名前ぐらいは」

「そうかそうか」

 

 マナの返事を聞いて、シロウは嬉しそうに頷いた。

 

「でも、おっちゃんの事は知らないよ」

「戦自の上官も格闘戦しか出来ないロボットの事はもう調べなくても良いって話してたぜ」

「とほほ……」

 

 しかしケイタとムサシの言葉を聞いてシロウは肩を落とした。

 なんとも頼りないシロウの反応だが、尊大な様子の無い素直な態度は、マナ達3人の警戒を解くのには役立ったようだ。

 

「わたし達のロボットは、エヴァみたいにそんなに協力できる事が無さそうですけど?」

「そんなことは無い、君達の操縦パターンや武器の使い方、判断能力などAIに学習させるのだから、大いに助けてもらう事はあるよ」

 

 マナの質問に対してシロウがそう答えると、自分達にも役立てる事があると、マナ達3人は顔を輝かせた。

 どうしてもエヴァと比較して自分達は劣ると引け目を感じていたりはしたのだ。

 

「もしエヴァやトライデントが自動操縦されるようになっても、機械では制御しきれない部分もあるから、しばらくの間はパイロットのあなた達にも乗ってもらう事にはなるわよ。心しておきなさい」

 

 自動運転の自動車も、開発されてしばらくの間は運転手の人間が乗っていた。

 エヴァやトライデントにも同じことが言える。

 ミサトの真剣な表情の言葉にシンジ達は頷き、作戦会議室を出てチームごとの活動が始まるのだった。

 

 

 

<ネルフ本部 初号機ケージ>

 

 シンジとカエデの2人は、アスカやレイ達と別れて初号機ケージへと向かった。

 

「良いシンジ、デートでも何でも無いんだから、変な気を起こすんじゃないわよ!」

 

 別れ際にアスカがそう言ってシンジに人差し指を突き付けるのを見て、カエデはクスクスと笑っていた。

 

「シンジ君はアスカちゃんに相当好かれているのね」

「ええ、小さい頃に婚約したなんて言われちゃって……」

 

 照れくさそうにシンジはカエデにそう答えた。

 まず初めに、シンジはカエデと向かい合わせにテーブルに座った。

 机の上にはタロットカードが置かれていた。

 

「驚いた? まずシンジ君の魂のタイプを診断するために、タロット占いをするの」

「そうなんですか」

 

 納得のいかない不思議そうな顔をしたシンジに、カエデは優しく話しかける。

 

「タロット占いはバカに出来ないものよ。それともウソ発見器に掛けて、シンジ君にプライベートな質問をたくさんしても良いかな?」

「いえ、タロット占いでお願いします」

 

 カエデの言葉を聞いて、シンジは頭を下げた。

 それからカエデによるシンジの性格判断のためのタロット占いが始まった。

 

「1つ目の質問。あなたは政府から有用な薬を作るように命令されました。どんな薬を作りますか?」

 

 1.人を殺害できる猛毒の薬。

 2.鉄を金に変える錬金術の薬。

 3.どんな病も直す治療薬。

 

「えっと、3番で」

 

 シンジはカエデの質問にそう答えた。

 

「2つ目の質問。人としてしてはならない一番重い罪だと思うのは、どんな事ですか?」

 

 1.嘘を付いて他人を騙す事。

 2.他の人を犠牲にして自分の利益を得る事。

 3.他人の大切なものを奪う事。

 

「うーん、3番かな」

 

 考え込んだシンジはそうカエデに答えた。

 

「3つ目の質問。あなたのミスのせいで、退却しなければならなくなりました。どんな気持ちですか?」

 

 1.自分のミスを後悔して自分を責める。

 2.責任を取って次回は危険な役を引き受ける。

 3.負けたのは運命だと思って諦める。

 

「多分、1番のように負けを引きずってしまうと思います」

 

 その後もタロット占いはしばらく続き、次にシンジは戦闘シミュレーターに乗せられた。

 第三新東京市の街並みが再現されたバーチャル空間で、シンジはVR初号機でVR弐号機と戦うテストをさせられる事になった。

 

「えっと、アスカが動かしているんですか?」

「ううん、今までのアスカちゃんの戦闘パターンをインプットしたAIが動かしているの。アスカちゃんは弐号機ケージでシンジ君と同じようなテストを受けているから安心して」

 

 カエデの言葉を聞いてシンジは安心した。

 シンジは家でアスカと通信格闘ゲームをする事があるのだが、接待プレイをすると真面目にやれと不機嫌になるし、かと言ってたまにシンジが連勝すると、回線がラグったと言って延長戦に付き合わされる事になるのだ。

 弐号機相手に近距離戦は不利だと判断したシンジは、弐号機から距離を取る。

 それでも弐号機は高く跳び上がって蹴りを食らわせてきた。

 

「上からだ!」

 

 初号機は身体を反らして弐号機の飛び蹴りを回避した。

 また初号機は弐号機から逃げるように距離を取る。

 シンジは弐号機がA.T.フィールドを展開する前にパレットガンで遠距離から速攻攻撃を掛けた。

 劣化ウラン弾が弐号機に当たり、弐号機はダメージを受けたようにのけぞった。

 弐号機がのけぞった隙を狙って、シンジは追い詰められないように弐号機の脇を走り抜けて背後へと回った。

 すると弐号機は兵装ビルからポジトロンライフルを取り出し、初号機に向かって撃って来た。

 

「フィールド全開!」

 

 不意打ちに驚いたシンジだが、何とか初号機の前面に強力なA.T.フィールドを展開して陽電子ビームを完全に防いだ。

 シンジは慌てて弐号機から距離を取って向かい合ったが、弐号機がA.T.フィールドを展開しているのを見て、パレットガンは通用しないとシンジは察知した。

 プログレッシブナイフを握り締めて速攻突撃を仕掛ける初号機に不意を撃たれたのか、弐号機は初号機の突き出されたナイフによりA.T.フィールドを中和され、真正面の腹の部分にダメージを受けた。

 

「いけるっ!」

 

 連続攻撃のチャンスと考えたシンジは、再びプログレッシブナイフで弐号機を斬り付けた。

 すると弐号機は仰向けに倒れたまま動かなくなった。

 

「楽勝みたいだね、シンジ君」

「アスカが相手だったら、こうはいきませんよ」

 

 カエデに対してシンジはそう答えた。

 バーチャル空間の中だとは言え、弐号機を倒すのはあまりいい気分じゃない。

 

「シンジ君、今日はお疲れ様。また明日からよろしくね」

 

 戦闘シミュレーターから降りて来たシンジに、カエデは労いの言葉を掛けた。

 

「えっと、ずっとカエデさんと2人きりの状況が長く続くんですか?」

「アスカちゃんとレイちゃんにヤキモチ焼かれちゃう? でも機密性の高い情報を扱っているから、仕方ないのよ」

 

 シンジの質問に、カエデは謝りながらそう答えた。

 兵器の無人化研究は世界各地で行われていて、ネルフの機密情報は狙われているのだと言う。

 だから映像をカメラで撮影して自分の潔白を晴らすのは無理だ。

 家に帰る度にアスカとレイに疑惑の目を向けられるのはしんどいなとシンジは思うのだった。

 

 

 

<ネルフ本部 弐号機ケージ>

 

 弐号機ケージでも、アスカとサツキによるタロット占いが行われようとしていた。

 

「ほら、アスカもいつまでもむくれていないで、さっさと心理テストを始めようよ。だだっ子じゃないんだからさ」

「分かったわよ」

 

 腕を組んで不機嫌な表情をして立っていたアスカも、やっとサツキと向かい合わせに座った。

 アスカはシンジとカエデがどうしているのか気になって浮ついているようだった。

 

「クエスチョン1、勝負は時の運と言われる事もありますが、あなたは運命をどのようなものだと思いますか?」

 

 1.運命は自分の力で切り拓くもの。

 2.運命は避けられないもの。

 3.幸運と不運の量は予め決まっているもの。

 

「もちろん、1に決まってるじゃない」

「ふーん、まあ予想通りね」

 

 アスカが力一杯宣言すると、サツキも平然とそうつぶやいた。

 

「クエスチョン2、あなたの仲間の中に裏切り者が居た場合、あなたはどう処罰しますか?」

 

 1.むち打ち100回の刑。

 2.耳を切り落として永久追放の刑。

 3.死刑。

 

「3番」

「うわっ、過激ね!」

 

 アスカが即答すると、サツキは少し驚いた顔で叫んだ。

 同時にサツキはアスカの心の闇を垣間見た気がして、間を置かず次の質問に移る事にした。

 

「クエスチョン3、あなたが恋人に一番望む事はどれですか?」

「何よ、その質問は!?」

「赤木博士が考えた設問なんだから、仕方ないでしょう?」

 

 サツキの質問にアスカは目をむいて反論したが、リツコの命令となれば逆らえない。

 

 1.優しさ。

 2.公明正大。

 3.美しい容姿。

 

「い、いちばん……」

「可愛いところもあるじゃない」

 

 顔を赤くして答えるアスカを見て、サツキは笑いをこらえた。

 サツキもシンジの容姿や正義感に惹かれてアスカが好きになったとは思っていなかった。

 タロット占いが終わった後は、戦闘シミュレーターを使った初号機との仮想対決だが、アスカはいつもの実力が出せずに損傷度80%を超えて敗北してしまった。

 

「今日は何も手に付かないようね。まあ、明日から頑張りましょう」

「馴れ馴れしくしないでよ!」

 

 アスカは苛立った様子で肩に置いたサツキの手を振り払った。

 これは重症だと考えたサツキは、一計を案じる事にした。

 

「カエデって、大人しく見えるけど、学生時代から付き合っている彼が居るの。だからシンジ君とは浮気しないと思うわ。あの子、一途に見えるでしょう?」

「本当!?」

 

 サツキの話を聞いたアスカは伏せていた顔を上げた。

 これはサツキの考えた真っ赤な嘘で、サツキは心の中でカエデとアスカに謝った。

 

「そうだ、アスカはビールも飲めるんでしょう? これを飲んで元気出しなよ」

 

 心が一気に軽くなったアスカは警戒を解いてサツキの差し出すコップの中身を飲んでしまった。

 

「ぶはっ!」

 

 ひと口飲んだだけで、アスカは思わず吐き出して、持っていたコップを落としてしまった。

 

「ポーランドのお酒なんだけど、アスカにはキツかった?」

「未成年にお酒をのままれないでよ……」

 

 呂律が回らなくなったアスカは、サツキの膝に寄り掛かって酔い潰れてしまった。

 こうしてみるとアスカも可愛い子ね、とサツキは思ったが、後でリツコに思いっきりサツキは叱られるのだった。

 

 

 

<ネルフ本部 零号機ケージ>

 

 レイとアオイの2人はしばらくの間黙り込んで、ケージの中は静寂に包まれていた。

 シンジやアスカ、ヒカリ達と話すようになったとは言え、レイは極度の人見知りだ。

 加えてアオイも口数が多い性格ではなく、やはり人見知りだった。

 

「始めようか、綾波さん……」

「分かりました、最上さん……」

 

 静かなケージ内に、アオイがタロットカードを切る音だけがする。

 レイはどうしてタロット占いをするのか質問しなかったし、アオイも説明をしなかった。

 

「最初の質問。あなたが組織をコントロールするために足りないと思うのはどんなところですか?」

 

 1.発展性。

 2.能率性。

 3.実行性。

 

「3番だと思います」

 

 レイが冷静に答えると、アオイは黙ってメモを取った。

 

「次の質問。あなたの長所を映し出している水晶玉があります。あなたの何を映していますか?」

 

 1.身体能力。

 2.知性。

 3.道徳意識。

 

 アオイの質問を聞いたレイは考え込んでしまった。

 

「道徳意識とは何ですか?」

「物事の良し悪しを自分で判断する事」

 

 レイの質問に対して、アオイは教科書通りの答えを返した。

 するとレイは目に見えて落ち込んだ表情になった。

 

「3番は違います。私は今まで、誰かの命令で生きてきたから。自分で判断した事が無いです」

「綾波さん……」

 

 アオイはレイに同情したが、掛けるべき言葉が思い当たらなかった。

 

「2番も違います、私は自分の考えで行動した事が無かったから……」

「綾波さん、私は、今のあなたはそうじゃないと思う」

 

 やっとの事でアオイが言葉を絞り出すと、レイはアオイに笑顔を見せた。

 それでもレイは消去法で1番を選択した。

 

「レイちゃん、次の質問をしても大丈夫? また明日にしようか?」

「問題ありません」

 

 アオイが心配して声を掛けると、レイは気丈にそう答えた。

 しかし次の質問もレイを落ち込ませるものだとアオイは分かっていたので、気が重かった。

 

「もし戦火の中で、家族の中から1人だけしか助けられないとしたら、あなたは誰を救いますか?」

 

 1.母親。

 2.恋人。

 3.自分の子供。

 

「私には母親の記憶がありません」

「そう……」

「でも、私の母親になってくれようとしてくれる人は居ます」

 

 レイがはにかんだ笑顔でそう言うと、アオイは少し胸を撫で下ろした。

 しかしレイは答えに悩んでいる様子だった。

 

「レイちゃんは……やっぱり、碇君の事が好きなの?」

 

 アオイが尋ねると、レイは顔を真っ赤にした。

 言葉に出さなくても認めたようなものだ。

 自分もサツキみたいに積極的になりたいと思っていたアオイは、レイを応援しようと心に決めた。

 その後の戦闘シミュレーターのテストではレイは心を乱す事無く、VR弐号機相手に勝利した。

 

 

 

<ネルフ本部 赤木博士研究室>

 

 自分の研究室で、リツコはカエデ達3人からダミープラグ開発の報告を受けていた。

 

「伊吹整備長、やはりダミープラグが気になりますか」

「あっ、ごめんなさい。時田さんの報告の途中なのに、よそ見をしちゃって」

 

 自然と視線をリツコたちの方に向けていたマヤは、シロウに向かって謝った。

 ダミープラグの開発を担当するカエデ達3人はリツコ直属の部下となり、話す機会も多くなった。

 マヤはその事に寂しさと軽い嫉妬を覚えているのだ。

 シロウのトライデント自動化計画の責任者は、整備長のマヤとなっている。

 マナ達3人はシロウに心を開いて、新兵器の開発の夢などを語り合っているらしい。

 シロウの話も時々脱線してマヤに新兵器の提案をするほどだった。

 マヤも新兵器の開発についてはシロウと意気投合するものがある。

 いつの間にかシロウと話が盛り上がっていると、マヤはリツコに声を掛けられる。

 

「マヤ、シンジ君達に対して行っていた心理テストだけど、マナ達にもやる事になったわ」

「えっ、でもあれはダミープラグの開発のためのものじゃないんですか、先輩?」

「参考データが欲しいのよ」

 

 マヤの質問に対して、リツコは目を僅かに泳がせて答えた。

 リツコは何かを隠している。

 赤木先輩を常に見つめ続けて来た自分にはそれを見抜く事が出来るとマヤは自負していた。

 しかしそれを咎めて問い質す事などマヤには出来ず、シロウにマナ達に心理テストを受けさせるための準備をするように伝えた。

 パソコンを操作していたリツコは眉をひそめて、振り返らずにマヤに向かって問い掛ける。

 

「マヤ、ダミープラグの開発情報へのアクセス回数が多い気がするけど、心当たりはある?」

「いいえ、私達はトライデントの計画をメインにしていますから、そちらへ頻繁にアクセスする事はありません」

 

 マヤが答えると、研究室内の温度が下がった。

 

「何者かが、ダミープラグの開発データを狙っていると言う事かしら」

「間違いありませんね」

 

 リツコの言葉に、マヤは真剣な表情で頷いた。

 しかし外部からのアクセスを受けていないと言う事は、プロジェクトの内部に怪しい動きをしているものが居ると言う事だ。

 思案に暮れるリツコ達の元に、発令所に居るシゲルとマコトが息を切らせてやって来た。

 

「大変です、経理部のデータが次々と改ざんされています!」

「パターン青、使徒を確認しました!」

 

 2人の報告を受けたリツコ達は顔色を変えた。

 

「まさか、使徒がコンピュータウイルスになってネルフに侵入したんですか?」

 

 マヤが驚きの声を上げた。

 

「どうして発見が遅れたの!」

「非常に小さい使徒なので、ある程度増殖しなければ発見できなかったんです!」

 

 リツコに厳しく詰問されたマコトはそう言って身を縮めた。

 

「先輩! 直ぐに感染拡大を防ぎましょう!」

 

 マヤがそうリツコに呼び掛けて椅子から立ち上がると、マコトとシゲルの背後から赤い眼鏡の白衣を着たマヤと同じ位の年齢の女性が姿を現した。

 

「そんなに大慌てする必要は無いよ! あたしが防壁システムを構築したから!」

「あなたは誰なんです!?」

「戦略自衛隊本部・サイバー対策班の研究員、真希波・マリ・イラストリアス。長いからマリで良いよ!」

 

 マヤの質問にマリはウインクをして答えて、首から下げた身分証明書を提示した。

 

「マリさん、あなたが防壁を構築したとはどういう事かしら?」

 

 リツコは勝手にネルフのコンピュータネットワークをいじられた苛立ちを隠さずにマリに尋ねた。

 

「コンピュータウイルスって色々な形があるから、ワクチンを作るのも大変でしょ? だから戦略自衛隊で『デジタル・フォース』を開発したの」

「デジタル・フォース、実用化されていたのね……」

 

 マリの説明を聞いて、リツコはそうつぶやいた。

 

「先輩、知っているんですか?」

「まだテスト段階だけどね。このデジタル・フォースプログラム、『イスカリオテ』を使えば、コンピュータウイルスを電子世界で戦闘形式で倒す事が出来るんだ」

 

 マリは白衣の内側にぶら下げた10個近くのメモリースティックを取り出すと、テーブルの上に置いた。

 

「さあみんな、この『イスカリオテ』が入ったメモリースティックを持って、発令所へGO!」

 

 発令所にはMAGIの本体格納ユニットがある。

 マリに先導される形でリツコ達は発令所へと向かうのだった。

 

 

 

<ネルフ本部 発令所>

 

 その日の発令所は、通常の2倍近くの人数が居た。

 MAGIの3機のユニットにパソコンを接続させたカエデ達3人のオペレータがパイプ椅子に座る。

 リツコとマヤの他にもシゲルとマコトもいつものオペレータ席に付いている。

 作戦部長の席には、ミサトに抱き付くようにマリが立っていた。

 

「ちょっちマリちゃん、身体的距離が近すぎない?」

「いやあ、ミサトさんの大きな胸は安心を感じさせるね」

 

 マリはそう言ってミサトに劣らない大きさの自分の胸をミサトに押し付ける。

 リョウジとマコトは唾を飲み込んでその様子を見ていた。

 ミサトが戦略自衛隊に居た頃は、デジタルフォースは絵に描いた餅のような企画段階だった。

 だからマリがデジタルフォースを解説する参謀として命令を出すミサトの側に居るのは理解はできる。

 

「マリちゃん、あなたはコンピュータを操作しなくて良いのかしら?」

「あたしの端末はこの眼鏡の中に入っているからご安心ください」

 

 マリのかけている眼鏡のレンズはディスプレイになっていて、目玉の動きで入力が出来る高性能パソコンのだった。

 そしてシンジ達は戦闘シミュレーターに乗せられていた。

 シンジ達はVRエヴァに乗って、電脳世界でコンピュータウイルス使徒と戦う事になった。

 支援するマナ達や他のデジタルフォースの部隊の指揮もミサトが執る事になる。

 戦術家でも無くMAGIも専門外のシロウはVRジェット・アローンで参戦する。

 

「ではこれより、ネルフのネットワークの電脳世界に入り、使徒を殲滅します。リンク・スタート!」

 

 ミサトの号令により、VR初号機達はアバターとして電脳世界へと侵入した。

 

「アタシ達が居るのは、第三新東京市?」

「そう、最近おてんば姫達が慣れ親しんだ、戦闘シミュレーターの世界を再現したんだよ」

 

 アスカの質問に、ピンク色のエヴァVR参号機に乗ったマリはそう答えた。

 

「ちょっと、アタシのどこがおてんば姫よ! それに何でアンタがエヴァに乗っているの?」

「だってさ、トライデントよりエヴァの方がカッコイイじゃん。だからデジタルフォースでエヴァを作って置いたんだ♪」

 

 マリは弾むような声でそう言った後、VR第三新東京市の街並みの中に建つ、3本の金色に輝くビルを指差した。

 

「あれがMAGIの心臓部になっている、メルキオール、バルタザール、カスパー。あの3本のビルを守って使徒のデジタルフォースと戦う、言わばタワーディフェンスのゲームみたいな感じだね」

「何よ、こっちから使徒を倒しに行くんじゃないの?」

 

 防衛戦だと聞いたアスカは不満をマリに漏らした。

 

「うーん、とりあえずは敵が狙っているMAGIを守らなきゃ。反攻に転じるのは敵の攻撃に耐え抜いた後だね」

 

 使徒は数を増やしながらこちらへと向かっているらしい。

 シンジ達は地理的に有利なVR第三新東京市の付近で使徒を迎撃する事になるようだ。

 

「えっと、わたしたちは使徒のA.T.フィールドを破る事は出来るんですか?」

「良い質問だね! この電脳世界では4,000ポイントを超えるダメージを与える事が出来れば、通常兵器でもA.T.フィールドを貫通する事が出来るんだよ!」

 

 マナの質問にマリがそう答えると、VRジェット・アローンのパイロットであるシロウから感激の声が上がる。

 

「うぉぉぉっ! それではジェット・アローンでも使徒を倒せると言う事か! 燃えて来たぞ!」

「まぁ、JAちゃんは射程1の格闘武器しかない上に、空×陸A海B宇×タイプだから、盾役がメインだね」

 

 マリはそう言って、クックと喉を鳴らした。

 

「シンジ君達、そろそろ敵の第1波が第三新東京市に到達するわ! 迎撃の準備をして!」

 

 VRVTOL戦闘機に乗ったミサトが指示を下す。

 ミサトは人型兵器よりも戦闘機の方が慣れ親しんでいると希望した。

 リョウジも同じだった。

 

「なあ、何で僕達はVRの世界でも歩兵なんだ?」

「仕方ないだろう、俺達は戦闘機にも戦車にも乗った事が無いんだからさ」

 

 マコトとシゲルは、大砲のようなものを担がされて戦闘に参加する事になった。

 VRの世界で死んでも、ログアウトして現実世界へと戻されるだけだ。

 ゲンドウとコウゾウは見栄を張って、VRAAAヴンダー艦に乗ったが船体が余りに巨大すぎるため、郊外の港で待機する事になった。

 

「敵戦力が防空圏内に侵入します!」

 

 マヤの警告の声と共に飛来して来たのは、真っ黒な色をしたUN重戦闘機だった。

 

「敵のデジタルフォースは識別しやすいように色を付けたよ」

 

 マリがシンジ達にそう告げた。

 

「なんだ、雑魚じゃない」

「まず足の速い戦闘機が先鋒に来たんだわ」

 

 アスカが鼻を鳴らすと、レイはそう分析して話した。

 

「ここは、わたしたちに任せて!」

 

 マナのVR紫電から発射された誘導ミサイルが敵の戦闘機を撃ち落した。

 マコトとシゲルも大砲からミサイルを発射して応戦する。

 

「おっちゃん、震電にミサイルを付けてくれてありがとうな!」

「何の、この程度のデータウェポンなら簡単だったよ」

 

 ケイタがシロウにお礼を言うと、シロウはそう言って謙遜した。

 第2波、第3波と時間が経つにつれて、敵にも装甲の厚い戦車レオパルト2が登場するなど、マコトやシゲルの歩兵用大砲では通用しない敵も出て来た。

 

「日向君と、青葉君は被弾したMAGIのビルの修理に回って!」

「了解しました!」

 

 ミサトの指示によりマコトとシゲルは攻撃よりも回復に回る事になった。

 こうなると今まで温存していたエヴァも攻撃に参加する事になる。

 

「第7波か、全くウイルスだけあってしつこいわね」

 

 アスカはウンザリとした顔で向かって来る敵を倒して行った。

 そのうちに相手にもトライデントのようなロボット兵器が出現して来るようになった。

 

「よし行くぞ、スーパーデラックス(中略)JAパンチ!」

 

 敵の砲弾の雨を一身に受けて表面が穴だらけになっても敵ロボット兵器のA.T.フィールドを破ってパンチを食らわそうとするVRジェット・アローンは執念を感じさせた。

 さらに海岸の方から、大きな敵戦艦が襲来すると、ムサシは驚きの声を上げる。

 

「あれは戦自艦の『やまと』じゃないか!」

 

 ミサイルの垂直発射システムを備え、フェーズドアレイレーダを持った戦略自衛隊の最強の登場に、VRAAAヴンダーに乗ったゲンドウとコウゾウは自分達のターンが来たと張り切った。

 

「海岸は私達に任せて、お前達は都市部の守りに専念しろ」

「ありがとう、父さん」

 

 激しくなっていく敵の攻撃に、シンジは素直にお礼を言った。

 そしてついには、使徒の本体だと思われる巨大な怪獣のような敵がやって来た。

 

「ボスの方から出向いて来てくれるなんて、討伐しに行く手間が省けたね♪」

「それにしても、ゴ〇ラみたいな敵ね」

「ゴリラ?」

「そんなバナナ、何てね♪」

 

 天然でボケたレイに対してマリがそうツッコむと、アスカはあきれたトーンでマリに声を掛けた。

 

「もしかして、マリって中身はおっさん?」

「そ、そんな事無いピョン」

 

 口から炎を吐きながら、第三新東京市のビルを燃やしたり壊したりしてずんずんと迫って来る怪獣使徒の前で漫才をやっている余裕は無い。

 

「シンジ、レイ、こうなったらアタシ達3人で息を合わせてあの使徒を止めるわよ!」

「うん!」

「分かったわ」

 

 あの怪獣使徒の装甲値はどれぐらいか、HPはいくらあるのか、アスカ達は見当が付かない。

 しかしあの怪獣使徒がMAGI本体である金色のビルにたどり着いたらゲームオーバーなのだ。

 3人の攻撃のタイミングが合えば、威力は3×3の9倍のダメージを与えられるとマリから教えられたシンジ達は、特訓した空手の『型』を思い出して怪獣使徒に連続攻撃による猛攻を加えた。

 こうなるとジェット・アローンやマリのVRエヴァ参号機は割って入る事は出来ない。

 ミサトの指示に従って、初号機、弐号機、零号機が怪獣使徒と集中して戦えるように露払いをするまでだ。

 

「熱っ!」

 

 怪獣使徒が弐号機に向かって炎を吐くと、前に出て身体を張って守ったのは初号機だった。

 

「アンタバカァ!? アタシ達はダメージを受けても、息を合わせて使徒を攻撃する手を緩めちゃいけないのよ!」

「ごめん、でもアスカの顔に火傷の跡がしたら嫌だから……」

「本当にバカね」

 

 アスカはそう言って口元を緩めた。

 そんな2人のやり取りを見て、胸の底から怒りの炎が湧き上がったレイは苦手な格闘攻撃で、使徒に会心の一撃を食らわせた。

 

「ガォォォォォン!」

「おっと、今の零号機の攻撃で使徒のHPがゼロになったようだね♪」

 

 怪獣使徒はのけ反って地面に倒れると、光を放って消滅した。

 ボスである使徒を倒したのなら、ウイルスが増殖する事も無い。

 後はデジタルフォースで残党を倒すだけだ。

 

「綾波、凄いや!」

「レイ、なかなかやるじゃない!」

 

 シンジとアスカに褒められても、レイの拳は固く握り締められていた。

 

 

 

<ネルフ本部 司令室>

 

 戦闘シミュレータから解放されたシンジ達は、電脳世界に長く居たせいか、ぐったりと疲れてしまった。

 

「ゲームは1日1時間って言うのが分った気がするわ……」

 

 コアなゲーマーであるアスカもそんな言葉を吐くほどだった。

 ミサトによって家に帰されたシンジは、アスカにカエデと何をしたかと根掘り葉掘り聞かれると覚悟していたが、そんな事は無かった。

 ピッタリと息の合ったユニゾンが出来た事で、アスカはシンジとの絆の強さに自信を持ったようだった。

 カエデとの仲を疑う不安もスッキリと晴れたようだ。

 コンピュータウイルスとなった使徒がネットワークの中で大暴れした事で、ネルフ本部のコンピュータのデータはほとんど消えてしまったらしい。

 ネルフの職員達はネットワークの再構築で大混乱になっていた。

 そんな時、司令室にふらりと現れたのがマリだった。

 

「ゲンドウ君に冬月先生。ネルフのみんなが大忙しなのに、2人で高みの見物とは良い御身分で。リツコちゃんを怒らせると後が怖いよ?」

「勘弁してくれたまえ、私達は老眼でマイコンを長い時間いじるのは苦手なんだ、なあ碇?」

「コンタクトレンズで見栄を張っている先生とは違います」

 

 コウゾウにそう答えながらもゲンドウの眼鏡にも老眼修正が入っている。

 ゲンドウはファッションだと言って色付き眼鏡を掛けているが悲しい事情もあるのだ。

 

「それにしても、君の登場のせいでシナリオの修正が大変だったぞ」

「戦略自衛隊の身分証明書を偽造してまでやって来るとはな」

「だって、シナリオを書き換えるなら、アサヒなんてオッサン消えてもらった方がいいでしょう? そのうち()()()()()()()()()

 

 マリはゲンドウとコウゾウに対して笑顔を浮かべてそう答えた。

 

「そうだ、経理部の人達が困っていたから、冬月先生を呼びに来たんだ」

「どういう事だね?」

「ネルフの人達ってば、経理ソフトに頼りきりになっていたから、電卓も置いて無いみたい。だからソロバン永世名人の冬月先生に来てくれないと、支払い業務が間に合わないんだってさ」

「全く、最近の若い者はソロバンも出来ないとは……」

 

 コウゾウはブツブツ言いながら、司令室を出て行った。

 

「さて、ゲンドウ君と冬月先生はミサトちゃんに隠れてコソコソやっているみたいだね」

 

 2人きりになると、マリは真面目な研究者の顔になってゲンドウを問い詰めた。

 

「……だから君はその姿で来たわけか」

「チルドレンの枠は埋まっているみたいだしね。大丈夫、あたしが加われば前よりも上手くいくよ!」

 

 ゲンドウとマリは司令室の奥の部屋へと消えて行く。

 そして司令室には誰もいなくなったはずだった。

 

「あのマリって女、何者だ?」

 

 天井に張り付いて隠れていたリョウジは、ゲンドウ達が消えて行った方向を見て、そうつぶやくのだった。

文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。

  • 本文は今の量が読みやすいので外伝形式で
  • 本文の量が増えても加筆修正が良い
  • 外伝で活躍させたいキャラ(メッセージで)
  • 第〇話の修正希望(メッセージで)
  • こんなifストーリーどう?(メッセージ)
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