新世紀エヴァンゲリオン for Children ~全ての子供たちのために~ 作:朝陽晴空
今回の話はTVアニメ版16話とゲーム「新世紀エヴァンゲリオン 2nd Impression」の話がベースになっています。
使徒レリエルと、ゲーム版オリジナル使徒が出てきます。
<第三新東京市 第壱中学校>
「碇、今日は転校生が来るらしいぜ」
「転校生?」
いつものように登校したシンジは、ケンスケの言葉を聞いて不思議に思った。
使徒迎撃要塞都市である第三新東京市に転入して来る生徒は、自分やアスカのようなエヴァのパイロットがほとんどだ。
しかしネルフではパイロット同士の顔合わせをしていなかった。
「どうやら、その子の父親がネルフの技術者らしいよ」
「エヴァのパイロットじゃないのならアタシ達が関わり合いになる事は無いわね」
「でも、クラスの友達になるのなら仲良くしないと」
シンジの言葉を聞いたアスカは目を吊り上げた。
「シンジ、その子と浮気するつもり?」
アスカ以外にレイやマナやヒカリからも厳しい眼で見られている気がしたシンジは慌てて言い訳をする。
「そんな、顔も名前も知らない子と付き合ったりするわけないじゃないか!」
シンジ達が転校生の少女についてあーでもない、こーでもないと話していると、ホームルームの時間が迫って来た。
「はい、みんな席に座って! 転校生を紹介するわよ」
担任のミサトに続いて、眼鏡をかけた頬にホクロのある目立たない印象の少女が教室へ入って来る。
その少女が下を向いて静かに歩く姿を見て、アスカ達は警戒心を解いた。
シンジに向って積極的に絡んでくる少女だとは思えなかったからだ。
肩を落として覇気が感じられないのは、ネルフに来たばかりのシンジに似ていた。
「この子は山岸マユミちゃん。仲良くしてあげてね♪」
「よろしくお願いします」
マユミは作り笑いを浮かべて頭を下げた。
「えーっと、それじゃあマユミちゃんに聞きたいことはある?」
ミサトは努めて明るい口調と笑顔で生徒達に話しかけたが、トウジも大人しい感じのマユミを茶化していいものか迷っているようだった。
静かになってしまった教室の空気をミサトもどうする事も出来ず、マユミを席へと座らせる事にした。
「席は……シンジ君の隣しか空いてないわね」
「むううっ!」
アスカとレイの顔色が変わるのをミサトは目の当たりにした。
2人の恋愛レースの平等性を確保するためにシンジの席の隣を空席にしていたのだが、それが裏目に出てしまった。
マユミの転入の話はミサトにとっても突然の事で、前もってシンジ達に根回しをする時間も無かったのだ。
「よろしくね」
「はい」
転校生の心細さを知っていたシンジはマユミに優しく声を掛けた。
するとシンジの授業用の端末にアスカからのメッセージが届く。
《なにてんこうせいといちゃついているのよ》
《ただあいさつをしただけだよ》
その後の授業中もシンジの端末にはアスカから矢のようにメッセージが届くが、面倒になったシンジはアスカのメッセージをミュートした。
《ケンスケは何で転校生が来るって知ってたの?》
《今朝学校のデータベースをハッキングして、2-Aの名簿を見たら知らない名前があったからさ》
ハッキングがバレたらケンスケはミサトに怒られるな、とシンジは思った。
その後の体育の授業中、シンジの視線は一人ぼっちで居るマユミの姿を追っていた。
男子からもてる性格だとはシンジも思わなかったが、クラスの女子もマユミに声を掛ける事を避けているようで、不憫でならなかった。
もちろん、暗い顔で俯いて黙っているマユミも良くないが、転校初日でマユミに積極性を求めるのは厳しいだろう。
シンジは自分からマユミに手を差し出してあげたい気分になった。
昔のシンジからしたら考え付かない事なので、シンジも成長して心に余裕が出て来たのだろう。
「綾波、頼みがあるんだけど」
「私に?」
シンジに相談を持ち掛けられたレイは顔を輝かせる。
アスカは嫉妬を込めた視線をシンジの背中にぶつける。
そういう点ではシンジはあまり成長していなかった。
放課後、シンジとレイは図書室へと行った。
レイが借りていた本を返すと言う正当な理由がある以上、アスカも無理に引き留める事は出来ない。
アスカは静かにしていないといけない図書室が苦手だった。
それはマナも同じで、アスカは渋々シンジとレイを2人きりで図書室へと行かせるしかなかった。
「手分けして山岸さんを探そう」
「分かったわ」
ヒカリと本当の意味で友達となってから、レイも孤独の寂しさを感じるようになっていた。
シンジがマユミを孤独から解放してあげたいと言う余計なお節介も、軽い嫉妬を覚えながらも協力してあげたいと思った。
「あっ、ごめんなさい」
前が見えないくらいに本を抱えていたマユミがシンジにぶつかり、マユミの持っていた本は散らばってしまった。
「手伝うよ」
「ごめんなさい、私のせいで」
「こんなにたくさんの本・・・・・山岸さんは、本を読むのが好きなの?」
シンジが尋ねると、マユミは顔を伏せて答える。
「はい、だって……本はずっと一緒に居てくれるから」
「え?」
「ご、ごめんなさい……!」
マユミは謝ると駆け足でシンジの前から姿を消した。
「碇君、今走って行ったのって山岸さん?」
「綾波は本だけが友達で思う?」
「本は、いつも同じ顔をしている。笑ったり、怒ったりもしない。何よりも無機質で温かさが無いもの」
レイの答えを聞いたシンジは確信した。
やっぱり山岸さんを孤独にしておくわけにはいかないと。
<第三新東京市郊外 加持邸>
家に帰ったシンジ達は、いつものように家族で夕食の食卓を囲んでいた。
「何よシンジ、ボーっとしちゃって?」
しばらくしてシンジの様子がおかしい事に気が付いたアスカがシンジに声を掛けた。
「うん、ヨシアキ兄さんの見事な料理の腕前もそうなんだけど、みんなで食べると美味しいのはどうしてかなと思って」
「これが家族団らん。シンジ君はアスカやレイ達の笑顔をおかずにしてご飯を食べているって事よ。だから私はシンジ君を家に誘ったわけ」
「アタシをおかずにするだなんて、イヤン恥ずかしい」
「加持三佐が素晴らしい話をしているのに茶化さないで」
身体をくねらせるアスカに間を置かずにレイがツッコミを入れた。
「やっぱり1人で食べるご飯は味気無いよね」
「アンタ、やっぱりあの女の事を考えているのね!」
こういう事に関しては特にアスカは勘が鋭い。
「あたしもマユミちゃんの事は何とかしてあげたいと思っているけど……急な転校の話だったから、みんなに紹介する暇が無かったのよ」
「まさか、あの女も同居させるつもり?」
ミサトの話を聞いて、アスカは顔色を変えた。
「それは話が飛躍しすぎだよ。私達も出会ってすぐにミサトさんに同居を誘われたら断って居ただろうし」
マナがアスカの言葉に異論を唱えた。
「これは命令じゃないから、強制はしないけど……」
「分かりました、加持三佐。私も山岸さんと友達になってみたいです」
胸を張ってミサトに答えるレイの姿を見て、アスカは思わずつぶやいた。
「レイ……アンタすっかり変わったわね」
「悪い?」
「ううん、ずっと良くなった」
アスカはレイに笑顔でそう答えながらも、シンジを巡る強力なライバルに成長したのだと思った。
「おいら達も、ここで毎日ご飯を食べる事がすっかり楽しくなったよ。だからあの子も明るくなって欲しいな」
「そうだな」
ケイタの言葉にムサシも頷いた。
「私じゃあ、本を読むのが苦手だから、上手く切っ掛けがつかめないの。頑張ってね、レイ」
マナにそう言われたレイはしっかりと頷いた。
その後はミサトを中心にマユミを笑顔にする『E計画』について話し合われ、ヨシアキは既にどんな歓迎料理を作るか考えているようだった。
<第三新東京市 とある書店にて>
翌日の朝、シンジたちは通学路途中の書店でマユミを待ち伏せしていた。
ミサトによると、マユミがこの書店に立ち寄る確率はかなり高いらしい。
「どうしてコソコソとしなければいけないわけ?」
アスカは仲良くしましょ! と言って握手を求めれば手っ取り速いと主張したが、それだとマユミが逃げてしまう可能性もあると図書館で話した事のあるシンジは反対した。
偶然を装ってレイがマユミと出会う。
それが一番成功しやすいとミサトは作戦を立てたのだ。
思惑通り、マユミはその書店に姿を現した。
「おはよう、山岸さん」
「あ……あなたは綾波さん?」
声を掛けられたマユミは驚きながらも、レイから逃げたりはしなかった。
「山岸さんも本を見に来たの?」
「はい、図書館にある本はほとんど読んだ事のあるものだったので」
どこの公立中学校も、個性的な司書が居ない限り置いてある本のラインナップは似たようなものである。
「私も……同じ」
レイがそう言って微笑むと、マユミも安心した笑顔を浮かべた。
これでつかみはOK。
学校に行っても教室でレイとマユミは普通に話せるはずだ。
物陰から見守っていたアスカやシンジ達は喜んだ。
このままレイとマユミを2人で学校に向かわせ、アスカ達は少し後ろを付いて行き教室で自然な流れで合流する。
その計画通りにシンジたちが書店を出て学校に向かおうとしたところで、緊急避難警報が鳴り響いた。
「使徒が出たんだわ!」
アスカが大きな声を張り上げる。
「山岸さん、君はシェルターへ避難して!」
「はい、分かりました」
シンジの言葉にマユミはそう返事をした。
アスカたちはネルフ、マユミはシェルターに向かって駆け出していく。
シェルターに向かう道の途中で、マユミは下腹部に痛みを感じた。
「何これ……私のお腹の中で別の生き物が暴れている……痛い……助けて……」
激痛に耐えられずに気絶したマユミはそのまま道路に倒れてしまった。
そしてマユミは不思議な夢を見た……。
<山岸マユミの夢の中>
夕暮れの電車の中、座って本を読んでいる私の姿が正面に見える。
他に電車に乗っている人はいない。
聞こえるのは電車が動く音だけ。
私は本を読むのが好き、だって本は人みたいに私を根暗だと言って傷つけたりしないから。
学校のクラスの子は自分から話そうとしない私を見て、勝手に無口な子だと判断する。
私だって話したい事はある、でも嫌われたら怖いから自分の気持ちも言えない。
場所が電車から昔住んでいた私の家へと切り替わった。
そこに居るのは、5歳の頃の私。
目の前でお父さんとお母さんとお兄ちゃんが倒れて死んでいる。
遊びに来ていたお兄ちゃんの友達は他の人の物を盗む悪い癖があった。
お兄ちゃんが飲み物を買いに行っている間に、お父さんがその人の窃盗の現場を目撃してしまった。
その人の家に電話を掛けようとしたお父さんの頭を後ろからその人は思い切り金属バットで殴った。
さらにその人はお母さんにまで襲い掛かって、馬乗りになって両手で首を絞めた。
帰って来たお兄ちゃんは、台所にあった包丁でその人に刺された。
私はとっさに押入れの中に隠れて助かった。
家族が居なくなった私を引き取ってくれたのは山岸のおじさん、お父さんのお兄さん。
私にたくさん本を買ってくれたけど、お仕事が忙して遊んでもらったことはない。
碇君、綾波さん、クラスメイトのみんな。
碇君たちは今までの子たちとは違うと思うけど、期待はしない。
私がまた転校してしまえば、きっと私のことを忘れてしまう。
本は捨てなければ手元に残る、だから私はずっと一緒に居てくれる本が好き。
でもこの心の奥底から湧き上がる寂しい感情は何?
私、みんなの輪の中に入りたいの?
それが私の本当の願いなの?
ああ、また意識が遠のいて行く……。
<ネルフ本部 第一発令所>
浮遊する使徒は第三新東京市の市街地の上空に直接現れた。
ミサトを始めとしてネルフの発令所は少し混乱を起こしていた。
「何でこんな近くに来るまで使徒に気づかなかったの!?」
「恐らく使徒は地下に潜み、姿を隠して近づいたのね」
ミサトの叫びに対し、リツコは落ち着いた口調で答えた。
「地下にだってセンサーはあるんじゃないの?」
「地下のセンサーは数が少ないうえに範囲が狭いからどうしても死角があるわ。そのスキを突かれた形ね」
リツコの口ぶりにはこれ以上自分を責めても仕方がないとミサトをなじる空気があった。
ミサトもそう思ったのか腕組みをして作戦を考える。
これほど近い距離に使徒が来てしまっては、マナ達にゆっくりと武力偵察をさせている時間は無い。
市民に被害が出る前に、使徒を倒せるのなら倒すべきだとミサトは判断した。
「使徒の力は未知数、よって不測の事態に備えて弐号機の単独戦闘とします。零号機と初号機は後方で待機」
「アタシにかかれば使徒なんてチョロいもんよ!」
アスカは喜び勇んで弐号機で使徒に攻撃を仕掛ける。
弐号機はスマッシュホークを振り回し、浮遊する使徒を乱切りにした。
使徒はA.T.フィールドを展開すること無く弐号機の攻撃を受け止めていた。
しかしスマッシュホークの刃先は使徒を切り裂く事は無かった。
「ミサト、攻撃が効いている感じがしないわ。まるで空気を斬っているみたい」
弐号機に乗っているアスカが違和感を訴えた。
「先輩、この使徒は変です。センサーの質量がゼロを示しています」
「つまり、目の前にいる使徒は実体が無いと言う事ね」
マヤの報告を聞いて、リツコは考え込む仕草をした。
今までに質量が無い使徒と言えば、あのマリと言う女性が持ってきたプログラムで倒した電子型の使徒だけだ。
しかし使徒が弐号機に向って鋭い刃先を振り下ろすと、弐号機は切り傷を負った。
「痛たーい!」
「アスカ、大丈夫?」
「ほんのかすり傷よ」
心配するシンジに、アスカは元気な声でそう答えた。
「使徒の攻撃には実体があるわけね」
「ミサト、どうすれば良いのよ!」
「時間稼ぎをするしかないわ。使徒の解析が進むまで、エヴァ3機の連携攻撃で使徒を足止めして」
「分かりました」
アスカの弐号機だけに負担をかけるわけにはいかない。
初号機と零号機も使徒との戦いに参戦する事になり、離れた場所に待機していた初号機も移動を開始した。
すると、初号機のエントリープラグで警報が鳴り響く。
《付近に民間人を発見 救助を要す》
「あそこに居るのはマユミちゃん!? まだ避難が済んでいなかったの!?」
ミサトが初号機の側の道路で倒れているマユミの姿を見つけて驚きの声を上げる。
「シンジ君はマユミちゃんの保護を最優先、アスカとレイは弐号機と零号機で使徒の注意を引き付けて!」
ミサトは初号機のエントリープラグの排出信号を出すようにマヤに指示をする。
「まさか、あの子をエントリープラグに乗せる気?」
「ネルフの部員を向かわせても数分は掛かるわ」
リツコの質問にミサトはそう答えた。
その数分が命取りになる場合も考えられると、ミサトは強い視線でリツコに訴えた。
「山岸さん、大丈夫?」
初号機のエントリープラグから降りたシンジは道路に倒れていたマユミを助け起こした。
「碇君、私を殺して!」
シンジに声を掛けられて目を覚ましたマユミは、目を見開いてそう叫んだ。
「いきなり、何を言い出すんだよ!?」
マユミの言葉を聞いたシンジは困惑の声を上げた。
「あの怪物の心臓が私のお腹の中にある、それが私には分かるの!」
発令所に居るミサト達にも、マユミの声は届いていた。
「リツコ、彼女の言っている事は本当なの?」
「微弱ながら、パターン青が検出されたわ。使徒はコアをあの子のお腹の中に隠している」
リツコがそう断言すると、発令所は騒然となった。
マユミを初号機で握り潰すと言う非情な手段で使徒を殲滅させる可能性も出て来た。
「私が死ねば逃げ遅れた街のみんなも助かる! だから早く!」
マユミは黒い髪を振り乱してシンジの手を掴んで懇願した。
「そんなこと、絶対に出来ないよ!」
シンジは断固として拒否した。
アスカもレイもミサト達も、そんなシンジの心の強さを見て安心した。
「私はみんなに迷惑を掛けたくない! 私のせいで誰かが死んだら嫌なの!」
「使徒はアスカと綾波が食い止めてくれている。さあ、ここから早く安全な場所へ逃げよう!」
シンジはそう言って暴れるマユミを後ろから取り押さえた。
抵抗するマユミを振り切って、初号機のエントリープラグへと向かう。
「どうして私なんかを助けるの? 私は今までおじさんの仕事の都合で何回も転校を繰り返して来た。でも誰にも覚えて居てもらえないような、居ても居なくても変わらない軽い存在なの!」
マユミの魂の叫びを聞いて、シンジは顔を近づけて優しくマユミに囁いた。
「でもこれからは覚えていてもらえるかもしれないじゃないか。うん、僕が君を覚えている。きっと綾波やアスカ、霧島さんたちだって。ここで山岸さんが死んでしまったら、それこそ誰にも覚えてもらえないよ」
シンジはそう言ってマユミの手を引く手に力を込める。
しかし、シンジの目的を阻もうとする人影が建物の陰から現れた。
「ヨシアキ兄さん!」
姿を現した意外な人物にシンジは驚きの声を上げた。
「ここでその子の命を絶たなければ永遠に使徒は倒せない。シンジ、君は考えが甘いんだよ」
ナイフを構えたヨシアキは氷の様に冷たい目をしていた。
「まさか兄さん、本気なの?」
シンジはマユミをかばうようにヨシアキの前に立ち塞がる。
「無駄だよ、君に僕は止められない」
ヨシアキから発せられる殺気は本物だとシンジは感じた。
シンジにはとても対応できない速さでマユミに近づいたヨシアキは、持っていた2本のナイフをマユミに突き刺そうとした。
「止めろぉぉぉぉ!」
シンジの絶叫が辺りに響き渡る。
アスカとレイが思わず耳を塞ぎたくなる絶叫だった。
その瞬間、発令所に居たオペレータのマコトが異変を察知して報告した。
「パターン青が新たに検出されました!」
「2体目の使徒が現れたって言うの!?」
「使徒の座標は、零号機と弐号機が交戦している使徒と重なっています!」
リツコの質問にマコトはそう答えた。
「リツコ、一体何が起きたの?」
「使徒は自分の弱点となるコアをあの子の中に隠していた。だけどあなたの息子が殺そうとしたから命の危険を感じたのね。だからコアを本体に戻したから反応が2つになったのよ」
「となると、弐号機と零号機の戦っている実体の無かった使徒は……」
「倒せる実体のある使徒となったわけね」
リツコの言葉を聞いたミサトは、大きな声で号令を下す。
「アスカ、レイ、使徒に総攻撃よ!」
「「了解」」
今まで防戦一方だった弐号機と零号機は鬱憤を晴らすかのように浮遊する使徒に猛攻を掛ける。
使徒はATフィールドを張って攻撃を防ごうとするが、2機のエヴァによって突き破られた。
初号機が参戦するまでも無く、零号機と弐号機の活躍により浮遊していた使徒は地面へと墜ち、殲滅が確認された。
「使徒は殲滅されたようだね、君には怖い思いをさせて済まなかった」
「あっ、いえ別に……私は気にしていません……」
殺気を消して柔らかな表情になったヨシアキが微笑みかけると、マユミは顔を赤らめて答えた。
シンジは胸に手を当てて大きく息を吐き出した。
「よかった、本当にヨシアキ兄さんが山岸さんを刺すと思って背筋が凍ったよ」
「使徒をだますには、あそこまでするしかなかったんだよ」
「あの、私は……」
笑顔で語り合うシンジとヨシアキに、マユミが声を掛けた。
「山岸さん、自分を認めてもらいたいのなら、まず自分の気持ちをハッキリ言う事だよ。嫌われるかもしれないけど、自信を持つ第一歩を踏み出そうよ」
シンジはマユミに優しい笑顔で、しかしきっぱりとした口調でマユミに告げた。
マユミは顔を赤らめてシンジに問い掛ける。
「私も碇君みたいに強くなれるでしょうか……?」
「僕は強くなんてないよ」
照れくさそうにシンジはそう答えた。
そこにヨシアキが口を挟む。
「その通り、シンジは内罰的でウジウジしているし、さっきの言葉も僕の受け売りだからね」
「そうなんですか……?」
ヨシアキの言葉を聞いてマユミはクスリと笑った。
「シンジ、何をダラダラしているのよ! 戦いは終わったんだから、早く帰投するわよ!」
弐号機のスピーカーからアスカの怒鳴り声が響くと、慌ててシンジはネルフに帰還するため初号機のエントリープラグへと向かった。
「碇君!」
「山岸さん?」
マユミに呼び止められたシンジは足を止めて振り返った。
「また明日、学校で」
マユミの言葉に笑顔で応えたシンジは、初号機のエントリープラグに乗り込んだ。
「さあ僕がネルフの医務室まで送って行くよ、念の為の精密検査があるからね」
「すみません」
ヨシアキはそう言うと、物陰に泊めていたバイクへとマユミを案内し、ヘルメットを渡す。
「しっかりつかまって」
「はい」
その後、マユミの保護者である伯父の山岸氏のネルフ本部への所属が決定。
伯父の仕事の都合で転校を繰り返していたマユミも卒業まで第壱中学校に長く居られるようになった。
<ネルフ本部 実験棟>
転校生のマユミも学校の生活に馴染み、文化祭ではシンジ達と一緒にボードゲームカフェを有志でやるまでになった。
一番割を喰ったのはシンジだった。
ウェイトレスの数が足りないと、長い黒髪のかつらとメイド服を着けさせられ、接客に当たっていた。
ボードゲームの知識に詳しいかったのは戦略自衛隊出身のミサトやマナ達だった。
デジタル機器を私物として持ち込みにくい軍隊の中では娯楽としてアナログなボードゲームが広まっているらしい。
ネルフのスタッフ達も暇を見てシンジ達の所に足を運んでいた。
シンジのメイド服姿を見たコウゾウの様子が少しおかしかったと、後にリツコは話していた。
さらにシンジにとっては災難な事に、急なキャンセルが出たために順番が繰り上がりメイド服姿のまま、トウジ達とバンド演奏をする事になってしまった。
学園生活を満喫しながらも、シンジ達はネルフで定期的に戦闘訓練やハーモニクステストを行っている。
「シンジ君のシンクロ率の伸びは素晴らしいわね、ついにアスカの数値を超えたわ」
「それだけシンジ君が精神的に成長した結果だと思うけど……シンジ君にもアスカにも本当の数値は伝えない方が良いわね」
「どうして? ポジティブな結果が出ているのにミサトにしてはネガティブな考えじゃない」
ミサトの言葉を聞いたリツコは疑問の声を投げ掛けた。
「アスカはまだ自分が一番のパイロットだと思ってシンジ君やレイに対してプライドを保っている面が残ってる。それにシンジ君にもアスカを追い越したって自信過剰になられてもマズいのよ」
「さすが生徒の扱いには慣れているのね。ネルフを退職したら本格的に教師になったらどうかしら」
「戦略自衛隊の教官になるより良いかもね」
リツコの言葉に、ミサトは乾いた笑い声を出した。
それは叶うはずのない願いだとミサトもリツコも理解しているのだ。
「それにアスカはアレが酷いからシンクロ率が低下しているのかもしれないしね」
「さらにシンジ君が優しく手を差し伸べてあげたあの子に対しての嫉妬で心が乱れているのかもしれないわね」
アスカのシンクロ率も以前よりも高くなってきているが、直近のシンクロ率は少し下がっている。
シンジがアスカのシンクロ率を追い越したのは一時的なものだろうと両者で意見が一致した。
「ミサトさん、僕のテストの結果はどうですか?」
「うん、なかなかいい感じよ」
シンジが自分からシンクロ率のテストの結果を聞くのは今までにない事だった。
無関心だったシンジにもエヴァパイロットしての意欲が芽生えて来たのは喜ぶべきなのか……。
「シンジが背伸びしてもまだアタシには届かないわね」
「そうだね、アスカは天才だから」
シンジはアスカの事を天才だと信じている。
しかしアスカは努力家であり秀才タイプであることはミサトは知っている。
アスカは自分が努力している姿を見られるのは恥ずかしいと思っている節があるとミサトは分かっていた。
「まったくアスカもシンジ君に対してカッコつけたがりだから困るわね」
ミサトは子供らしいアスカの一面を可愛いと思いながらもため息をついた。
しばらくしてミサトとリツコは零号機のエントリープラグの方に視線を向けて2人同時に大きなため息を吐き出した。
「深刻なのはレイと零号機のシンクロ率の低下ね」
「レイを初号機に乗せちゃったのがまずかったんじゃない? 初号機の方が零号機より心を開いてくれるって、零号機のあの子とケンカになっちゃったのかもしれないわ」
リツコのつぶやきに対して、ミサトはそう推論を述べた。
「零号機用のダミーシステムのデータも今のレイに合わせて書き換える必要があるわね」
「ダミープラグでエヴァを動かしちゃったら? そうすればシンジ君たちはテストをするだけで危険な目に遭わずに済むんだし」
「今のダミープラグでは使徒を倒せるだけの力をエヴァは発揮できないわよ」
「そうね、でもなるべく早く完成させて欲しいわね」
ミサトは心の底からそう願っている。
ハーモニクステストのデータを受け取ったアオイ、カエデ、サツキのダミープラグ開発チームもミサトの期待に応えようと努力している。
目立たないがジェット・アローンやトライデントの改良に尽力しているシロウ博士も『チルドレンのために』日夜頑張っているのだ。
<ネルフ本部 第一発令所>
前触れも無く突然第三新東京市の市街地の上空に現れた浮遊する巨大な球体状の物体に、ネルフの発令所は再び混乱を起こしていた。
前回現れた使徒を離れた場所で発見できなかった反省を活かし、地下のセンサーも増強して死角を無くした対策を講じた直後だった。
「どうしてまた第三新東京市の中に使徒が来るまで気づかなかったの!?」
これでは緊急避難警報を発令しても市民のシェルターへの避難が間に合わない。
ミサトは発令所の中に響き渡るほどの怒声を張り上げた。
「あの球体は接近して来たのではなく、突然現れたのよ」
「地下潜伏の次はワープ? もう何でもありね」
リツコの分析結果を聞いたミサトは皮肉めいた口調でそう言い放った。
「パターンオレンジ、MAGIは使徒かどうか判断を保留しています」
マヤはマニュアル通りにそう報告するが、あんな得体の知れないものは使徒に違いないとミサトの勘が告げていた。
「戦自のロボットで武力偵察をして反応を見る?」
「そんな悠長なことをしている時間はないわ、市民の避難が間に合わないもの」
リツコの提案にミサトは大きく首を横に振って答えた。
犠牲者を最小限に抑えるには一刻も早く使徒を倒すしかない、それがミサトの出した結論だった。
「アスカ、速攻で使徒をせん滅させて!」
「任せて!」
リツコ達による使徒の分析を待たずに速攻を仕掛けたミサトの判断は結果として誤りだった。
弐号機はスマッシュ・ホークを抱えながら高層ビルを飛び移って浮遊する巨大な球体状の物体に向かって接近した。
最後に邪魔になる背中の電源ケーブルを外し、ついに弐号機は目標に肉薄した。
「この高さなら行ける!」
弐号機は高層ビルを足場に跳ね上がり、スマッシュ・ホークで巨大な球体を叩きのめそうとした。
しかしスマッシュ・ホークの刃先が触れた瞬間、巨大な球体は姿を消した。
ワープによって攻撃を交わされたか? とアスカが思った直後、弐号機の足元に異変を感じた。
巨大な球体は弐号機の真上の頭上へと移動し、球体の影だと思われていた部分の地面が沈み込み、弐号機を足元から底なし沼の様に飲み込み始めたのだ。
「何よ、コレ!?」
両足を飲み込まれてしまっている弐号機は地面を蹴ってジャンプする事は出来ない。
「パターン青、使徒です!」
マコトが声を上げて報告するが、今更と言った感じだった。
「アスカ!」
シンジの乗る初号機が沈み込む弐号機を救出しようと駆けつける。
零号機のレイも同じく弐号機の元へ向かう。
「シンジ、止まれ!」
普段は作戦に口を挟まないゲンドウの制止する声が発令所に響いた。
「初号機のエントリープラグを強制射出しろ」
コウゾウの命令に従い操作したマヤが首を横に振った。
「無理です、内側からロックされています!」
「レイ、零号機で初号機の足を止めろ!」
ゲンドウが零号機のレイに向かって呼び掛けるが、レイの返事はゲンドウも驚くものだった。
「その命令は拒否します」
「何だと!」
零号機と初号機が弐号機の元へ駆けつけた時には、すでに弐号機は肩の部分まで底なし沼に飲み込まれていて、引き揚げて救出する事は客観的に見て不可能だった。
しかしそれでも初号機と零号機は諦めず、助けを求めるように伸ばされた弐号機の右手を初号機がつかみ、左手を零号機がつかんだ。
「シンジ君、レイ、あなたたちまで飲み込まれるわよ!」
「絶対に弐号機の手を離しません」
「私も同じです」
ミサトの呼び掛けにシンジとレイはハッキリとそう答えた。
シンジとレイは完全に冷静さを失っている。
「2人とも落ち着きなさい。ここは1度引いて、改めて弐号機救出の方法を考えるのよ」
リツコは怒りたくなる感情を押えてクールにシンジとレイに呼び掛けた。
「僕は、アスカと離れたくない! アスカが側に居ないなんて耐えられないから! 諦めるなんて出来ません!」
「私も碇君と同じ気持ちです」
アスカとシンジとレイの絆は強固な物だったが、一時的に離れる事も出来ないとなると共依存に近い。
3人は精神的に成長したと思っていたミサト達は思わず天を仰いだ。
「ダミープラグを起動させろ!」
もう手段を選んでいられないゲンドウは命令を下した。
「ダメです、ダミープラグも抑え込まれています!」
シンジとレイはダミープラグの起動も許さないほどの強い意思を持っていた。
「この大馬鹿者が!」
発令所に居るメンバー達全ての気持ちを代弁するかのように、ゲンドウは叫んだ。
打つ手が無くなったミサト達の前で、弐号機、初号機、零号機は黒い影の中へと沈んで行き……地上から完全に姿が見えなくなってしまった。
「センサーからもエヴァの反応は完全に消失しました……」
マヤが報告すると、発令所は重い空気に支配された。
初号機と零号機が使徒の外側に居れば、もっと作戦の立てようがあったかもしれない。
「使徒は内向きに展開したA.T.フィールドにより3機のエヴァを内包するマイナス宇宙空間へ引きずり込んだようです」
「使徒を殲滅させる手段は?」
リツコに対して、ゲンドウはそう尋ねた。
使徒の殲滅が最優先、それはミサトにも分かっている。
しかし、3機のエヴァを救出する方法を模索しないのは余りにも残酷な事ではないか。
そう思ったミサトだが、自分が弐号機を突撃させた事によりこの事態を招いたと自覚しているミサトは口を挟む事が出来なかった。
「A.T.フィールドを発生させるエヴァが無い現状では、N2爆弾の連続投下による真空崩壊で使徒の宇宙空間を破壊するしかありません」
「ちょっとリツコ、N2爆弾を連続投下って……!?」
穏やかでない言葉を聞いたミサトは、自分の立場もわきまえるのも忘れてリツコに詰め寄った。
「許容量を超える空気を風船に入れれば破裂するでしょう? 解り易く言えばそう言う事よ」
「それじゃあ、中に居る3人は……!」
リツコの話を理解したミサトの顔からサッと血の気が引いた。
「ずっとN2爆弾の衝撃を受け続け、使徒の爆発に巻き込まれたショックで例えエヴァが無事でも、フィードバックを受けたパイロットは内臓破裂による多臓器不全で命を落とすでしょうね」
ショックを受けたミサトは人の視線が集まる発令所の中で膝を折って四つん這いになってしまった。
溢れ出しそうになる涙を必死にこらえる。
自分のせいで3人を死なせてしまうなんて、いくら悔やんでも悔やみきれない。
「顔を上げるんだ、ミサト! まだ希望(のぞみ)はある!」
そう言ってミサトを励ましたのは、リョウジだった。
「リッちゃん、3機のエヴァが内側から使徒のコアを破壊しても使徒は殲滅出来るはずだよな?」
「私達は奇跡に頼らず、確実な方法を取るべきよ」
リョウジに対して、リツコは冷静にそう答えた。
「碇司令、赤木博士の提案した作戦を遂行するためのN2爆弾を集めるには時間が掛かりますよね? それまでは、シンジ君達の事を信じて待ちましょうじゃありませんか」
「N2爆弾が集まるまでの間だけだぞ」
ゲンドウはリョウジにそう答えた。
「リョウジ……!」
張り詰めていたものが切れたミサトは、人目もはばからずリョウジに抱き付いた。
「おっと、泣くんじゃない。涙は嬉し涙のためにとっておこうぜ」
ミサトを優しく抱いたリョウジは、視線でリツコに合図を送った。
頷いたリツコはMAGIにプログラムを走らせる。
「赤木先輩、これって……!」
「これで良いのよ、マヤ、あなたは知らなかった事にしなさい」
マヤはリツコの行動に驚きの声を上げた。
普通MAGIは作戦を円滑に進めるためのサポートをするものであるが、リツコはその逆、ゲンドウの要請により戦略自衛隊がN2爆弾をネルフ本部に集める作戦行動を『妨害』しているのだ。
ミサトもショックを受けていなかったらその作戦に加わったかもしれない。
しかし人為的なトラブルでは罰を与えなければならない。
機械的なトラブルであれば、責任はMAGIが負う事になる。
ミサトや多くの戦略自衛隊の隊員達を巻き込む事にならずに済むのだ。
(リッちゃん、本当に恩に着るぜ)
リョウジはミサトを抱きながら、心の中でリツコにお礼を言うのだった。
<使徒レリエルの体内>
その頃、使徒の体内に飲み込まれたエヴァに乗ったシンジ達は太陽の光が差さない暗い空間まで沈み込んだ。
「真っ暗で周りが何も見えないや……アスカは?」
「アタシはここに居るわよ」
アスカがそう答えて力を込めると、シンジは初号機と弐号機の手がしっかりと握られているのを感じた。
「綾波は?」
「私も近くに居るわ」
「零号機と弐号機も手を繋いでいるの?」
「もちろんよ、アタシたち3人で帰るんだから」
モニターを通じてお互いに通信できる事もあって、シンジたちの心は落ち着いた。
「このまま待っていればミサトやリツコが名案を思い付いて助けに来てくれるわよ」
「そうだよね」
ポジティブなアスカの言葉に、シンジは同意してそう答えた。
「でも、エヴァが居ないと使徒を倒すのは難しいのではないかしら」
冷静になったレイがそう告げると、アスカは苦い顔になった。
「そうよ、アンタたちがさっさと弐号機の手を放してしまえば、もっと早く使徒を殲滅出来たのよ」
「だけど僕は、どうしてもアスカの手を離せないよ」
アスカはそう言い放ったが、シンジは弐号機を握る手に力を込めて答えた。
「シンジもレイもありがと。アタシもきっと手を離せないと思う」
「エヴァの生命維持装置で、4~5時間は耐えられるわ」
シンジはレイの言葉に安心したが、裏を返せばそれ以上過ぎれば危険だと言う事だ。
「使徒は僕たちを飲み込んで何もして来ないけど、どういうつもりなのかな?」
「多分、じっくりと衰弱させて殺すつもりね」
それから数時間、3人は不安を紛らわすために沈黙を置かずに話していた。
学校での思い出、ネルフでの任務の事、他愛の無い事。
3人の話に聞き耳を立てている者が居る事に、シンジ達は気が付いていなかった。
やがてエントリープラグ内のL.C.L.が濁り始め、シンジ達は息苦しさを感じるようになった。
生命維持装置のバッテリーが切れかかって来たのだ。
シンジ達は眠るように意識を失った……。
再びシンジ達が意識を取り戻すとシンジとアスカとレイの3人は、誰も乗客の居ない静かな電車の座席に3人並んで学生服を着て座って居た。
いや、シンジたちの正面の席に3人の人影があった。
シンジ、アスカ、レイにそっくりな顔と服装をしていた。
「アンタ、何者よ!」
アスカが人差し指を突き付けて、自分そっくりな人影に詰問した。
「アタシはソウリュウ・アスカ・ラングレー」
「アンタバカ!? 惣流・アスカ・ラングレーはアタシよ!」
「そうだ、僕の隣に居るのが本物のアスカと綾波だ!」
シンジは両隣に座るアスカとレイの腕を掴んでそう断言した。
「あなた達、ドッペルゲンガー?」
「えっ、あの見たら死ぬって言う?」
レイの言葉を聞いたシンジは驚きの声を上げた。
「いいえ、シェイプシスターね!」
「アンタ、思ったよりもおバカさんじゃないみたいね」
アスカがそう言うと、アスカのそっくりの人影はそう答え、青白い幽霊のような姿になって、シンジとレイと合体し、シンジに似た姿になった。
正体がバレた以上、開き直って3人の人格を操る事を止めたのだろう。
「ボクはこれからイカリシンジになるんだ」
「えっ!?」
「アンタ、最初に弐号機を飲み込んだのはアタシに成りすます事が目的だったのね!」
「その通り、キミたち3人のうち、誰か1人でも良かったんだけど。奇跡の生還、でも実は……って訳だね」
シンジそっくりの人影が醜悪な笑みを浮かべるのを見て、アスカとレイは激しい嫌悪感を覚えた。
『アタシ達のシンジ』は絶対にこんな表情をしない。
シンジももし自分が弐号機の手を放して、ミサト達の言う通りの作戦を遂行していたらどうなっていたかと思うと、背筋が凍り付いた。
還って来たアスカは、シンジの『好きなアスカ』ではない。
「でもどうやって碇君に成りすますつもりなの?」
レイは鋭い口調でそう指摘した。
いくら外見を自由に変えられるとは言え、DNAまでそっくりにコピーする事は難しい。
「キミの心を壊すんだよ」
シンジそっくりの人影はそう答えると、光る触手を一直線に伸ばしてシンジへと突き刺した。
「シンジ!」
「碇君!」
この空間は精神世界だ、肉体的ダメージはシンジにはない。
「大丈夫、だから……」
シンジは息を切らしながらもアスカとレイにそう答えた。
「ボクはキミの恐怖を増大させて、キミの心を壊す」
「僕の……恐怖?」
「嫌われるのが怖い、裏切られて傷つくのが怖い」
「ああ……その通りだよ」
シンジは素直に自分の心の弱さを認める発言をした。
「キミは自信が無い、だから他人のせいにして自分をだまして生きている、傷つく事から逃げて生きている」
「言われなくても分かっているさ」
苦しそうな表情を浮かべながらシンジはそう答えた。
「これ以上シンジの心を傷つけるのはアタシが許さない!」
アスカがシンジの身体に突き刺さる触手を引き千切ろうとするが、素手では上手くいかない。
「確かに僕は臆病だ。だけどそんな僕でも希望を持って生きて生ける」
「エヴァに乗って人に認められた事? ハーモニクステストにも積極的になって来たようだね」
シンジそっくりの人影は先ほどの3人の会話を聞いていたのか、そう言ってシンジを嘲笑った。
「そうじゃない。僕は第三新東京市に来て自分の居場所を見つけたんだ」
「何を言ってるんダ?」
力強さを失わないシンジの言葉に、余裕を見せていたシンジそっくりの人影が初めて動揺を見せた。
シンジの心を壊せると思っていた彼の目論見は崩れたのだ。
「それは僕の不安や心配、苦しみを受け入れてくれる。何でも相談に乗ってくれる、安心感を与えてくれる。ミサトさんやリョウジさん、ヨシアキ兄さん、アスカや綾波、霧島さんやムサシ君やケイタ君が居る『僕達の家』なんだ……!」
「シンジ!」
「碇君!」
シンジが力強く大声で宣言すると、アスカとレイも明るい表情となった。
「君が見ていたのは、過去の弱かった僕の心だ! 消え去れ、僕の偽物!」
そう言うとシンジは、突き刺さった触手から逆に光り輝くエネルギーをシンジそっくりの人影へと流し込んだ!
「グォォォォォォォ!」
断末魔の声を上げて崩壊するシンジに化けていた人影。
どうやらそれがこの使徒のコアだったようだ。
使徒の精神世界は消え去り、現実世界へ解放されたエヴァ3機は使徒の影だった球体から第三新東京市への大地へと降り立ったのだった。
<ネルフ本部 第一発令所>
MAGIによるN2爆弾輸送妨害行為で時間は稼げたが、遂に限界の時を迎えてしまった。
リツコの提唱した作戦を実行するだけのN2爆弾がネルフ本部へと集まってしまった。
「加持三佐、これ以上待つ事は出来ない」
「はい……」
ゲンドウの言葉にミサトはそう返事を返した。
せめて発令所で涙は見せない、それがミサトを含めた発令所に居るスタッフ達の思いだった。
リョウジは家に帰ったらミサトを力の限り慰めようと思った。
子供を3人も失ってしまったのだから。
突然、異変を知らせる警報が発令所に鳴り響いた。
「何が起こったの!?」
「強力なA.T.フィールドの発生を確認!」
リツコの質問に、マコトがそう答える。
するとミサトたちの見ている前で、浮遊している巨大な球体が姿を消し、手を繋いだ弐号機と初号機、零号機が大地に降り立つのが見えた。
「シンジ君、アスカ、レイ!」
ミサトは目から涙を流して歓喜の声を上げた。
コウゾウも、オペレータ席に座る3人も、嬉しそうな顔をしている。
使徒は殲滅され作戦は終了した。
重大な作戦ミスを犯したミサトには大きな罰則が下り、MAGIに妨害プログラムを走らせたリツコも訓告は免れないと思った。
「3機のエヴァが力を合わせて使徒を殲滅させた事は大きな功績だ。パイロットであるチルドレン達の成長を大いに祝福したい。このようなめでたい日に罰則ついて話し合うのは水を差す行為だ。よって後日反省すべき点をレポートして提出しろ。良いな、加持三佐、赤木博士」
「はい……了解致しました」
ミサトは笑顔でゲンドウに答えた。
リョウジはゲンドウにしてやられたなと思った。
ミサトとリツコの恩赦を申し出るのは自分の役目だと考えていた。
「ヨシアキ、今日は御馳走を作って。でも真っ黒な色の料理は気分が悪くなるから華やかな色彩の料理を頼むわ」
元気を取り戻して家に電話を掛けるミサトに、コウゾウ達から「軍艦巻きは良いだろう?」などの声が上がる。
ため息をつきながらもリツコはMAGIでビールやワイン、日本酒などのアルコール類を加持邸に届けるように手配したのだった。
<ネルフ本部 司令室>
その日の加持家では大宴会が行われ、後日シンジ達から使徒の目的、使徒の体内で何が起きたか、シンジが使徒をどうやって倒したのか詳しい報告を受けた。
「良く分かった。シンジ、お前達は午後からでも学校へ行け。加持三佐もだ」
「はい」
シンジ達はミサトの運転する車で第壱中学校へと行くことになった。
ミサトの運転ならば、昼休みの間に学校に着く事が出来る。
「学校に行くのなら、シンジのお弁当が良かったのに」
「アスカ、口を慎みなさい。ここは司令室よ」
「すみませんでした」
シンジ達はそう言って司令室を出て行った。
その日アスカはヒカリの作ったお弁当を食べて気分転換になったらしい。
「碇司令、私はデータでしかシンジ君達の事を見ていませんでした。彼らの心の成長を、共依存だと医学的に決め付けて認めず、シンジ君達の事を信じて待つ事が出来ませんでした」
「赤木博士、そこまで自分を卑下する事はない。君の分析は間違った判断だとは言い切れない。今回は偶然にもシンジ達の判断が功を奏したが、次はそうとは限らん。ダミープラグの実用化と四人目の適格者の選定を急げ」
「了解しました」
ゲンドウも弐号機を助けようとする事を諦めないシンジ達に向かって大馬鹿者だと怒鳴ってしまった事について後悔の念は持っている。
N2爆弾の輸送作戦をMAGIを使って妨害したリツコは罰せられるのではなく、シンジ達の救世主として称えられるべきだろう。
そして何よりも初号機が無事に取り戻せた事がゲンドウにとって一番重要な事であり、一番の喜びだった。
「フッ、息子の無事や人類補完計画の遂行より、妻の無事を喜ぶ俺は俗な人間なのでしょうか、葛城先生」
司令室の奥にあるゲンドウのプライベートルームの扉に向かって、ゲンドウはそうつぶやくのだった。
さらにシンジにとっては災難な事に、急なキャンセルが出たために順番が繰り上がりメイド服姿のまま、トウジ達とバンド演奏をする事になってしまった。
の一文を加えました。(2022/06/15)
文章量少なめのハイペースで進めた連載ですが、補完した方が良いでしょうか? 最終話だけ別のアンケート(続編について)になります。
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本文は今の量が読みやすいので外伝形式で
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本文の量が増えても加筆修正が良い
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外伝で活躍させたいキャラ(メッセージで)
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第〇話の修正希望(メッセージで)
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こんなifストーリーどう?(メッセージ)